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価値を知るもの  作者: 勇寛
それこそが日常
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第17話 野営地での出来事

少しいつもより短くできていますが、きりのいいところまでとしました。

誤字脱字ご容赦ください。


 キャラバンはA・B・Cの3に分けられている。毎日のローテーションで順番に先頭に立つものが変わる。このため、もっとも経験の少ない孝和たちのチームはBに割り当てられた。5日間のローテーションであれば、このBが最も殿を務める回数が少なくなるからだ。殿が襲撃を受けたときに最も被害が大きくなる可能性がある。それもあって、Bには孝和たちのほかに、エーイのチームが参加して護衛を勤めることでバランスを取った。さらにはキャラバンの中でも経験の豊かな商人がそれをサポートした。これらを見ても、キャラバンの責任者はかなりの熟練者であることが伺えた。

 最も先頭のチームが、野営地についてからの宿泊施設の設営を行い、最後尾チームがその日の不寝番を担当した。その為、真ん中に位置するチームと設営が終わったチームが十分な休息を取ることが出来る。翌日には最後尾のチームが真ん中になるので、翌日・翌々日は十分に休めるような体制を取っている。



 孝和のBチームは、そんな完璧な布陣の中で最も恵まれている場所なわけで、偶然遭遇したモンスターの群れと威嚇程度の戦闘があった以外、初日は順調に工程は進んだ。野営についても孝和たちは真ん中のチームだったため、余裕を持って初日の夜を迎えることが出来た。


 そんな中、アリアは困っていた。自分の周囲に人の群れが集まってきてしまい、その対応に追われていたからであった。

「うわさは聞いていますよ。騎士ナイトクラスの霊体を単身仕留めたルーキーは、マドックで今、最も話題に上がっていますからね」

 そういうのは、確かCランクの槍使いの冒険者であった。彼だけではない。先日の試験クエストの顛末は、ギルドが大々的に動いた結果、瞬く間にマドック中に広まった。そのせいで今回、この護衛に参加している者や、商人たちの一部はアリア個人をスカウトしようとこのチャンスに殺到したのだ。

「いえ、私はそこまでの者では……」

 そういって場を鎮めようとしたが、それが謙遜に聞こえた周りはさらにヒートアップする。

「あんたそんなに謙遜するなよ。相手はレイスとかファントムナイトとかのレベルだったんだろ?どうやって倒せたんだ?ぜひ、俺たちにその極意を教えてくれねえかな」

「いやいや。こいつん所の奴らはそんな技術なんざ持ってねえ。筋肉しか特技がないんだぜ。俺たちならあんたのその実力を十分に生かせる!魔術師だけじゃなくて、ハーフエルフの精霊戦士もいるんだ。どうだ?しばらくの間だけでも俺たちと!?」

「私たちは皆、女だけでチームを組んでるのよ。あなたも男だけしかいないチームは遠慮したいでしょ?ぜひウチに加入してみない?」

「はははは。皆さん、彼女の求めているものが全く分かっていませんね。どうです?私どもの商店の専属となっていただければ、あなたの信仰への寄付を十分行いますよ?多くの信者の獲得という点でも、私どもの商店の流通ルートが存分に利用できることでしょう。後はあなたの踏み出す勇気だけです」

 やいのやいの、そんな提案がなされる中、この場をどのように切り抜けようかアリアは困っていた。この状況になった途端、孝和はこっそりとこの場を抜け出していたため、助け舟を出す人間も、逃げ出す理由も無くなってしまった。しかも、自分はあの洞窟では全く相手にされず、仕留めたのは孝和のうえ、最後の時には意識を失っていしまっていた。詳細に付いてもあまり詳しくは語れない。孝和の強さをこの場で言ってしまえば、今度は孝和の争奪戦になるだろう。それだけは避けなければならない。 

