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価値を知るもの  作者: 勇寛
真っ直ぐに、真っ直ぐ一直線に
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第97話 拠点設営 【CAMPFIRE】

誤字・脱字ご容赦下さい



「……どこか小っちゃい村落なら攻め落とせる気がする」


 当初の予想は大きく外れ、想定外の大人数となったことに孝和は頭を悩ませていた。

 多分孝和の予想では自分にアリア・キール・ポポにエメス。シメジが来るかどうかは微妙だが、来ても後は隊員ゴブが一人か二人。

 多くとも10前後くらいでそれ以上は超えないだろうと思っていたわけで。


『ますたー、みんなそろいましたっ!!』

「うん、遅刻も無くていいことなんだけど、人数多すぎるからな。どうするか……」


 ぐむぅとばかりに頭を抱える孝和。

 ざっくりと構成を説明すると、予想していたメンバーに追加で隊員ゴブが8名、ボアが同数8匹、死霊馬1匹、馬車1台(エメスが曳いてくれる)、リザードの若衆がマオの他に3名追加され、その鳥馬4匹。

 しかも、念の為各々準備を一晩で入念にしたもので、ちょっとした遠征も出来そうな布陣である。


「人数制限なし、となっていましたがこれは多すぎではないかと思いますよ?」


 見届け役の冒険者ギルドの職員の男性が苦笑する。

 冒険者のプレイスカード作成時に同行してくれたカルネと同じ役割を果たすらしい。

 彼も同行するために数日分の自身の野営用の物品を積んだランドドラゴンの曳く馬車(竜車?)を準備していた。

 一応Cクラス相当のクエスト扱いだが、これは単身で挑むものから数名でのパーティーで挑む場合の目安である。

 洞窟内で数日間の緊張を強いられ、且つ危険度を下げることを目的とする"お掃除ミッション"が手がかかることからこのランクとなったのだが、その前提を覆す過剰戦力を初心者用の洞窟に数の暴力も加えたうえで投入するのは違う気がする。


「洞窟の危険度は間違いなく下がると思いますけど」

「逆にあなた方が危険度を測られる側だと思いますが?」


 的確な返しをしてくれたギルド職員を睨む。

 2日続けてぐうの音も出やしない。


「夜に皆集まるなんて聞いてないもん。俺、悪くないと思う……」


 ぽつりとため息と独白が漏れる。

 どうもキールとポポが外にいるシメジと連絡係のゴブに、夕飯を食べてから話をしに行ったらしい。

 そこでどうやら、皆で数日お出かけをします、希望者は朝に門の前に集合、という若干正しいのか間違っているのかわからないニュアンスで、向こうのゴブ達には伝わった様である。

 砦にはレッド・リザードの面々が残っているので、遊びに行きたいゴブリン達が来たということになった。

 まあ、昼寝したいとかめんどいとかで来なかったのもいるので全員ではないが、それでも大所帯である。


「…少し多めに飯と薪は持ってきてるし、問題なく野営は出来るんだけど。と、いうか当初の予定より早く終わるんじゃないか?」

「元々そんなに大きな洞窟でもないらしいし、すぐに終わったらどうしようかしら?」


 アリアと孝和が悩む。

 一方はすこし街の喧騒から離れて、なまった体を鍛えようかなぁという思惑がつぶれたことで。

 一方はいくらなんでも料理人しかしていない孝和を、数日の緊張感であってももう少し戦士っぽくならないかという淡い希望が砕け散ったことで。

 

