第100話 合流 【JOIN】
ちょっと短いです。
誤字・脱字ご容赦下さい。
…ドッ……
通路を進む孝和たちの耳に少し先から聞こえてくる音が届いた。
何かしらが動き回っているような音である。
「…エメス達かな?」
『うん、たぶんそーだとおもう!』
「そっか、まあそれ以外だとおかしいもんな」
小脇に抱えたキールを地面におろし、全員に静かに進むように指示をする。
「キール、灯りをぎりぎりまで落としてくれ、ぎりっぎり地面が見えるくらいまでにな」
『はい!』
ぼぅと薄く光る程度まで光度が落ちる。
少しうす雲の掛かった月夜位で、辛うじて地面が見える程度だ。
「こっそり近づいて、エメス達が苦戦しているようなら援護する。そうでもないなら戦闘終わりに合流ってことで」
全員が頷いた、ような気配がした。
恐らくわかってくれただろう。
「積極的に援護をするべきではないのですか?」
マオが孝和に近づき周りに聞こえない程、小さな声で尋ねる。
「いや、むしろあいつが全力で戦るっていうなら、近くにいない方がいい。巻き込まれて大けがするなんて馬鹿みたいじゃん」
「巻き込まれる……。確かに」
チェーン付きのドア・シールドが風を切りながらぶんぶんと回転している様を思う。
あの円の中に入ったら、間違いなくミンチになる。
「危ないし、出来ることならお任せで行きたいんです」
「了解しました」
実物を見ている分、話が速くて結構である。
ぱぁあああん!!
エメスの振り回した金色の錨が、ヘビーワームを直撃した。
触れたところから、身も内臓も体液も全部まとめて吹き飛んでいく。
飛び散った“元”ヘビーワームは洞窟の壁にべっとりと張り付いて、ゆっくりと地面へと流れ落ちていく。
びくんびくんと痙攣している、下半分だけの“残りの”ヘビーワームはゆっくりと動きを止めていった。
「全員!問題ないか!?」
「ギャギャ、アイツ、スコシカマレタ!」
エメスに駆け寄ってきたゴブリンが指差した先に、腕を押さえたゴブリンが半泣きになっている。
その前にこてんぱんになってぼろぼろになったり、頭をポポに潰されたりしているヘビーワームが合計3匹。
「ふむ、では。治療を」
ドアシールドを地面へと突き立てる。
固い岩盤ではなく、土の地面であるが、特に柔いという訳でもない。
それでも、全長の3割をめり込ませて直立させ、エメスがずしずしとゴブリンに向かって歩く。
「ギャ……」
鼻を出した半泣きのゴブリンの咬まれた側の腕を見る。
心配そうに全員が半泣きゴブを見る。
いや、シメジだけは少し離れた場所でぼーっと通路の先を眺めていた。
「再生」
ぼぅと淡く光が輝くと、見る見るうちに傷が塞がっていく。
半泣きゴブが立ち上がり、咬まれた腕を軽く振り、調子を確かめる。
「ギャァ!」
ぺこぺことエメスに頭を下げる元半泣きゴブ。
エメスも頷く。
「うむ。ここでも問題なし。しかし……」
すこし考え込むエメスを周りのゴブリンとポポが不思議そうに眺める。
「お前たち、防御に難があるな。装備の充実が、必要かもしれん」
半そで短パンのゴブリン達は、非常に防御面での不安がある。
盾を持ったりはしていても、生身側が非常に貧相なのだ。
盗賊から剥ぎ取った装備は鎧などもあるが、サイズが合わないものも多く、ゴブリンの装備へと流用するには至っていない。
「何かしら、用立てねば」
「オレ、デカイタテホシイ!」
「エメスノ、アニキミタイナ、デカイノホシイ!!」
騒ぐゴブリン達。
「うーん、やっぱ装備品、どうにかしないといけないんだよな」
聞こえてきた声の方向へ振り向く。
軽く手を挙げて近づいてきた孝和をみつけると、ててっとポポが駆け寄る。
「わうわうわう、ぐるるる……」
『こっちのちーむ、いーかんじだって!』
「そか、大きなけがとかも、特にないよな?」
尋ねる孝和に、別働隊のチーム全員が頷く。
「オヤブン、オレタチデカイタテ、ホシイ!」
「デッカイノ、ホシイ!!」
ゴブリンが希望を述べてくる。
(……どうするか。全員分を準備するとなると、色々と物も金も足りない。無い袖は振れないんだよなぁ)
悩ましい問題。
まるでどこかのシミュレーションゲームでもやっているかのようである。
金と個人の資質と、その練度と。
「……素材とか、いろいろ要るからさ。ちょっと時間がかかるけど?」
「ゲギャ、ワカッテル!」
「イッパイ、トーゾクオソウ!カネ、カセグ!!」
分かっていない。
何か根本的なところで、大きく認識が間違っている。
「いや、そうではな……」
「では、連携を強固に。隙を、少なくするように。何事も修練だ」
「ギャギャ!ワカッタ、アニキ!!」
ゴブリン達はエメスの薫陶を受けて、とことことヘビーワームの遺骸に群がっていく。
孝和側のゴブ達も合流し、せっせと剥ぎ取りを始めている。
恐らく、あれも帰りの荷物となるだろう。
「……んん。まあ、いいか」
「よくは無いと思うわよ」
アリアの声が後ろから聞こえたが、抗弁するだけの気力が湧いてこないのだった。