第漆話:悪役モブで大食いバトル!?ツンデレ黒幕の精神攻撃(舌切り雀編)
「舌切り雀」なのに舌、切れません!!
転移先で“意地悪なおばあさん”役にされ、
さらに黒幕T.T.の精神攻撃!?
おにぎり大食いバトルに巻き込まれて、ボクのメンタルはもう限界です……。
……あーもう、ホントこれ無理。
なんでよりによって“意地悪なおばあさん”になってるの、ボク!?
異世界管理者さんたちの話では、本来は「雀のおちょん」として転移するはずだったっぽい。
なのに黒幕の干渉でデフォルトキャラを変更されましたって……。
これ完全に悪役じゃん!
しかも今回のお話はよりによって“舌切り雀”。
おちょんが糊を食べて、原作通りなら……うん、舌を切るやつだよね。
あの超トラウマ展開。
「無理無理無理、そんな残酷イベントやりたくないからっ!」
でも、おちょんはすでに糊(お米ベースの甘いやつ)をペロッとやっちゃってた。
炊きたてごはんで作られた自家製の糊。
その香りにつられたのは分かるけど、それを黙って食べちゃダメでしょ……。
原作を守らなきゃ、悪いことは叱らなきゃ、でもヒドイことはしたくない。
どうしようか迷っていると、視界の端にメッセージがにじみ出てきた。
《悪役モブになった気分はどうだ? これでも原作に忠実に演じられるか? ――T.T.》
……でた、黒幕。
「誰かが悪役にならなきゃ、話が進まない……でも……」
ボクは小声で呟いた。
生き物の舌を切るなんて、やっぱり無理!!
エグすぎるって!!
おとぎ話って、たまにホント残酷なんだよね……。
とはいえ、何もしないわけにもいかない。
物語は止まってしまうし、修正要員としての役目も放棄することになる。
どうしよう……あ、こんなときこそスキルじゃん。
「META PATCH、発動」
物語の条件を一時的に変更。
“舌を切る”行為を“お尻をちょっとだけペンペン”に置き換える。
もちろん、倫理的にセーフな範囲で、あくまで軽めの教育的指導だ。
「こら、おちょん!糊を食べたらダメでしょ!」
ペチン。
「ケチ!セクハラおばば!」
……うっ。
黒いモヤがぶわっとおちょんの羽から立ち上がり、彼女はバッサバッサと飛び去ってしまった。
「あーもう、ホントやだ……演じるだけって言っても、やっぱり言われるとキツい……」
地味に精神を削られる。
これ、物語修復ってより、メンタル耐久テストじゃない?
おじいさんが帰ってきたので、事情を説明。
優しいおじいさんは「そうかそうか、それは困ったのう」とうなずいてくれて、一緒におちょんを探しに行くことに。
***
「おじいさん、おばあさん、よくぞお越しくださいました!」
到着した「雀のお宿」は、木造の趣ある建物……かと思いきや、なぜか外観がド派手な旅館風。
ネオン看板で「雀の湯・本館」とか書いてあるし、フォントも妙に今風。
雀たちが大歓迎してくれて、何やら盛大な宴が始まる。
……でもなぜか、メインイベントは“おにぎりの大食いバトル”だった。
「なんで!?お年寄りにやめてあげて!!」
「でも、おじいさんはやる気まんまんみたいですよ!」
ノリノリで炊きたておにぎりを頬張るおじいさん。
対するは、お宿一の大食い・チュン太。
小柄なのに油断できないスピード系。
ボクも強制的に参加させられたけど、早々にリタイア。
気づけば、会場の片隅に立つおちょんが、マイク片手に実況を始めていた。
「一進一退の攻防!おっと、ここでチュン太が大口を活かして二個食いだ!」
おちょん、実況うまっ!!
「おじいさん、ついに覚醒か!?こ、これはまさか……無性にお腹が空くという伝説のチュンチュン式呼吸法!!」
え、なにその呼吸法!?
「な、なぜ人間が知っているの!?」
「あの呼吸法はめちゃくちゃ難しいんだ!おじいさんすごい!」
雀たちも大興奮。
まるでプロレス会場みたいな盛り上がり。
そして、例によってまた出てくるメッセージ。
《どうだ、エンタメ的に面白いだろう?改変は悪いことばかりではないのだ! ――T.T.》
「確かに面白いけど、この話でやるのおかしいから! エンタメは他所でやって!? 才能の無駄使いしてないで!」
《……え、才能ある?ホント?》
「へ?」
《……そ、そんな言葉で騙されないからな!T.T.》
「え、T.T.さんてツンデレなの?」
《う、うるさい! とにかくお前たちは俺の筋書き通りに演じればいいんだ!T.T.》
メッセージはパッと消えてしまった。
……なんだろう、やってることはダメだけど、この人どこか憎めないんだよね。
***
そしてついに、決着の時が訪れた。
「優勝は……おじいさん!!」
会場がどよめく中、雀界最強の称号と、大きなつづらが贈られる。
おばあさん(ボク)には参加賞のティッシュ。
なんという落差。
おじいさんは本来、小さなつづらを選ぶはずなのに、大喜びしちゃってる。
そのテンションのまま大きい方持って帰りそう。
これはマズイ。
ボクはすかさずスキルを発動した。
「GO TO GO SHOE GEE、発動」
「いやぁ、これはちょっと大きすぎるかな。小さい方に変えてもらえます?」
「さすが謙虚!」
「素敵!」
と雀たちが拍手喝采。
これが本来の流れ。
ようやく物語が整ってきた。
すると、おちょんがそっと近づいて来た。
彼女にまとわりつくモヤも、薄くなりつつあった。
「ありがとう……本当は、叱ってくれて嬉しかったの……」
その言葉に、ほんの少し、胸があたたかくなる。
演じるのがつらくても、伝わる気持ちがあるなら、まだやれるかもしれない。
ボクは「OTOGI DEBUG」で彼女の心のバグを修正。
黒いモヤがすっと消え、世界が安定する。
そしてナレーションが流れ始めた。
『むかしむかし、あるところに……』
物語が正しい流れに戻った瞬間だ。
これにて任務完了。
***
ボクの世界に帰還……ではなく、今回は異世界管理局に呼ばれた。
アルファさんたちが神妙な顔で迎えてくれる。
「すみません。T.T.の干渉、今回も防げませんでした」
「こっちの監視網もすり抜けられたっす……」
謝られたけど、ボクも原作通りに演じられなかったとしょんぼり。
でも、アルファさんは言ってくれた。
「君のその優しさが、OTOGIデバッガーには必要なんだ」
その言葉に、少しだけ救われた気がした。
そして、アルファさんはさらにT.T.の正体について語り始めた。
おそらく黒幕のT.T.は元同僚で、名前はパイ。
かつてシステムの中核を作った人物だそうだ。
「T.T.=π(パイ)。見ため的にも似てるっすね」
とゼータさん。
システムを作った人なら干渉も簡単にできちゃうよね。
「元同僚ならなおさら許せない!」
と、珍しくシータさんがブチ切れた。
「いったい何の目的ですかね?」
ボクが聞くと、アルファさんが言いにくそうに答えた。
「……あー、たぶんただの逆恨みとか憂さ晴らしだ。アイツ、そういうヤツなんだよ……」
「め、迷惑な!!」
ボクたちは異口同音にツッコんだ。
……あー、次に会ったらどうやって説得すればいいんだろう。
ボクは頭を抱えて、次の任務に想いを馳せるのだった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
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