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価値を知るもの  作者: 勇寛
異世界
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第3話 準備は大切


 孝和がルミイ村で生活を始めて3日が経った。いろいろな問題があったが、孝和はそれなりにこの世界での生活になれることができた。

 懸念のひとつであった貨幣価値については、大体銅貨1枚は30円程度といったところだろうと判断した。そして、銅貨100枚と銀貨1枚、銀貨20枚と金貨1枚というこの世界での交換比率から計算すると、銀貨1枚は3000円、金貨1枚は6万円といった程度である。

 これから推察される孝和の現在の所持金は金貨18枚、銀貨60枚、銅貨が15枚である。日本円にして100万円を超える。

 これは、はっきりいって大金である。孝和自身も、いきなり100万を超える金額をタナボタで手に入れたのである。幸運と考えるよりは、良心がひどく痛む。

いい悪いは別にしてお金がなければ生きていけない。なくなった冒険者からの追いはぎではあるが、そう考えて自分を無理に納得させた。貨幣に別種類があったのは他国の貨幣、旧貨幣であったが、大きな町に行けば両替商がいるらしいのでそこで交換ができるらしい。まあ、各国の通貨はほぼ同価値らしいので、種類が違っても深く考える必要はなさそうだ。




「マントと、携帯用のナイフをください。マントは裏地がしっかりしてるのがいです。ナイフは片刃で鞘もほしいです。あと、大き目の水筒ありますか?腰に括り付けれるタイプがいいですけど」

 ゴラムの隣の家に住むスパードさんは10年前まで冒険者であった。冒険中に足を負傷し、引退して故郷であるルミイ村に戻ってきていた。

村の中ではゴラムに次ぐ立場の人物であり、門番のローテーションや訓練を担当していた。治安部門の長、といったところだ。旅立ちに際し、いろいろなことを聞くことができた。

冒険者である孝和が、旅に必要なものを自分に聞きに来たときには、疑問を覚えた。しかし、彼が真龍の山からの帰還者であると分かると、惜しげもなく自分の経験で必要になった道具類を教えてくれた。

今孝和はスパードが教えてくれたメモを基に必需品の購入に来ているのである。

「そうしたら、マントは緑と茶のどちらにする?ナイフは申し訳ないけど、これしかないんだ。ただ、切れ味は保障する。なかなかの品だよ。水筒は木製と皮製の2種類ある。木製のほうは、別にベルトが必要になるが、皮製はそのまま紐で腰に括り付けられる。丈夫さで言えば、木製のほうをお勧めするけど」

「では、マントは茶色のほうでお願いします。ナイフはそれでいいです。鞘は付属品ですよね?水筒は皮製のほうをお願いします。ああ、あとこの皮財布ください。」

 村で唯一の雑貨商店ではあるが、なかなかの品揃えだ。テントや食料、宿泊用のもろもろは村の特産品の馬車に一緒に積んでいくとのことなので孝和は自分の装備を整えることにした。今はこの世界の服装に身を包んでいる。通気性、吸水性、丈夫さについては孝和のもともとのTシャツやパーカー、ジーンズのほうが優れているが、この世界で生活する以上あまりに普通でないそれらはできれば着用を避けるべきだろう。

 毛織物の産地ということもあり、布製品などの服飾関係の生地は豊富なようで、孝和の長身にあう服も簡単に作ってもらうことができた。

 最初、孝和を遠巻きに見ていた村人も、人見知りの強い孝和が顔を真っ赤にして話しかけてくるのを見て好意的な顔を向けるようになっていた。

 昨日などは、6歳くらいの子供達がいきなりイモを「あげる~」と手渡ししてきた。いきなり手渡された孝和はびっくりしたが、それを見て子供たちはくすくす笑いながら走っていってしまった。どうやら、なんか面白い異国の人が村に来た、という感覚らしい。

「タカカズ、全部で銀貨8枚銅貨4枚になるね。あと、この火石、サービスしとくから。タバコや酒とかはいいのかい?」

「いや、結構です。どちらも飲まないもんで。じゃあ、これ代金です。ありがとうございました」

 孝和は購入したものを全部ひとまとめにした袋を、よっと肩に担ぎ簡単な挨拶をして商店からでた。ちなみに魔法剣は布にくるんで袋と別に背負っている。

サービスしてもらった火石はこの世界では一般的な着火用具だ。火打石とは違い、それ自身を砕くと炎を発する。最初はその便利さと不思議さに驚いたのだが、それに大騒ぎしたところかわいそうな眼でみんなから見られたため、自制している。

 やはり異世界なのだなと深く痛感した。通常の物理法則を魔力などである程度無視しているようなものがこの村の中でもいくつか見受けられた。

 真龍の山の帰還者だという言い訳がなければ、いろいろとまずいことになっていただろう。それほど異世界での生活は孝和の常識を覆したのだった。

「ええと、次は防具屋だな。確か、雑貨屋さんの奥のほうだっていってたよな。赤い屋根の家だろ……。お、あれか」

 孝和の目の前に赤い屋根の防具屋が見えた。スパードの知り合いだと言えば安くしてくれるとのことだったので、紹介状を書いてもらった。その紹介状をポケットから取り出し、その店『ダンブレン防具店』に入店した。




