第98話 即断即討でいこう! 【DANCE DANCE DANCE!】
誤字・脱字ご容赦下さい
「じゃあくれぐれも気をつけてな」
「後でお会い、しましょう」
クエストを受けて洞窟に来た以上、入って内部の探索と魔物の間引きをしなくてはならない。
ボアとか死霊馬とかは外でお留守番になる為、数は減ったが大所帯には変わりない。
そこで2班に分かれて探索に当たろうと言う事になった。
冒険者ギルドからは魔物を間引くことが仕事内容となっているので、戦闘は不可避である。
ならばそれに合わせてメンバー構成を考えることにしたわけだ。
取りあえず皆で洞窟内の最初の分岐点まで進み、そこで編成しなおして、各班で捜索・駆除を行う流れが決まった。
そのため、ここで孝和チームとエメスチームに別れ違うルートを辿ることになる。
ただし、事前に配付された地図を確認したところ、どうも初心者用の試験に使われるだけあり、奥に向かうところで合流するようである。
つまり左手を壁に沿わせていけば脱出できるという技が使える洞窟だった。
要は暫しのお別れだがすぐに会えるし、もしトラブルがあっても助けを呼ぶのも比較的簡単に出来るという訳だ。
「こっちに割り振られた皆さん、怪我の無い様によろしくお願いします!」
『はいっ!よろしくです!』
「お願い致します」
「よろしくお願いします」
「マカセテ!ゼンブ、タオス!!」
と言う事で孝和側のメンバーは、孝和・アリアにレッド・リザードの3名とゴブ3名に加え通訳兼回復役としてキールが配属。
エメスをリーダーとした側は、エメス・シメジ・ポポ・ゴブ5名となる。
そして外の騎乗用の鳥馬やらボアやらの世話にレッド・リザードの1名が残る。
こちらはエメス自身が回復役を担うのでバランスを考えると自然、こういう割り振りになるだろう。
向こうではエメスが皆を引き連れて先に進んでいく。
今まではキールが灯火を使えるので問題なく進んでいたが、これから先は彼らの側に光源が無くなる。
持参した松明に火を灯し、準備を整えると孝和たちとは違う道へと歩を進めて行く。
手を振りながら去っていく彼らの姿から連想されるのは遠足の光景であった。
孝和は松明の光が消えていくのを眺めていたが、ゆっくりと自分のメンバーを振り返って確認した。
「しっかし……、あのゴブリン君、魔術使いなんだ?」
じっと見据えた先にいるのは、どこか呆けた表情で洞窟の壁に生えた苔をぼーっと眺めているゴブリンだ。
ほかの個体よりも若干背が高く、ひょろりとしているが件の盗賊の剥ぎ取り時に魔術師崩れの盗賊から分捕った魔術行使時の媒体となる杖と、魔術師用のローブを装備している。
ただ、サイズは若干あっていない為、引きずって歩いたことでローブの裾が既に擦り切れてしまい、先ごろちょうどいいサイズに裾を切り落としている。
おかげでデザイン的には目も当てられない状況になっていたりと賢そうには見えないのだ。
『なんかねー。ますたーのほんで、べんきょーしてたら、あのこだけできたのっ!!』
「そんな簡単にできてしまうと、俺の立場が無いのだが」
「本当にそんなことあるのかしら?簡易的な日常魔術でなく、実戦投入可能なレベルの魔術師ってこと?そんな偶然がそうそうあるものではないし、偶然できたなんて一言で片づけられないのだけれど……」
じっと見つめられていることに気付いた魔術ゴブ(仮)が不思議そうにこちらを見つめる。
「ドウシタ、タイチョ?ナンカ、ヨウカ?」
『んーと、ぼっってやって!ぼっってやってみたら、みんなしんじるとおもうんだ!』
「?ヒ、ツケレバイイノカ?ワカッタ」
にゃむにゃむと何か唱え出す魔術ゴブ(仮)。
本来このように式を整え、魔力を込めてその式をなぞることで術式は発動するのである。
キールとかポポとか、本当はもう少しああいった術を発動するなら"溜め"が必要になるはずのだ。
要するにあいつらは大概にしてちょっとおかしいわけで。
「ゲギャギャ!」
魔術ゴブ(仮)のもつ魔術媒体の杖に火の玉が燈る。
こぶし大から徐々に大きくなり、バスケットボール大にまで膨れ上がると、ドンと空気を震わせながら直進していく。
