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価値を知るもの  作者: 勇寛
異世界
5/111

第4話 警護任務と襲撃と

やっと、戦闘シーンが入ります。

 

 さて、孝和がルミイ村に到着して1週間、長老のゴラムの依頼であるマドックの町まで毛織物の納品に護衛として同行する日がやってきた。

 これからの生活を考えると、やはり人の多い場所での生活のほうが何かと都合が良い。

 この村での生活もなかなかに快適で、村人も親切だったので捨てがたいものはあるのだが、大きな町で仕事を探したほうが良いだろうというゴラムやスパードのアドバイスに従うことにした。

 もともとあまり多くの荷物を持ってきてはいなかったので、荷物は簡単にまとめることができた。

 買い込んだ最低限の必需品と、ダンブレンの店の防具、魔法剣、左手の篭手を身にまとい、孝和は馬車に乗り込んだ。

 出発に際して村人たちが見送りに来てくれた

「まあ、何か近くに用事でもあれば訪ねてくるが良い。お主の料理もまた食べてみたいしの」

 ゴラムがそう言った。旅立ちの買い物が終わって暇になったので、アマンダに頼んで何品か料理を作らせてもらったのだ。

 それが大変好評であったようである。

 もともと孝和は大叔父の法寿との男所帯であったので、法寿が自分の好きな酒のつまみしか作らなかった。必然的に食卓には孝和の料理が並ぶこととなった。

「いやあ、もしかしたら耐えられなくなってすぐにでも戻ってきて、ゴラムさんの家で料理人してるかもしれないですよ?ホントに」

 この異世界ではあまり見られないような斬新ともいえる料理法が、珍しがられたということであろう。

 ちなみにこの異世界での食材はほぼ孝和の知っているものと同じものが存在していた。

 ただ、品種改良などはあまり進んではおらず、本来の味が出なくてかなり苦労したのだが。

「はははは、そうじゃったら歓迎するぞ。村の皆もお主ならかまわんといってくれるじゃろう。なあ?皆の衆?」

 豪快に笑っているゴラムの後ろから「そだ、そだ。疲れたりしたら帰って来い」とか「土産は酒で頼むー」とか声が聞こえた。

 なんか、このままだと泣きそうだ。

 いかん、いかん。湿っぽくなってしまう。

「がんばりますよ。皆さんもお元気で」

 後ろ髪を引かれる思いだったが、ぐっとこらえて別れの挨拶をした。

 馬車が動き出す。

 村から出る道が森に入る曲がり角まで、村人の皆さんは手を振って見送ってくれた。いい人たちだ。

 目元を赤くして、孝和は鼻をすすった。




 村を出てから3日でマドックの町に着くとのことだ。

 1日目は特に問題なく順調に旅は進んだ。平坦な道がある以外はまったく何もない草原と思い出したように小さな森を抜け、野営地にたどり着いた。

「なあ、タカカズって本当は強いのか?」

 いきなりそんなことを聞かれた。

「何だよ、いきなり。急に話しかけるなよ」

 孝和は本日の野営地のかまどの設置に挑戦中だった。

「いや、スパードさんとダンブレンさんの二人がさあ、お前のことほめてたんだ。昨日の訓練のあとにこっそり話してるのをちょうど聞いてさ」

「な、なんだそりゃ」

「ダンブレンさんが、訓練終わったスパードさんに会いに来ててさ。木陰のほうに引っ込んで行ったんだよ。それで気になって、こっそり後つけていったら、お前の話になってて」

 今回の護衛に志願したタンがそう説明した。ちなみにタンが今回の護衛に志願したのは、孝和の料理目当てであった。初日に醤油に魅入られたこいつは、訓練のない日にはゴラム宅で昼食を取りに来ていた。ゴラムもアマンダも食事は多いほうが楽しいというスタンスで、まあいいだろうと認めてしまっていた。

