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価値を知るもの  作者: 勇寛
異世界
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第15話 そして物語は走り出す

誤字脱字ご容赦ください。

 ボードセンターの中で、アリアは孝和たちが来るのをずっと待っていた。冒険者ギルドの受付では、冒険者同士のイザコザを避けるため、連絡先を教えることは厳禁だったのである。しばらく食い下がった結果、3日後に二人のプレイスカードが完成することを、こっそり教えてもらうことに成功した。アリアは自分の神殿で作った黒のプレイスカードの更新だけのため、2日で冒険者の登録が終了していたので、3日目の今日は朝からずっとこの場所で待ち伏せしていたのだ。

「とりあえず、場所を変えません?私、話したいことがあるの。ちょっと長くなりそうだし、ここじゃちょっとね……」

 孝和が周りを見ると、男性陣が輪になるようにして周囲を取り囲み、聞き耳を立てていた。孝和とキールは知らないことだったのだが、朝からこの時間までボード前に佇んでいたアリアには多くのお誘いがあったのだ。「一緒に冒険しないか」といった仕事のお誘いから、「そこらの店でお茶でも」というナンパまで、考えうる幾通りもの提案を受けていた。その全てに男性として当然の下心があったのは言うまでも無い。ことごとくそれらの誘いを「待っている人がいますので」の一言で撃墜した来たため、「どんな奴がこの美人を……」という野次馬根性でこの場の全員がアリアと共に待っていた。

(またこのパターンか……。キールで女、アリアさんで男の嫉妬を受けるって……。俺、冒険者の友達とかできるのかなぁ)

 孝和にまったく責任は無い。だが冒険にも出ていないというのに、この嫉妬の嵐はたまらない。できるなら逃げ出したいのだ。提案には全力で賛成だ。

「じゃあ、外に行きましょう。アリアさん、どこか店知ってますか?」

 疲れた様子も見せず、笑顔になりアリアは答えた。

「ええ!少し距離はありますが、いい店があるんです。そこへ行きましょう」

 年頃の女性ににこやかに笑いかけられ、その様子を見た孝和は目を伏せ真っ赤になったのだった。真っ赤になり反応が無くなった孝和を、キールは不思議そうに見つめることになったのである。




 さて、時間は少しさかのぼる。具体的には、孝和たちが洞窟より帰還した翌日である。


「……ここは?私、どうしたの?」

 目覚めるとアリアは周囲の状況を確認して、そう言った。目の前には神殿の職員がいるようだ。服装でそう判断した。確かマドックの神殿の職員のはずだ。

「よかった。目を覚まされましたね。外傷自体は全く無いようでしたので。これは祝福を受けたものです。ゆっくりと口に含んでください」

 その職員は女性で、穏やかにアリアに語りかけ水差しとコップを差し出した。コップを受け取り、聖水を口に含み一気に飲み込んだ。どうやら体が水分を欲したらしい。もう一杯、水を飲み干して目の前の職員に先ほどと同じことを尋ねた。

「申し訳ありません。ここはマドックで宜しい?何故、私はこの場所に?」

「順番にお答えしましょう。ですが、まだ横になってくださいね」

 そういって職員はアリアの肩を掴み、そっとベッドに横になるように勧めた。ここは逆らわないほうがいい。そう判断し、横になると質問の返答を求める。

「まずここは確かにマドックの救護所です。あなたは昨日、冒険者ギルドの職員によりここに運び込まれました。その方の説明では、冒険者の審査クエストで騎士ナイトクラスの霊体にやられたあなたを、同行者の2名が連れ帰ったそうです。単身で騎士ナイトクラスを討伐できるとは、流石は戦神ラウドの神官候補ですね。素晴らしいことです」

 そういうと、彼女はきらきらした目でアリアを見つめた。神殿は世界神を頂点とする宗教である。どの神であれ全て世界神の神殿に所属している。彼女の首飾りから、癒しの神ヒラスティアの信徒であることがわかるが、戦神ラウドの神官候補のアリアにもその尊敬は及ぶのだ。神殿はどんな神であれ受け入れる。それは闇の神の眷属であっても例外ではない。

 そこはいいのだが、間違えている。あのデュークを倒したのは自分ではない。両肩に手ひどいダメージがあったおかげで、何とか意識を手放さなくてすんだのだ。闇を纏うデュークと、白銀のオーラを纏う孝和の一騎打ち。その光景は幼少時に憧れた勇者の姿であった。最後の一撃がデュークの闇を打ち払った瞬間、アリアは気絶した。だが、あの光景が幻でないことは、ここに自分が生きていることが何よりの証拠だ。

「今回の試験に、初心者で対応できないモンスターが出た可能性があるということで、朝から調査にここの上級神官も借り出されたんです。他にもめぼしい町中の実力者がほぼ全員ですよ?どうやら大事になっているみたいですよ」

