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第伍話:サイズ変更パッチで姫を救え!!(一寸法師編)

小さなお椀に箸の櫂、超短気なミニ主人公、一寸法師くん登場。

まさかの「代理で活躍してきて」ってどういうこと!?

もう、メンドクサイって言うことすらメンドクサくなってきたよ……早く帰って寝てたい。

またしても異世界管理者の手によって、気づけば見知らぬ場所に立っていた。

どうやら今回は「一寸法師」らしい。

目の前には、物語の通りの光景が広がっている。


「お椀の船に箸の櫂、か……」


澄んだ川の水面に、ポコンと浮かぶ小さなお椀。

その上に、背丈三センチほどの人影。

うわ、本当にいた。

よくあんなんで転覆しないよね。

おとぎ話の主人公って、時々無茶な装備で平然と旅をする。


ボクは思わず見入っていた。

が、次の瞬間――


「ムリムリムリ!都目指す!?は!?無理ゲーじゃんそんなの!!やってられないっての!!」


彼はお椀をガッと岸に引き上げると、パタリと寝転んで、天を仰いで叫んだ。

その姿は、物語で伝え聞く勇敢な一寸法師とは似ても似つかない。


(……あー、やっぱりバグってるな、これ)


お約束の展開に、ため息しか出ない。

毎度毎度、どうしてこうも主人公の性格がねじ曲がっているのか。

これも黒幕の仕業なのだろうか。


* * *


そっと近づいて声をかけると、一寸法師は飛び上がって驚いた。


「あんた誰!?めっちゃ怪しいんだけど!?」

「いや、えっと、怪しい者じゃなくて――」


ボクは慌てて両手を振って見せる。一応、敵意がないことだけは伝えないと。


「それ、怪しいやつがよく言うセリフだよね?」


うぐっ、的確なツッコミに言葉が詰まる。

この一寸法師、見た目は豆サイズで可愛いのに、中身はけっこうキレ味ある系か……。

口も達者だ。


「ていうか、あんたも無理だと思うでしょ?だってぼく、このサイズだよ?しかも、不安定なお椀に箸の櫂。マジで死ねる」


彼はふてくされたように寝転がったまま続ける。


「でもさ、その方法選んだの、君じゃないの?」


ボクがそう指摘すると、彼はむくりと起き上がった。


「思いついたときは、いけると思ったんだよ!」


はい来ました、反省ゼロなやつ!

開き直りがすごい。

今回は短気でワガママ系主人公になってんのか。

ボクは頭を抱えた。


(今回もまた、性格に問題アリの代役パターン……)


早く終わらせて元の世界に帰りたい、というのがボクの本音だ。

都は、あそこに見えている。

ボクの足ならたいした距離じゃない。


「じゃあ……ボクが君を都まで連れて行こうか?」


とりあえず、物語を進めるためには都に行ってもらわないと。


「えー、それズルじゃない?」

「……じゃあどうするの?」


ボクが呆れてそう言うと、一寸法師は腕を組んでうーんと唸った。


「うーん、ぼくはお金持ちになって、おじいちゃんおばあちゃんに孝行したいわけ。そのために武士になって、都で一番大きな屋敷に雇ってもらおうと思ってんの」


うん、一応、目的は原作と一致してるっぽい。

でも――次の言葉にボクは耳を疑った。


「だから、あんたがぼくの代わりに活躍してきて?」

「……は?」


思わず間の抜けた声が出た。


「ぼくの名前で、代わりにがんばってきて?」


一寸法師はそう言うと、小さい体のメリットを活かし、モジモジしながらきゅるんきゅるんの瞳を輝かせてお願いしてきた。


この子、小さいくせに図々しさ特盛かよ。

しかも、そのくりくりした目で上目遣いしてくるの、反則なんですけど。


(か、可愛い……! )


一瞬流されそうになる自分を叱咤する。

うっかり「……まあ、いいか」とか思いかけた自分が悔しい。

優柔不断な性格は、こういう時に損をする。


「いやいやいやいや、なんでそうなる!?そっちの方がズルじゃない!?」

「え~?細かいことは言いっこなしで。……あ、よく見たらあんた、ぼくと同じ服じゃん!コスプレ?ファンだったの?早く言ってよ~!」


一寸法師はボクの服装を指さして言った。


「え?」


そう言われて自分の服を見る。

あ、確かに。


(そういえば……“主人公の代理”で召喚されてるんだった。服装まで再現されてるの、忘れてた……)