 就寝の時間までの間、アリアはこのスカウトの中で苦笑いを浮かべるしかなかったのである。




 孝和はランタンを吊るした馬車の下で黙々とページをめくっている。ここは少しアリアたちから離れた孝和たちに与えられたスペースである。アリアが捕まったのを見て、それから逃げ出してきたのだった。アリアがこちらを遠くから睨んでいる気がするが、きっと気のせいだ。キールは今朝の早起きが効いたのか、食事が終わるとすぐにテントに引っ込んでぐっすり寝入ってしまった。それよりも……

「あの。そこの人、何か用ですか?そっちの人もですけど……」

 一見誰もいないように見えたテントの向こう側に声を掛ける。さらに少し離れた草地にもう1人いるようだ。

 

ガサッ、ガサリ。

 

 草地に伏せて、こちらに近づいていた人物が立ち上がり、こちらに歩いてくる。テントの向こうも気配がいきなり現れ、足音が聞こえた。

「いやあ。バレてないと思ったんだがね。流石と言っていいだろうな」

「……。すいませんね。この人がどうしてもって聞かないもんで」

 そういって2人の男が孝和の座っていた前に胡坐を掻いて座り込む。2人のうち1人は今回の護衛の責任者、エーイだった。もう一人は確かAチームに入っていた人だろう。エーイとも親しげに話していたのでよく覚えている。30後半のどこかとぼけた様子であるが、なかなかの実力者であることは足運びから容易に推察できたし、その身から発する雰囲気が普通の冒険者とは格が違う。へらへらしているように見えるその細目の奥に鋭い光を感じた。

「それで、俺に何か用ですか?」

 疑問は直接ぶつけてみた。まさかこんなところで「気に食わないから、顔貸せや」というわけでもないだろう。ただ、念のため本は畳む。その代わりに腰のナイフをすぐに抜けるように右手を軽く腰に当てる。あくまで念のため、だ。

「そう緊張するな。ほら、これでいいだろう?」

 孝和のその緊張を敏感に感じ取ったのだろう。エーイは腰の剣を孝和に鞘ごと手渡した。もう一人の細目の男は元々何も持ってこなかったようだった。手を孝和に向けてニギニギとしてみせる。

「一応、自己紹介しておこう。俺はエーイ。こっちの細目はククチだ。ポート・デイの領主エリステリア・クラ-ディカの傭兵団に所属している。キャラバンの護衛はマドックからの仕事帰りのついででな。まあ、小遣い稼ぎだよ」

「それで、責任者押し付けられたのに本気でやってんですよ。人がいいにもほどがありますよね。あなたもそう思いません?」

 エーイをククチがそう言って茶化す。軽くエーイがククチを小突いたところで、2人は同時に孝和を見つめる。それも、先ほどまで和やかに話していたとは思えない鋭さでだ。

「2人とも怖いですよ?何がしたいんですか?……な!」

 孝和は何かを感じた。はっきりは言えないが、とてもとても嫌な感覚だ。軽く腰を上げてすぐに遠距離での戦闘ができるように身構える。この間の気孔術を使ってからというもの、感覚が昔よりも鋭敏になったのを感じている。今回もそのことがなければ気づきはしなかっただろう。

 警戒のために周囲を見回し、いやな感覚が先ほどククチの居た所よりさらに遠くにあることを感じとる。ナイフをゆっくりと体の正面に構え、目の前の二人も視界に入るよう位置取った。

