その大罪の先へ〜日常の咎人達〜
しいなここみ様主催『冬のホラー企画4』参加作品です。
残酷描写等はありません。
時間が無い!
私は買い物袋を抱えて薄暗い部屋に慌てて駆け込んだ。
あと40分もすれば、駅に来る息子を迎えに行き、そこからさらに塾に車で送らなければならない。
それまでには、夕食のアジフライを揚げなければ。
高校生の将之は受験生だ。共通一次試験も近づいている。県外の大学を志望しているから、受かったら嬉しいことだが費用はかなりかかるだろう。
次男は歯の矯正中だし、なんでもかんでも値上がるし、本当に嫌になってしまう。
スーパーの袋から、買ってきたものを取り出す。サラダ油や乾麺のうどん、乾燥ワカメ、切り餅は棚でいい。豆腐は味噌汁に入れるし、衣がついて揚げるだけでいいアジフライとキャベツは 今すぐ使うので、台所に置いた。
あとは冷蔵庫に入れるもの達────
私は牛乳パック2本とシラスのパック、チューブタイプのタルタルソースを抱えて冷蔵庫に向かった。
牛乳パックは低脂肪乳────息子達が沢山飲むので、安さに惹かれてそうなった。
タルタルソースは我が家ではアジフライとエビフライには欠かせない存在。
作ったら安くは済むかもしれないが、パートが終わって将之の送迎をしていたら夕食の時間はすぐに来る。それで、結局いつも買ってしまっている。
冷蔵庫の扉を開けた。
牛乳パックを手前のボトルポケットに2本入れて、庫内の2段目にシラスパックを置く。その時、隣にあった無糖ヨーグルトのファミリーサイズのケースに軽く当たった。ケースが動いて、陰から 明るい色彩の袋が見えた。
────ん?なんだっけ?
正面を向いていた『無糖ブルンガリヨーグルト』を横向きにすると……
そこには タルタルソースチューブがあった。
未開封で袋に入って、そこにあった。
────やってしまった…………!
うちはただのタルタルソースチューブでは無い。
タルタルソースレモンのチューブタイプを買っている。
少しだがお高いのだ。だけども、私も夫も子供達もレモン風味が効いている方が好きなのだ。だからこっちを買っている。
だが、やってしまった。未開封がまだあるのに、すっかり忘れて買ってきてしまった。無駄遣いだ……
いや、だけど……無駄では……ないかもしれないぞ?
チューブのタルタルソースなんて、一家4人で使ったらすぐに無くなる! 子供は沢山つけたがる! 夫もコレステロール値が引っかかっているクセに、つけたがる!
足りなくなることも……うん!!ありえる!!ありえる!!
無駄じゃない!!!
やらかしてないよ私!!!!!
気を取り直して 私は冷蔵庫の1番奥の方に、今度こそ買ってきたばかりのタルタルソースチューブを入れ…………ようとして、何かが手に当たった。
ん" ?
『無糖ブルンガリヨーグルト』の陰にあった
未開封タルタルソースレモンチューブの陰には
未開封タルタルソースレモンチューブがもう一つ
あった
あってしまった
あってしまったんだ
……………………ぬぐいきれない罪だった。
完全にやらかしてしまった。もう逃れることは出来ない。
誰にも救えない。私は大失敗している。無駄遣いもいいところだ。
こんなに忘れてる自分が…………恐ろしいほどだ。
声は出なくとも口が半開きになった。そのまま、1番奥に隠れていたタルタルソースレモンチューブを取り出す。
見慣れたパッケージは長い間 置き去りにされて、冷え切っていた。
お前、なんでそんなところに隠れてたんだよ……
いるなら、いるってアピールしろよ。ソースやマヨネーズよりも出番が少ないんだよ。
ドラゴンクエストならブラウニー(おおきづち)、光GENJ Iなら内海光司、サンリオキャラクターならタキシードサム…………確かに輝きがあるし大好きな層もいるのに、メインにはならない。登場が少ない。見かけない。時に忘れてしまう。タキシードサムに至っては、ペンギンだが良家出身留学経験あり英語ペラペラなのに、それも活かせず誰にも知られていない気さえする。…………好きなのに
私は絶望的大罪の悲しみにしばらく打ち震えていた。が、右手が冷たくなってきて、ふとタルタルソースの袋をひっくり返した。────そして、その表記を見つけた!
賞味期限 !!
3ヶ月過ぎている…………!!!!!!!!
だが
この情報……
どう 解釈するべき…………?
私は冷蔵庫の中のタルタルソースと
右手にある賞味期限切れのタルタルソースと
左手にある買ってきてしまったタルタルソースを
順番 に 見た。
1人うなずいてから、
左手にあるタルタルソースを冷蔵庫に入れて扉を閉める。
時計を見て慌てた。
「アジフライ揚げないと!!」
台所に向かう途中で、右手のタルタルソースをゴミ箱にいれた。
今はただ 前に進む
全ての罪を 許して
読んで頂きましてありがとうございました。
私の場合……ですが、人生でしばしば起こった"予備があるのに何度も買う"に気づいた際に、作中の主人公のような心理になり、自分への絶望、事実への衝撃、大丈夫か私?といった恐怖がありましたので、ホラーとして投稿致しました。
(主人公、作品は私の経験をもとにした全くのフィクションです。)
日常のささやかなことなのですが、起こっている最中は凄い真剣にダメージを受けますねー、こういうの。
わさびチューブは本当に3本になってしまったことがありました。(゜o゜; )
あるあると、笑って読んで頂けても救われますm(_ _)m




