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価値を知るもの  作者: 勇寛
真っ直ぐに、真っ直ぐ一直線に
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第99話 気になる噂話 【DETECTION】

誤字・脱字ご容赦下さい。


 自分を中心にぐるぐると踊られると、どうも原始呪術の儀式の生贄っぽく見えるのでいつまでも踊り続けるキールやらゴブリンやらを引きはがす。

 ぶーたれる彼らから離れ周りを見渡した。

 入口から奥に続く通路まではそこそこ開けた空間になっており、魔物やらが入り込んで繁殖するだけのスペースが出来たのだろう。

 そして、スケルトンがいたということは誰かしら人間が犠牲になっていたのと同義である。


「ちょっと教えてほしいんだが、スケルトンって大体どれくらいで発生するもの?肉が骨から腐って落ちるまでは出来ないだろうと思ってたんだけど?」

「一概には言えないけど、時間はあまり関係ないかな。澱みが酷い場所では結構すぐに出来るものよ。長年放置されたお墓跡とか、古戦場跡とか。スケルトン系統とゾンビ系統の違いって要は、死霊が肉に宿るか骨に宿るかの違いだけだし」

「そんな違いなの?ゾンビが腐り切ったらスケルトンってわけじゃ?」


 孝和が投げた疑問にアリアが詳しい解説を返す。


「肉に死霊が纏わりつくとその死肉がある程度保護されちゃうのよ。暑い時期だと腐敗が進んでいくんだけど、穏やかな時期ではほとんど腐敗していかないかな。普通のお肉とかだとそういう事は無いでしょう?宿主が無くならない様に死霊が動いてるってのが最近の研究だと主流だわ。完全に肉が腐れば媒介を求めて骨に死霊がシフトしてスケルトンになるって話ね。最初っから骨に死霊が憑依すると、腐敗が無い状態でも一気に肉が削げ落ちてスケルトンで魔物化するようね。」

「そういう研究もしてるんだ、やっぱそういうの」

「人の生きる世界に遍く安寧を、って言うのもあるし効率的にアンデッド殲滅をこなしていくにはどうするべきか。本音と建て前ってことでしょうね」

「恐れるな、知こそ先の剣とならん?」

「そういう事」


 磔のスケルトンを地面におろし、身にまとうボロ布で一応簡単に包むと、壁際に避けて安置する。

 同様にヘビーワームの死骸も併せて近くに置いてスペースを空ける。

 焦げた個体に関してはそのまま放置だ。

 素材として傷ついているのをわざわざ使う必要は少ないし、帰り道で回収する予定だが持ち運びする量は極力減らしたい。


(南無……。あとでアリアに祈祷してもらってから外に簡単な墓でも作るんで、もうちょっとここにいてください)


