第陸話:恩返しがブラック化!?鶴が社畜だった件(鶴の恩返し編)
「鶴の恩返し」、なぜか恩返しが社畜レベルのブラック労働!?
助けてくれたおじいさんに恩返ししようとしたら、案内されたのは謎の工場。
中では鶴たちが「株式会社ツル織物」で過労死寸前まで働かされてる!?
ボクのデバッガー人生、そろそろ労働基準法を導入したいです……。
……えーっと。
今のボク、なんか全身白い羽に覆われてるんだけど。
ていうか、脚、めっちゃ細長いし、手が翼だし、くちばしもあるんですけど!?
「……これ、もしかして鳥?」
そう思った瞬間、ガッシャンと音がして、視界が揺れた。
あ、ワナだ。
ガチの罠にかかった鳥、それが今のボクです。
そんなボクを罠から助けてくれたのは、優しそうなおじいさんだった。
「大丈夫かのう、鶴さん。かわいそうに」
あ、ボク鶴なんだ。
ご親切にどうも。
というかこれは。
「……あー、今回は“鶴の恩返し”か。はいはい、理解」
ボクは異世界管理局から強制召喚された“OTOGIデバッガー”、
バグったおとぎ話の修正要員。
しかも、今回の“主人公ポジ”は鶴なのね。
人外はお初だわ。
でも、きれいな娘に化けて恩返しに行くんだったよね?
と思ったら、姿が秒で村娘に変化した。
今のところ原作のままっぽいけど、今回はどんなバグがあるのやら。
ここまで来ると、面倒を通り越して楽しみになって来た。
黒幕の旅人も捕まえたいしね!
***
意気揚々とおじいさんの家に行くと、そこは落ち着いた古民家だった。
けど、案内されたのは家の裏。
「こっちじゃよ、鶴さん。こちらが作業場でしてな」
作業場? え、ちょっと待って。
そこには、明らかにおかしい建物が建っていた。
近代建築? ガラス張り?
しかも、建物全体が黒いモヤに覆われて、入口からして完全に怪しかった。
「え、何このモヤ。建物単位ってヤバっ……ってか、音もうるさっ!?」
中からはカシャンカシャンという無数の織機の音、
そして、かすれたスローガンのような声。
「今日も元気に恩返しィィ……」
「ツル織物、感謝と根性で織りまくれ!!」
いやいやいや、怖いって。
中を覗いてみたら、そこには大量の“鶴たち”がいた。
「なんでこんなに居るの!?」
しかも、全員顔色(羽色?)が悪い。
疲労困憊で目が死んでる。
「これはもう……社畜じゃん」
施設の看板には【株式会社ツル織物】。
ロゴマークの端には、見覚えのある小さな黒いテントウムシのマーク。
はい、出た。
黒幕の痕跡、毎度おなじみ。
「恩返しは命がけザマス!姿を見られても気にせず続けるザマス!」
とんでもないこと言ってるこの鶴が、工場長らしい。
“ザマス”も気になるけど内容がヤバい。
感謝は大事だけどやり過ぎじゃない!?
鶴たちは疲れ切っているのに、誰も反論しない。
完全に洗脳状態。
これ、みんなどう思ってるわけ?
ボクは気になって村を見て回った。
そしたらおじいさん、また鶴が化けてるらしき娘を連れてきてた。
これが鶴がたくさん居る原因か……。
村人たちは「ツル織物のおかげで村が潤ってます」と、むしろ歓迎ムード。
これはヒドイ。
デバッガーの役目もあるけど、純粋に何とかしてあげたくなってきた。
「META PATCH、発動」
ボクはスキルを使い、“鶴の機織りスキル”を自分に一時インストール。
そのまま工場に入り、働くふりをしながら、修正の隙を伺った。
その間にも、鶴たちはひたすら織り続けている。
ノルマの量も異常。
食事も仮眠も最低限。
これホント、ただのブラック企業。
恩返しの搾取です。
だめだ、これ以上見てられない。
強硬手段に出ちゃおう。
「GO TO GO SHOE GEE 発動!」
すると、強制的に全織機が一斉に故障。
よしよし。
狂ったようなスローガンが止まり、騒然とする工場内。
その混乱に乗じて、社長室に忍び込む。
***
デスクの上には、妙なメモが置いてあった。
『ハートフルな話なんてつまらん!』
『お前らも社畜にしてやる!』
『この世界では俺こそが神だ!』
うわ、口調が完全にアレだ。
この世界をバグらせてる黒幕、あの“旅人”だわ。
さらに、今回はメモの片隅に署名らしき文字があった。
【T.T.】
おお、黒幕さん主張激しくなってきた。
むしろ特定されに来てない?
前回、特定されないようにわざわざアバター変えてきてたのに、ブレブレじゃん……。
そう思いつつ引き出しを漁ると、鶴たちの“契約書”を発見した。
うん、やっぱり超ブラックな内容だった。
「恩返し=無限労働」って対価がおかしいから!
「OTOGI DEBUG」で呪いを解除し、ボクは鶴たちに話しかけた。
「ねえ、恩返しってさ、本来は気持ちから出るものでしょ?強制されてするもんじゃないよ」
黒いモヤが、少しずつ鶴たちの体から抜けていく。
「みんなの優しい気持ちは素敵だけど、搾取されちゃダメでしょ?」
目の光が戻ってきて、戸惑いながらも、ぽつぽつと本音がこぼれる。
「恩返し……したかっただけなのに……」
「でも、いつからか、よく分からなくなって……」
その中心にいた一羽の鶴が、ボクの前に歩み出た。
「わたし、思い出した。おじいさんに命を救われたときの、あの気持ち……」
彼女が涙を流すと、まるで連鎖するように、他の鶴たちも一斉に光に包まれ、工場ごと黒いモヤと一緒に消えていった。
気がつけば、元のおじいさんの家に戻っていた。
おじいさんも元に戻ったみたいで、夢から覚めた顔で目をパチパチさせている。
そして、その家の縁側にはただ一羽だけの鶴が座っていた。
「……ありがとう」
優しく微笑むその顔は、どこかほっとしたようだった。
『むかしむかし、あるところに……』
本来のナレーションが流れ出す。
ようやく物語が元に戻った。
ボクもほっとした気持ちで帰還の光に包まれた。
***
――その頃、異世界管理局では。
「やった!ついにバグのコードパターン見つけた!」
シータがガッツポーズしていた。
「解析したら署名が残ってたっす。メモと同じっすね」
ゼータが表示した画面には”T.T.”の文字が浮かんでいる。
「……T.T.。どこかで見たような気がする。それにあの言動も……」
アルファが静かに目を伏せてつぶやいた。
「アルファさんのお知り合いっすかね?」
さらにデータを解析しながら、ゼータが首をひねる。
「なーんか、誘導されてるっぽくないっすか?」
「わざと正体を見破らせようとしているのか……」
「え、じゃあコードつかまされたってこと!?悔しい!!」
プリプリと怒るシータを宥めつつ、アルファは解析データに視線を落とした。
「相手の思惑が何であれ、捕まえて止めさせるぞ」
おとぎ話世界を守るため、三人は決意を新たにする。
しかし、そんな彼らを、モニター越しに覗いてほくそ笑む存在が居ることに、彼らはまだ気づいていなかった……。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
この短編集は、和風ファンタジー×ギャグな「おとぎ話バグってる!?」の世界ですが、
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