「うん、なんとなく迷惑になりそうだからな。早めに門の前から移動しよう」


 ぱんぱんと手を叩き、両腕をふって全員の注目を集める。

 各々が好きに話していたり、朝早くと言う事もあり舟を漕いで眠りそうになっていたりとまとまりがない。

 そんなものだから通行の邪魔にはまだなっていないが、もう少しすれば日も昇り、商人やら樵やらいろんな人たちが動き出す。

 その前にこの門の前のメインストリートともいえるスペースを空ける必要が出てくる。


「えー!ここだと迷惑になるのですこし離れた場所に動きまーす!!こっちついてきてくださーい!!」


 馬車に目印替わりの布地を立てて、誘導していくことにした。

 ぞろぞろと気だるげに一同が波のように連れ立って移動するのを眺める。


「バスガイドさんってすごいよなぁ。改めて気づくことかってのも有るけど」




 という訳で、孝和たちが出発して目的地の洞窟まで暫しの時間が流れる。

 特に何かがあった訳でもない。

 ここまでの人数の集まった集団を襲うような阿呆は居やしないし、ばったり偶然出会えばすごすご逃げていくのが普通である。

 ウルフ系の魔物に出くわしたり、スライム系が数体かたまっているのを見たくらいで、前者は逃げ去り後者はこちらが少し大回りして回避することで無用な戦闘を回避した。

 敢えてなにかを探すとすれば、その度毎に突撃体勢になるゴブリン達を宥めるのに苦労したくらいである。


「よーし、テント張りは終わったな!あとは竈の具合を確かめて……」


 皆でやいのやいのしながら、人数分のテントを張り、竈を作り、馬車からテーブルやカンテラ・食器などを取り出しながら着々と洞窟前に設備一式が整えられていく。


「……私の思う冒険ってこういうのじゃない気がする」

「同感ですが、仕事としてはより良い成果が上がりそうですね」


 アリアと付添のギルド職員の視線を浴びながら、孝和は一生懸命に洞窟前の少し開けたスペースを"良さ気なキャンプ地"に仕上げていた。

 森林地帯にあるその洞窟は人の出入りや、訓練で使われることもあり、入口付近は踏み固められている。

 馬車に積んだ空樽にはキールのアクアクリエイトで縁いっぱいにまで飲料水が満たされ、エメスが切り出してきた材木で丸太のテーブルに椅子がどさどさ量産され、シメジとゴブリンの食料調達班が森の中でキノコやら兎やら虫やらを集めてきている。

 流石に孝和たちは虫は遠慮したが、持ってきている保存用の食料と合わせれば十二分な食糧と言える。

 騎乗してきた動物・ランドドラゴンにも飼料は充分あるし、この森の中で現地調達もできる。

 死霊馬は何を食うのかわからなかったが、キールの通訳によると、特に要り様のものは無いそうで、とてもコストパフォーマンスが良いということが判明し、少しだけ孝和のお財布が救われたことをここに記しておこう。


「よし、湯を沸かして飯の準備に入ろうかな」

「ちょっと!洞窟入らないの?」


 竈に火をいれ、携帯用の鍋とヤカンを火にかけようとしている孝和を呼び止める。

 ポート・デイで手に入れた海軍用の野営セットが大活躍中であった。


「いやあ、そのつもりだったけどさ。まずは一息ついてからにしようかと」

「私、今から突っ込もうとしている洞窟の前でお茶を始める冒険者なんて知らないわよ。緊張感ってものは無いわけ?」

「エメスが露払いだって、入り口付近の魔物の駆除、終わったみたいでさ。それで皆で一息入れながらこれからの計画を練ろうと……」


 鍋やらヤカンやらを竈にかけると、指差した先にいるエメスの様子をうかがう。

 解体作業を行うとのことで、皆の所から少し離れた場所に天幕を張って、数名のゴブリンと共にそれに勤しんでいる。

 恐らく倒した魔物の剥ぎ取りで、それを洗っているようで、地面にちょっと緑色の体液交じりの水が流れ出ていた。

 当然風下で、傾斜が下る位置に解体をしているので皆が不快にならない様にしているのだが、それでも少しは気になるわけで。


「ゲギャ!コレ、オレノ!」

「イイナ、ソレ。オレモ、ホシイ!!」


 ヘビーワームの甲殻を掴んで、嬉しそうに天幕からゴブリンが出てくる。

 どうやら、魔物の生息図としては洞窟が違っていても、同じような環境なのだろう。

 以前、あれと戦った時には刃が通らなくて苦労したものであるが、どうもエメスは抱きとめてヘッドロックで仕留めたようだ。

 中身がぐちゃっとなっているのを横目で見た。

 あんまり見ると食欲が失せること請け合いである。


「……イッピキ、カレバ、イイカ?」

「メシクッテ、ネテカラナラ、ツキアウ」

「ワカッタ、カンシャスル」


 いそいそと革でできた自分の盾(たぶん盗賊から分捕ったヤツ)にヘビーワームの甲殻を貼りあわせようとしているゴブをうらやましげに見るゴブが、そんな交渉をしている。

 座り込んで盾の補強に協力しながら加工を施していく光景が見られた。


「……ほら、皆やる気まんまんじゃん?」

「欲しいものがあったら暴力で、という思考に陥らない様にあなたが教育するのよ。それ以前に彼ら買い物の仕方とか知ってるの?」

「門の外で行商と森で狩った獲物とかで取引はしてるみたいだけど、ボラれてるんじゃないかと思うんだよね。さすがに定価の倍とかはないだろうけど、2割3割くらいは、な」


 街中に入ってもぎょっとされることが多いようでその辺りが問題なのだ。

 要するに街の人々が慣れるまではこのままかもしれないが、ゴブリン達自身にボラれているという認識があまりないのが最大のネックとなっている。

 泥棒したり、無銭飲食したりはしてないので後回しにしているのだが。


「それにしても、食事後に行くって皆そういうつもりなの……」

「昼飯時は過ぎちゃったけどね。簡単に腹にいれてからの方がモチベーションは上がるだろうし?」

『ますたー、ごはんー!!』

「がうがう!!」


 ててっと走り込んできたキールとポポが足許に纏わりつく。

 両手でいっぺんに2人を掬い上げると、エメス作の切株の椅子の上に両方をちょこんと乗っける。


「もー少し待っててな。ちゃちゃっと作るから」

『はーい!』

「わーう!」

「ゲギャ!」


 いつの間にかキールたちだけでなく周りでふらふらしていたゴブリン達が椅子に座りだす。

 こうなってしまえば腹が膨れない限り、梃子でも動かないだろう。

 後ろを振り返り、腰に手を当てているアリアに話しかけた。


「な?取りあえず、飯。んで、少し休んで洞窟。そうしようよ?」


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