 しばらく事態がどのように推移しているか、目の前の彼女から黙って聞き取りを行った。どうやら、今回の件は、チームで解決したことになっているらしい。しかも、報告した孝和が勘違いしたのか、カルネの記載ミスなのか知らないが、ソウル・オブ・シャドウの北限の狂戦士デュークの名前は一切出て来ない。それに、貴族ロードクラスのソウル・オブ・シャドウではなく、騎士ナイトクラスの霊体モンスターに格下げされている。これはどういうことだろうか。




 その1日は話し好きのその職員から情報を収集することにした。神殿の側からも協力者を派遣したので、午後にはある程度のことがわかった。まず、洞窟内の3遺体については全く身元はわかっていない。身分証は無く、孝和がカルネに手渡した首飾りから1人が魔術師ギルドの所属ということしかわからなかった。それについても、死亡後にミイラ化してしまい生前の顔はまるでわからない。しかもデュークの攻撃で顔の一部が損傷していた。これではわからない。

一方、残りの2遺体の装備品は孝和の報酬として持っていかれた。これは各ギルドのルールのため仕方ない。残りの壊れた装備品も、個人のオーダーメイドのようで調査もほぼ不可能であった。この世界の調査力ではこの辺りが限界であった。

「まあ、あの状況で何かわかるとしても、だいぶ後でしょうね……」

 ベッドの上でそうつぶやくと、明日からの行動をどうしようか彼女は悩み始めた。




 そういった様々な情報の錯綜する神殿内での情報収集を終え、孝和とキールに会うことにした。救護所から問題無いことが確認され、2日目の朝にアリアは退所となった。実は恐れていた精神汚染もほぼゼロであることは、上級神官の診察によりわかった。神殿のプレイスカードの更新も終わったとのことで、ギルドに向かいカードを受け取りにいった。孝和の居所はそこで聞きだそうと目論んでいたのだが、それは不可能だったのである。

 本来であれば、なあなあで教えてくれることもあるのだが、今回は大事になっている。そのこともあって、今回の情報に関して緘口令がギルド内に敷かれてしまった。この時点でギルドの外で聞き込みを行えば、すぐに「招きスライム」の情報が手に入ったのだが、アリアはギルド受付での聞き込みにこだわってしまった。最終的に、根負けしたカルネが翌日に孝和の来訪を教え、アリアはボードセンターで待ち伏せすることとなったのだ。




「はあ……。大変だったんですね。でも、お元気でよかったです」

『そうだよ?けっきょくアリアさん、あのあとおきなかったし……』

 孝和はそういって、ズズズとオレンジジュースをすすった。キールは、はむはむとミントを用意してもらいそれを食べていた。

 いま二人の新米冒険者は、アリアから紹介された少し高級そうなカフェ(?)に入っていた。カフェなので、何か甘いものでもないかと思ったのだが、よく考えたら女性におごってもらうわけにもいかない。高級そうなのは簡単に判った。周りの客が全員高級な服装なのだ。何とか少しでも安上がりにしないとあとが厳しい。

「それで、今迄の流れは解ったと思います。その上で、ここからが本題です」

 ずいっ、と身を乗り出してアリアが真剣に語りかけてきた。

 孝和はその様子に少しビビッていた。デュークはなんか解らんが、すごいゴーストだった。それをアリアが倒したことになっているが、本来のすごさを理解している者がこの3人以外はいない。

 ……えと、俺にデュークはすごい奴だった、と報告して欲しいのだろうか?でも、デュークと一騎打ちする前に、キールの攻撃などの援護もあった。前回あの洞窟を使った人は2ヶ月前らしいのはカルネさんから聞いている。と、いうことはあの場所に甦ったのは約500年ぶり。本調子でなかったのも幸いしたのだろう。この真龍の不思議な力を人に知られるのも怖いし、あんまり騒いで欲しくないんだけどなぁ。

 そんなことを孝和は考えていた。ただ、騎士ナイトクラスの霊体モンスターであっても、単身での討伐が出来るのは各国のトップクラスの戦士である。それにデュークは本調子でなかったが、、貴族ロードに限りなく近い騎士ナイトクラスであった。普通、一騎打ちであったとして、援護があったとしても凡人が勝てる相手ではない。

 だからこそ、アリアはこのことをギルドに報告していない。神の神託により自身の目の前に現れた「英雄の器」である。なんとしても、戦神ラウドの神官として彼を導かねばならない。これは神の意思なのである。

 目の前でオレンジジュースをすすり、テーブルに視線を落としたままの孝和を熱を帯びた視線で見つめる。誠心誠意、彼を説得しなければ!

