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価値を知るもの  作者: 勇寛
それこそが日常
46/111

第44話 暖かな毛布とともに【GOOD MORNING】

 というわけで予約投稿2回目です。


 上手くいくかな?



 チュンチュン……


「う、うぐぅ……」


 孝和は顔に柔らかで、暖かい日の光を感じた。その光と共に、小鳥の鳴き声が聞こえる。どうやら夜は明けた様である。右目だけを薄く開き、差し込む光にどう対応しようかと考える。

 もし、真っ向から攻めるのならば、すぐさまベッドから起き上がり窓に向かい移動。カーテンを閉めて寝床に帰還。残された力で自身を毛布でくるむのだ。

 難点とすれば、動いている間に眠気が消えてしまう可能性だ。

せっかく完全なる憩いの場を作り上げたというのに、そこに横になる理由を自らの手で消し飛ばしてよいものだろうか。

 いや、よくは無い。


「ん……くぅ……」


 寝返りを打ち、ガサガサとベッドを転がりながら、孝和は次点の策を敢行する。

 すなわち、寝床から起き上がらないという防御策。

 顔を光の方向と逆に向けた上でさらに毛布を顔付近までズリ上げ、光を遮るという“亀作戦”であった。

 これの難点は、冬場の掛け布団が重いと息苦しくなったりすることや、夏場であると起きねばならないときにドロドロに寝汗を掻いていて深く後悔することだ。

 だが、今はその様な危険季節ではない。十二分に勝算、いや積極的に自堕落な心に敗北する自身がある。


「ふふ……ふ……ふ……ぅ……」


 至極の一時を取り戻すべく孝和は、そのままゆっくりと顔にまで引き上げられた毛布の中で夢の世界に落ちてい…………


「……っ!!!!って!!!え!え!!え!!?」


 ガバッと飛び起きる孝和。

 思い出した、思い出した。

 そう、何を心安らかに眠りの世界に旅立とうとしていたのか。


「ど、どこだっ!?な!!ああっ!?」


 もう、眠ってなどいられない。ここまで完璧に警戒心がブッ飛んでいることなど無かった。

 深酒をしたとしても、疲労で立ち上がれないような状態だったとしても、眠りに落ちる寸前の状況はなんとなく覚えている物だ。

 敵地のど真ん中で気を失ったところまでは覚えている。そうであるのに、目覚める瞬間の精神は完全に油断しきっていた。

 咄嗟に起き上がった衝撃でベッドから地面に転がり落ちてしまう。落下の衝撃が眠気を吹き飛ばす。

 まずは周囲を確認するべきであろる。

 地面、ベッド、窓は2つに、ドア1ヶ所。

 地面は木製の床張り、ベッドは清潔、窓にはカーテン、ドアまでは約2mといったところ。

 孝和以外はこの部屋には居らず、窓からは屋根が見える。

 自分の服が変わっている。鎧に具足、篭手に剣。全て身に纏うものは無い。外されたと思われるものは視界には存在しない。今の状態は汚れてはいないが、荒い縫製の布の服。

 ベッドから転げ落ちたことから、手足の拘束はされていない。

 ここが敵地なら、簡単であっても拘束や、見張りがいるはずだ。ならば、ここはストレイとかいう奴らの側ではない。

体は動くことからしても、適切な治療が施されたのではないだろうか。

 と、言うことはここは味方側。悪くても、中立。

 それに気付き、ほっと息をつく。

 瞬間、張り詰めた心が緩む。


「む、ぐぅ!!?」


 張り詰めた神経が緩み、伝えるべきものを伝え始めた。


「あ、無理、無理……。ヤ、ヤバイ?」


 ぴったり腹ばいになった孝和の両腕から力が抜ける。いや、手の甲から肩口、さらには後背筋付近まで。

 腰から下、下半身全体は一つ残らず。地面と擦れるだけでも、限界だ。


「き、筋肉痛ぅ……?。き、切れる……。腹筋が、き、切れる。切れる……し、死ぬぅ……」


 気功の使用後に襲う筋肉痛。日々負荷を掛け、体に慣れるよう徐々に使用感を確かめ、翌日に襲う“コレ”を軽減できるよう鍛錬はしていたが、今回の“コレ”は1ケタ2ケタ違う。