広間の壁に命中すると、ぱぁんと大きく弾け、炎が一帯に広がっていく。
炸裂する火炎弾≪ファイアボール≫ではなく、もう一段階ランクの下がる火炎≪ファイア≫である。
めらめらと燃えていたそれは、ゆっくりと地面を舐める様にして苔や、地割れから目を出していた小さな草を焦がすと消えていった。
「……有効に戦術の一つとして組み込めるかな、と思う」
「そうね、まあ一般的な魔術師っていえばこのレベルだろうしね」
「そっか、これくらいは出来るものなのか……」
炎を放った魔術ゴブ(確定)はふわぁぁと欠伸をしている。
となりの一般ゴブは若干うらやましそうな顔をしているが、間違いなく自分も同じ顔をしていると孝和は断言できた。
(いいなぁ。俺もそういう炎をどんっと撃ってみたいなぁ)
ただ、正直あの溜めが過程として必要不可欠であるなら、駆け出して拳骨の方が速いと思っている自分もいる。
その方が確実かつ迅速であり、しかも隙も出にくい。
もっと言えば、適当に石掴んで投擲、で代用は可能かもしれないと言う事も頭では理解している。
だがしかし、だがしかしである。
(ロマン、だよねぇ……。いいなぁ……)
うらやむ自分を隠すことなく、羨望の眼差しで魔術ゴブを見つめる。
まさかのゴブリンに憧れる人間という非常に珍しい構図であった。
「じゃあ、前に進むわよ。ぼーっとしてるだけじゃあ何も変わらないんだから」
「あ、うん。マオさんとかもよろしくお願いしますね」
「心得ております。足を引っ張らない様に致しますので」
レッド・リザードの面々は少し洞窟で取り回しやすい様に、ショートスピアで参加している。
ただ、店売りの物ではなく、部族で作る一点物であるためとてもピッタリに見える。
穂先も二又に別れており、貫いた相手により深手を負わせる形状になっている。
返しは付いていないので、切るよりは突きに重点を置いた造りなのだろう。
恐らくではあるが、性能的には普通の物よりもだいぶ高品質なのではなかろうか。
「じゃあ、まあ。安全第一で進みましょうかね」
『ますたー!このさきになんか、いるっ!』
てくてくと歩いて洞窟を進むのであるが、如何せん大人数というのは心強いものである。
気を張っているつもりでもどこか安心感のある探索は、メンタル面で非常に優位に立てる。
そんな中、キールからのエマージェンシーであった。
煌々と通路を照らしながら進む為、光の加減で先に敵側に気付かれる恐れもある。
光源を若干落としたことで、うすぼんやりとした光があたりを包んでいる程度へと灯火が弱くなった。
この洞窟は、完全に暗闇が支配しているような密閉されている空間ではなく、空が見える程度に天井が崩れたりしているところもある。
その隙間から何かが出入りしているので、定期的な駆除が必要となっているのだ。
だからこそ、この先にいるのは孝和たちがあの金色骸骨の騎士とやりあった後に増えてしまった何か、まあ恐らく魔物とかになるはずだ。
現に入口付近にはデカめのヘビーワームがうねうねしており、すぐさまエメスに打ち取られてしまった経緯もある。
ここまで出会わずに来れたのは、大人数の孝和たちに気付いて奥に引っ込んでいったからだろうとも事前に皆で予測はしている。
「数ってどのくらいだ?あんまり多いならちょっと考えないと……」
『んーと、3、か4かなぁ?ちょっとみちがくねくねすると、わかんなくなるの』
「そっか、一応聞くけどエメス達じゃないよな?」
『うん!ちがーう!』
「だ、そうだ。どうする?俺は一気にカタつけるほうがいいかなと思うけど?」
皆に尋ねる。
とはいうもののここまでは一本道。
横にそれる道は先程のエメス達との分岐点までみつからないし、事前にもらった地図も同様に描かれている。
全員が頷くのを確認し、孝和が割り振りを決める。
「この先にいるのが3体と仮定して、俺、キール、アリアで一つ。レッド・リザードの方々で一つ。ゴブリンチームで一つ。片付いたところから残りに援護をするってことで。もし3体以上いても倍の6はいないよな?」
『うーん、たぶんー……』
ちょっと自信なさ気にキールが言う。
