第26話 GIFT/CURSE
誤字・脱字ご容赦ください
「逃げ出した後、かよ……」
がっくりと孝和は肩を落とす。
ここは、ポート・デイ冒険者ギルド。その入り口脇に置かれた馬車の中である。昨日に続き、今日もこの場所に来る羽目になっていた。
「冒険者ギルドのギルドマスターが、盗賊ギルドの補佐役って……。腐ってんなぁ、ここ」
詳細までは教えてくれなかったが、エーイの資料には昨日のあの男が盗賊ギルドに便宜を図るのに、様々なことに携わってきていることが解ったのである。
例えば、野盗の討伐依頼のもみ消し、禁輸品を食料品に偽装した運搬依頼、冒険者への報酬の横領、軍・傭兵団の行動の密告。他にもいろいろ出てきている。その上、ヒアデスへの命令に加え、どうやら昨日の襲撃の情報を盗賊ギルドに提供したのも、あのギルドマスターだった。そして現在行方不明。完璧に今回の誘拐劇の関係者だろう。
「何で、そんなのが冒険者ギルドのトップに立てるんだ?おかしくないか?」
「理由は簡単!コネとカネ!それが理由だよっ!」
孝和の問いに答えたのはカナエだった。
「カネは解るけど、コネって何処のなのさ?」
エーイがギルドの中で調査をしているのを外で待つ孝和は、カナエ達と馬車で待機していた。
「ここのギルドマスターのハキムって、前の領主の弟なの。兄貴が追放されたけど、しぶとく生き残ったのよ。追放になるときに、弟も調査したけどそこまで問題になることもなかったから。だから、10年以上ギルドマスターにしがみついてる奴がいるのって、ここくらいだし」
「親族での権力の囲い込みって、完璧に駄目駄目な見本じゃんか……。何とかしろよ、その調査の時に」
「んんー?でも、貴族の連中ってそんなもんじゃない?自分たちのお仲間には手心加えざるを得ないって!」
「んんっ!」
カナエがカラカラ笑うのを聞いて、イゼルナが咳払いをする。
「ああ、そういや。イゼルナ様も貴族だったっけ。ごめんなさい!」
「言われても仕方ないがな……。私たちの失態だ。それがこの結果を生んだんだろうから……」
多少むっとした表情をしたが、すぐに頭を下げたカナエに大人気ないと思ったのか、自分たち貴族の不明を恥じる。
イゼルナのその態度に、確固たる誇り高さを感じた。同じくアリアも気高く、その生き様はまっすぐ前を見ている。しかし、昨日のギルドマスターも貴族の端くれであったはずだが、そういったものはまるで感じられなかった。
ここから、やはりこういったのは家柄や血筋ではなく、個人個人の資質なんだろうと孝和は深く心に刻むのだった。
「ところで、さ?」
「うん?なんだい?」
カナエが、話が終わり静かになったところで孝和の袖を引いて尋ねた。
「アリアさん、ってタカカズのどんな人?」
「……はい?どんな人って?」
カナエの台詞がよく解らなかった。いったい何が「ところで」なのか?
「いや、あのね。親しい人が攫われたのに、落ち着いているなぁって思ったのよ?こういうときは喚き散らすか、うろたえるのが普通じゃないかなー?」
カナエのその言葉に最も敏感に反応したのはユノだった。ビクンと体が震えたと思うと、孝和をじっと見つめて、その答えを聞き逃すまいと背筋を伸ばして身構える。
「ああ、そのことか……。最初はかなりキてたんだけどな……。話し聞いてると、今回のやったの間違いなくプロだろ?しかもその前に「極上の」がつくような、ね。夕方に本部出たときに、金とかの要求もないみたいだけど、どう見たって場当たり的な犯行じゃないだろ。まあ、絶対大丈夫といえないのがキツイんだけどさ」
嘘だ。孝和はこの事実をでっち上げないといけない理由があった。
(落ち着いてる、ねぇ……。やっぱ、傍から見てると異様なんだよな……。俺の態度って)
ギャバン邸で話を聞いたときに、気が触れそうなほどの焦燥が孝和を襲ったのは事実だ。心が砕け散るのではないかと思うほどの、絶望と共に。
しかし、外から見ると、孝和は落ち着いて事態に対応しているように見える。実際その通りなのだが、「八木孝和」の自制心がこれを為したのではない。
これこそが真龍シグラスの「ギフト」である。心の糸が切れ落ちるその最後の瞬間に、すっと気持ちが楽になった。
焦燥感、憤怒、絶望、襲い掛かる全ての感情が、シャットダウンしたかのように心の占有面積をゼロとした。あるラインを超えたときに発動する「ギフト」、いや「呪い」だろう。そして、発動後は機械的に事態を冷静に把握する。現在何をすべきか、相手の考え、こちらの動き、疑問として上がる様々な項目。これらがリミッターとなり、孝和を冷静に為さしめた。
(これが、長命な種族が持つ「心」ってことなのかね……)
真龍は700年という寿命を持つ。それは一体どのような精神構造なのだろうか?