「タカカズさん。キール。私と一緒にチームを組みませんか?リーダーはタカカズさんで構いません。いかがです?」

 ほへぇ?という気の抜けた音が孝和から聞こえた。キールは相変わらす、ミントに夢中だ。

「あの?アリアさん?」

「アリアで構いません。あと、私も敬語は止めます。これから一緒にチーム組むんですから」

 そういってアリアはにっこりと笑いかけた。その笑顔が魅力的だったので、一瞬見とれてしまった。しかし、そのあと気を取り直してアリアに言った。

「待った!じゃあ、アリア。君は俺とキールと一緒に冒険がしたいと。そういう訳なの?」

 何か言わないとこのまま、なし崩し的にチームの結成になってしまう。

「ええ。冒険に神官職が居ると何かと便利よ?ギルドクラスも私はEからだから、普通より多くの依頼が受けられるし。いいこと尽くめじゃない」

 アリアはそう孝和を説得した。「説得」は新たな信者の獲得のため、身に着けた術だ。こんなことで使うことになるとは思わなかったけれど。

「わかった。その特典はすごい魅力的だ。ぜひとも君とチームを組みたい」

 孝和はまるで表情を変えず、ジュースをすすりながらそう言った。カランと空になったコップが中の氷とぶつかって音を立てる。

「そう!ありがとう!がんばろうね!」

 アリアはその孝和の言葉に喜びと共に感謝を述べた。

 逆に。孝和はなぜか冷めた目線でアリアを見ている。

「と、俺が言うとさ……。問題があるんだよね」

 カラカラとコップを回して、氷を融かす。少し解けた水を行儀悪く舌の上に数滴落とす。

「え?」

 孝和は説明を始める。

「いや、一緒に冒険するとなるとさ。いろいろまずいことがあるし。ちょっときついと思うんだよね」

「な、なにが?別に何も問題ないわよ!?」

 まさか、孝和が断るとは思わなかった。アリアは驚きと共に叫ぶように理由を尋ねる。

「だって、俺、男だよ?キールもいるけど、そこのとこ考えてる?」

「……あ」

 どうやら気づいてくれたようだ。一緒に冒険するとなると、数日間の野営になることもあるだろう。その状況で、女性が男性と一緒というのはマズイだろう。身だしなみとか、入浴とか。まあ、多分大丈夫だとは思うが、アリアに孝和が襲い掛かる可能性もある。孝和自身はそんな鬼畜ではないつもりだが、アリアはものすごいタイプなのだ。外見も、元気で自分を引っ張ってくれそうな性格も。万が一が絶対に無い、と言い切れないのは自信を持って言える。だから、アリアにはそこのところを考えて返答して欲しい。それは出会って数日の孝和を、信頼していいのかどうかということだ。

 あえて冷めた様子で言い放ったのはそういった訳だった。キールにはこそこそ念話ですでに静かにしておくよう言い聞かせてある。あとはアリアの判断だ。本心で言えばアリアとのチーム結成はこちらからお願いしたいくらいなのだが、仕方ない。

 きっと冷静になったアリアはこちらを気遣いながら、断ってくるだろう。残念だが、縁が無かったのだ。心の中で涙しながら孝和は返答を待ったのである。




「構わないわよ。そんなこと?」

 そう言ってきた彼女に孝和は驚いた。

「へ?いや、結構重大なことだと思うんですけど」

 平然と言い放った彼女は「何を言ってるんだ、この人は」という目線を孝和に見せた。アリアは4年前まで騎士となるため、男に混じって野営や、訓練を行ってきた。そういった点で普通の女性よりも耐性がある。さらに言えば、戦神ラウドの神殿は他の神殿よりも男性の比率が高い。孝和が心配しているより、アリアは男性と共同した旅に慣れていたのである。

 そのことをアリアから説明され、孝和側にはもう拒否する強い理由は無かった。アリアさえよければ、色々教えて欲しい旅のアドバイスを手に入れるチャンスなのだ。しかも、彼女はかなり強い。その実力のある上、美女は居てくれるだけで嬉しい。ならば、返答は一つしかない。


「では、改めまして。アリア、キール。今日から俺たちはチームだ。よろしく」

「こちらこそ。タカカズ、キール。がんばりましょうね」

『アリアさん、がんばろうね!ぼく、とってもうれしいなぁ』

 3人は新しく注文したドリンクで乾杯する。キールはサラダボウルであったが、こうして孝和とキール、アリアはチームとして冒険者を始める事となった。



 これから先、彼らの道行きはどのようになって行くのだろうか?

 この不思議な物語の幕はこうして上がる。


 そして物語はマドックから走り出したのであった。

ここまでを第1部とさせていただきます。次回は設定の一部を軽く紹介するつもりでしたが、製作者の復習もかねて少しがんばって書き出してみようと思います。

本編はその後となりますので、いま少しお待ちください。


ここまでお読みいただきました皆様。本当にありがとうございました。

第2部もがんばりますので、どうか暖かい目で末永く見ていてくださいますようお願いいたします。

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