「まあ、こっちも十分数はいる。各々カバーしながら動くってことで。もちろん危ないと感じたら即撤退を。組みやすい班分けにはなってると思うので、判断は各々でお願いします」
「そうですね、あまり慣れていないチームプレイは危険でしょうし」
「ギャギャ!マカセテ!オレタチ、アッチノヤツラヨリ、ヤクダツ!!」
どうやらゴブリン同士エメス班に言った奴らと競争心があるようだ。
先程まで欠伸をしていたとは思えない。
バランスとしては、魔術ゴブに近接系のゴブリン(斧と革盾持ち・剣と革盾持ち)でそこそこ良さ気である。
チームプレイの手際は盗賊たちの全剥きの時にじっくり見せてもらったし、ここはひとつ任せてみてもいいのかもしれない。
「んじゃ、俺たちが一番奥にいる奴を狙いますんで。動揺するか、こっちを狙うかした奴の隙突いて下さい」
ぎゅっぎゅっとブーツを軋ませながら屈伸をして体をほぐす。
右手でジ・エボニーを抜き、左手でキールを抱える。
こうすると、自然と孝和が煌々と光って見える。
つまりは、一時的に的になるつもりなのだ。
「アリアは、俺のカバーを頼む。キールは突っ込んだら周りを明るくしてくれ。そんで、全体を見てサポートをお願いね」
『わかったー!』
「久しぶりだしね。気を付けて行きましょう」
何時ぞや以来とんと見なかったメイスを振りかぶり、アリアが気合を入れる。
ポート・デイで破損して以降どうしていたのかと思っていたが、ようやく直った様である。
若干意匠が変わっているような気がするが、少し手直しでもしたのだろうか。
「どうしたの?」
「あ、別に何でもない」
使い勝手が変わらないのであれば別に孝和がいう事でもないだろう。
「うし!そんじゃあ、行きます!」
だっと駆け出す孝和の後に、アリアが続く。
通路の切れ目から先のスペースはかなりの広さがあるが、入口から奥までを見通すことが辛うじて可能である。
駆け込んだ瞬間に、まず全体を見る。
孝和から見て右側手前にヘビーワーム1匹。
その奥、少し離れた位置にスケルトン1匹。
武器と言えるか微妙ではあるが、棍棒というよりは木の棒を1本持っている。防具も特に目立つものがあるわけでもなく、ぼろきれが肩から腹にかけてはらりとかけられているくらいで、コイツの危険度は低いだろうと思われた。
さらに視線を巡らせる。
最初のヘビーワームとは違う個体が見える。
最奥に位置しており、これを孝和たちが担当することになるのだが。
(チィッ!番いか何かか?ペアでいやがる!)
恐らくこれが今一つ数を絞り切れなかった理由の一つだろう。
近くにいすぎて、同一にカウントするかどうかで分かりにくくなっていたのかもしれない。
うぞうぞと蠢く巨大なダンゴ虫が2匹、なかなかに精神を削る光景だがそれに躊躇している暇はない。
ここまで運んできたキールをその場に落とし、空いた左手を剣を握る右手に添える。
十分すぎるほどの助走距離と、慣性の法則、全身を捩じる様にしてそのヘビーワームの真正面に向かい左足を踏み込む。
ダンッ!
地面を強く叩く音が聞こえると、踏み込んだ左足を軸に前方へと向かう力を全て右で握ったジ・エボニーの剣先へと集約する。
孝和の全力での突きであった。
気功を乗せるのではなく、純粋に培った己の技量のみで放たれたそれは、孝和に気づき威嚇の為牙を?いていた口腔に一直線に突き立つ。
外皮である甲殻がいくら固くとも、その中までが固いわけではない。
肉でできた体の内部へと到達できる一点に集中すればいい。
眼球や口腔内、関節部や屈曲するポイント。
鎧通しの技術の応用である。
無論基礎が確立してこその応用という注釈はつくが。
そして刺さった瞬間に硬直し、暴れようとしたヘビーワームだったが命の灯がその時点ですでに尽きかけていた。
孝和は貫いたタイミングで強く息を吐き、ジ・エボニーの柄を握る右手に左手を添えて手首を返す。
剣の刃が丁度腹側に対して90度になるように動く。
添えた左手に力が籠る。
今度は左が主、右が副となった。
「カッ!!」
肺腑に残る呼気を全て吐き出しながら、ヘビーワームの腹側に向け真下へと剣を引き抜く。
グシャッ!!