 スケルトンとはいえ元は人だったわけで、一応合掌。

 今回は前回の洞窟探索と違い人員もいる。

 見ず知らずではあるが人の死を悼む程度の余裕は有ってもいいだろうと思う。


「多分、アンデッド氾濫の時にここに逃げたんだろうなぁ。んで、アンデッドからは逃げれたんだけど魔物にやられたってとこかな」


 恐らく彼(骨盤から察するに男っぽいらしい)の持ち物だろう申し訳程度の日用品と、金銭が入った財布、靴の成れの果てなどがヘビーワームの番のいたところから見つかった。

 古いものでもなく、少し汚れてはいたが元が何だったかを確認することも出来た。

 マドックにとどまらず、逃げて迷ってこの洞窟に、といったところだろう。


「運が悪かった、といえばそれまでだけど」

「本人は納得しないさ。んで、恨み辛み積もって最後はアンデッドになった、ってとこかな」


 立ち上がると回収した彼の財布をみる。

 小銭くらいしか入っていない所からすると、あまり裕福でもないだろう。


「誰なのかもわからないしな。取りあえず、墓代としてもらっておくさ」

「別に死体の持ち物だし街の外ならもらっておいても構わないのに……。律儀よねそういうところ」

「ははは。まぁね」


 埋葬代にもならないだろうが、"言い訳"が欲しいのだ。

 已むに已まれぬわけでもないのならば、こういうのはちょっとばかり重い。


「で、それはそれとして。先進むとしますか」

「エメス達の方が速いかしらね?」

「どうだろ?あいつらの方がごり押しの踏破力ってとこでいえば高いけど」


 如何せんどうにもこうにも洞窟の中は入り組んでいる。

 敵に出会うかどうかはその時の運次第というとこもあるのではないか。


「ま、無理するなって言ってあるし、そこはきっと守ってくれるだろ。なんせ真面目だからな」






「……なんで?俺、何かしたか?」


 ひそひそ声で隣を歩くアリアに尋ねる。


「特に……。私は解らないけど?」


 こちらも声を潜める。

 最前列を小脇に抱えたキールの明かりで照らしながら少し先行している孝和から少し離れた位置取りでレッド・リザードたちが付いてきている。

 その彼らがどうも内緒話をしているようなのだ。

 しかも視線の先にいるのは孝和だったりする。

 ゴブリン達も孝和やアリアのすぐ後を付いてきているが、身長の低い彼らではなく視線の先にいるのはどう見ても孝和なのである。

 となると内緒話の内容もどうやら孝和の事であろう。


「何話してるんだろ?」

『ぼく、きいてこよーか?』

「……ぅぅん。いや、いいよ。ありがとな」

『うんっ!』


 どうすべきか。

 キールにちょっと頼む、というのも手ではあったがあまり気乗りしないので断る。


「別に悪いことでもなさそうだし。放っておこうかな」


 孝和の視線に気づいたマオが、笑う。

 いまいちトカゲ顔の笑みというのが分かりにくいが、恐らく全員が笑っているのだと思う表情をしている。


「うん、悪感情じゃないみたいだ。後で考えよう」


 これを世間では結論の先延ばしというのだが。




「流石の荒武者。良き戦人ですね」

「全く良いものを見た。マオの言に偽りなどとは思っていなかったが、多少の誇張はあると……。あの一打。果たしてどれ程の」


 レッド・リザードの内緒話はこんな感じの話だった。

 先程の戦闘の位置関係を思い出してもらえばいいのだが、先行した孝和たちのすぐ後をリザードチームが追いかけていた。

 そして、スケルトンが自分達の相手だと判断した瞬間、全員で目配せをしたわけだ。

 この程度のスケルトンなら一人でも十分じゃないか、と。

 実際木の枝程度の武装のスケルトン1体とであれば、余裕どころか自分たちの村の子供でも倒すことが出来るだろう。

 人と違い、フィジカルが高い彼らにとってはこの配置は過剰戦力である。

 そう判断し、目配せで孝和たちに1人合流させることにした。

 万一を考え、1:2をキープしつつ他を補強する。

 戦術として、数的有利を得ることのできる判断だった。

 ゴブリンに合流する案もあったが、1:3のゴブリンと2:3の孝和であれば後者へと加勢するべきと考えが到る。

 マオともう一名がスケルトンに槍を振りかぶる。

 その瞬間だった。

 援護役のリザードがスケルトンの前を駆け抜けようとしたその時に、孝和がヘビーワームと接敵、即断。

 歩みが少し遅くなったところで後ろから何かが砕ける音が2音。

 スケルトンの骨を砕く槍が壁へと突き立ったところで、残り2人も孝和たちを見る。

 そして、そのタイミングで丁度孝和の鉄山靠・改がヘビーワームを高々と吹き飛ばしていく様が全員の目に映ったのであった。


「しかも見たか、虫の骸に走るあの切り口。一直線に剣線が走っていた。あの肉と甲殻に阻まれることなく綺麗な真っ直ぐな線だぞ。剣の鋭さもあろうが、主たるは技。我らが槍でああも鋭く敵を断てるか?」

「確かに。初手の突きが深々と貫く様は美しさを感じたぞ。それにマオの話では、タカカズ殿は槍も嗜むと」

「ええ、確かに彼と最初にお会いした際には槍を使われていましたので。ただ話によればどちらかというと長柄に関しては棍が最も得意と」


 むぅと唸るレッド・リザードの若衆。


「槍はどうも造りが生国と若干違うらしく、違和感を覚えてどうにも馴染まないそうです。それならば重心の均一な棍の方が使いやすい、と。剣も出来るなら片刃が好みのようで。ただ無ければ無いでどうにかするとは言っていましたよ」

「強くこれ、というこだわりは無いということだな。バランスよく全てが高くまとまっている。どういう類の修練で身につくものか……」


 じっと見つめた先の孝和がびくっと身じろぎする。

 こちらを振り返り、首をかしげる彼に微笑み返す。


「体術、無手での技巧も素晴らしい。あの気功術も然る物だが、それ以上によく練られた技術体系。スクネ殿やエメス殿への指導を一度見た事もあるが、理に適い分かり易い。恐らく何らかの流派を修めているのだとは思うが……。両者への教えが時にまるで違うのだ。まるで全く違う流派の修練を見ているようでな。引き出しが多いと言えばいいのか」


 実際その通りだったりする。

 エメスに空手系の突きの構えの時に、スクネにボクシング系のストレートのフォームを教えたりしている。

 その後に同じく両方に教えてみて、好きな方使えばいいんじゃない?という感じで投げかけてみる。

 どっちを選ぶかは個人の自由に任せるという放任スタイルに近い伝授方だ。

 しばらく見て変なところがあれば指摘はするが、鍛練自体は各々のペースに任せる。

 怠惰であれば一気に腐る教育方針であるが、本人たちに意気込みがあれば黙々と課題をこなしていくだろう。

 それにある競技の選手がその競技で芽がでなくても、ほかの競技へ転向したら大成功という事例は結構あるものだ。

 選択肢は多い方がいいというのは孝和の持論だが、師匠連中の無茶を通り越した鍛練(洗脳)からの教えでもある。

 ただ、逆に器用貧乏になる可能性もかなりあるわけだが。


「興味深い……。チャカ・ワンも砦の留守役などせず、こちらに来れば良かったのだ。責任ある立場を他に任せるわけにはいかんと言い張って……。全くあの生真面目さ、父譲りだな」

「ウチの父は逆にそうでもないのですが。まあ弟の気楽さと言う事でしょうか」


 従兄弟の関係に当たるチャカ・ワンとその父である族長を思い、自分の父を考える。

 自分を含め、家族はなかなかに自由な気風が激しいのだ。

 一方の族長一かは責任を果たそうとするリーダーシップと将来への焦燥が人を育てるのだろうか。

 どうも一族の中でもがんじがらめになってしまっているのを感じざるを得ない。

 ふうと全員がため息をついてレッド・リザードの一団は将来の族長候補に思いをはせるのだった。



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