第21話 集結する者達
誤字・脱字ご容赦ください。
約束したポート・デイのボードセンター前のベンチに腰掛け、孝和とキールはじっと待っていた。現在の時刻は正午を過ぎ、孝和の体感時間では大体1時間ほどが経過しているだろうか。
『おそいねー。どうしたのかなー?』
「そうだよなー。アリアって結構こういう待ち合わせとかは、キッチリ守るタイプだと思ってたんだけど……」
ボリボリと頭を掻く。2人してぼーっとしながら遠くに見える帆船を見ていた。2人とも鐘がいつ鳴るのか、今ひとつわからなかったので宿で午前中は観光も何もせず、そのままベッドの中で惰眠を貪ることにした。そろそろ昼になるか、という時刻に宿を出てボードセンターに向かった。鐘がなったのは、到着の少し前だった。きっと、遅れたことを怒られるな、と2人で話していたのだ。だが、アリアはそこには居なかった。センターの職員にも聞いてみたが、銀髪の神官の女性が来た様子は無いとのこと。
そのため、2人は昼食も無く、空腹をこらえながら、ベンチで待ちぼうけを食らったのであった。
予想通り、昨日酷使した体はガタガタだった。特にエーイのもとに駆けつけたときに全力を出した両足は、触れるだけで筋肉痛が間断なく襲う。デュークとの戦闘後、翌日にダメージが残らないように加減して気功術の鍛錬をしてきたので、少しは使いこなせるようになっていると過信していた。
結果、見事に失敗した。やっぱり、この気功術は「奥の手」だ。使った当日はともかく、翌日の朝の肉体的疲労感、筋肉痛は極め付きだ。ここが人間の体の限界ということだろう。まあ、前のときよりは少し軽減されている。今後の鍛錬しだいでは何とか使えるように出来るかもしれない。
ただし、今ではない。そのときの孝和の肉体は完全に疲れ果て、そのダメージを癒すために深い眠りに付いていた。その一方、比較的早起きのキールはかまって欲しくて堪らなかったのだろう。目覚めと共に、孝和のベッドを見た。語りかけたのだが、爆睡しているため、反応は鈍い。「うぐう……」という寝ぼけ以外の反応が無かった結果、先日のあの時と同じように、隣のベッドからのキールの恐怖のダイビングは、油断していた孝和の上に完璧なタイミングで実行されたのだった。
そういったわけで、孝和は出来るなら早目にアリアと、マドックまでの護衛依頼を受けて宿に戻りたかった。起床の時点よりもだいぶマシになっているが、足はまだ少し痛む。左腕のひじも足ほどではないが、投石で酷使したツケが来ている。
「しかし、どうしようか?どう考えてももう、ギャバンさんのとこに行くには遅いんだよなぁ……。キャラバンの護衛も、俺やお前じゃ受けれるランクじゃないし……。弱ったぜ、本当に」
腕を組んでうなる。もしかして何かあったのか?でも、ただ単に遅れているだけかもしれないし……。確かめに神殿の出張所に行こうにも、場所が分からない。仮に人に聞いて出張所に向かう途中で、行き違いになるのは最悪だし。
『やっぱりまつ?でも、ひまだよね。なんか、ねむくなっちゃった……』
キールもいい加減待つのに飽きてしまったようだ。さっきまではベンチの側の花壇で、花によってくる蝶を追いかけて遊んでいたのだが、それも1時間も続けていれば飽きるのも当たり前だ。
「悪いな。やっぱりここで待たなきゃ駄目なんだ。アリアが来るまで寝てるか?来たら起こすけど?」
ベンチの隣にいるキールを撫でてやりながらそう言った。ポカポカしたいい天気だったのだが、正午を過ぎてから少し雲が出てきた。まだ大丈夫だが、夕方には降ってきそうだ。
『ん、と……。もうすこしだけ、おきてようかな……。おそいよね……。どうしたのかな、アリアさん』
先ほどから何度も繰り返された質問。ここに到着してからもう2時間にはなるだろう。最初はケラケラ冗談のように笑いながら話していたのだが、今のキールの声色には心配が色濃く感じられた。
「大丈夫だよ。きっと、久しぶりに会った人の家で歓迎されてるんだよ。それでなかなかここまで来れないだけさ。多分そんなとこなんだよ、アリアの行った人の家って」
とりあえずこれ以外の、キールに話せそうな理由が思いつかない。短い付き合いだが、その佇まいから彼女の育った環境が、かなりの上流階級であろうことは間違いなさそうだ。ということは会いに行った人もそれなりの家柄だろう。「ささっと」会ってくるとは言ったが、そんな家柄の人物が家先で簡単な挨拶だけで済ませられるわけが無い。それで遅れているのだろう、と無理に自分を納得させた。
