第捌話:アイドルデビューで物語脱線!?茶釜たぬきの承認欲求バグ(ぶんぶく茶釜編)
「ぶんぶく茶釜」がまさかのアイドル展開!?
本来は綱渡り芸で恩返しするだけの話だったのに――
なんでボクが茶釜背負って、アイドルユニットデビューしてるの!?
そして黒幕T.T.の策略がまたも発動。
しかも今度はネカマ!?
ボクの精神耐久、そろそろ限界です……
ボクは今、和風テーマパークの裏手みたいな森の中にいる。
緋色の紅葉が舞い、どこからか笛の音が聞こえる。
のどかなのはいいんだけど――なんでボク、茶釜背負ってんの?
「え、今回は茶釜役!?」
異世界管理局のログを確認すると、今回の舞台は「ぶんぶく茶釜」。
本来は、化け狸が恩返しで綱渡り芸を披露して人気者になり、最後はお寺に落ち着くというハートフルなお話。
なのに現在のタヌキさんは……
「アイドル……ぼくは、アイドルになるの!!」
ステージライトを浴びてキメ顔中。
……え、何この展開。
これもやっぱりアイツが?
そんな疑問に答えるように、ボクの視界の端に浮かび上がる、例のサイン。
《「ちゃがま~☆」って叫んでる民衆を見るとテンション上がるよな?――T.T.》
「うわ出た、黒幕パイ……!」
今回のバグも、やっぱりお前の仕業か!!
***
話を整理すると、こうだ。
綱渡り芸を披露してお金を稼ぎ、古道具屋に恩返しを果たしたタヌキさん。
そろそろ身を引こうか……という原作ルートにいたはずが、ある日突然、茶釜に黒いテントウムシマークが浮かび、「承認欲求」が爆発。
「ボクのかわいさ……もっと広めなきゃ!もっと!もっと!!」
ってなって、アイドル路線に転身することにしたと。
そこに現れたのが、茶釜を背負ったタヌキ姿のボク。
「あ、茶釜タヌキ仲間のキミ!」
「へ?」
急に声をかけられてボクはキョロキョロ。
「キミだよキミ!背中にナイスな茶釜しょってるキミ!」
「あ、ボク?」
「ぼくと一緒にアイドルしよ?」
勢いのまま、ボクまで巻き込まれて「Cyagama☆」のBunとしてデビューする羽目に。
ちなみにタヌキさんは”Buku”。
二人合わせて”ぶんぶく”だってさ。
ネーミングセンス……。
ファンたちは、「L・O・V・E ちゃ・が・ま~♡」と絶叫し、応援Tシャツ&団扇で盛り上がる。
握手会は老若男女入り乱れての大盛況。
「Bunちゃーん!尊いっ!」
「Bukuたそー!バブみが深いー!」
いや、うん……わかるけど、落ち着いて?
***
ステージ裏で一息つきながら、ボクはBukuに切り出した。
「ねえ、Buku……そろそろ本来の流れに戻そうよ?お寺でのんびり暮らすのが君の幸せなんじゃ……」
すると、Bukuはそっとファンレターの束を見せてきた。
「でもね、ぼくの姿で勇気づけられてる人がいるんだよ……」
その中の一通が、妙に気になった。
やたら可愛らしい丸文字で綴られている。
《アナタは生きる希望を失っていたわたしの光なの♡ T.T.》
……いや中の人、明らかに黒幕パイだよね?
てか、今度はネカマかいっ!!
Bukuは「きっとかわいい子なんだろうな~会ってみたいな~」とニヤニヤしているけど、さすがに真実は言えない。
「いや、中の人、おっさんよ?」なんて。
でも、このままでは任務が終わらない。
「……ごめん、Buku。ボク、修復要員だから」
めちゃくちゃ心が痛んだけど、意を決してスキルを発動する。
「GO TO GO SHOE GEE」
すると、SNSのトレンド欄に「Cyagama☆のBuku、匂わせ疑惑!?」が炎上ワードとして浮上。
続々と拡散される、変な合成写真とデマ。
会場外では、ヲタ芸打ってたファンが「信じてたのに……」「裏切られた……」と崩れ落ちていた。
***
楽屋に戻ったBukuは衣装を脱ぎ、しょんぼりとした顔でただの茶釜タヌキに戻っていた。
「……ボク、やっぱりアイドル向いてなかったんだね」
「そんなことないよ。すごくキラキラしてた。でも、静かな暮らしに......本来の場所に帰ろう」
ボクはそう言って、「OTOGI DEBUG」でBukuの心のバグを修正した。
Bukuは静かにうなずくと、古道具屋に連れられてお寺へと向かっていった。
その背中はどこか晴れやかで、でも、ちょっと寂しげだった。
……ごめん。
でも、これしかなかったんだ。
ボクは拳を握りしめた。
***
ようやくナレーションが戻る。
『こうして、たぬきは、お寺で静かに暮らすようになり――』
任務完了。
これでボクも帰れる、と思ったその時。
「あのっ!」
ステージ裏に現れたのは、ロリータ服のかわいい女の子。
キラキラした大きな目でボクを睨みつける。
「Bukuちゃんの頑張りを邪魔するなんて、ひどいよ!」
「えっ!?いやいや、あの、それは事情が……」
一瞬、心がグサッとくる。
でも、ふと彼女の髪飾りに目が止まる。
そこには――黒いテントウムシ。
「……ごめんね。色々事情があるんだよ……パイちゃん?」
「アナタの勝手な都合でBukuくんを――はっ!?だ、ダレデスカソレ?」
「ゼータさーん!」
『了解っすー!』
異世界管理局の捕縛スキルが発動。
女の子アバターの“パイ”は、フワッと宙に浮いた後、スキルの縄に捕らえられて空中で静止した。
「ちょっとー!放しなさいよ!!」
可愛い見た目と裏腹に、野太い声が。
うん、地声に戻ってるね。
『……パイ。脳がバグるから、声か姿かどっちかに性別を統一してくれ』
困惑しつつも、アルファさんが冷静に指摘する。
「うわー、アルファってジェンダー差別しちゃう系だったんだ~?」
「い、いやそういうわけではっ」
「ま、いいや。このデータを押さえたところで、俺は捕まらないからねwww」
そう言ってパイは笑った。
でも――
「このデータから絶対捕まえてみせるんだから!」
シータさんの声に、ボクも一歩前へ出る。
「ボクたちが、物語の主役を、守ってみせるから」
パイは一瞬、ほんの一瞬だけ、寂しそうな顔をした……気がした。
***
異世界管理局の本部。
シータさんがパイのアバターデータログを解析している傍らで、ボクはお茶をすすっていた。
「……あのタヌキさん、またどこかでアイドルやってそうだなあ」
「Bunも、悪くなかったっすよ?」
ゼータさんが笑う。
「……もうやらないからね、あんなの」
苦笑しながらも、ボクの頬はほんの少しだけ、緩んでいた。
――次は、どんなバグが待ってるんだろう。
願わくば、もうちょっと心が痛まない話だといいな。
光に包まれながら、ボクは自分の世界へ帰った。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
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