第5話 旅は道連れ?
誤字脱字申し訳ないです。自分でもひどいな、と感じてますので直せそうなら直していく次第です。
「伏せろ!後ろから来てるぞ!!!」
ウィスラーはいきなりの孝和のあわてた声に驚き、後ろに体を向ける。野営の片付けのため、ウィスラーはかまどに残った炭の中から使える炭を選別していたところだった。そのため中腰になって作業をしていた。急な忠告に即座に反応できるわけもなく、ウィスラーは後ろから襲ってきたそれの攻撃を避けきることはできなかった。
「うわぁぁぁ!!!」
ほんの少しだが体が孝和の忠告に反応した。何とか体をひねってその体当たりから身をかわす。襲ってきたのはスライムだった。どうやら急いで撤収するためギリズとタンが付近の捜索に出た隙に野営地まで侵入してきたらしい。ウィスラーは撤収の準備のため、何も武器は持っていなかった。身を守るものが何もないウィスラーは、ただぎゅっと目を硬く閉じて動けなくなってしまった。
「くそ!!ウィスラーさん!!逃げて!!」
孝和の位置からはウィスラーまでは距離があった。しかも今は魔法剣は馬車に積んであった。さっきのように投石で攻撃しようにもここからでは少しでも外れればウィスラーに当たってしまう。
そんな状況に孝和は走り出した。武器はないが駆け出さずにはいれなかった。
しかし、遠い。遠すぎる。これでは、間に合わない。
いやだ。俺は、いやだ。こんなことは許さない。俺は、
『助けたいんだ』
そう思うと、ウィスラーに向けて純粋にただ、助けたいという気持ちが湧き上がった。その想いが、何かを掴むように腕を前に突き出せた。
ドンという何かが大きく爆ぜる音が聞こえた。それと同時に夜だというのにそこから強烈な光があふれた。
タンは日が昇ればすぐにでも出発するため野営地から離れ、マドック方面の道の先に状況確認に出ていた。ギリズのほうは先ほどの襲撃してきたモンスターの死体の確認と、再度の襲撃がないか先ほどの馬をつないでいた場所にいる。二人は同時にその音が野営地の方向からのものだと気付き、いまだ光を放つ野営地に向かって走り出した。
「タカカズ、いったい何があった?皆は無事なのか!?」
息を切らして駆けつけたタンの前にはすでに野営地に到着したギリズと他のメンバーがそろっていた。
「あ、ああ。皆無事だよ。心配かけて申し訳ない。ウィスラーさんにさっきのスライムが襲い掛かってきたんだけど、怪我もないよ。ちょっと落ち着きな」
なぜか、他のメンバーから少し離れた場所にいる孝和がそう答えた。
その様子が少し気になったが、誰も怪我はなかったようだ。その言葉を聞いて足元から崩れ落ちる。襲撃からこれまで張り詰めた緊張の糸が切れたようだ。もうこれは立ち上がれそうにない。とりあえず少し休ませてもらおう。
だが、そんなタンとは対照的に他の皆は立ったまま。ギリズにいたっては持っている槍を握り締め、緊張を解こうとしない。タンはその緊張が孝和に向けられれいると感じた。
「何です。ギリズさん。そんな槍なんか必死に構えて。どうしたんですか」
ゆっくりと立ち上がり、孝和に近づく。
「待て!タン!それ以上近づくな!!」
ギリズの怒声が響く。いったい何事が起きたのか。疑問をこの当事者であろうタカカズに尋ねようとしたところ、
『ますたー。このひとはおともだち?』
と、そんな気の抜けたなんとなく可愛らしい声(?)が頭の中に響いた。
「え?」
タンはそれがどこからのものかわからず周りをキョロキョロ見渡した。
そしてそれを見つけた。
孝和の足元にさっきまでいなかったものが見える。
「そうだ。こいつはタンといって俺の友達だ」
孝和は足元のそれに答えた。
薄い白色の大体バスケットボールくらいの大きさのグミのようなものが見える。
『タンさんはますたーのおともだちなんだぁ……。はじめましてぇ』
その、白色のスライムはタンに実に友好的な挨拶を行ったのである。
「ええええええええええええーーー!!!!????」
朝方の日が昇り始めた野営地の中、タンの疑問の叫び声が大きく響いた。
「とりあえず、聞きたい。どういうことだ?」
光の爆発があったときに最も遠くにいたタン以外には一応の説明は終わっていたし、日も昇り始めていたため、野営地から2台の馬車はマドックに出発した。
それで、タンは孝和と同じ馬車に乗って説明を受けることになった。ちなみに御者はギリズ。
「まあ、簡単に説明するとだな……」
ウィスラーを助けようと腕を伸ばしたのは覚えている。
そのとき、体から何か得体の知れない力を感じた。
それがウィスラーに襲い掛かったスライムに向かって腕から迸ったのだ。
放たれた力は爆音とともに眩いばかりの光を生み出した。光が収まったときには、目をきつく結んだウィスラーがそこにいて、襲い掛かってきたスライムは少し離れた場所に転がっていた状態が広がっている。
敵であったはずの土色のスライムに近づいて、様子を窺っていると次第に色が白く変化していく。真珠のような滑らかな光沢を放つスライムに完全に変化し終わると、警戒を払っている孝和目掛けてとぴょんとその体が跳ね上がった。
そして警戒する孝和の前にピョンピョン跳ねながら躍り出ると