実感した途端、動けなくなった。なんとかベッドの縁に両腕を“投げ出し”、ベッドに這い戻ろうとする。

腹筋・背筋そろって痛い。それでも力を、込める。

 そうしたところ、体は正直な反応をしてしまうのだ。


「お、ぐふぅ!き、切れる。切れてしまう……」


 軽い痙攣のような痛みを覚えながら、寝台へ戻ろうと奮闘する孝和。

 しかし、ピクピクとした腹筋は孝和の意思を拒否し、まるで動いてくれない。

 そうこうしている間に、ドアの向こうから数名の話し声がしている。


「げげ……」


コンコンと乾いたノックの音がした。


「入ります」


 短く、しかしはっきりとした音量で入室を告げる。ドアノブがカチャリと回り、

 ガチャガチャと鎧のかち合う音をさせながら、部屋に男たちが入ってくる。

 その視線の先には……


「ははは……。お、おはようございます?かな?」

「……何をしているのかな、あなたは?」


 ペタンと両足をハの字に開いた女の子座りをした男が両腕をベッドに投げ出している光景。

 その異様過ぎる光景につい腰の剣に手が伸びるのは仕方ないだろう。


「タカカズ・ヤギ。ご同道願いたいのだが、よろしいか?」


 不審者に向けられる剣呑な目線。先頭の人物の後ろで、何が起きても対応できるよう構える2人の動きを捉え、孝和は思う。

(なんで俺って、こんななのよ……。カッコ悪ぃなぁ……)

そうして孝和はクスンと鼻を鳴らし、ガックリと顔面を柔らかなベッドに突っ伏すのだった。




「えーと。これから何処行くんですか?」


 とりあえず抱えおこされた孝和は、サンダルを与えられるとそのまま案内人と共に部屋を出ることになった。

 まあ、何も知らない者が見ればその様子は、客人の案内と言うよりは犯罪者の連行風景に近いものがあったのだが。


「……一連の経緯の説明をお願いしたい。あなた以外の聴取に関してはすでに終わっていますのでね」

「は、はぁ。聴取、ですか」


 当然と言える。理由があるとはいえ軍施設の不法侵入に、軍の一部が関係した誘拐・人身売買に当事者で関係したのだから。

 だが、そんな孝和はというと

(ヤバいなら、いざって時に逃げる心積もりはしとかないと、しゃあないかぁ……。

とりあえず、左後ろの顔に肘。沈みこんで腹でも打ってみようか。見たトコ重くて80kg程度だろ。肩で押してやれば何とか浮かせることも出来っかなぁ。右側を巻き込むように、な。

そんで倒れこむトコで伸びた膝を踏み抜いて……。膝あては無さそうだから躊躇わなけりゃ折れるだろ。

んで、後は2人か……。上手いこと右側が左側に絡んで立ち上がるまで時間が掛かってくれれば正面に集中できるんだけど。

正面のは剣じゃなくて槍だから、構える前に内側で組打勝負にしてやれば勝負になるだろうし……。声出されるまでにKOできるかな?

思うように体が動いてくれるか……?ちと痛ってぇ……わな。完調の3割弱って所だろうかねぇ?)

 どうやって逃げるかの具体的プランを脳内で描きながら何度もシミュレートを行っていた。


「まあ、聴取といっても形ばかりです。エーイ隊長やアデナウ・コーン行政官の報告書の補完のためと考えてください」

「ああ、そうか。そっちの方が信用度の点で?」

「ええ、上の印象も違いますので。失礼な話と思われるかも知れないが、軍のお偉方もあら捜しに必死なのですよ」


 軽く肩をすくめ、先頭の男がそう説明する。

良かった、と孝和は安心する。

引っ立てられる先がヤバそうなら戦らねばならないだろうか、と考えていたのだ。

不調のまま逃げだす羽目になるのはあまりにもキツイ。


「て、事はここは海軍の方じゃあ、ない?」

「そう、ここは行政所ですよ。あなたの身元を軍から引き剥がしておかないと、色々やられてしまいそうだとククチ隊長からも言われてますので」

「色々……ですか」

「ええ、色々、ですよ」

(……何、色々って?)