「それで、何だって?」

 なんとなくげっそりして尋ねた。

「なんか、スパードさんは『怪我が無ければわしも…』とか『やはり面白かったろう』って言って残念そうにしてた。ダンブレンさんは『若いうちのほうが伸びる…』とか『基礎はしっかりしてるから無茶しても…』って言って楽しそうだった。なかなかの高評価だな。お前。あの二人がじかに訓練なんて聞いたことないぜ。」

 勘弁してくれ。本当に。

 先日の逃走劇から、なんとなくいやな予感がしていたのだが、ブーツの直しを頼んだ手前、ダンブレンの店に行かねばならなかった。予想通りといえばいいのかわからないが、ダンブレンは2本の木剣を持ってにこやかな笑みを向けてきた。

 

“死合”形式の試合結果はダンブレンの勝ち、ではあったがその内容はダンブレンの昔の血を騒がせるには十分なものであったようだ。その日はそのまま実戦形式の鍛錬へと移行した。結果、もとの世界での鍛錬後と同様、孝和はボロ雑巾と化していた。

 まあ、何も得られなかったわけではない。刀を前提とした戦闘術を得意とする孝和にとって、西洋剣の技術をじかに感じられる有意義な時間であった。だが、孝和はマゾではない。あんな厳しいのは現代っ子として断固拒否したい。

……死んじゃうし。

「うらやましいか。なら、お前がやれ。帰りまでに俺が会心の一筆をしたためてやる。“このタンという人物の才能は大変すばらしく、才ある師に巡り合えば千年に一人の戦士に…”」

 がっしと肩を掴まれた。

「やめろ。ほんとにごめんなさい。ほんとに」

 真剣なまなざしで言われた。わかればいい。わかれば。




なんだかんだでタンとは同年代ということもあり、今では普通に会話することができるようになった。同年代の若者が彼以外にはいなかったこともあるが、明るい性格と毎日のように食事をたかりに来る彼に親しみを覚えていたのも確かだ。だが、

『何か、おかしい。ここまで短期間に人とタメ口で話せたことあったっけ?』

 かまどに薪をくべながら思索に引ける。

 そう、人見知りが激しかった孝和は友人もあまりできなかった。しかし、ここまで短期間で友人ができたためしなどなかった。

『ルミイ村のみんなとも最初は無理だったけど、最後はフレンドリーになってたし。ダンブレンさんと鍛錬て、そんなこと昔だったらやらなかったんだけどな。あと、この旅で初めて会った人とも話せてるし』

 パチパチ薪が爆ぜる音がする。まあ、それは今度考えることにしよう。今は鍋の準備だ。




 夜間は昼と違いモンスターの活動が活発になる。交代で仮眠を取りつつ、野営地の不寝番に当たることになった。次の日に最終の不寝番を担当したものが、馬車の中で睡眠をとり、できうる限り全員が昼の時点で活動できるように準備をする。昼に全員が活動できる状態にしておくのは、モンスター対策ではなく野盗対策だ。ここ数年はこのルミイ~マダック間の交易路に野盗がでたことはないが、一応念のため警備は万全にということらしい。

 不寝番は2台の馬車に6名がいるので、2名ずつ3交代制で行うこととなった。記憶があいまいだと思われている孝和は、交易路の護衛任務の経験があり、仲の良いタンが相棒に選ばれた。

「不寝番でもっとも大切なことって何だ?」

 孝和はこういったことは初めてだったので、経験者であるタンに注意事項を確認しておくことにした。

「大切なことはいろいろあるが、もっとも大切なのはひとつだけだっ!!」

 タンが意気込んでそう断言した。

「ほお、なんだ。一体?」

「それは!寝ないことだっ!!!」

 胸を張ってそう答えた。おい。

「そ、そうなのか?」

 なんか、出足をくじかれた気がする。

「旅の疲れや緊張がピークに達して、野営中にうとうとするのは結構あったりするんだ。片方が起きてればもう一人を起こしたりもできるけど、毎回必ずペアで不寝番ができるとは限らんしな。寝たらもう相方が口を利いてくれなくなったりする。眠気は死ぬ気でこらえろ」

