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価値を知るもの  作者: 勇寛
それこそが日常
31/111

第29話 扉に手をかけて

誤字・脱字ご容赦ください。


 ガチャガチャ!ダダダッ!!


 大きな音と共に室内に駆け込んできた人影に向かい、イゼルナは咄嗟に、腰にとめていた剣を鞘ごと振り抜く。

「って!?うおおぅっ!!?」


グワアァーーァァンッッ!!


 銅鑼を叩いたような甲高い音が、驚きを含んだ叫び声と共に聞こえる。

「あ、やっぱりタカカズね。大丈夫……みたいね?よかったわ」

 鞘の補強用の金属部と、強襲に驚いた孝和の構えた盾がぶつかり合った為、かなりの音が響き渡った。

 イゼルナの一撃は全く容赦の無いもので、それはちょうど孝和の喉の辺りに放たれていた。比較的長身な孝和の喉元ということは、170センチ程度の場合はちょうど顔面である。しかも防がれたことが分かった瞬間に鞘を左手で支え、右手で2撃目のためにすでに剣が鞘から抜き放たれ、さらには勢いをつけるために少し若干捻りを加えながら引かれていた。

「や、やっぱりって、なんですか!下手に受ければ死にますよ?俺が入ってくるかもって分かってやりませんでした!?それにこの音はマズくないですか?」

 周りのことも一瞬忘れて孝和はイゼルナに詰め寄る。

「一応確認はしたもの。けたたましい音の種類からして私側ならタカカズ、それ以外なら敵だろうし、思い切りやったのだけれど……。あの程度なら十分対応できるでしょう?あと、一通り見たけど誰もいないみたいよ、ここ」

「全部織り込み済みでやったんですね……。ありがとうございます。なんか違う気もしますけど……」

 そう言って構えた盾を降ろす。恐る恐る前面部を見ると、けっこう見事に凹んでいる。

 冷たい汗が背中を流れるのを無視して、盾の表面を軽く撫ぜていると、部屋の中に見知らぬ人物がいるのに気付いた。

「誰ですか?その人」

 部屋の真ん中に寝ているのはいわゆる「人間種」とは違って見えた。今はその後頭部にカナエの着ていた上着を畳み、簡易的な枕にしたものが敷かれている。

「ぱっと見はリザード系の亜人、みたいよ。あと、女性のようだからそのつもりで、よろしくねー?」

『よろしくなんだってー』

 その女性の介抱を担当していたカナエとキールは、先ほどのイゼルナの孝和に対する行いに一切触れず、そう説明した。バグズにいたってはちょこんと座っているのがどことなく小憎たらしい。

 そんなことを話しながら考えていると、後ろからエーイ、ユノが追いついてきた。

「タカカズさん、ここにいたんですか。何かあったんですか?……へ?リザードぉ?」

「……ほお、ここらでは珍しい」

「いや、確かにあんまり見たことは無いし、珍しいのかもしれないですけど、そこじゃないでしょうに……」

 顔を覆うようにしてそう孝和はため息を付く。

 確かにその見た目は赤い鱗に覆われたトカゲ頭の亜人に間違いは無い。

 しかし、それ以上に気になるのは、彼女が横になっているのは間違いないのだが、完璧に簀巻きにされているという状況だった。そして彼女を縛っているロープは壁を昇るときのあの黒染めのものであった。

 つまり介抱をしている一方で、簀巻きにしたのもイゼルナ達であることが間違いないという、この現状。はっきりいうと訳が分からない。

 各自に疑問点があるのをイゼルナも感じていたのだろう。全員が一箇所に集まったのを確認し、先ほど起こったことの説明を始めたのだった。






「えーと、この辺りが怪しいとバグズに案内されてきたけれど、何も無くて合流しに来ようとしたところをいきなり襲われた、と?」

 長々とした説明を要約すると、そういうことだった。

 バグズの追跡調査で最も怪しい区画がここなのだが、正確に言うと特に何も見つからなかったわけではない。地面のそこかしこに泥があったり、何かを引きずった跡があった。ただ、それ以上はわからない。なにぶん部屋はかなり広く造られていて、全部を調べきるには時間が足りない。それもあって周囲の部屋に移動して何らかの痕跡の捜索に当たろうか、と考えて隣室に移動した。そこに今さっきまで調べていた無人のはずの部屋から奇襲を受けた。