 あまり想像したくない“色々”の気配がした孝和は口を噤む。関わってはいけない方面の歯車に絡まる寸前で引き留められたのだろう。

 背に悪寒が走る。

 何故だろうか?


「あ。そういや、他の皆はどこに?」


ポカーンとしてしまっていて聞いておくのを忘れていた。元々の目的はアリアとアデナウ・コーン氏の救出だったのだ。

そこが何とかなっていないと本末転倒でしかない。


「貴方が起きたことを伝えるようにはしました。被害者の方々以外は多分皆さん来られるのではないですかね?」

「ああ、じゃあ皆無事ってことですよね?怪我とか大丈夫です?」

 

 ほっとしてそう尋ねる。

 それににっこりと微笑む先頭の男。


「ええ、皆さん普通に動けますよ」

「ふーっ……よかったぁ……」


 気が抜け、ガクンと膝が抜ける。

 慌てて後ろの二人が孝和を支える。


「うわ、すんません!ちょっと気が抜けてしまいまして……」

「ははははは!!」「……ブッ!」


 左側が豪快に笑い出し、右側が堪え切れなかった笑いを吹きだす。




(……椅子がほしいなぁ。早く着かないかな。あとすげえ恥ずかしい……)

 そんなことがありながらも、孝和は通路を黙々と歩いた。もう、この3人にはエライところを見られている。

 もう居た堪れない、と思い始めたところで目的地に着いたのだろう。先頭の男が扉の前で立ち止まり、ノックをする。


「ホーガンです」

「ああ、聞いているよ。彼を中に」

「はっ!」


 先頭の男、ホーガンは孝和に道を譲る。扉の前から横にずれ脇に立つ。そして左側にいた男が扉の逆サイドの脇に立つ。

(入れって言われても……。俺の心の準備というものは配慮されないのかよ!やだなぁ……こういうの)

 孝和は正直こういう“偉い人がいるぜ!”的なドアの前に立つとドキドキするのだ。

 会社にいたときも、ちょっと難しいお偉方のハンコの必要な決裁だと、そういった所に行かねばならないこともある。

 なんとなく入る前にネクタイを直したり、ベルトを触ってズボンを直したりしてしまう。

 八木孝和とはそういう男であった。


コンコン


「失礼します!」


 短く、かつ相手に聞こえるような程度で、扉をノックして入室する。


「ああ、来たか」

「良かった……。しっかり起きてるじゃない」


 そう声を掛けてくれたのはエーイとイゼルナだった。比較的部屋の入り口付近にいたのだ。

 見知った顔があり、自然と孝和の表情が緩む。


『ますたーだっ!!!ますたーだぁああ!!!!』


 突然の襲撃。白い丸っこい何かが孝和目掛け突進してきた。


「うおおおお!!!?」


 声をあげ動揺する孝和。それでも咄嗟にスタンスをとり、襲撃者に備えることが出来たのはさすがといったところだろうか。


ぽふん!


「ふぎゃっ!」


 白の丸っこいのはキールだった。胸元に感じる重量感が少し懐かしい。

 だが、そこまで考えた瞬間。


ドタン!


『ま、ますたー!?』


 受身すら取ることなく、俗に言う青天井をカマされて、呆然と孝和は目線の先にある豪華なシャンデリアを見つめる。

(ははは……。キールのバカぁ……。知ってるだろぉ……くぅぅっ……ホント痛いのにぃ……。2回目じゃんかぁ……。ぐすっ……)