『はじめまして。ますたー。よろしくおねがいしまーす』
と、頭の中に語りかけてきたのであった。
「……というわけだ」
孝和の説明を聞くと、タンはポカーンとした表情をしてしまった。
「すると、このスライムはもともとは敵だったんじゃないか?大丈夫なのか?本当に?」
確かにそうなのだ。孝和が考えるには、あの瞬間にいたのは自分とウィスラー、スライムの三者のみ。こいつがウィスラーを襲ったスライムに間違いないのだが……
『このスライムじゃないの!!ぼくはキールっていうんだ!!』
このスライム、キールはそう答えた。
「キ、キール?名前があるのか?お前」
タンはさらに“ポカーン”度合いを深めた。
『うん!!ますたーにきめてもらったんだ!!』
うれしさ前回の様子でそう周りの皆に念話で話しかける。どこか誇らしげである。いや、スライムの誇らしげな様子がどんなものか知らないが。
「タカカズが決めたのか?どんな意味のことばなんだ?」
この世界では名前というのは偉大な先人より借りうけたり、何らかの意味づけがされているものがほとんどである。そこで孝和がどんな意図でキールと名づけたか気になったのだ。
「いや、まあ、頑張りやさん……かね?そんな感じの意味が一番近いかな」
なんとなくキールの方を直視できない。キールは『ますたー。ありがとう』と伝えてきてくれている。それに対してははは、と苦笑した。
本当は、名前をつけてくれとねだられたので某RPGの6番目の努力家のスライムの名前をひっくり返したのだ。まあ、努力家の偉大なスライムの名前にあやかったのだから、そんなに悪いわけでもあるまい。
何せ、本人がとても喜んでいるのだ。変なことを言って悲しませることもないだろう。それにRPGといってもわからないだろうし。
「だけど俺、意思疎通のできるスライムなんて初めて見たぞ。こんな友好的なのも初めてだし」
タンは孝和のひざの上に乗っかったキールをなでなでしてその触り心地を堪能している。ぷにぷにしていてとても気持ちいいのだ。キールもなでなでされるのは好きらしく、気持ちよさ気な念が感じられた。
「そうなのか。やっぱりこういったことは稀なのか」
孝和は膝の上のキールを見てキールに尋ねた。
「まあ、稀だろうな。そんなことができるのは従魔師くらいだが、そんなスキル持ってる奴なんて1000人に1人いるかいないかだろうしな。タカカズがそうだとは思わなかったから驚いたもんだ。はははは」
キールではなく御者席のギリズが答えた。
「そんな少ないんですか?その従魔師っていう職業の人」
孝和はそう質問した。衛兵の経験が長いギリズは物知りで、過去にはギルドに所属して冒険者もしていたことからそういった情報も持っている。
「俺が冒険者をしていた10年前には現役の従魔師はこの国に4~5人くらいだったと思うぞ。そのスキルもどういった理由で身につくものかいまだにわからん」
「へえ~。そうなんですか。結構貴重な能力なんですね。これ」
もっとも、とギリズは前置きして、
「モンスターは別だが」
と続けた。
「へ?」
間の抜けた声がでてしまった。
「あ、上位モンスターの優位性ってやつでしたっけ?」
「なんだそれ?」
タンがいった単語が気になった。ギリズが答える。
「ああ、モンスターは本来単独で行動する。群れを作るものがいたとしても、それは同じ種族のモンスターだけで構成される」
「はあ、でもさっきの襲撃時はワイルドドッグとスライムの混合チームでしたよ」
孝和はギリズの話の途中で疑問をぶつけた。
答えはタンが引き継いだ。
「例外もあるんだよ。戦ってる2種類の野生モンスターがいた場合、戦闘で勝利した奴に負けた奴が従うんだ。何でか知らないけど、戦闘の相手が人間や亜人種、魔族の場合はあてはまらないんだ。どうしてなのかは、頭のいい連中がどれだけ調べてもわからないんだってさ」
孝和は冷や汗が出てきた。多分だが、俺は従魔師じゃない。
キールが仲間になったのは俺が真龍の後継者だからではないだろうか。そのほうが自分が希少なスキルの持ち主だといわれるより、お前は強いモンスターだからだと言われるほうがすっきりする。
「ほー。そーなんだー」
感情のまったく入っていない声色でそう答えた。棒読みになった台詞は演技力の無さを正に雄弁に知らしめた。
とりあえずこの話題から抜けたい。なんかいろいろメッキがはがれてぼろが出そうだ。
そう考えると、孝和は何か話題が無いものかと必死に頭を回転させる。
「あと、もうひとつ聞きたいことがあるんだが」
タンが話題を振ってきた。
「なんだ。なんか聞きたいことあったか!?」
孝和の若干前のめりの姿勢にタンは戦慄を覚えた。
「な、なんだ。その勢い。どうした?お前」
少しあせりすぎた。
(落ち着け、俺)
ゆっくり大きく息を吸い込む。
よし、大丈夫、大丈夫……。
「すまん。なんかさっきからいろいろありすぎて良くわかんなくなった。それで、何だ?」
「ああ、キールが仲間になった理由はわかったんだが、あの大爆発ってなんだったんだ?駆けつけてみたけど、どこにも穴の一つも開いてなかったし、あんな大爆発だったらウィスラーとキールも無事じゃないはずじゃないか」
そうだ、いろいろあって後回しにしてたが、何でだろう?