ただし、孝和の中ではあまり良くない理由も浮かんでいた。治安が悪いことは事前に言われたが、ちらほら街中に真っ当な職に就いてないような者も見える。アリアの実力は知っている。それでも、彼女の身に何かあったのではないか、と不安に駆られるには十分であった。これ以上キールに心配させないよう、絶対に言えない。なんとかポーカーフェイスを装い、キールに笑いかけた。うまく自分が笑えたかは自信が無かったが……。
「やあ、タカカズ君」
ベンチで座り込む孝和に声が掛けられた。
「あれ?ククチさん?こんにちは。ボードセンターに何か用ですか?」
声の方向に顔を向けると、知った顔があった。ククチが目の前に立っている。ベンチの横にいるキールを軽く小突いて起こす。結局、待つといったキールのあの一言からさらに1時間ほどが経っていた。大体ではあるが、3時を少し過ぎたくらいだろう。キールは寝てしまい、孝和は暇で、鞘で地面に線を引いて意味の無い絵を黙々と描いていた。
「いや、実はね……。ああ……。えーと……ねぇ?」
ククチが言いよどむ。声が喉を行ったり来たりしているのが分かる。どうやら孝和には言いにくいことのようだ。その間にキールが起きる。目の前のククチに気付き、頭の上に疑問符が飛んでいるのが分かる。
「……まあ、込み入った話があるのさ……。少し来てくれないかい?」
クイと、あごをやった先に馬車が見える。確か御者の男性は、昨日襲撃してきた野盗を引き渡した傭兵団だったはず。
彼も孝和がこちらを見たのを確認し、頭を下げた。つられて孝和も頭を下げる。
「はあ、でも俺たち待ち合わせしてるんです。なあ、キール?」
『うん!アリアさんをまってるんだ!!さっきからなんだけど……』
キールはそう言うと、しょぼんとしてしまった。
「…………その、な?実はそのこ……」
「分かりました!行きましょう。馬車に乗ればいいんですね?」
ククチの話を打ち切るように、鋭く真剣な表情で孝和は了承した。
『ますたー?アリアさんはどうするの?』
「ああ、キール。とりあえず先に馬車に乗っててくれ。アリアには俺から謝るからさ。大丈夫。お前が怒られることは無いよ。俺はククチさんに話がある。少ししたら、行くからさ」
ニッ、と無理に笑顔になる。どうも納得いかないが、孝和の意見に従うことにしたようで、キールはぴょんぴょん馬車のほうに駆け出していった。
「…………で?アリア、ヤバイ状況だったりするんですか?」
キールが馬車に入ると同時に、声を潜めククチに尋ねる。
「ああ。察しがいいな。どうしてそう思った?」
「ええ、アリアが時間になっても来ない。そしてククチさんと俺たちに今現在会わなきゃならない理由は無い。最後に、あなたがここに来る少し前から、誰かが俺たちを監視している。あそこと、あそこ」
ピッ、ピッっと迷い無く指さした先に誰かが居たのは気づいている。悪意は無いがこちらへの視線を感じた。おそらく普通にしていれば気づかなかっただろう。しかし、アリアがいつ来てもいいように気配の察知だけは、暇を持て余しながらも続けていた。そのアンテナに引っかかったため、鞘でのいたずら書きをしながら、何かあればいつでも剣を抜き払えるよう、準備はしていたのだった。
「多分監視はあなたの部下でしょう?そんな監視される理由が俺達にはない。そうしたら俺達の関係者、つまりアリア関係の問題の可能性が一番高い。そう考えたらなんとなく……。ですね」
「いい読みだ。だが、話は馬車に乗ってから目的地で話そう。そのほうが面倒が無いからね」
「……かなりヤバそうですね。急ぎましょう」
「悪いね。目的地にはエーイさんもいる。彼が現状最も状況を理解しているはずだから」
馬車に2人とも早足で無言のまま向かう。御者の男性は2人が乗り込むのを確認し、馬車は勢いよく走り出した。急な発進で、周りの人を危うく撥ねそうになった。それに向かって跳ねられかけた男が石を投げつける。それを見て孝和は、緊急事態で有ることを強く認識し、冷たい汗が背中を伝うのを気持ち悪く思うのだった。
馬車はかなりの勢いで道を駆け抜ける。かなりの揺れに、筋肉痛の足が痛むのを必死にこらえ、約10分の移動の後に目的地に到着した。
「着いたぞ。降りてくれ」
バタンと勢いよく扉を開ける。ククチがまず一番先に、次にキール、孝和の順で馬車を降りた。すると、目の前にはかなりの大きさの屋敷があった。その周りには高い壁、そして来るものを拒絶するかのような威圧的な鉄扉。さらには蔦が、その全てを覆い隠すように巻きついていた。
「はぁぁー……。すごいとこですね……。ここですか?」
今の状況が大変なのは分かっているが、その緊張感ですら吹き飛ばすほどの豪邸である。一体ここにどんな用事があるというのだろうか?