700年。これは人間の寿命と比べればはるかに長い。その生を受けた真龍の精神構造と、せいぜい80年程度がほとんどの人間のものとは造りが根本から違うのではないか?
最初、キールを仲間にしたときの襲撃時からの強い違和感。恐慌、困惑、動揺、これらの感情に対し、強い抵抗力を得ているのはプレイス・カードで確認した。しかし、それ以外のリミッターが孝和の精神には仕込まれている。
孝和には受け継がれた生命力を使いこなすため、シグラスの心の強さが継承されている。この心の強さとは、単に生命力を使いこなすためだけではなく、異世界で生きる孝和を「生かす」ことも考えていたのだろう。全く違う世界で生きることは、個人の資質とは別にひどく心を疲弊させる。それに耐えられなくなることを見越し、シグラスの仕込んだ、当然起こりうる事態への対応策としてこの「呪い」とも言える「ギフト」があったのではないか。
要するに、異世界での様々な精神的負荷である「ウイルス」から、八木孝和という「ハード」を守る、「ウイルス駆除プログラム」として、真龍の精神を人にダウンロードしたのではないか、と孝和は考えた。何せ、孝和が生まれるまで、300年という長い時間があった。実際に起こりうる様々な問題への対処を考えるには、十分すぎる時間だったのは間違いない。
(でも、人間としてこの落ち着きはおかしいんだよな……。そこまで気が回らないのは、種族的なものなんだろ。仕方ないか)
そんな孝和の内心での葛藤があることには気づかず、車内ではカナエの声が響く。
「そうじゃなくて!アリアさんって人は、孝和にとってどういう人なのってコト!友人?仲間?それとも……恋人?」
「こ、恋っ!?な、いや、違うけど?今のとこ、大事な友人・仲間、かな?向こうもそう思っててくれると嬉しいけどさ」
いきなりのツッコミであった。この状況下で話す内容なのか、と思ったが、自分とアリアとの関係性をイゼルナに説明していないことに今更ながら気付き、その後の続きをイゼルナに向かい話す。
「え、と。最初に会ったときは、あんまり信頼されていなかったんですけど、今はキールも含めて仲良くやってるんです。チームプレイとかはまだまだなんで、今後も色々頑張ろうか、と……。やっぱ、まずいですかね?平民と貴族がパーティーって」
知らなかったとはいえ、アリアは貴族だった。一方、孝和はどこからどう見ても平民である。以前、苗字の「八木」が高名な家系と誤解されることがあったが、実際自分が貴族でないのは確かなのである。この両者の関係は大きい。よく考えれば、イゼルナよりもアリアの方が貴族としての格は上であるし、敬語とかなんかそこら辺は今後どうすればいいものなのだろうか?