 なるほど、言われてみれば納得である。このように3交代制でなければ、もっと長い時間不寝番をしなくてはならないこともあるだろう。

 しかし、この言い方はもしかして……

「なるほど、そうだな。で、お前今まで何回寝入ってしかられた?」

「2回ほどだな。ははははは!!」

「威張るなよ。情けない」

 孝和は額に手を当てた。この交代の分担はつまり、この1週間で孝和を信頼したほかの護衛メンバーが、失敗の多いタンのお目付けとして組み合わせたというのが本当の理由だろう。タン自身は孝和のサポートと信じ込んでいるのが悲しいものを感じさせる。


 そんな会話をしたり、周りの警戒に気を配りながら過ごしていると次のメンバーとの交代時間になった。結局この日は孝和の不寝番の練習も兼ねていたため1番最初に分担されていた。そのため、タンと孝和は十分に睡眠をとり、2日目の朝を迎えたのだった。




 と、云う訳で2日目の朝である。

 この日は、馬車の御者に挑戦した。現代人の孝和は馬を見るのは初めてだった。そのため、御者に選ばれた孝和は馬車どころか馬の動かし方すら知らない状態だった。

 ああ、またかわいそうな目で皆こっち見てるんだろうな、と思っていたのだが、そういうわけでもなかった。

 指導役の雑貨店のマニッシュによると大きな町で生まれた者の中には、馬に乗ったりせずに一生を終えるものも普通にいるとのことだった。

「馬とかそういうのって、移動とかで普通に皆使うもんだと思ってたんですよ。そういうわけでもないんですね」

「まあな、日常的に馬なんかの移動手段使うのは商人や野良作業をするようなものだけだろう。趣味、という形で貴族が乗ったりもするが、それ以外では戦争のときくらいだろう」

 おっかなびっくり馬を御することができるようになった孝和にマニッシュは説明した。

 馬自体が個人で購入するには高価なこともあるし、ロバや牛、騎竜にウマドリなんかもいて乗用の動物はそれぞれに乗り方も違ったりする。

 ちなみに、この馬車2台を引いている馬はルミイ村の共有財産だ。

「へえ、じゃあ馬を生産してるような人は結構お金持ちだったりするんですか?」

「いや、育てるのに時間もかかるし、そこまででもないんじゃないかな?野生馬の大群も森にいたりするから、1頭の価格もピンキリになると言っていた」

 暇になったのだろう。

 移動用の馬などを取り扱っている友人の商人の苦労話をしてくれた。

 なるほどこれは為になる。

 商人がもってる情報はこの世界ではすごい財産だ。

 今度からお店で店員さんと話するときはもっと気をつけようと心に決めた。

 お昼近くになり、不寝番の最終チームが起きてきた。

 簡単に昼食を取り、日が沈む前に野営のできる場所にたどり着くことができた。

 2日目の野営地はいつもマダックに向かう際に使う場所で、近くには小さな川が流れている。 朝食を早めにとってから出発すれば昼前にはマドックに到着できる。

 つまり、これがルミイ村の皆と過ごせる最後の夜だ。

 孝和はこの世界に召還されたことに不満がある。

 シグラスの都合で今までの生活が消えてなくなり、自分を知る者は誰もいない。向こうの世界には孝和がいなくなって悲しむ人、迷惑をこうむる人がいる。

 その人たちのことを思うと申し訳なさでいっぱいになる。

 だが、それと同じくらいこの世界に親しみを覚え始めている。日本ではありえないくらい純粋で暖かな住人たち。人と人との繋がりが大切であることがわかる世界。今までになかったくらい安らぎを感じる。日本では起こり得ない問題もあるだろうが、それでも生きていける。