「彼の終の住処だそうだからね。かなり、奮発したそうだ」
多少あきれたように、ククチがそういうのを聞いた。その様子に若干、かすかな苦笑が見て取れた。
「こちらの方とはお知り合いなんですね。話はこちらで、ですか?」
「ああ。中に入ろうか?君も早く現状の確認をしたいだろう。私も、何か進展が無いか知りたいからね」
トンと鉄扉に手を突き力を込めて押していく。どうやらかなり錆付いているらしく、鉄のすれる不快な音が周囲に響き渡る。少し前に誰かが中に入ったのだろう。地面に新しい錆の筋が、鉄扉の開くほうに薄く石畳に残っていた。
鉄扉が人一人入れるくらいのスペースを空けることが出来た。それを見て、孝和たちは前庭に当たる鉄扉の向こうに入り込んだ。
おそらく先の訪問者がエーイのことであろう。しかし、その前の来訪者が来たのが、いったい何時のことなのか解らないほどである。石畳の間からは雑草がそこかしこに生え、先の訪問者が踏みしめた石畳の足跡以外まるで廃墟の庭先以外には見えなかった。例えば、噴水であったはずの痕跡には、緑と青の混合物が水気を失ってたまっている。名品であろう彫刻家の作品は蔦が絡まり、磨かれることのないその表面に泥のコーティングが満遍なくグラデーションを描き出す。
「あの。本当にここなんですか?それに、あんまり手入れもしてないみたいですけど……」
さすがに、ストレートに「荒れ果ててますね」とは言えなかった。立派な豪邸と思ったが、鉄扉の向こうは廃墟以外にはまるで見えない。
「まあ、庭の美しさを愛でる人なんかじゃないんだわ。あの人。そこらはどうでも良いと思ってるのでないかな?」
雑草に足を取られないよう、石畳の上のエーイのものと思われる足跡の上をなぞるように先に進む。孝和もそれに習ったが、キールはその草生えたところをわざわざ進んでいた。雑草をなぎ倒しながら進むことで、気を紛らわせていたようだ。
『ねえ。ますたー、アリアさんはここにいるの?』
「いやぁ……。多分、居ないだろう……。お前もなんとなく分かってるだろう?」
『うん……。ねえ……?』
「なんだ?」
ひょいとキールを抱き上げ、ククチの後を追う。少し足を止めたため、距離を開けられてしまった。
『ぜんぶ、アリアさんたちのじょーくだったらいいのにね。アリアさんがいて、ますたーがいて、てーぶるのうえにごはんがいっぱいあって。そんなのじゃだめなのかな……』
「そうだな。そんなジョークがいいよな。でも、これはマジなんだ。しっかりしろ」
最後の言葉は、キールにだったのだろうか。自分にも言い聞かせるように聞こえたのは気のせいではないだろう。キールは少し厳しいその言葉に自分をしっかり取り戻した。
『そうだね。うん!いこう!』
「よし!行こう!!」
キールの体は少し震えていたように思う。それでも、前に進むその心に孝和は強く愛おしさを感じざるを得なかった。
だが、自分はどうだろう。もし、真龍の後継と成らねばここまでしっかりと前を向けただろうか?馬車で何度も自分に問いかけた。自分の心を形作るピースの薄っぺらさがどうしようもなく、みすぼらしくちっぽけに思えてならなかった。
自分は、真正面から怒り、笑い、人を愛していただろうか。自分の失ったキールのその純粋さが我慢できないくらいにうらやましかった。その様々な思いを込めて、孝和はキールを抱きしめるのだった。
「エーイさん、タカカズ連れてきましたよー!どこですかー?」
玄関を開けてククチが館の中に入る。次いで小走りの孝和と、抱えられたキールが入館した。
(はーー。すごいな。これは)
そう孝和は思った。ただし、これは「良くも」「悪くも」である。