「それはだな……」
困ったときの解説役ギリズが答える。ありがとうギリズさん。
孝和は、ギリズの知識の深さに感謝した。
「……、おそらく無意識の気功術の類ではないか?気功術の光によく似ていた気がするしな。力の練り方が足りなかったから、周りに広がってほとんど威力が出なかったんだろう。その代わりに音が鳴り響いたんだ。多分」
「でも、それじゃあキールが吹き飛んだことと色が変わったのはおかしくないですか?意思疎通できるスライムが偶然あの場にいたこともです。説明がつかないですよ」
「そうだな。それじゃあ、説明がつかんか。うーん」
いや、なんとなく説明ができそうな気がする。多分、気功術って言うのは間違ってない。純粋に沸きあがるものを制御しきれなくなって体内にみなぎった力を放出した感じはそうとしか言えないと思う。
ただし、違うのは“人間の”気功術ではなく、“真龍の”気功術だったんだろうということであった。確かシグラスが最後に“自分の生命力”を譲るって言ってたはずである。人間と真龍の生命力がどのくらい違うか孝和にははっきりとはいえない。それでも多分10倍とかでもきかないのは確かだと思う。
そんな気功術をモロに正面からキールは受けたということだ。無意識のものだったが、あの時孝和の考えていた事は、ウィスラーを助けたいという一念だけだった。
孝和も自分で考えている内容に恥ずかしがるのもどうかと思うのだが、誰かを守りたいという類の”優しい”光エネルギーを放出したのだろう。
そしてそれを奇跡的にキールが全部吸収したのではないだろうか。攻撃的でなかった上、真龍の持つ光のエネルギーの相乗効果でこのキールの性格が出来上がったのだろう。
推測でしかないが孝和としてはほぼ間違いないだろうと思っている。
「まー。考えても仕方ないですよー。いーじゃないですかー。皆無事だったんですからー」
感情のまったく入っていない声色でそう答えた。二回目ではあったが、それに二人は気付かなかった。
何かしっくりこない感じだが彼らには推察できる材料がない。話はここまでにしようとギリズが一連の話を打ち切った。
『ますたー。おはなしおわったのー?』
どうやらキールは難しい話に飽きてしまい。退屈していたようだった。
「いや、お前の話してたんだがな。まあいいか。ギリズさん、あとどれくらいでマドックに着くんですか?」
ギリズに行程がどの程度進んだか確認する。初めての町なので今どの辺りなのかはまったくわからなかった。
「あと、2時間ほどだな。しかし早目に到着しないと。けが人もいるしな。命に別状はなさそうだが、医者に診察を頼むのにも早めのほうがいい」
実はこんな話をしながらも怪我人は今も横になった状態のままだ。今ババンは痛み止めを飲ませて寝かせている。止血剤も効いているので大丈夫そうだが、やはりけが人を長い間馬車で揺らすのはよくないだろう。
『……?ますたー?』
キールが念話で話しかけてきた。
「どうした。キール?」
『けがしてるひとがいるの?』
「ああ、お前は見てないだろうけど後ろの馬車の中に一人寝てるんだ。タンが帰ってきたときも横になってたからな」
いきなりモンスターと一緒の馬車で旅をさせるのは厳しいと考え、けが人は後ろの馬車でキールと別になるように人員配置をしておいたのだ。
『ふーん。そうなんだ。ぼく、けがなおせるよ』
と、このようにキールは何気なく言った。
「へえ。そうなのか。キールはすごいな。……ちょっと待て、今なんてった?」
これは孝和だけへの念話だったので、ほかの二人には聞こえていなかった。
「どうした、タカカズ。キールが何か言ったのか?」
孝和の様子からキールが何か言った様子がわかった。何を言ったのかはわからなかったが。今度は二人のも聞こえるようにキールが話した。
『だから、ぼく、けがなおせるよっていったんだけど。だめだった?』
「「なにいいいいい!!!!!」」
ギリズとタンの声があたりに響いた。
スライムが好きです。ほんとに。
キールの精神年齢は7~8歳とお考えください。
ここまで読んだ方。ありがとうございます。