 咄嗟に殴りかかってきた腕を取り、地面に向かい受身を取れないように、ガッチリとホールドしてカナエが投げ飛ばし、昏倒させた。昏倒した相手を見ると、服装がどう見てもゆったりした普段着の上、昏倒させる前からひどく傷ついているようで、どうも今回の件の犯人側では無さそうな感じである。その為、治療することにした。ただし気が付いてから襲われない様に縛り上げることも忘れずに。

「そういうことー。キールも頑張ってくれてこの人の傷もきれいにすっかり元通りだし。ねー」

『えへへへー。もうおこしてあげてもだいじょうぶ。ばっちりだもん!』

 誇らしげにカナエと戯れるキールの言葉に苦笑いしたのだが、それと同時にカナエがキールを抱き上げ徐々に後ろに下がり始める。

「え?あのー?」

 嫌な予感がして周りを見ると、エーイやイゼルナ、ユノだけでなく先ほどまで寝ていたはずのバグズまでがそろそろと後ろに下がっていた。

 つまりは、そういうことなのか……。

「……俺が、起こすんですね……」

 全員が一糸乱れずに頷く。キールはそれに合わせてカナエの腕の中でふにょんと震えたようだ。この時点で多数決という数の暴力により、孝和の拒否権は完全に失われたのだった。






「う……ぅ……ッ!」

 肩口を揺り動かしリザード種と見られる彼女を起こす。呻き声が聞こえたことで周囲にいる皆が腰元の刃物とか、そんなものをすぐに抜けるようにと反応した。

 正直に言うが、そういう反応をされると、いざというときのこちらの集中が乱れるので、もっとどっしりと構えて欲しい。

「大丈夫ですかー。聞こえてますかー」

 視界からそんな様子の皆を無理に外すことで、何とか平静を取り戻すことにする。とりあえずは集中である。

 耳元で声掛けしようとしたが、いかんせんリザード系の亜人の耳は何処にあるのかわからなかった。多分、頭部のどこかにあるのだろうが、なんとなく側頭部付近に向かって呼びかけた。多分少しくぼんだく辺りがそうだろうと思い、再び呼びかける。

肩を揺らし、呼びかけること数回。ようやく彼女が目を覚ました。

「…!貴様等ッ!!」

 目覚めると同時に彼女が勢いよく飛び上がろうとした。その瞬間、ミシッとロープが軋む音がした。だが、登坂用の頑丈な仕様の黒染めロープはまったく緩む気配すら見せず、彼女は起き上がることはできないまま、床に体を強く打ちつけるに留まった。

「クッ!ここまで来ておきながら……!離せ!はな……せ?」

 最初は忌々しげにこちらを鋭い視線で睨んできた。その勢いのまま怒鳴り散らし始めたのだが、急にテンションが落ち呆然とした目でこちらを見てきた。

 正確には、「こちら」ではなく、「孝和」をである。

 その反応に何かおかしなものを感じたのではあるが、不幸な行き違いをしているのは間違いないと思うので、状況説明を頼むことにした。どう見ても衛兵にしか見えない自分よりは、見た目は仕官のイゼルナやエーイの方が適任であろうと思い、アイコンタクトして孝和は場所を変わる。

「では、よろしいですか?まず我々はあなたに危害を加える気はありません。先ほどは咄嗟に襲われたため、危険と判断した自衛行為と考えていただきたい。

おそらくそちらとしても初対面の我々を信じることはできないだろうが、こればかりはあなたに判断していただくしかないのです。はっきり言うと我々は現在ある誘拐事件の調査を行っております。この場に居られたということは、あなたもその事件に関係している可能性がある、と、こちらは判断いたしました。ひどく疲労しておられる様子でしたので、勝手ではありますが治療させていただきました。その一因に関してはこちら側の不手際もありますのでどこか調子がおかしければ、後で仰って下さい。

とりあえず、ロープを解きます。その上でご協力をお願いしたいと思います。

……では、ロープを切ります。よろしいですね?」

 エーイは一気にこちらの言いたいことを言い切る。その上で友好的に且つ紳士的に対応することに徹する。

 エーイはナイフを抜いて彼女に同意を求め、それに対し了承の頷きが返ってくる。

 致し方ない状況だったとはいえ、こちらが彼女に痛撃を加えたのは間違いない。現在コーン氏やアリアに繋がる情報を持っている可能性があるのは彼女だけ。玄関先で伸びている衛兵モドキとの間には決して友好的な関係は築けないだろうし、この糸は大事にしたい。

 

 カキン  

 