「まあ、好ましく思わないものは多いかもしれないが……。別に構わないと私は思うけれど?アリアの方から君らを誘ったんだろう?そこら辺を悩むのはアリアの側の問題で、君らの方じゃない」
「はあ、そうですか……。ていうか、それでいいんでしょうか?」
「平民でも実力のあるものは重用するのが、ウェルローの家系だぞ?それにウェルローの一族だった母が選んだ私の義父は、裕福だったとはいえ、元々は平民の出だしな」
イゼルナの話が終わったちょうどその時、馬車の扉が開く。覗き込んだエーイが中の全員に報告する。
「イゼルナ様、移動します。皆、今度はハキムの屋敷だ。ギルドには午前中は居たんだが、昼に客が来てその後、大慌てで帰宅したらしい」
ばたんと扉を閉めて、御者席にエーイが座る。馬車は鞭を入れたエーイの操縦で動き出す。室内の小窓を開けて孝和が話しかける。
「どういうことです?ハキムが今回の関係者なら、行政官襲撃の翌日に出勤なんて変ですよ?」
「それが、受付の娘が言うには客人は、フードをかぶって誰かはわからなかったらしいがハキムの奴、かなり慌ててたらしい。予定は今夜のはずだ、とかこちらの準備がまだ、とかな……。しかも誰かに聞かれる可能性のある受付でな?地位に実力の伴わないアホだな。ハキムは」
「首謀者はハキムじゃない?」
「そういうことだ。そこを確かめに行こうじゃないか?」
「申し訳ありません。ハキム様は現在屋敷には居りません。どうぞお引取りを」
深々と頭を下げた人物は執事服に身を包み、イゼルナを先頭にした一団に怯むことなくそう言い放った。初老に差し掛かりながらも、全く衰えを見せずその場に背筋を伸ばし、イゼルナたちに相対した。真っ白になった髪と、深いしわを刻んだ顔には威厳と、自分の仕事に対する自身が見て取れる。孝和たちが到着するのを待っていた彼は、門扉の前に立ちふさがり一歩も引く構えを見せない。
「仔細は先ほど言った通りだ。それでも協力は出来ぬ、とそう言うのか?」
イゼルナは目の前の執事にそう尋ねる。殺気を放つ彼女を前にして、執事はピンと背筋を伸ばし、真正面から彼女に対する。
「お話を聞きますと、ハキム様への疑いは濃厚でしょう。ですが、あくまで疑いでしかありません。それでは、私にはこの門を開けることは出来かねます」
「ふむ、それではあくまで主人をかばうのか……。実力行使、と言う手もないわけではないのだが?」
しかし、これにも効果はなかった。彼はイゼルナの目をまっすぐに見つめ、切り替えす。
「申し訳ありません。何度も言いますが、ハキム様は屋敷内には居りません。メイド達と共に旅行に行きたいと、仰られましてね。どうかお引取りください」
深くため息をついて、イゼルナはこの執事をどうするか考えた。このまま屋敷内に侵入すれば、この男はその行為を問題にするだろう。ハキムがたとえ罪人となろうとも問題は問題だ。貴族の横暴と、多くの者がイゼルナや傭兵団の行為をなじるだろう。
「くっ……」
イゼルナの他のものも同様だった。この目の前の執事の毅然とした態度を、崩す術を何も持ってはいなかった。
「あのー。いいですか?」
全員の後ろで控えていた孝和の声が聞こえる。それに全員が振り向く。
「執事さん。屋敷内にハキム氏はいないんですね?」
「ええ。その通りです」
執事は躊躇うことなく即答する。
「メイド達と一緒に旅行に出かけた?」
「ええ」
「全員で何人とです?」
「私が見る限り御者とハキム様を含め、7名でしたね」
「なるほど……」
そういうと孝和は膝をおり、地面をじっと見詰めだした。地面には轍が出来ている。人差し指を立て、その轍の深さを、先ほどまで自分たちの乗っていた馬車のものと確認する。
「持ち物は何でした?」
「貴金属、服は山のように。大型の馬車に詰め込めるだけです。一緒のメイド達には鎖が巻かれていました。……哀れな娘たちです」
「……馬車は何頭立てです?」
「3頭でした。重量はかなりのものでしょうな」
孝和と執事の会話は淡々と進む。孝和が膝を折ってから、執事は微笑を浮かべていた。聞きたいことを孝和が質問し、それによどみなく執事が答える。孝和は返答を聞きながら、地面に残る蹄を捜し、門扉から複数出ているものの中から、条件に合うものを選び出す。誰一人それに口を出すものはいなかった。