ここまでわずか2手。
ヘビーワームは何もできずに地面へと崩れ落ち、切り裂かれた腹から緑色の汁を地面に零れさせている。
ずるりと恐らく臓器関連の物もはみ出している。
間違っても再び立ち上がってくることは無いだろう。
外皮でも腹部は屈曲する関係上、背側に比べ柔い。
とはいえ、多少の硬度は備えているそれを一気に断ち切ることがいかに難しいことかは言わずもがなである。
「KYASHYAAAA!!!」
番いを討たれたことに気付いた片割れが、その孝和に攻撃の意思を見せる。
だが、そのヘビーワームが思考に到るまでのラグが問題だったのである。
牙を?いて跳びかかったヘビーワームの顔目掛け、いきなりジ・エボニーが飛んでくる。
反射的に怯んでしまい回避に移る。
辛うじて回避に成功したヘビーワームが見たのはすでに射程距離から離れた位置にいる素手の孝和だった。
1匹目の巨大ダンゴ虫を瞬殺し、そのまま2匹目から距離を取ったのだ。
最初からその場にとどまるのではなく、仕切り直しを念頭に置いていたので体は動く。
思考から行動に移るヘビーワームより、先々の行動ありきで動く孝和の方が半歩早いのは道理だった。
「うし、次っ!」
コォッと肺へと空気を吸い込む。
その時には、孝和だけでなく途中で落としたキールと、アリアが追い付いてきている。
数でいえば1対3でヘビーワームに当たることが出来るわけだ。
とはいえ、剣を投げて牽制したため、孝和は無手となっている。
(そんじゃあ、やってみようかねぇ)
大きく吸い込んだ空気を全身に循環するイメージ。
ぶわっと孝和の周りの空気がそれに押される。
全身を淡く、ぼんやりと包み込む白銀の気功術が頭のからつま先までを纏った。
「まあ、慣れがいるにはいるんだが」
腰にはまだ真龍の短刀がある。
ゆっくりと引き抜き、威嚇を続けるヘビーワームに向かいじりじりと距離を詰めていく。
それに合わせてアリアも距離を詰める。
彼女の得物はメイスだということもあり、硬い甲殻に阻まれたとしてもその衝撃を相手に与えることが出来る。
ヘビーワームという生き物は、人型ではない重装騎士と考えて対応すればいい。
中世時代の騎士を屠る際に実際役立ったのは、剣よりもメイス等の打撃武器だったとする説がある。
刃物にしても刀のような鋭く切り裂く要素よりも、幅広の剣で"切り潰す"ような使い方をするものが好まれた。
中には剣は相手を叩き伏せるためにこそ使われたというものすらある。
盾や鎧が分厚い金属製に特化していったのはそういった攻撃に対応するためもあるらしい。
実際両手持ちの剣は重さで相手を切りつけることに焦点が合っている。
フルーレだとかレイピア等は儀礼用や決闘用で、戦場では然程使われるようなことはなかったようだ。
つまり何が言いたいかと言えば、"大鎧の騎士殺しならぶっ叩け"ということに尽きる。
孝和の戦い方は本来でいえば王道ではないのだ。
「KSHAAA!!!」
『光輪!!!』
キールが威嚇するヘビーワームに術を放つ。
大きさはソフトボール程度で真横から放たれたそれを、ヘビーワームが身をよじらせて回避する。
体勢を崩しながら避けるダンゴ虫をアリアが追撃。
一気に距離を詰め、身長の低いアリアがかち上げる様に大きくアッパースイングしたメイスのフィギュアヘッドがみしり、と軋む音を立てながらヘビーワームの顔面に直撃する。
ダッ!!
地面をブーツの裏底が弾く音が響く。
キール、アリアと続いた連携に続き、孝和もヘビーワームに接近する。
顔面を強く殴られたヘビーワームは打ち上げられる体勢となり、孝和は姿勢を低くし、短刀を持たない右肩から背をヘビーワームに浸ける様にして接触。
バチィィィィン!!!