「良くも」側のすごい点はいまだエントランスであるというのに、それだけで日本の孝和の住んでいた部屋の数倍はある。軽くブーツのつま先を床にぶつけてみる。するとエントランスホールにコーンと音が反響し、響き渡る。それほどのスペースが家に入ってすぐ存在するという事実は、骨の髄まで庶民である孝和では意味が分からなかった。まあ、多少の嫉妬に近いものは感じているのだが……。
一方、「悪くも」側のすごい点は、とにかくおかしいのだ。この屋敷は。どう考えてもこの大きさならば、少なくてもある程度の人数が住んでいなくては生活が出来ないだろう。要するに「家政婦」「執事」の存在である。屋敷を維持するための最低限必要な人員さえも、ここに入って来ても見当たらない。もしかすると……、いや多分間違いなくそんな人員はいないのだろう。玄関先の空間は薄暗く、窓もひどく汚れている。カーテンのすそも痛みが遠目からもわかるうえ、床が日焼けして木目の一部がかさかさに乾いているように見えるのは気のせいで無いだろう。雑然と放置されたいろいろなモノ、孝和にとってはゴミにしか見えないのだが、大切なのだろうか何故かホコリが積もってはいない。
「おお、着いたのか?待っていたぞ。こっちだ。二階に来てくれ」
周囲のその異様なすごさに内心、(何してんだろ俺、こんなところで……)と思っていたところに声が掛けられた。頭上の2階をエントランスホールから見上げると、昨日と違いどこかしら疲労を十二分に感じさせる容貌のエーイがいた。
「ああ、そこに居たんですか。エーイさん。他の者は?」
孝和と同時にエーイに気づいたククチが1階から尋ねた。
「いや。彼女達がまだ到着していない。集まったところで説明する。2階の客間だ。やっと整理が終わったところで汚いがね」
よく見ると、その両手にはティーセットらしきものが見える。どうやら孝和たち以外にも今回の件の関係者がここに集まるようだ。
「タカカズ達も呼びつけてすまない。詳しい話はもうすこし待ってくれ。2階に上がっていればそのうち残りも来るだろう」
申し訳ない気持ちを込めてエーイは孝和たちに話しかける。その言葉を聞いて孝和は2階に続く階段を踏みしめ、一歩一歩昇り始めたのだった。
「えーと……。どこに座ればいいんでしょうか?」
案内された客間に入ったとたん、そう尋ねずにはいられなかった。
「まあ、なんだ。そうだな……。そこの本の上でもいいんじゃないか?」
エーイはそういうと、おそらく本来は大人数の掛けられるテーブルであった、書物や様々なメモが全体を覆い隠したモノの前に、ちょうど腰掛けられる本の山を発見した。
「……あの。エーイさん?」
「なんだ?タカカズ?」
どこか非難した様子の視線に思わずエーイはたじろぐ。
「俺が言うのもなんですけど、もう少し片付けられなかったんですか?自分の家だからってここまでっていうのは見たことも無いですよ?」
孝和の指摘は当然だった。孝和自身もそんなに整理整頓が得意なほうではないが、ここまで行くとさすがに度を越えている。この部屋に来るまでの廊下も鎧やら何かの巻物やらがいたるところに転がっていた。
「いやいや、勘違いしているぞ。ここは俺の家じゃない。君も聞いたことくらいはあるだろう。ギャバンという名前の従魔師の家だよ、ここは」
「え?ああ、すみません。で、でもここギャバンさんの家なんですか?」
自分の勘違いに顔を真っ赤にして謝罪する。しかも話によればここは今日来訪する予定の従魔師ギャバン宅だという。
「そうだ。彼の稼いだ財産の全てで購入した家だよ。残念なことに成功者の家にはまるで見えないがね。君も最初は廃墟じゃないかと疑ったんじゃないか?」
「いや、あははは」
『ますたー。はいきょってなあに?』
キールの問いかけに孝和はどう説明したものか悩んだ。まさか人の家にいるのにそんな説明して良いものだろうか。