 悪態を吐きながら、誰か自分を助けおこしてくれないかと、しばし物思いにふけりながら、ズキズキ痛む後頭部を堪能している孝和であった。




『だいじょーぶ?ますたー?』


 とりあえず孝和の元に念願の椅子が届けられた。何か色々と恥ずかしい感じの出来事が自分を通り過ぎていったが、覚えていない。

 ……覚えていないといったら、覚えていないのだ、と孝和は自分に念じこむ。

 人は忘れることが出来る。それはとても、とても大切なことである。


「まぁ……なぁ?大丈夫ったら大丈夫なんかねぇ?」

『そーなの?』


 筋肉痛のヒリつきが若干感じられるが、先程までよりは大分マシになっている。

 だるさを払拭するには至らなかったが、キールの神の祝福ゴッド・ブレスは効いた。

 先程までのフラフラな状態からは脱している。

 もちろんバッタリ倒れた時に出来た後頭部のタンコブも綺麗さっぱりと治療済み。

 軽くコキコキと首を鳴らし、体の調子を確認する。

 それと同時に足元でキールが纏わり付くのを引き剥がす。

 ピッと指で壁にいるイゼルナを指さし、


「まあ、痛くは無いから大丈夫さ。だからしばらく、あっち行っててくれ」

『えーーーー』


 キールは孝和に不満をぶつける。


「悪いけど、ほら、イゼルナさんのトコ行っててくれよ。みんな待ってるじゃんか?な?後でゆっくり話するからさ?」

『ぶー……』


 不満たらたらで、キールはイゼルナの元に撤収していく。

 それをみて、はははと苦笑いを浮かべていると、声がかかる。

 

「では、そろそろ始めても構わないかね?」

「あ!大丈夫です。お待たせしましてすいませんね」


 へらぁ、といかにも日本人的な緩い笑みを浮かべ、正面に向き直る。

 目の前に座る男たちは、今回の事件の調査をしているのだそうだ。

 ただ、実際のところすでに皆から聞きだしたいことは全て聞き出しているらしい。

 が、孝和にも一応確認の必要があり、目が覚めるまで待っていたというわけだ。 





「……では、これ位ですかね?まあ、特に他の方と比べて変わったことも無いようですし」

「あははは。そうですか、そりゃあ良かったです」

「ええ、早速報告書に取り掛かるとしますよ。では、お大事に」


 突っ込んだ質問には“……だったかもしれません”。確認事項には“……と思いますけれど……”。

 素っ頓狂なことを口走らなければ問題ない。玉虫色の会話ということに多少しっくりこない点はあるが、相手の顔色をみてできるだけ柔らかく応えたつもりである。そのかいあって審問は滞りなく進み、閉会となった。


「ふへーぇ……。緊張したぁ……」


 ズリズリと背もたれに体を寄りかからせる。

 その孝和の視界に、ひょいと飛んでくるものが映る。


 パシンと軽く音を立て、片手でそれを掴む。リンゴだった。


「お疲れさん。少しでも腹に入れておけ。昨日から結構時間も経っているしな」

「ああ、そういや腹へってますね」


 エーイから投げ渡されたそれをシャリシャリとかじる。水気と程よい甘み・酸味が心地よい。


『ねー。もーいいよね?ね?』


 うずうずとイゼルナの腕の中でキールがうねる。


「おお、来い来い。あ、イゼルナさんも、どーもありがとうございます」


 ぴょんと跳ね飛んできたキールを今度はよろめくことなくキャッチし、それまで確保してもらっていたイゼルナに頭を下げる。

 そこで今度はこちらからの質問をさせてもらうことにする。


「あの、他の皆さんってドコいったんです?」


 グイグイと体ごと擦り寄るキールを十二分に撫で、愛で、感触を確かめながら気になっていた事を聞く。

 こちらの部屋にいるのは、いわば“不法侵入班”である。

 助け出された“監禁班”に、後詰にまわった“正面突破班”の姿が無い。


「傭兵団本部で準備中よ」

「準備って、何のです?」

「まあ、そろそろ完了している頃だろうからな」



「ようは夜逃げだね」「夜逃げよ」『けつまくってにげろー、なんだってー♪』

「……は?」

 感想とかいろいろありがとうございます。

 返信とか修正とかいろいろしたいのですが、現在、仕事上どうしても時間ができなくなっております。

 次回投稿も未定でございます、はい。


 申し訳ないのですが、そこのところ宜しくということでお願いします。

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