海難法師
ここは伊豆諸島のとある島。ここは都心から離れた伊豆諸島にあるが、ここは東京都だ。そんな八丈島には、ある風習がある。それは、ある日は家を出てはいけないという事だ。この日は海難法師が出るので、外には出ないそうだ。もし出たら、血まみれになって帰って来るそうだ。それは島の人々の間ではかなり知られている。そして、受け継がれてきた。
智哉は、今年から島に住み始めた。漁師としてここに引っ越してきたのだ。まだまだこの島の事は知らないけれど、もっと知っていこうと思っている。
「ただいまー」
「おかえりー」
ダイニングで声が聞こえた。義理の母だ。夕食を作っていると思われる。今日はどんなのを作るんだろうか? わからないけれど、きっとおいしいんだろうな。
智哉はリビングに入った。だが、義理の父がリビングにいる。いつもはこの時間帯、漁に出ているはずなのにな。どうしたんだろうか?
「あれっ、父さん、今日はもう帰ってきたの?」
「ああ、明日は漁に出られないんでね」
どうしてだろう。漁に出ないと収入がもらえないのに。
「どうして?」
「明日は海難法師が出るんだって」
海難法師とは何だろう。全くわからないな。妖怪だろうか? この世界に妖怪なんているんだろうか? 智哉は信じられない表情だ。
「海難法師?」
「明日は外に出たらいけないんだよー」
父は不安そうだ。大切なのにな。残念だけど、父に従わないと。でも、本当にそうなんだろうか?
「どんな事あるの?」
「血まみれになって帰って来るんだって」
智哉は血の気が引いた。この島にはこんな風習があるなんて。こんな恐ろしい事があるなんて。
「そんな・・・」
「だから、絶対に出るなよ・・・」
父は強い口調だ。絶対に出てはいけないと言っているようだ。でも、本当だろうか? 智哉は疑問に思っていた。そんなの、噂なだけで、本当は嘘に決まっているさ。俺は生還してみせるさ。
「・・・、わかった・・・」
だが、父の前では無視する事など、言えない。それに従わなければいけない。
「はぁ・・・」
智哉は2階に向かった。少し休もうというのだ。義理の母は、その様子を不審そうに見ている。あの子、明日、家の外に出ようとしているのでは? とても不安だな。
智哉は2階でくつろいでいた。そして、明日、家の外に出ようと思っていた。もちろん、内緒だ。早朝、みんな寝ているときに出てみるか。
「何が噂だ。出てみよう、かな?」
智哉は笑みを浮かべていた。
翌日の早朝、智哉は早起きした。その目的は1つ。海難法師が嘘だという事を確かめるためだ。何が海難法師だ。俺は生還してみせるよ。
智哉は両親が起きないように、慎重に歩いていた。ここで見つかったら、出るなと言われるだろう。
「よし・・・」
智哉は確認して、ゆっくり玄関を開けた。玄関は鍵がかかっていたが、静かに開けて、みんなに見つからないようにした。
「よかったよかった」
智哉は外を歩いていた。外はとても静かだ。みんな、海難法師を恐れて出てこないんだろう。だが、俺は出る。
「静かだな・・・」
智哉は耳を澄ませた。自分以外、足音は聞こえない。誰も歩いていないようだ。
「誰も歩いてないみたい・・・」
智哉は笑みを浮かべた。みんな、怖がりだな。俺はこうして歩いているのに。
「みんな、それを恐れて出ていないんだろう」
次第に、智哉は思ってきた。海難法師なんて、やっぱり噂だったんだな。本当はいないんだ。俺はそれを証明した。だったら、今日も漁に出てもいいって事だ。
「何が海難法師だ。大丈夫じゃないか?」
智哉は海を歩いていた。早朝の海はとても静かだ。海の音しか聞こえない。
と、智哉は海岸にいる女を見つけた。その女は衰弱しているようで、弱々しい。水にぬれてびしょびしょのようだ。誰だろう。全くわからないな。
「あれっ、この人、誰だろう」
と、女は智哉を見つけた。そして、助けを求めるように手を差し伸べた。
「助けて・・・」
「大丈夫か?」
その声を聞いて、智哉は海岸に向かった。いないと思ったが、誰かがいたとは。でも、この女は誰だろう。
「助けて・・・」
海岸にやって来た智哉は、女を引っ張った。
「今助けるぞ!」
だが、女は引きずり込まれていく。後ろで誰も引っ張っている形跡はないのに、どうしてだろう。明らかにおかしい。そして、徐々に女ががりがりに痩せていく。その痩せるスピードは、徐々に速くなっていく。まさか、妖怪だろうか?
「た・・・、す・・・、け・・・、て・・・」
そして、智哉は女に引きずり込まれ、海に引き込まれていった。智哉は一体何が起こったのか、わからない。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
智哉は目を覚ました。どうやら、海岸にいたようだ。今さっきの夢は何だったんだろう。まさか、自分が見たのは幻だろうか?
「ゆ、夢か・・・」
突然、智哉は砂浜の血を見て、ハッとなった。まさか、顔から血が出ている?
「えっ、血?」
智哉は水面で自分の顔を見た。すると、顔中が傷だらけだ。まさか、こんな事になるとは。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
と、智哉は義理の父の言葉を思い出した。まさか、あの女が海難法師?
智哉はトボトボと家を歩いていた。こんな血まみれで帰って来るとは。これを見たら、家族は驚くだろうな。だけど、帰らなければならない。
智哉は家に帰ってきた。家の庭には誰もいない。みんな、家の中にいるようだ。自分もこの中にいたらよかったなと思った。だが、もう遅い事だ。
智哉は玄関を開けた。すると、義理の母がやって来た。
「おかえり、って、外出ちゃ、ってどうしたのこの血!」
血まみれの智哉を見て、義理の母は思った。ひょっとして、海難法師にやられた?
「海岸で変な女を見つけて・・・」
それを聞いて、義理の父は反応した。それが、海難法師ではないか?
「それが海難法師じゃない?」
「そうだそうだ!」
義理の母もそう思った。やはりあれは海難法師のようだ。
「そんな・・・」
智哉は呆然となった。今日、家を出なければ、いつも通りの日になっていたのに。