 だから、それを教えてくれたこの人の世界で生きていこう。


 孝和たちの不寝番は3番目、最後となった。食事は村から持参した食材と醤油を使い、明日の朝の分を含め、孝和が作った。

 結果皆からは大盛況で、醤油の偉大さがさらに孝和の中で膨らんだ。

 そして、最後の夜はそうして更けていった。不寝番に後を任せ、孝和は用意されたテントの中で眠りについた。




……ッ!!!ダアァッ!!起きろ!!!モンスターだ!!!!」


 孝和は外の怒声で目を覚ましたと同時に剣を掴み、テントの外に飛び出た。

「何だ!!!いまどうなってる!!!」

起きたばかりでどうなっているかわからない。

 夕食時に作ったかまどの焚き火が見えた。

 誰かがいるはずのその場所に向けて、とりあえずそこに向かって全力で駆け出す。

 無理やり眠気を打ち消し、焚き火付近にいた槍を構えた衛兵の男性と、鉄剣を持った道具屋の主人の周りに集まる。

「すんません!!遅れました。何が襲ってきてるんですか!!?」

 先ほどの怒声がおそらく衛兵の男性からのものだと判断し、襲撃したモンスターの数や種類を尋ねる。

 護衛は焚き火付近にいる3名と馬を守りにいった3名に分かれた。

 どうやら向こうの馬の守りについている3名はもう戦闘状態になっているようだ。

 一方、孝和の合流したこちらの組は全員が焚き火を背に輪になるように襲撃に備えた。

「暗くて数はわからんが、襲ってきてるのはワイルドドッグとスライムのようだ。さっき、1匹切りつけたが、とどめまではいかんかったようだ。背中は見せないようにしておけよ」

「わかりました。襲ってくる奴だけ狙って切り伏せればいいんですね!どれくらいたおせばいいもんですか?」

 初めての命のかかった戦闘のうえ、急な襲撃でもあり孝和はいやな汗が止まらなかった。

 とりあえず、真龍の知識には今道具屋のババンの言ったモンスターの情報はなかった。

 まったく、いざというときに役に立たない。

 まあ、真龍一族に挑むようなバカなモンスターというのも少ないだろうからこれは予想通りだった。

 ワイルドドックは、地球の大型犬くらいの大きさで牙と爪はとんでもなく鋭い様子だった。一方のスライムはバレーボールくらいのサイズからでスイカ程度の大きさ、ゼリー状の外皮の中に核が浮かんでいる。

「ワイルドドッグは群れで行動しているからな。自分たちの群れが維持できない状態になるまでの無茶はしないはずだ。スライムはわからん。一応の知性はあるようだが、近くによっても襲ってくる場合と襲ってこない場合があるからな。まったく相手にしなくてもいいかもしれん」

 衛兵のギリズがそう孝和にレクチャーする。

 その間にもババンは襲ってきたワイルドドッグの前足を半歩後ろにぎりぎりの位置でかわし、カウンター気味にその首めがけて剣を振るった。

 その剣は完全にワイルドドッグの首を落とすにはいたらなかったが、その息の根を止めることには成功した。

 それなりに戦闘に長けた人物である。

 槍のリーチがある分警戒したのか、ワイルドドッグはギリズを避けるように、孝和とババンに目標を定めていた。

 ワイルドドッグの群れは、ギリズのけん制を警戒してか、そのリーチに入らないように遠巻きに様子を見ているばかりで、自分から積極的には仕掛けようとしない。

 その逆にババンと孝和は常に2~3匹のワイルドドックに襲われていた。

「クソッ!!邪魔だ!どけよ!」

 孝和は剣を振るい、焚き火の反対サイドのババンの援護に行こうとしたが、なにぶん相手の数が多い。

 なかなか思うように援護にいけない。

 ただし、襲ってきたワイルドドッグは、ほぼ一撃で絶命していた。右側から飛び掛ってくるスライムたちや、単体で襲ってくるワイルドドッグに関しては魔法剣の一振りで、きれいに2等分にされていた。