「やはり、君。強いね。しかもこれが解るのか……。驚きだな」

 驚いた表情でエーイが右手を上げる。そうすると、先ほどまでのいやな感じが、すっと消えたのを感じる。

「いやはや。面白いものを見せてもらいましたよ。あなたの提案に乗って正解でしたね」

 ククチもエーイも先ほどの剣呑な雰囲気はどこにもない。いったい何がしたいのか、孝和は二人の意図がわからなかった。



「では、タカカズ。君はこれを覚えているかね?」

 孝和がナイフをしまったのを確認してからそうエーイは切り出した。

 エーイが胸元から取り出したのは手紙だ。しかもそれは、

「スパードさんの紹介状?なんであなたが持ってるんです?」

 そう、確かにそれは孝和がギルドに出した紹介状に間違いない。紹介状の端のインクの染みが特徴的でよく覚えていた。

「スパードが昔、冒険者だったのは知ってるな」

 おずおずと頷くしかできなかった。確か足の怪我で引退したのだと聞いた気がする。

 と、いうことは……。

 何となくピンときた表情を読まれたのだろう。少し黙っていたエーイが言葉を続ける。

「なんとなく理解したようだな。あいつは俺たちと一緒にチームを組んでいた。傭兵団の結成前のことだ。君の今回の試験クエストに便宜を図るようにあいつから頼まれたんだ。ちょうどギルドの試験官を頼まれていてね。それで、まあ君の実力が知りたかったんだ。昼の襲撃で、ある程度出来るのは判ったが、君をずっと見ているわけにもいかないからね」

 にこやかにエーイが孝和に笑いかける。ククチのへらへらした様子は変わらなかったが、これはもうポーズの一種だろう。ククチは会話は全部エーイに任せるようで、観客としてその様子を眺めていた。

「それで、この悪戯なんですか……。そんなにすごいわけでもないですよ。ただ勘がいいだけです。あんまり期待しないでください」

 そういってごまかす。これで何とかならないだろうか。

「スパードの奴の紹介状に、君があまり過去に触れて欲しくないようだと書いていたよ。わざわざ無理のある記憶障害を装うくらいだから、聞かないようにしておけと書かれているから、これ以上は聞かないことにする。だが、最後にひとつだけ聞いておきたい」

 やっぱバレてたのか。少なくともスパードとダンブレンは気づいているだろうな、とは思っていた。

「その生き方は楽しいか?力を隠し続けることは難しい。こうして私たちも気づいた。望むにしろ望まざるにしろ、その若さでその力だ。いつか誰かが君を求める」

 じっと孝和を見つめる。その言葉には若人への警告と羨望があった。エーイの予想ではおそらく目の前の若者は戦えばほぼ同じくらい、もしくはほんの少し自分のほうが経験で有利な点もあるのではないか。

 実際、真龍の力を出さなければ孝和のレベル帯はこのあたりである。ただし、本気で戦ると覚悟を決めていない状態で、ではあるが。

 それでも、人として強者といえるクラスのエーイに20代で比肩する孝和には、いずれ多くの勧誘が来るだろうことは、想像に難くない。

「まあ、かなり難しいかもしれませんが、出来るだけ穏やかに生きたいですよ。今でも十分充実はしてますし。こっそり生きていけるならそのほうがいいんじゃないですかね?」

 そういって笑う。それにつられて目の前の2人は笑顔になった。

「そうか。いろいろあるだろうが、君の人生だ。楽しんで後悔の無い様に生きればいい。何かあれば、傭兵団の宿舎に来たまえ。何かの助けにはなるだろう」

 

 その後は、共通の話題で過ごした。今のスパードとダンブレンの様子、ルミイ村での壮絶なしごきに、防具の調整。ほぼ孝和の話だけではあったが、話は尽きず、酒と簡単なつまみをククチが持ってきたことで程よく盛り上がり、その日の夜は更けていった。




 そうして2日目は全くモンスターの襲撃も何も無くキャラバンは進んだ。順調な旅であったので、夜の間のアリアに対するスカウトはどんどんエスカレートする一方だった。

しかし、その一方で孝和の存在は見事にスルーされ、ものすごく読書が進んだ。その本『毛皮を上手に作るには』を読んでいる時に、ちょうどいいタイミングで元狩人の冒険者と親しくなることが出来た。彼による実演を交えた毛皮製作法はかなり為になったので、孝和自身としてはなかなか充実した夜を過ごすことが出来たのだった。

 ちなみにキールは夜になると眠くなるので、すぐに寝てしまった。なんとなく孝和としては寂しいものを感じてしまった。目的地に着いて自由時間はキールと遊ぼうと決めた孝和であった。


 問題は5日目、最終日のポート・デイに向かう最後の最後で起きたのだった。

 開始当初の目的でもあった、「お気に入り登録150件」が1部の終了時に超えることができました。皆様ありがとうございます。

 これからも鋭意努力しますので、最後まで見捨てないでいただけると幸いです。

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