「……では、これで最後です。……いいんですか?」
孝和の質問には色々なものが含まれていた。長年使えていただろう家に対する忠誠心、彼の仕事へのプライド、今後の身の振り方、他にも色々。
「……私は、この家で3名の主人に仕えました。先々代、先代のご領主、その弟君のハキム様です……」
噛み締めるように闇に彩られた夜空を見上げ、一言一言言葉を紡ぐ。その視線の先には、夜空ではなく、違うものが見えているだろうことは、その場の全員が解っていた。最終的に条件に合いそうな轍は2本に絞られる。南のスラム街へと続くもの。北の高級住宅代と、軍管轄区域へ向かうもの。
「先代領主様も、ハキム様も幼少の砌より知っております。ですので、私が為すことはここまでが限界とお考えいただきたい。……ですから、お願いいたします。どうか、あの方をお願いいたします……」
夜空を眺める彼の視線が、北を向く。
「どうなるかまでは、俺にはわかりません。でも、俺たちは助けなければならない人がいます。ご期待に沿えるかは解りませんよ?」
「はい、解っております。私にはこの家の最後を看取る必要があります。ですから、よろしくお願いいたします」
ここに来たときと同じように深々と頭を下げ、執事は顔を上げる。その表情は悲しみと決意に溢れながらも、今までに見たことの無いようなすばらしい微笑だった。
最後に全員が乗り込んだ馬車を見送る、いつまでも頭を下げた彼の姿はまさに「真のプロフェッショナル」という言葉が相応しいものだった。
「あの執事さん、大丈夫なのかしら」
馬車での移動中、ユノは隣に座ったカナエに話しかける。
「まー、ねえ?でも、あたしたちにはどうしようもないことだしさ……。それよりも、これからよ!本番は!絶対にハキムをブッ飛ばしてやるんだからね!」
ぐっと拳を握り締め、ユノの顔の前に翳す。それを見て、ユノも握った拳をカナエのものに軽く合わせる。
「ふふふ。そうよね……。やって見せないと、ね」
そっと微笑み、御者席のエーイの隣に座る孝和を見る。どうやら2人は話し込んでいて、こちらが見ていることには全く気付いていないようだ。
「北ってことは、住宅街か軍施設だけれど……。本当にそんな所に捕まってるのかしら?もしそうでも、中に入れないと意味がないのだけれど……」
孝和の判断に文句はない。結果的に執事から確認を取ることは出来なかったが、ほとんど確定といってもいいだろうと思う。あの執事が嘘をつく可能性もあるが、あそこまでの覚悟で話してくれた彼の思いは本物だと信じたい。
「発生からもうすぐ1日が立とうとしているのだ。そんな場合は私の方で何とかしよう。ここまで来て、遠慮する時間もないからな」
腕を組んでじっと目を閉じていたイゼルナがそう太鼓判を押してくれた。
「そうですよね!イゼルナ様もやってやりましょうね!!」
そういうと、カナエの拳がイゼルナの前に差し出される。
「ああ、よろしくな。一発カマしてやろう。首謀者が誰であろうと構うものか。2人とも準備はいいか?」
「はい!」「ええ!」
2人の声がそろう。そして、今度は3人で拳をあわせる。
「あ、でも、イゼルナ様にひとつお願いがあるんですけど?」
「なんだ?出来ることならいいのだが?」
カナエのお願いにイゼルナが答える。出来るかどうかは内容次第だ。
「その、かっった苦しい言葉遣い。止めません?なーんかこう、息苦しくて……」
ぽりぽり頭を掻いて、あははは、とカナエが笑いかける。ちょっと、とユノがカナエをたしなめる。
「そうか……。だが、これは軍人としての矜持の様な物だからな……」
だが、聞かされた内容から判断して別に問題もないか、と考えたイゼルナは2人に向かって話しかける。
「でも、この3人のときはいいかもね。私も立場上そんなに友人といえる人もいないし……。だから、ほかの人がいないときはイゼルナでいいわ。まあ、年の差のことは気にしなくてもいいわ。よろしく、2人とも」
ウインクのように片目をつぶり、茶目っ気を見せて2人に頼む。
「うん!よろしくお願いします!イゼルナ!ほら、ユノも!!」
トンと軽く肩を叩かれたユノがカナエに続く。
「よろしくお願いします。イゼルナさん」
「いや、ユノ?呼び捨てでいいのよ?」
「いえ!けじめですので、これでお願いします」