 ブチッ


 ロープを切る。孝和はそれにもったいないな、と感じたがエーイとしては彼女の不信感を払拭するためにも一刻も早い解放のため、仕方ないと必要性を感じていた。

「では、まずお名前を伺いたい。私はエーイ。こちらはイゼルナ・クラーディカ様。現領主エリステリア・クラーディカ様のご息女であられる。後ろのものは今回の調査の協力者になります。まあ、身分証は今はありませんが……」

膝を立て、目線を彼女に合わせながら簡単に説明する。

「……私はレッドリザード族の冒険者でマオという。1週間前に南部でここへ向かう商隊の護衛中に襲撃を受けた。商隊は小規模のため抵抗もさほど出来ず、投降したが私のほかの護衛はそれまでに殲滅されたんでな。女性以外は切り捨てられ、私を含め3名が洞窟内で、監禁された。

私以外は人間種だったから、下衆な男どものそういった目的のためかとも思ったが、そうではなかったようで食事も出たし、反抗しなければ特に問題はなかった。

私は隙を見て逃げ出し、転送用の魔方陣を見つけ、飛び込んだところであなたたちを見つけたわけだ」

「誘拐事件は昨日なのですが、監禁場所にそんな様子は?」

マオの話に割り込む形でイゼルナが聞く。その一方、話を聞いていたユノとカナエはバグズとキールを連れて隣のマオが指差した先に移動する。

「そういえば昨日誰かが運ばれてきたようだな。……もしかして女か?」

 マオが返してきた答えにエーイが頷く。

「1名は女性です。ただ、男が最大で4名いるはずなんですが……」

「私たちの監禁場所は1階で1名ずつ部屋で区切られたから、詳しくは判らん。かすかに聞こえた声で女性のものがあった気がする、といった程度で、もしかしたらそうなのではないかと……。

私以外の生き残った者は戦ったことが無いようであったから、そのまま救援を求めに私がここに逃げてきたんだ。

建物は外から見ると3階建てだから、もしかすると2階より上に連れて行かれたかもしれないな」

「そうすると、その建物内には他にも捕まったものがいる、ということか……」

 エーイは天井を仰ぐ。どうやらこれだけの戦力で対応できる以上の事態に発展してきている気がする。

「エーイ?」

「……単純に考えると非合法な奴隷売買でしょうね。野盗を使い、商品や金品のほかにも女性を攫う。捕まえた女性を監禁。軍の関係者が目こぼしして売り買いを行う。そんなところでしょうが、もしかすると軍の一部が主体となって行った可能性も有ります。

というよりは、そちらが正解でしょう。どこまでかは判りませんが上層部の黙認が無ければ不可能でしょうし、ここ数年の禁制品の密輸や奴隷売買の摘発に軍がいまいち消極的な姿勢を見せたのもそのせいかもしれません。あとは……例の都落ち殿、ですか……」

「あの男……。そういえば難癖をつけて港湾査察の周辺調査を渋っていたわね。これが理由か……」

「………………」

 無言になった2人に孝和は尋ねる。いい加減に教えて欲しいこともあるのだ。

「あの、さっきから話に出ている都落ちってなんです?今回の関係者みたいですけど?」

「……ハキムの家の子飼いかしら?10年前までは、と付くけどね」

「没落後は家名を名乗れなくなった主家を見限って、距離をとっていたはずなんだが……。自分が落ちぶれる羽目になると藁にも縋るんだろうな。安いプライドよりは明日の飯ということなんだろう。

話がずれたな……。まあ、件の人物だがストレイという沿岸警備の総責任者でね、王都で軍のエリート街道にのっていた男だ。そこそこの実力はあるんだが、いかんせん強すぎる野心にはつりあわない程度でしかなくて、それなのに口を出すから上に嫌われてしまってね。見事に王位継承権発の政争のゴタゴタにかこつけて左遷になったんだ。

そこでここの以前の主家筋に助けを求めたんだろう。何故かハキムもそれを受け入れたんだが、ここの軍内部では評判は悪い。へんなプライドはあるし、左遷とはいえ役職は持っているから、取り巻き連中もくっついてきてな。そいつらを重用できるだけの力はあるからね。下手に扱うわけにもいかない、ときたもんだ」




 腕組みをして解説を始めたエーイを横目に、その向こうでマオが立ち上がり、壁に立てかけておいた孝和の槍を手に取っている。さらには足元でひらひらしていたズボンのすそ部分を勢いよく引きちぎる。上半身は腕を捲り上げ、適当なところで先ほど断ち切ったロープで固定している。

 その様子を見て軽くエーイに手を上げ話を打ち切りマオの元に向かう。

「あの……。マオさん、でしたっけ?何してるんです?」

「これでもレッドリザードの戦士の端くれですのでやはりこのまま逃げの一手というわけにはいきません。ご協力させていただきたいと思うのですがよろしいでしょうか?ご迷惑はおかけいたしませんので」

