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価値を知るもの  作者: 勇寛
真っ直ぐに、真っ直ぐ一直線に
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第101話 継ぎ火【TWIG】



「さて、明日は日の出から洞窟内捜索の予定としますので、皆飯食って早めに休むこと!夜更かしせずに、体を休めて明日に備えてください!!」


 ぱんぱんと手を叩いて注目を集めると、その場の全員に聞こえる様に大声を出す。

 少し離れた目隠しのある「解体現場」のゴブリン達も首だけを出してこくこくと頷いている。


『おとまりー。きゃんぷー。えへへへへー』


 若干キールが楽しそうである。

 街の中でも結構悠々自適な生活をしているのだが、森の中だとどうも体調がいいらしい。

 フィトンチッド的な混じり気のある空気が良いのかも知れないが。


「では、解散!食事は各々摂るように!!」


 全員から"はーい"という返事が聞こえ、腹を空かせたゴブリン達は自分の器とスプーンを持って、大鍋に準備されたスープに突進している。

 その光景に両親が健在であったころに行かされたサマーキャンプの光景がフラッシュバックする。なんと言おうか。今ここでカレーかトン汁の匂いがすればまんま"それ"である。

 それに照らし合わせると孝和の役割はあの時の大学生の監督官であろう。

 それにしても彼らには、夜になって腹が減るかもという考えはないのだろうか。


『なんかねー。よるにおやつの、むしやいてくうっ!っていってたよ?』

「そっか、そういや虫肉回収してたよな。……虫って美味いのかな?」

「くぅぅぅ……」


 耳をぺたんとさせたポポが小さく答える。

 それを聞いたキールが通訳してくれた。


『なまはー、おいしくない。ひをとーすと、すきなこはすき。でもポポはふつーのごはんがおいしいってー』

「火を通すと好みの奴がいるってのが怖いよな。一応食えるんだ」

「わうわう、ぐぅるるぅぅ!」

『ポポはたべないほーが、いいよだってー』


 渋い表情のポポが、手に持った棍棒をぶんぶんと振る。

 その足元にある焦げた虫甲がぽこぽこと叩かれて音を立てた。


「今の所、食べる気はないよ。しっかし火で炙られると、この甲皮ってほぼガラクタだもんな。ここまで熱に弱いもんかね。ヘビーワームってのは?」


 指でぽこぽこ打楽器が如く叩かれている虫甲をつついてみる。

 普通の部分については問題なく強く押し返してくるのだが、熱で若干焦げた箇所はぶよっとして気持ちの悪い弾力感を返してくる。


「ダメじゃないか?この虫甲そのまま使ったら。油壺投げて火で炙りゃあイチコロだぞ」

「怖いことをいいますなぁ。そういう考えがすぐに出るものですか」


 感心半分、呆れ半分でレッド・リザードの一人が近づいてくる。

 手にはスープの椀と黒パンをもっていた。


「お食事はまだですか?」

「いや、最後に鍋に残った分を空にしたいんで。後で食べますけど」


 孝和は目線で近くのエメス作の切株椅子を勧める。

 たき火の側に置かれた椅子の側ならば、夜の冷たさを和らげてくれる。

 軽い会釈と共にリザードさんは座り、パンを齧る。


「対応した相手の分析と対策がすぐに出るというのはなにかしらの経験からですかな?」

「いや、特に経験とかってものは無いんですけど」


 実際の所はゲームとかの知識だったりする。

 魔法が使えないなら油と火で敵を叩く、聖水で幽霊に攻撃し、骸骨にはレイピア不可ハンマー特効、等々。

 さまざまなゲームの特質が自然と思い出される。

 そこから思い付いたことを口に出しているだけなのだが。


「無駄知識ってやつですよ。使えるかどうかはその時にならないと判らんもんです」

「知識があれば選択肢が増える。その選択はより有効な方へと繋がるでしょう?」


 孝和は首を振る。

 足元のたき火に手でぱきんと折った小枝を放り込む。

 ぱちぱちと爆ぜる音が響く。


「むしろどれを選ぶ、って迷う方が怖いです。取りあえず、の第一選択があやふやだと怪我しますし。この場面では、これだってのがある奴の方が実際強かったりもするんだと思いますがね」

「タカカズ殿の第一選択はやはり剣ですか?先程の虫を切り捨てた技、素晴らしい鋭さでしたが」

「いやあ、お恥ずかしい限りで。……実際の所俺の第一選択は剣じゃないですよ。これってのは決めてまして」

「ほう、何でしょうか。無手、ですか?」


 またも首を振る孝和。

 照れたようにリザードへと話す。


「俺の第一選択は決まってます。トンズラですよ。マジな話で」





 ほぅほぅ、と多分フクロウとかに近しい種類の鳥でもいるのだろう、そんな鳴き声がたまに夜の森の中に木霊する。

 テントに潜り込んだ各々がぐうぐうと睡眠をとっていた。

 そんな簡易的な野営地の中で、ぱちぱちと爆ぜるたき火の近くで話し込んでいる者たちがいる。


「しかし、こういう冒険の仕方もあるのだなぁ」

「いえ、私が知る限りこんな形のクエストの処理方法は初めてですよ。極々まれなケースと思ってもらった方がいいと思いますが?」


 エメスとレッド・リザードの面々である。

 特に休息を必要としないエメスと少し話がしたいというリザードの者たちが夜間の不寝番に立候補したわけだ。

 とはいえ、正直な話、不寝番ならばエメス一人でも問題ないうえに、この規模の集団を襲おうと考える様な無謀なものは普通はいないのだが。


「主は、どうも自分以外が出来るならば、それでもいいと。生来の気質、と思う」

「タカカズ殿の今日の動きは、こちらから見た限り、各々の役割分担とその割振りに心を砕いていますからねぇ。自分が働かなくとも、との思いからでしょうが逆に大変ではないのかと思いましたが」


 ここにいるリザードで最も年かさの男が、少しだけ弱くなったたき火に手でぱきり、と枝を折ると投げ入れる。

 ぱちぱち、と音がして火種が少し強くなった。


「最終的に、何をめざすのか、と尋ねたことがある」

「ほぉ。興味深いですな」


 腕組みをしたまま、夜の闇を見つめるエメス。

 座っているため、自然と彼を見上げることになる。


「今日を生き切って、明日。明日を生き切って明後日。……それを続けるうちに何か見つかればいいな、と。今は特に何かをしたいとも、したくないとも考えていない、と」

「難儀ですなぁ。ただ、ご本人もうすうす気付いているのでしょうが……」

「うむ」


 見上げていた顔をたき火に戻すとレッド・リザードは続ける。


「もう、放っておかれるだけの人生は歩めますまい。良きにせよ悪きにせよ、ヤギ・タカカズを求める誰かが、動くでしょう。きっと今はその嵐の前。最後の休息となりましょう」

「それならば、我は主の前の盾となる。求められるならば矛ともなろう。だが、きっと主が求めるはそういう事ではないのだろうが」

「求め、欲し、手に入れる。それが当事者にとって栄光か、瑣事か。人生はままならぬものですなぁ」


 再びたき火へ枝を入れる。

 エメスもレッド・リザードの面々もその枝が燃え尽きるまで、誰一人として一言も発しようとはしなかった。


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