 逆に左側から一斉に飛び掛ってきたワイルドドッグに関しても魔力付与された篭手の殴打で頭部や致命傷とも言えるダメージを受け、屍をさらした。

 孝和が、馬車から飛び出してから20分ほどの間に10匹近くのワイルドドッグ、4匹のスライムが倒された。

鬼神ともいえるほどの強さを持つ孝和に、衛兵の男性は自身の助けが要らないと判断しババンの援護に回った。

 これにより、ワイルドドッグの群れは自らの狩が失敗したのを悟り、引いていった。


「大丈夫ですか!ここを強く押さえてください!!」

 孝和が自分の敵に集中し数を減らすことに苦心している間、ババンは左腕に牙による怪我を負っていた。孝和が左腕の怪我に布を当て強く圧迫止血をした。

「いったた。やられちゃったね。結構深めにイったからな」

「すいません。ギリズさん、止血の続きお願いしていいですか。俺は、馬の守りに行った3人の援護に行きます」

 強く圧迫止血していたところをギリズに任せた。ギリズは衛兵の経験が長く、簡単な応急処置に関しては詳しいとのことだったので安心して任せてもいいだろう。

 孝和はすぐに立ち上がると左手に足元の石を握りこみ、馬を守る3名のほうに全力で駆け出した。




 タンは今、窮地に立たされていた。寝ていたところを怒声でたたき起こされ、睡眠をとっていた馬車から飛び出したところ、孝和が全速力で焚き火に向かって駆け出して行くところだった。

 ならば、自分は孝和とは逆、馬の係留してある場所を守るべきだろう。タンは槍を手に馬が騒いでいる係留所に走りこんだ。

 現場は馬の周りにワイルドドッグが飛び掛っている状況だった。自分のほかのマニッシュと農夫のウィスラーは槍を突くのではなく横に振り回してワイルドドッグを追い払っていた。どうやらあまり荒事に向いていないウィスラーを守るのに、マニッシュが負傷してしまい、片手で槍を構えることになったからのようだ。

 だが、その攻撃は彼らを追い払いはするが、倒せるまでの威力はなかった。必然的にこの二人は戦力として除外して考えなくてはならない。自分の役目は向こうの焚き火の3人がこちらに加勢に来るまで馬と、彼ら二人を守ることだ。