強く肉に平手打ちをしたような音が響く。
孝和の全身を覆っていた白銀の光が、全てヘビーワームを通して反対側に霧のように広がっていく。
肩口から接触し、背を強く相手に打ち付ける。
八極拳などで見られる鉄山靠に気功をダメ押しした特別バージョンだ。
読んで字の如く、相手に靠れる≪もたれる≫技で、相手に靠れかかった状態から背や腰等触れた場所に全体重を込めた一発をかますことが出来る。
それを孝和が気功を込めてはなった訳で。
どしゃぁぁぁっ!!
地面から半ば浮き上がっていたヘビーワームは白銀の霧が吹きぬけた空間を後追いするように吹き飛ばされ、2回3回と転がりながらゆっくりと動きを止めた。
予想以上に吹き飛んでしまい、止めと思い構えていた左手の短刀が手持無沙汰になる。
そんな孝和に頭部をかち上げた後の追撃に、一度メイスをもとのポジションに戻し、再度スイングしようとしていたアリアが目線を交錯させた。
「……っと?」
「あ、ははっ」
若干の戸惑い混じりの微妙な空気が流れる。
耐えきれず動かした視線の先のヘビーワームはびくびく、と痙攣し動きをとめると、口から大量の濃緑色の汁を吐きだし、目から光が消えていた。
「えーと、次よ、次!」
気を取り直す。
後ろから接近している気配はないので、最初に決めたとおりにそれぞれで対応しているのだろうと振り返ってみる。
「とはいえ、、もう終わりそうだしな」
『みんな、ゆーしゅーで、よゆーだったね!』
スケルトンがレッド・リザードの槍に刺されて壁に縫いとめられた上に、止めとばかりに頭蓋骨の真ん中をもう一本槍が綺麗に貫通していた。
一番入り口近くにいたヘビーワームは未だに生き残っていたが、ゴブリンチームが危なげなく対応している。
突進を避けて一撃、盾で躱して一撃、その隙をついて火炎≪ファイア≫で炙る。
魔術ゴブに突進してくることがあれば、前衛2匹が盾で押さえ、その間に魔術ゴブが距離を取る。
そのルーティーンでヘビーワームを削る。
それが1ターン、2ターンと続くたび、徐々にヘビーワームが弱っていき、隙を突くタイミングも増える。
硬い甲殻とはいえ、何度も何度も繰り返されるたび、ダメージは蓄積していく。
ひび割れ、その損傷部から孝和の時と同じ濃緑色の汁が吹き出し、炎で炙られ焦げ付いていった。
しばらくの観戦ののち、逃げ出そうとしたヘビーワームをゴブリンチーム総出でタコ殴りにして止めを刺し、この場での戦いは終わったのであった。
「いや、特に怪我も無くて良かったんだけどさ」
「ギャギャ!カッタ!カッタ!」
「ダイセイコウ!ギャギャッ!!」
喜ぶゴブリンチーム。
そこに水を差すのは野暮だとはわかっている。
だが、言わねばならんと思う。
「お前ら、その虫の皮、欲しかったんじゃないの?焦げてるし、ぼろぼろだけど、いいのか?」
「ギャ!?」
ばっと振り返った彼らの前にあるのは、こげこげのうえ、罅の入ったヘビーワームの死骸。
ゴブリン達は大急ぎで駆け寄り、恐る恐るそれをつついてみた。
一部炭化して、脆くなったそれはあっけなくはがれると、地面に転がった瞬間ぱきりと音を立てて割れてしまった。
「ギャゥゥ……」
「オ、オレ、タテ、アタラシク、シタカッタノニ……」
膝から崩れ落ち、ガクリとうなだれる前衛ゴブリン2匹。
その2匹の背中をいたわるようにして、ゆっくりと魔術ゴブが撫でる。
グォォッとうなり、地面を悔しげに叩く。
「いや、あそこにまだ綺麗なやつ有るし。多分、持っていってもいいと思うぞ?」
一応目線でアリアにお伺いを立てると、苦笑しながら頷いてくれた。
まあ、ちょっとばかり可哀そうでもある。
「ギャァ!オヤブン、アリガト!!」
「ギャギャッ!」
がばっと起き上がり、孝和に抱きつく前衛ゴブ2匹。
まさに破顔一笑といえる。
孝和に抱きつきながらいつの間にかその輪にキールも入り、魔術ゴブもなぜか参加した孝和の周りをぐるぐると喜びの舞が始まる。
それに巻き込まれる孝和はどうしてこう、緊張感がつづかないのかなぁと苦笑するしかなかった。