 マオは片手でブンブンと槍に唸りを上げさせながらその重心を確認していく。徐々にその感覚を掴んだのか、突然壁に向かいその鈍い穂先を煌かせる。


 キンッ


 石と金属が触れ合ったと思えないような、乾いた音がした。

(あ、スゴイわ。この人)

 孝和の視線の先には、綺麗に槍を振りぬいた跡が見事にくっきり残っていた。さらに穂先は一切欠けることなく、安物であるが綺麗に砥がれた刃物独特の鋭さは健在をアピールする。

 得物の質自体は安物であるのは孝和自身が、先ほど確認済みである。西洋槍ではあっても多少の良し悪し自体は分かる。つまり壁の跡はマオ自身の技量によるものだと断言できる。

「いや、協力してもらえるのはありがたいですけど、なんで俺に敬語ですか?」

 協力的なのは大変ありがたい。武に精通しているのも心強い。直情傾向で裏表無さそうな感じだから敵側からの間諜というわけでも無さそうだ。

 ただ、先ほどまで話していたエーイと違い、口調に何故か敬意が感じられる。

 孝和の前に歩み寄ると深々と頭を下げる。

「いいえ、私も上位龍族の方と直に対面するのは初めてですので……。こういったのはお嫌いでしょうか?我らが一族を守護いただいております焔龍様も一族全員で出迎えました際に遠目より拝謁させていただいたことがありますが、堅苦しいのを嫌われまして宴の途中で帰られまして……。お嫌でなければ、普段どおりで話させていただきますが?」

「……え゛?おおぉうぉ!?」

 ズザザッと瞬時にマオに接近しその口を塞ぐ。ただ、リザードの裂けた口元を塞ぎきるには手の大きさは足りなかったが。

「な、何で判ったんですか?小声で!小声でね!」

 マオに向けて小声ではあるが鋭く注意をする。

 周囲にはギリギリ聞こえなかったのだろう。孝和がマオと話をしようとしている間に、エーイを除き、隣のマオの出てきたという部屋に移動していたためである。

急に大声を出した孝和に何が起こったのかと不思議そうに顔をのぞかせたエーイの視線が痛い。それに愛想笑いしながらマオを部屋の端に連れ出す。

「……もしかして龍族というのは内密にしておられましたか?」

 言われたとおりマオは小声で話す。その内容に対し、孝和はヘルメットが外れる勢いで頷く。

「なんとか皆は聞いてなかったみたいですからいいですけど……。一応俺は人間だと思うんですが、龍族ってのも完全に否定できないような複雑で色々と面倒な事情があるんです。出来れば心の中に留めといてください。後……、リザード族の人ってもしかして判るんですか?俺みたいなのって」

 隅っこでこそこそ話しあっている2人は一種独特の雰囲気で近づきがたいものがあるのか遠巻きに眺めるだけでエーイは近づいてこない。

「近くであれば判ります。一度でも上位龍族の方と会う機会があれば、そのオーラは従僕たるリザードの我らには非常に心地よく感じられるので……。あなた様はそれを薄くではありますが周囲に放たれておられますから……。上位龍族で人型を取れる方が居られるとは存知ませんでしたが、それでも近くであれば十分判断することができましょう」

「マジか……。どう制御しろってんだ……。無意識ってんじゃどうにも出来ないんじゃないか?冗談じゃないぞ……」

 ガックリと首を落とす。これは何とかしないと、非常にマズイ。この国でリザード種族に出会う確率は確かに高くないかも知れないが、低くも無い。実際こうして見事に出くわしている。人の目があるところでバレて大騒ぎなんて洒落にならない。

「……とりあえず、後回しだ。うん、明日、明日考えよう。……大丈夫、大丈夫。……多分」

 何とか気持ちを切り替える。余計なことは考えない。考えない、考えない……。

(とにかく今日を乗り切って明日!うん、明日!!知るか!もうとりあえずこれにケリつける。だから明日考える!!)

