第20話 とりあえず、飯!飯!
誤字・脱字ご容赦ください。
「さて……と。それなりに落ち着いた?アリア?」
おどおどと、アリアにそう語りかける。テーブルの上には、食べ散らかされた昼食の皿が雑然と並んでいた。孝和個人は元々食べるのが好きな事と、体自身が多くのカロリーを必要とするため、かなりの量を頼んだ。気功術の使用には普通に動く以上のエネルギーを消費する。そのため孝和にはそれだけに見合う量が必要だったのだが、テーブルの反対側に座るアリアも、孝和と同じくらいの量を頼んでいた。
注文した料理がテーブルに載って、実際に実物を見ると、ものすごい量となった。全部食べきれるのかと内心冷や汗を掻いたのだが、結果はこのとおり。
女子のヤケ食いの限度を超えていると思うのだが、きれいに皿は空になっている。
「ええ、食事は大変おいしくいただきました!少しだけ気分も晴れたわ!」
グラスに入っているワインをグッとあおり、テーブルに叩きつける。孝和はうわぁ、とそのグラスを手に取り、どこかにひびが入っていないか確認した。
「だ、駄目だって!!もう、危ないじゃんか。酒じゃなくて、水!水!!」
大き目の、確かスープの入っていた器を掴んで横にある水差しから、なみなみと水を注ぐ。それをアリアの目の前に差しだす。
どこかむすっとした顔でその器を受け取り、アリアは一気にのどを鳴らして水を飲み干した。
「だって……。タカカズだって最初怒ってたじゃない!?あの態度はヒドイわよ!!こっちの立場が弱いからって、悔しいじゃないの!!」
顔を孝和にぐっと近づけてそう言い放つ。周りの視線がいたい。とりあえず落ち着いてもらおう。
「全然落ち着いて無いじゃんか!でもさ、あっちの言い分が正論なのは冷静になったら、間違いないだろ?仕方ないよ。キールもそう思うだろ?」
『うーん?ちょっとよくわかんないかなぁ?あ!でも、ぼくあのひと、だいっきらい!!』
書き文字で上に「ぷんすか」とでも浮かんでいるようなキールはそういってアリアの膝の上に飛び乗った。
「そうでしょう!?ほら、キールもそう言ってるわよ!?」
二人して「そうだよねー」と共闘関係を結んでしまった。この時点で孝和の勝ちどころか引き分けも無くなってしまった。
見事に鎮火に失敗した。ここで、清涼剤としてのキールの一言を期待したのだが、火に油を注いでしまったようだ。
孝和はこの状況をどう回避しようか頭を抱えるのだった。
きっかけは、護衛の終了を報告しに行った、ポート・デイのギルドでの支払いが原因だった。護衛の報酬をもらいに護衛全員でギルドに向かったのだが、その際に言われたのが、
「支払われるのは護衛の正規報奨金のみです。賞金首ケンネルの討伐賞金は払われません」
だったのだ。
全員が、その言葉を聞いて一瞬対応ができなかった。支払いのカウンターに目を血ばらせた護衛が詰め寄った。12名のうちチーム参加は2チーム10名、個人は2名。つまり金貨20枚を護衛の申請数で割った各5枚が、護衛の代金以外にボーナスとして転がり込むはずだったのだ。
「ですから!今回のケースではケンネルをしとめたのは、傭兵団所属のエーイのチームだったのでしょう?それであれば、これは傭兵団の通常任務に含まれます。『軍・傭兵団所属の者は、その任務過程で討伐した賞金首の賞金を受け取れない』この領内の確固たる法です。あなた方は領主の法に逆らうのですか?」
そういってカウンターの向こうで、この街のギルドマスターが完全に上目線で言い放つ。腹の出た高級服を纏う男であった。自分の言いたいことを言い終わったのか、当時の様子を確認することもせず、話は終わりと引き上げようとした。その場にいた当事者であるエーイがせめてもの妥協を引き出そうと、カウンターの中に入り込み、掴みかからんばかりの勢いで、一生懸命説得をする。他の者は誰もそのギルドマスターの正論にぐうの音も出なかった。
『だって、ぼくらがんばったんだよ?だめなの?』
沈黙を破ってキールは、ギルドマスターにお願いした。
