砂の人
掲載日:2025/11/27
砂塵のなかで
無言でこちらをみつめる女の人がいた
なにも知らないほど
まだ若そうでもあり
なにかを諦めるほど
歳を経ているようでもあり
黒ずくめのスウェットを着て
漆黒の髪は短く切りそろえ
針金で編み上げた
細い影かなにかのようにみえた
それで
正しいものをみて生きようとする
光を放つような目の力が印象的だった
わたしと目があうと
くるりと背中を向けて
女の人は砂塵のなかへ消えていった
わたしについて来いと
云いたかったのだろうか
それでもわたしは日々を過ごして
その後ろ姿を忘れられないまま
ずっと暮らしに埋もれて来た
悔いはある
それでも
祈ることと云えば
明日からは
世界がいつまでも明るくありますように
そんな綺麗なことばかり
砂漠のまんなかへ
あの女の人が還っていったのは
砂漠の世界のほうが綺麗だと
知っていたから
だろうに
音と云えば
正しい風の音ばかり
ほかは砂を踏み締めあゆむ足音のみか
灼熱の太陽は
いつもなにかを燃やしつくそうとしている
そういう世界の果てを夢にだけみる
こんな灰色の風の吹く
暮らしのなかで
まるで泣いてるみたいな笑顔で
かなり照れながら