「二人とも、背中合わせになって前方に槍を突き出すんだ!!どうしてもよけられない体当たりが来そうなら横に振り回せ!!!」

 本来の槍の使い方ではないが、ワイルドドッグ相手に混乱している二人にこれ以上の指示は更なる混乱を巻き起こすだけだろう。何とか時間を稼ぐんだ。大怪我しなければいい。

 馬たちには悪いが、守りきれないかもしれない。何とか飛び跳ねてワイルドドッグの攻撃から身を守ってもらうしかない。

自分の力で減らせるだけは減らすしかないだろうが、全部は無理だろう。大怪我しないように時間を稼ぐんだ。

「さあ、かかってきやがれ!!」

  ワイルドドッグを威嚇する。できるだけ大声で、向こうがひるむように攻撃的な気勢を上げる。

 だが、向こうのほうが数が多いことと、二人の農夫がおびえきった様子でいることであまりその威嚇も意味を成さなかった。




「うわああ!!!か、噛まれた!!助けてくれ」

 ウィスラーの右腕に軽い噛み跡が残っている。

 今まで何とか保つことができていた戦意が一気に薄れ、恐怖が彼らを襲い始める。

 どうやら、ワイルドドッグは標的を怪我をした2人に定めたようだった。

 馬に手を出していたものまでが彼ら二人に襲い掛かってきた。

 タンも彼らの援護を行っているが、間に合わない。

 このままでは……

 そんなことを考えたのがいけなかったのだろう。

 狙って突き出した槍が目標のワイルドドッグから外れる。

 まずい。

 先ほどの指示も忘れて二人はもう槍を横に振り回すだけだった。

 背中合わせになれという指示などもう覚えてもいない

 大きく開けた口が先ほど右腕を噛まれたウィスラーの背後からその首筋に迫る。

 駄目だ。間に合わない。

 そう思った瞬間。

「ギャンッ!!!」

 ワイルドドッグの頭部に握りこぶし大の石が命中した。

 それを見たほかのものは野生の勘からか、少し距離をとった。

 そこに孝和が全力で駆けつけてくる。

 彼が走りながら全力で投げつけたようだ。

「大丈夫か!!!」

 息を切らしながら、その場に駆け込みつつ、右手の魔法剣で近くのワイルドドッグの胴を薙ぐ。

 その一撃で胴体部分から血が噴出す。

 ぎりぎり援護が間に合ったようだ。

「タン。お前は二人を守れ!!俺はあいつらを何匹か倒す。それまで踏ん張れよ!!!」

「わかった。無理すんなよ!!!」

「今やらなくて、いつ無理するんだよ!!!」

 投げやりな冗談を言い放って無理やりに笑顔を作り、3人に余裕を見せる。

 それを見てタン以外の二人は多少落ち着いたようだ。

 軽いパニックになっていた二人を何とか自分の後ろにかばいながら、タンは守りを固めた。

 その間にも孝和は剣を振るい、ワイルドドックを切り裂いていく。

 こちらのほうにはスライムの連中はいないようだった。

 負傷者はタンに任せて、孝和は全力で勝負に出た。

 最初に5匹くらいの群れの真ん中に突っ込んで剣を振るう。

 連携を分断し、一気に2匹を切り伏せると、飛び掛ってきた残りの3匹を相手に正面から迎え撃った。

 タイミングを合わせて襲い掛かってきたが、最初の1匹を篭手の裏拳で迎撃し、2匹目を逆袈裟で切り伏せる。

 3匹目は振り上げた剣を力任せに振り下ろす。ドンピシャのタイミングで飛び込んできたところに全力の一撃を合わせる。

 ほんの数秒で5匹が瞬殺されたのを見て、ワイルドドッグに恐怖がよぎった。

 圧倒的な戦力差、近づけばそのまま骸をさらす。

 その一番手になりたいものはいなかった。野生に生まれたものはプライドより生存を優先する。

 一斉に後退を始めるのにそんなに時間はかからなかった。




 敵の撃退からすぐに全員の状況と、馬の怪我の状態を確認することになった。

 怪我をしたのはババンとマニッシュの二人だけ、馬も傷を負っているが歩行ができないほどではないことがわかった。

 噛まれたといっていたウィスラーは、腕をまくってみると実はそこまで深い傷ではなく少し赤くなっていただけだった。

「さて、どうするか。マニッシュの手首と右足の捻挫は馬車に乗せていけば問題ないが、ババンのほうはな。かなり深く切れてる。まあ、とりあえず痛み止めと止血剤でごまかしながらマドックまで行くしかないだろう」

 ギリズの指示でとりあえず、日が出たらすぐにでもマドックまで一気に進むことにした。

 馬の怪我が若干不安ではあるが、マニッシュの怪我はギリズの顔色を窺う限りかなり深いようだ。

 簡単な応急処置をしただけなので、感染症やこの世界にあるかはわからないが狂犬病のようなもの、細菌感染も考えられる。

 危険を冒しても、少し明るくなった段階で動き始めるほうがいいだろう。

「では、俺は周りの警戒に当たります」

 タンは槍を持って周囲の警戒に向かった。

 ウィスラーは野営地の撤収準備を始めていた。

 孝和はそれに協力して、撤収準備をサポートすることにした。

 前日の夕食の残りで携帯用の朝食を用意して、かまどを崩し、移動の準備を整えた。

 マニッシュはババンの状態を見ている。

 ギリズは、タンと一緒に少し離れての警備に当たっていた。そのため、それに気づくものはいなかった。

 結果、それはウィスラーに向かって一気に近づいた。

 ウィスラーは、片付けに夢中でそれには気づかなかった。

 物音がして孝和が振り返ると、それはウィスラーに襲い掛かろうと近づいているところだった。

「伏せろ!後ろから来てるぞ!!!」

 叫んでもこの位置からは遠すぎて手が出ない。


 孝和にはそれに手を出せなかった。

 周りの石を拾って投げつけるのでは間に合わない。

 ただ、腕を伸ばすしかなかった。



 そう、”腕を伸ばすしかなかった”のである。 


初めて戦闘シーンを書きました。稚拙な文章ですいません。更新はできたら週1~2回ペースの予定です。基本仕事が忙しいと1回になるときも多々あると思います。

読んでいただいてありがとうございました。

精一杯努力させていただきます。

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