「モンスターごときがどう言おうとも、変わらん。大体、従魔だろう、お前は。主人は誰だ?つなぎもせず、このギルドに入れるなど、常識もないのか?それに先程からあなた方は無礼に過ぎるぞ。いい加減にしていただきたい!」
首だけをこちらに向け、完全にキールを見下して吐き捨てる。その後の全員に向けての怒声にも蔑視が感じられた。とても冒険者ギルドの長の態度とは思えないその様子に、孝和は頭にきた。足元に居たキールを抱き上げ、隣に居たアリアに渡す。さっきからのこの男の言い方にいい加減、我慢も限界だった。握り締めた拳をさらに強く握る。
カウンターまでの護衛の波を掻き分け、前に出ようとした。
「駄目だ。タカカズ、我慢しろ。頼む」
すっと目の前にククチが現れる。あまりに真剣なその様子に一瞬戸惑うが、この妨害を咎める。
「何でです?これはさすがに駄目ですよ。俺、これは我慢できないです……」
キールを怪訝な目で見るものは今までも居たが、ここまで直接的に侮辱を感じたのは初めてだった。周りの護衛たちも先ほどのギルドマスターの応対に憤慨している。孝和が行かなければ、他の誰かが行っただろう。短期間とはいえ、命のやり取りを共にした仲間がコケにされたのだ。これに黙っていることが出来るほど、腹芸が出来るなら冒険者などやっていない。
「いいから!頼む。他の皆もだ。とりあえず外にでよう。ここはエーイの奴に任せてくれ」
いつものヘラヘラした様子ではなく。まっすぐに孝和の目を見つめてくる。その後に全員を見渡し、外に出るよう頼んできた。孝和は握り締めた右拳をぎゅっと左手で包み込んだ。自分の歯軋りしている音が聞こえる。
しかし、ククチの真剣な眼差しはまるで揺るがない。数瞬、見詰め合い、結果孝和が折れた。きびすを返し、ギルドの出入り口に向かい歩き出す。途中、アリアからキールを受け取り、ぎゅっと抱きしめてやる。
『ますたー?』
「おう。大丈夫だ。ごめんな。少しカチンと来たんで、取り乱した」
『ありがと……』
「……おう。言い返せなかった。悪い」
『でも、ありがと……』
「おう」
全員がその様子を見て、頭に昇りきった血が急激に下がってしまった。この憤りをぶつける先は、ギルドマスターであってもククチではない。けなされた孝和とキールが、すでに「わっはっは」『んふっふふぅ』とじゃれ合っているというのも、それを後押しした。
結局、その場の全員が護衛の正規報酬のみを受け取って、ギルドを後にした。後日、何らかの形でエーイ達から、今回の賞金の全額は無理でも、ある程度補填はするとの誓約書をもらい、解散となった。なんとも後味の悪い結末であったが、エーイの生真面目さはキャラバン内でも分かっていたし「律儀な人だな」ということで彼への不満はそんなにはなかったのだった。
それで、不機嫌なアリアたちの冒頭に繋がる。解散の後に、とりあえず食事にしようということになり、ククチにどこか良い所がないか聞いた。キールと一緒に入れるところで絞り込むと、この大衆食堂に辿り着いたのだ。味はなかなかに良く、ボリュームも十分、価格面でも及第点だ。まさにベストチョイス。ありがとうございます、ククチさん。
昼時の空腹が原因のひとつだったのだろう。ヤケ食いで、気分でも落ち着かせようとアリアと孝和は、メニューの中で興味を引いた物を次々頼んだ。懐も不満ではあるがある程度温まった。出発前に護衛が終わったら、ささやかに食事会でもしようと約束していたのだ。それがヤケ食いに変わるとは思っていなかったが……。
「じゃあ、とりあえずこれからどうする?食事も終わったんだし、アリアは会いたい人が居るんだろ?俺とキールの用事は明日にするつもりなんだけど」
「そうね、私は神官用の宿があるし、今日はこのまま荷物を預けて、会いに行こうかしら?従魔師の方に会うのも興味あるから、今日中にささっと挨拶しに行こうかな。明日また待ち合わせ、ということでどう?」
さすがに、アリアが口にしているのはアルコールではなく、水であった。皿の上に残る野菜をつまんでそう提案した。