「代役にピッタリじゃん。これって運命でしょ?」


あー、めんどくさ。

でも、そのとき――

彼の背後にふわりと立ち上る、黒いモヤモヤ。


うわ、キタコレ。

一寸法師が小さすぎて黒いテントウムシマークは確認できないけど、あるね、絶対。


「OTOGI DEBUG、発動!」


ボクは一寸法師に手をかざして唱えてみる。


「え、なに!?」


と再び驚く一寸法師を、いつものレベルアップみたいな効果音と共に光が包む。

でも、モヤはちょっと薄まっただけ。

根本的には解決してない。

やっぱり、心の闇を軽くしてからじゃないとダメっぽい。


「はあ、わかった。とりあえず都まで行くよ。でも、君も着いて来てよね」


ボクは仕方なくそう告げた。


「イエッサー!」


まったく、調子が良いんだから。

結局、断り切れずに引き受けてしまった。


とりあえず、一寸法師を懐に仕舞って、都を目指す。

たぶん一時間もかからないだろう。


* * *


そしてやって来た、都で一番大きな屋敷の前。

すると、慌ただしく駆け回る使用人たちの姿があった。

しお湯人の一人に事情を聞くと、どうやら姫様が鬼に攫われたらしい。


「マジか!……ちょ、展開早くない!?」


これって、一寸法師が雇われてしばらくしてからの話じゃなかったっけ?

バグってるせいで、もうフラグが先に走り出してる……。


「大変だ!姫様を助けて!……あんたが!」


懐の一寸法師が、他人事のように言ってくる。


「……いや、それこそ無理ゲーなんだけど!?」


桃太郎の時と違って、今回は家来もいない。チート装備も無し。

どんだけハードモード?

せめて一寸法師がやる気になってくれれば……。


すると、そのとき――


『新しいスキル、試してみるといいっすよ!』


ゼータさんの声が脳内に響く。

異世界管理者の彼らは、いつもどこかで見ているらしい。


スキル表示が現れる。

見たことのない名前。


《META PATCH》


メタパッチ?これが新しいスキルか。


「世界のルールを一時的に上書きできるスキルっす!一寸法師のサイズ、大きくできるっす!」


あ、なるほど。


「ねえ、君さ、大きくなって自分で姫様を助けた方が、ヒーローっぽくてカッコよくない?」

「え?うーん……まあ、たしかに、そんな奇跡が起こればね」


一寸法師は少しだけ乗り気になったようだ。


「じゃあ、奇跡、起こしてみようか――META PATCH、発動!」


キュイーーーンというエレキギターみたいな効果音と共に、一寸法師にモザイクエフェクトがかかる。

そして、徐々にそのシルエットが大きくなっていき――やがて、ボクと同じサイズに。


「なにこれ!?ぼく、大きくなってる!?すごっ!なんで!?」


目を丸くして自分の体を見下ろす一寸法師。


「悪いけど、時間ないの。細かいことはいいから、行くよ!」


ボクはそう言って、鬼が根城にしているという山を目指して走り出した。

そのボクの後ろを、一寸法師が頼もしい足取りで追いかけてくる。

上手くいくといいけど。


* * *


山奥の洞窟。

中では、姫様が二匹の鬼に囲まれていた。


「さあ、観念しろ……!」

「大人しくしてなよ、お姫様!」


(うわ、わりとガチで悪いやつらだな、今回)


見た目もガチで鬼。

姫様も怖いだろうけど、正直ボクも怖い。


だが、一寸法師は怯まない

サイズが変わったことで、自信も湧いてきたのかもしれない。


「姫様には指一本触れさせない!!」


そう叫ぶと、持っていた針の剣(※通常サイズなので、もはや小太刀)を構え、鬼へ突進。

渾身の一撃が、鬼の肩に突き刺さる!


「ギャッ!?」


とわめいて一匹、退散!


「な、なんだお前!?……ぐわっ!?」


驚くもう一匹にも飛びかかり、華麗な身のこなしで撃退!

うんうん、原作の一寸法師っぽい大活躍!


「や、やった……!」


一寸法師は自分の力で鬼を打ち破り、姫様を救い出した。

腰を抜かしている姫様を助け起こしたそのとき――彼の体が、ふわりと光に包まれ、再び元のサイズへ戻っていく。

どうやらスキルの効果時間が切れらしい。


「……ぼく、ちゃんとやれたよね。おじいちゃんとおばあちゃん、喜んでくれるかな」」


その笑顔には、迷いがなかった。

自分で姫様を助けたことで、一寸法師の自己肯定感はすっかり回復したっぽい。

これならスキルが効くはず。

ボクは再び『OTOGI DEBUG』を使用し、一寸法師のモヤを完全消去した。

これでようやく、心のバグが修正された。

あとは打ち出の小槌を鬼から回収して、姫様が一寸法師を大きくするっていう流れになればOK、のはずだった。


が――


「お、お前は……!」


洞窟の奥から、黒いフードの旅人が打ち出の小槌を持って逃げ出してきた!

金太郎の母を攫った盗賊の隠れ家で遭遇した、怪しい旅人に違いない。

こいつが黒幕だ!

ボクは即座に反応した。


「待てえええええええ!!」


奴を追いかけて走り出したけど、逃げ足が速すぎて追い付けない。


「主人公なんかに捕まるものか!」


と吐き捨てて、旅人は速度を上げながらバカにするようにニヤリと笑う。


(くっ……悔しい!)