 非常に強烈な現実逃避。目の前のこれを何とかする。まずはそれからだ。

「うし!行こう!うん!」

 気合を入れなおし、目線を握った拳に集中する孝和を見て悪いことをしたと思ったのかマオが苦々しく笑う。それを見て孝和も少し気恥ずかしくなった。

「……まあ、いいや。隣の部屋なんでしょう?マオさん」

「はい。しかし出てきただけで入り口もそこかはわかりませんが?」

「一般的に転送方陣は出入口は同一なもんですからね……。もう一度念入りに調べてみましょうか。皆も先に行ってますし」

 転送関係の術式はシグラスの使った転送陣を見たこともあって、時間のあるときに勉強やら、真龍の知識を探ってみたりもした。元の世界との扉をどうやってシグラスが開けたのか興味があったからである。

 ただ、それ以前に魔力に関して能無しも甚だしい事も有り、あくまで知識でしかない。そこが非常に悲しいが、基本的には双方向になっていることが基本らしい。

 だから、さっきイゼルナたちが探した以上に注意すれば何か見つかるだろう。今回はさっきよりも捜索者は増えているのだから。






「これ……もしかして鍵穴じゃないかな?ねえ、そうでしょ!キール」

『そうだね……。おくのほうのあなぼこが、そうみたいだね!やったね、カナちゃん!』

 カナエがちょうど自分の顔の位置までキールを持ち上げ、亀裂の奥を見えるように押し付ける。

 そんな声を聞きつけ皆がその壁面に集まる。バタバタとやってきた者たちでその穴を覗き込もうと団子状態になった。

孝和はそれには参加せず先ほどから唯一の出入り口を几帳面にも警備中であった。エーイは団子状態の皆を掻き分けながら腰元に手を伸ばす。

ジャラジャラと音をさせながら鍵束を掴み、みんなの前に翳す。それを見て全員が道を空けた。

「すみませんね。さて、と……、コイツかな?」

 鍵束を見て、その中で唯一さび付いていない鍵を見つけ出し、亀裂の奥にエーイがその先を差し込む。

 通常、差し込んで回すことで鍵はその役目を果たす。

 しかし、今回はどう見ても鍵の長さと、亀裂部分の長さが、差し込んだ後の回転を拒否しているように見える。せいぜい差し込むだけで精一杯なのだ。


カキン!


 軽い音がした。ただし、その音は金属同士の音ではなく、部屋全体に響くような空気を震わせた音だった。

「……反応は、無い?どういうこと?」

 音がした後に特に何も反応は起きなかった。焦れたイゼルナが周囲をせわしなく見渡す。

「いえ、おそらくですが、多分こいつにこうやって魔力を流してやると……」

 エーイが目を閉じ、ゆっくりと息を吐き出す。

 ボウッとちょうど部屋の中心が淡く光りだす。全員が少なからず驚き、少しだけ離れた場所にいた孝和はその光の流れを客観的に見ることが出来た。

 その光は中空を彷徨いながらも段々と床に向かい円状の魔方陣を形成して行く。比較的単純な構成で出来たものと推測された。要するにこの魔方陣ではそんなに遠距離まで転移は出来ないだろうと孝和は踏んだ。

「……それで、止めてみると……」

 エーイが鍵から手を離す。すると急に魔方陣の円は歪みを見せ、あっという間に先ほどまでと同じただの無機質な石畳の床になってしまった。

「おおおおおーーーーー」

 全員の感心しきった声と賞賛の視線がエーイに降り注ぐ。

 特に孝和は平静を保つように必死になりながらも内心興奮していた。

(すげえ……。マジのRPGの王道じゃんか……。ファンタジーだなぁ)

「まあ、一般的な遺跡ではあまり見ないがね。冒険者時代に南方の遺跡に似たような仕掛けの扉があった経験がある。これも多分その類の複製だろう。まあ、完璧な複製じゃない分だけ転移の術式は簡素化されてるみたいだな」

 エーイは引き抜いた鍵束を手元で玩びながら、そう説明する。



「それはいいが……。これでは誰かが残る必要があるな。ここまで目的地がはっきりしたんだ。魔力を流した後に、外のククチに頼んだ増援の案内もしてもらうことになりそうだ。さて、誰が残る?」

 イゼルナの言葉が聞こえ、選択肢が示される。外への単身での離脱か、敵がいるであろう転移先への強行軍かの「二択」である。パッと見、残るものが最も楽そうだが、離脱後は軍の正門から傭兵団と共に強引にでも中に突っ込んでくることになるだろう。転移側の危険度はわからないがやはり未知の恐怖は否めない。


 そして全員の顔に今までと違い、緊張と興奮が走る。



「では皆、覚悟は決まったか?」

 と、いう今回の分と前回の分を合わせて1話の予定だったんですが……。

 まあ、いい感じに仕上がらなかったんでこうなりました。

 

 一向に話が進んでないのはわかってるんですが、省略もいやなものでして。

 では、読んでいただいてる奇特なあなたに深い感謝を。

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