「いいんじゃないか?そしたら明日、ここのボードセンター前で待ち合わせにしよう。帰りのキャラバンの依頼も受けないといけないし。時間は……」
「12時でどう?ここ、マドックみたいに定期的に鐘は鳴らないのよ。日の出と日の入り、後は正午の合計3回だけだから、待ち合わせの時間はわかりやすい方がいいでしょう?」
ほへーと、孝和とキールは感心した。その様子が照れくさかったのだろう。アリアは顔を背けた。ちなみに顔は真っ赤だった。
「だから!又聞きなの!そういう目でこっちを見ないの!!」
ぷいっと外を眺めて、全くこっちを見てくれない。銀髪の毛先をクシクシこすり合わせて何とか落ち着きを取り戻そうと必死なのが分かる。
「あははは。ごめん、ごめん。いや、又聞きでもいいんじゃない?とりあえず俺はそんなこと全然知らなかったし」
『ぼくもー!からんからんって、おと、ならないんだー』
フォローのつもりだったのだが、少し楽しげな様子が伝わったのか、こちらを向いたアリアの様子は複雑に見えた。あからさまなフォローだったので、多少機嫌はよくなったが、少しだけ呆れも含まれているようだ。
「まあ、いいわ。じゃあ、ここで解散ということで。また明日会いましょう」
アリアは自分の荷物を持って立ち上がる。会計もあるので、孝和も立ち上がった。
「じゃあ、また明日ということで」
『じゃ~ね~。また、あした~』
孝和とキールの2人は食堂の外でアリアにさよならを言った。これから孝和たちは市場方面がある西側の平民居住区画に、アリアは役所関係のある北側の高級住宅区画に向かうことにしている。ちなみに大まかに言うと南側はスラム街、北は軍の管理区画だ。
「ええ、また明日。…………あ、忘れてた」
さよならをして、少し歩き出して思い出したようにそう言うと、キールに駆け寄りぎゅっと力いっぱい抱きしめた。
『むぐう。くるしいよぉ。アリアさん』
そうは言うが、キールもまんざらではないようだ。
アリアはぱっとキールを腕から離し、孝和に渡す。最後に名残惜しそうに、軽く指先でこするようにその感触を堪能した。
「んふふふ。ごめんね、キール。じゃあ2人ともまた明日ね!!」
そうして、大きく手を振りながら、アリアは雑踏の中に消えていった。
その後、孝和はキールと市場での買い物を楽しんだ。当初の目的であるダシ用の昆布の捜索や、鮮魚の調達、何か珍しい小物を探したりとなかなかに充実した時間を過ごしたのだった。マドックでは見当たらなかったはずの、干物や乾き物があったのには驚くと同時に、歓喜が全身に広がった。長期間の航海専用の品のため、一部の商店でしか作らず、他の街にはあまり流通しないそうだが、「有る」と判っただけでも嬉しかった。
ただし、何故ここに醤油を持ってこなかったのか、と悔しい思いをしたのも確かであった。宿で散々悩んだ挙句、干物をマドックまで持ち帰ることを決めた。絶対にチリチリ音がするくらいに焼いて、醤油を少しかけてチビチビつついて食べてやるのだ。ちなみに、箸はナイフでこの護衛の間に手ごろな木を削って作った。いろいろと小物関係を作るので、手先の器用さが上がっていたのだった。
そんな孝和は戻ったら、干物をあぶる網を探そうと、金物屋を頭の中でピックアップするのだった。マドック内ならば、ほぼ地図がなくてもどこでも行けるくらいに散策を済ませていたりもする。この事も、アリアの癇に障る原因だったりもするのだが、いまだ孝和はそのことに気づいていなかったりする。
孝和とキールは、その晩の宿での食事も楽しんだ。港町ということもあり、新鮮な魚介類のサラダや、漁師鍋のようなものが絶品だった。食事後は十分体を休めるために早目に床につき、夜は更けていった。
孝和たちが床に付いた頃、神か悪魔のどちらかが運命のサイコロを振った。この時に出た目は、誰にもわからない。しかし翌日、孝和はこの振られた目を、ひどく苦々しく思うことになるのだった。
本年もよろしくお願いします。年末の投稿から、なぜか今までに無いくらい急に、登録者の方が増えていますので、ちょっとビビっていますが、本当にありがとうございます。今後とも暖かく見守ってください。