「そう……。なら、いいけれど……」
と、いうことで女性陣はいつの間にかそれなりに仲良くなり始めていたのだった。
「なんか、中は楽しそうですね……。この状況でアレもどうなんでしょうか?」
孝和は後ろの馬車の様子を見て、横にいるエーイに話しかけた。エーイの横顔は見る限り、真剣そのもの。後ろの様子がエーイのやる気に水を刺すのではないかと思って不安になった。
「まあ、構わないんじゃないか?無駄に緊張する必要もないだろうし、イゼルナ様の友人関係は希薄だったからな……。これがきっかけになってくれれば、その点でもいいことだろうな」
「そうですか……。貴族の友人関係ってのも大変みたいですね?」
「ああ、利害関係なしでの友情など有りはしないだろうからな。ガキのころからの長い間の積み重ねが、将来の地位の安泰やより良い伴侶に繋がるのは、親の代から連綿と教育されているからな。女は政略結婚するものも多いし、それを嫌って軍人になったあの方には同性の友人もいないに等しい。私としてはあの2人には期待したいところだ」
そういうしがらみの中で生きて行く人生。……正直遠慮したい。「籠の中の鳥」、貴族の当事者全てがそう思うかは別だろうが、孝和にはそう思えたのだ。
「やっぱり、どんな立場でも生きてくのは大変なんですね……」
「当たり前だろう。君もこれまでにいろいろとありそうだが?違うかい?」
孝和は、チラッと顔を見て探りを入れてきたエーイにドキッとした。
「いや、まあ……。そうですねぇ……。あはははは……」
まさにヤブヘビ。自分でも白々しいと思うが、笑い声は乾いて周囲にむなしく響き渡った。
「あ!そろそろ道が石畳になりますよ。ここからは聞き込みですよね!あの路地に止めましょう!ほら!早く早く!」
道に残る轍を追って、ポート・デイ北に向かった馬車は住宅街に入り、舗装された石畳が道を覆う。ここまでの比較的平民の住む区画と違い、ここから先は貴族の住む「超」高級住宅街だった。なだらかに坂になり、丘の上に向かうこの辺りから、丘を越えた先の盆地に位置する海岸の軍港・基地区画までに住むことは、ある意味ステータスだ。
この区画は周辺貴族の別荘地、軍関係者・一部の成功者のみの住む事の許される地区である。言い方を変えれば、「官憲が手を出すのを躊躇う」者たちの住処であった。居住者は広さに反比例して、少ない。エーイの持つ調書をもとに絞込みを行えば、さらに該当者は数名までに減らすことが出来る。
「そうだな、では降りよう。あと、な?」
「何です?」
「頼むから、キールを起こせ」
「はい……。すんません……」
すよすよと寝ているキールは、姦しい3人の娘たちの横で毛布に包まれて放置されていたのである。
「最後のここも空振りですか……。上手くいかないもんですね……」
「そう言うな。こればかりは、運の問題もある。単純に考えても1/2だからな」
聞き込みは、孝和・キール・エーイ班と、ユノ・カナエ・イゼルナ班に分かれた。エーイとイゼルナの二人はこの町ではそれなりの身分や権力を持つ。一方、それ以外の面々は、由緒正しい一般人である。捜索先が仮に貴族邸だった場合、問答無用でたたき出される可能性を避けるため、この布陣となった。
『ここがさいごだからさ。じゃあ、あっちのほうでアリアさんがみつかってるはずだよね。そうだよね!ますたー!』
目覚めと共にキールにもたらされたのは、アリアの行方についての重要情報だった。しかし、数箇所の調査結果はこちらは空振り。しかしながら目覚めスッキリ、興奮度マックスのキールを孝和に丸投げして、エーイは一人馬車へ急ぐ。
「そうだといいんだけどな……。キール、エーイさんを追いかけないと!!」
慌ててエーイの後を追いかける。
「とりあえず合流だ。馬車に戻るぞ?」
『うん!』
テクテクと3人は馬車に戻る。孝和側が今回の調査で得られたのは、結局ゼロに近いが、反対側の彼女たちに期待するしかないだろう。
結局、もう一方の彼女たちの情報が、事態の打開につながるのだが、更なる危険を伴うことになることを、まだ誰も知らなかった。
前フリが長くなりましたが、次回は突入を含めて長めで投稿する予定です。少し時間はかかりますが、よろしくお願いします。
今日、明日と仕事のため休みの間の書き溜めもできませんから。申し訳ありません。