「そんな言い方は無いでしょうに……。相変わらずデリカシーの無い人だ……」
ガチャンと音がして客間の扉が開けられる。そこには50を超え、頭頂部の薄くなった男がいた。中肉中背で、金髪。なぜか頭からは湯気が上がり、湯上りのようだった。その脇には黒い毛並みの犬がいた。主人に付き従うように部屋に入る男の少し後をピンと胸をはりしっかりとした足取りで付いていった。
「すまんね。だが、デリカシーを問うのなら、身だしなみという言葉を忘れるべきではないと思うが?いくら人に会わないからといって、あの格好で出てきたときにはこちらが驚いたぞ」
「それについては、申し訳ない。で?そちらがタカカズ君だったか。従魔師ということですが、本当のようですね。はじめまして。ギャバンと申します。こいつはバグズ。よろしくね」
そういうと、孝和に軽く頭を下げる。隣のバグズと呼ばれた黒犬は同じように頭を下げた。穏やかでどこか人懐こい笑顔を見せるその人物からは事前に聞いていた「人嫌いで神経質」という人物像がまるで当てはまらなかった。
「あ、どうも。はじめまして八木孝和です。それでこっちが……」
『ぼく、キールです!よろしくおねがいします!』
自己紹介が終わり、ギャバンは孝和たちのほうに近づいてきた。キールの前で跪くと、しげしげと観察した後こう尋ねた。
「キール。触っても良いかな?」
『へ?べつにいいよー。えいっ』
ぴょんとギャバンにジャンプする。ギャバンはそれを受け止め、ぺたぺたその体を触る。軽く引っ張ってみたり、なでてみたりしてその弾力を確かめているようだった。
「ふむ……。なかなかに面白い……。おや、ここが核か?」
ちょうど核の上をつついてみると、キールが『んにゃあぁ』と大きく身じろぎした。
「ああ、すまない。これだからエーイにもデリカシーが無いと言われるんだな。悪かったね」
『ううん。ちょっとくすぐったかっただけだから。だいじょうぶです!』
「そうか……。ありがとう」
ポンポンと軽くキールを撫でる様に軽く叩く。その後にテーブルに向かい奥にあった椅子を取ってくる。どさどさと椅子の上の本を無造作に放り投げるとテーブルの前に置く。勢い良く座り込むと、その隣にバグズが擦り寄り、脚をたたんで横になった。
「さて、では諸君……。どうやら最後の客が来たようだ。エーイ、茶を入れてくれるかい?」
その言葉に驚いて孝和は周囲の気配を探る。すると、階下にから誰かが上がってくる気配がした。ここで、この目の前にいる人物が只者ではないことに気づいた。孝和だけでなく、キールも遮蔽物がある状況では、気配の察知に影響がでる。敵意があれば別だが、普段の状態では注意していなければわからない。やはりこの人たちの知り合いは、気が抜けない。
「どうかしたかい?タカカズ?」
ククチは孝和に尋ねる。まるでそれが普通のように振舞っている。平静を取り戻すためであろうが、エーイの淹れた茶をうまそうに啜るその様子に、やっぱり自分はまだまだだなあ、と自分の未熟を痛感するのだった。
ドンッドンッ、とドアがノックされる、というよりは叩き壊すかのような大きな音が響く。すかさずエーイがドアを開ける。
「エーイ!!そちら側の現状の報告を!!こちらには何も情報が降りてこないわ!全く軍の連中って能無しばっかり!!」
その人物は客間に入るなり、エーイを怒鳴りつけるかのように大声を張り上げた。その声に孝和とキールはビクッと身じろぎをする。恐る恐るドアのほうを見ると、相手も孝和に気付いたのかこちらのほうをジロリと値踏みするかのように観察してきた。
それが孝和・キールの、彼女とのファーストコンタクトであった。
いつもこちらを覗いてくれる方に、心からの感謝を。