 防具店の主人ダンブレンは50歳ぐらいのひげを蓄えた白髪の男性で、自作の防具を作るタイプの店主であった。武器・防具の店主は大まかに2種類に分けられる。何処かから品物を購入し販売するタイプと、材料を集め、自作の防具を作る職人タイプの店主である。

 もっとも、このような田舎の村にある防具としては、高額な金属鎧よりは低額で柔軟性のある軽装鎧のほうが需要が多い。

孝和も、自分は防御を固めるより、細かな移動を繰り返す戦い方をするのでそのような軽装用の防具を求めていた。

「いらっしゃい。何をお探しかな?」

 ダンブレンは中に入ってきた孝和の体格、立ち振る舞いから防具の見立てをすでに始めていた。どうやら戦士、しかも体術を主体にした剣士であろうと判断した。背中に背負った袋のほかに布にくるんだ剣を持っていたこと、下半身の筋肉のつき方から足を使うことが多いのではないかと推察したのだ。

「えと、上半身用の鎧がほしいんです。できればあまり重量のないもので、肩が自由に動くものがないでしょうか?あと、この剣を収められる鞘とベルト、長旅に耐えられるブーツをお願いします」

 ダンブレンはそれを聞くと立ち上がり、孝和の魔法剣とスパードからの紹介状を受け取った。軽く紹介状に目を通したあと、魔法剣の布をくるくると解き、重量、重心の確認を行った。軽く素振りをしたあとにブツブツと孝和に聞こえない程度の独り言を言い始めた。

「あの、どんなもんでしょう?」

 その様子に孝和はダンブレンに尋ねるか迷ったが、声をかけてみた。

 どうやら集中していたようで

「ああ、すまん。どんな鞘がいいかと思ってね。少し待っててくれるかい?」

 と言うと奥の収納庫に行ってしまった。

 大体15分ほど待ったところで、奥から肩当部分のない黒い皮鎧と鞘、ベルトに深緑色のブーツを台車に載せてゴロゴロと孝和の元に戻ってきた。

「まあ、これが私の店の中で君に合うものだろうな。一度全部つけてみてはくれないか?もし、きついとか動きにくいとか有れば2日で直しもできるからな」

 言われたとおり、全部の装備を着込んでみた。頼んだ鞘とベルトはまさに自分の希望通りだった。

一方、上半身用の黒の皮鎧は軽く孝和の動きを邪魔しないものではあったが、重心が少し右側によっているような気がした。それをダンブレンに尋ねると、

「君はこの前北門で騒ぎを起こしていた冒険者だろう?紹介状にも書いてあった。確か左手に、魔術付与された篭手をしていたからな。その分の重量を考慮したのだよ。右利きだろうから剣を佩くのも左側のはずだ」

 なるほどそれもそうだ。

「でも、何で俺が右利きだってわかるんですか?」

それを聞くとダンブレンは

「そんなもん。この職業をしてればいやでもわかる。わからんようなら、そいつは三流だ」

 なるほどそれもそうだ。

 ……そうか?かなり特殊な技能であろう。現に立ち振る舞いで利き腕を見抜くようなレベルの人間はそんないないんじゃなかろうか。もとの世界でそんなことのできる人間は、彼の知る限り大叔父の法寿や3人の高弟、道場のベテランクラスの数人であった。

 ちなみに皆そろいもそろって化け物だった。全員が斬鉄まで修めた者たちで、鍛錬中に気を抜けば死を覚悟せねばならないレベルであった。




 ブーツのつま先が少し余っていた所を直してもらうことにして、ゴラムの家に帰ることにした。

 何かこのダンブレンさんがあの人たちと同類のような気がした。正直ちょっと怖かった。

  ブーツ以外はそのまま購入して持って帰ることにした。

 正直、あの化け物たちと同格の化け物と同じ場所にいるのはいい気分はしない。孝和は、支払いを終えると2日後にブーツを取りに来ることにしてその場を離れた。


 ダンブレンから感じる気が、少々剣呑なものになっている気がしたのは気のせいだ。そうだ、気のせいであってくれ。




 ダンブレンは孝和が帰っていくのを見て残念そうな表情を浮かべた。スパードからの紹介状にはこう書いてあった。

『こやつ、なかなか面白い。試してみればどうだ?』

 確かに面白い、あの状態の私に感づいたようだ。逃げられたのは残念だが、また2日後にはここに来る。そのときを楽しみにするとしよう。

 バトルマニアというのはどこの世界にもいるものだろうか?

 孝和の旅路は始まる前から前途多難であった。


ちょっと短いですが、切のいいところまでで終えたいものでこうなりました。次回からやっと戦闘シーン入れれるかもしれません。

誤字、脱字あったらすんません。

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