と、そのとき――

一寸法師が、ひょいっとボクの肩から飛び上がり、針の剣を構えた。


「一寸法師!いけぇぇぇ!!」

「とりゃああああ!!」


蜂のような勢いで飛びかかり、そのまま弧を描くように落下して――旅人のふくらはぎに、ズブリ。

針の剣が見事に突き刺さる。


「いってええええ!!?」


突然の痛みに驚いて、旅人は前のめりにコケた。

そして、ふくらはぎを押さえて転げ回る。


「痛たたた……何が起きた!?」


転がった勢いで、フードの下の顔が露わになった。

ところが――


「あれ?……顔も声も前と違う!?」

「アバターだよ、バーカ!」


うわ、やられた。

毎回好きに変えられるってことか。


(犯人、特定できないじゃん……!)


おとぎ世界の旅人は、本物の黒幕とは顔も声も違うってことだよね。

これじゃ前回作ったモンタージュ、役に立たないじゃん……。


まあでも、今捕まえちゃえば何か進展あるかも。

そう思って、ボクは旅人ににじり寄った。

けど、捕まえられるようなスキル、あったっけ?

この状況を見ているはずの時空管理人ならわかるかな。


(あの、ゼータさん、どうすればいいですか?)


ボクは心の中で話しかけた。


『あ、今こっちで捕縛できるように作業してるっす!』

『注意逸らして、そのまま引き付けておいて~!』


シータさんの声も聞こえた。

引き付けておけって……なんか話をしないと。


「ねえ、なんでこんなことするの!?」


ボクは問いかける。


「なんでだって!?はん!主人公なんて、全員不幸になればいいからだよ!みんな俺の描いた物語で踊れえええ!」


え、よくわからないけど逆恨みっぽい?

すっごいくだらない理由がありそうだけど、闇は深そう。


そのとき、ゼータさんの声が聞こえた。


『もう少しで捕獲準備終わるっす!』


(OK、もうちょい粘る!)


ボクは再び旅人に話しかけた。


「でもさ、それってさ、なんか……寂しくない?」


ボクがそう言うと、旅人は嘲笑った。


「寂しくなんかないとも。それより、俺の物語を邪魔するなぁ!!」

「いや、あの……」


ううっ、次、なんて言おう?

ゼータさんたち、まだかな?

ソワソワしているボクを見て、奴が何か気付いたらしい。


「はーん?時空管理局の奴らが何かコソコソやっているようだな」

「……!!」

「だが、俺を捕まえようなんて百年早い。こっちも無策で来ているわけじゃないのさ!」

「え!?」

「LOADING ERROR、発動――!」


バチバチッと世界がノイズに包まれ、目の前に『LOADING...』『ERROR 404:黒幕が見つかりません』の文字が浮かぶ。


「ちょ、何これ!?動けないんだけど!?」


バグが収まったときには、黒幕の姿はもうどこにもなかった――。


『クソッ、あと少しだったのに……!』


ゼータさんの悔しそうな声が響く。


逃げられた。

……でも、打ち出の小槌だけは残された。


空間が揺らぎ、ナレーションが戻ってくる。


《一寸法師は鬼から取り返した打ち出の小槌で大きくなり、姫と結婚して幸せに暮らしましたとさ》


原作通りのナレーションが流れてきた。

バグは修復されたみたい。


『任務完了。お疲れ様でした』


任務はどうにか完了したらしい。

でも、また黒幕を逃がしてしまった……。

光に包まれて、時空管理局へ転移する。


* * *


「……また逃がしちゃって、すみません」


ボクが謝ると、アルファさんが静かに首を振った。


「いや、今回もよくやってくれた。君に危険が及ばなくてよかった」


アルファさんが静かに言ってくれて、ちょっとだけホッとする。


「捕獲用のコード、もう少しだったんすけど……作業が間に合わなくて申し訳なかったっす」


と、ゼータさん、珍しくテンション低め。


「ほんっとに憎たらしいやつ!次はもっと準備しっかりしておくわ!」


シータさんが悔しそうな声で言った。


「それにしても、黒幕の“主人公への執着”、どんどん露骨になってきてますね」


ボクが言うと、アルファさんが頷く。


「奴は随分と主人公と言う存在を恨んでいるようだな」

「ですよね。なんでですかね?」

「主人公にひどい目に合わされたとかっすかね?」

「理由はともあれ、おとぎ世界を壊すのはNGでしょ!」


シータさんの言葉に、みんなで頷き合う。


巻き込まれるのは正直今でも納得してない。

でも、小さい頃に親しんだ物語が壊されるのは、なんか嫌だ――


(今度こそ、絶対捕まえてやるから)


次こそはと誓って、元の世界に帰還した。


* * *


その頃、どこかの暗い一室で。


「これ以上の邪魔はさせない……これは、俺による、俺のための物語だ」


パソコンのブルーライトに照らされた黒幕の低い声が、静かに響いていた。

その画面には――黒いテントウムシが一面に映し出されていた。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

この短編集は、和風ファンタジー×ギャグな「おとぎ話バグってる!?」の世界ですが、

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