第肆話:マザコン腹巻きの呪い!?陰キャ金太郎のパワーアップ大作戦(金太郎編)
力自慢で勇猛なはずの金太郎が……ひ弱な陰キャ!?
なんか腹巻きに謎の黒いテントウムシがいるし、動物たちにいじられまくってるし……。
……あー、今回も面倒くさそう。
ボクのデバッガー人生、マジでいつまで続くのやら……。
……目が覚めたら、山中の家の中だった。
なんか木造の家っぽい?
畳の上で寝てたみたい。
うん、和室。懐かしい匂いがする。
「あー……またなのね……」
はい、来ました。
"おとぎ話世界"転移。
もう慣れたけど、それでも毎回うんざりする。
ボクの頭の中に、いつものバグりナレーションが響く。
『昔、アシ柄山に……(ガガッ)……金タ郎といウ……(ノイズ)……とてモ強いコドもが……(ガガガッ)』
うん、金太郎ね。
ボク、今は金太郎になってるってことよね。
立ち上がって鏡を見たら……赤い腹巻きしてる。
体は……あれ?マッチョじゃないじゃん。
顔も体も、いつものボク。
金太郎って、めちゃくちゃ強い子どもだったよね?
え、この体でクマと相撲とか無理ゲーなんだけど……。
「金太郎ー!朝ごはんよー!」
あ、お母さんの声だ。
金太郎のお母さんってことは……山姥?
いや、普通のお母さんっぽい声だけど。
「はーい……」
とりあえず返事して、居間に向かう。
そしたら、普通のおばさんがいた。
山姥って言うほど怖くないじゃん。
エプロンつけて、優しそうな顔してる。
「金太郎、今日も元気に遊んでおいで」
「あ、はい……」
うん、普通のお母さんだ。
「あ、そうそう。今日も動物たちが遊びに来るって言ってたわよ」
お母さんがそう言った途端、外からガヤガヤ声が聞こえてきた。
「きんたろー!遊んでやるから出て来いよ!」
「今日も負けっぷりに期待 笑」
「あはは、また泣かせちゃうかもー!」
……え?
なんか、すごいいじられてない?
(……ッ!)
その時、ボクの体がなぜかビクッと震えた。
頭の中で、「ヒッ!」って叫び声も聞こえた気がする。
なんだこれ?
よくわからないまま、とりあえず外に出てみたら、サル、ウサギ、タヌキがいた。
みんなボクより大きくて、なんかガタイがいい。
特にサルなんて、筋肉モリモリじゃん。
えー、可愛いやつ期待してたんだけどなあ……。
「よー、きんたろー!今日も遊んでやるよ!」
サルがボクの肩をバンバン叩く。
痛い。めっちゃ痛い。
「あの……相撲……ですか?」
「相撲?ぷっ、お前が相撲なんてできるわけないだろー!」
「きんたろーは弱っちいからなー!」
「今日も鬼ごっこで逃げ回るだけだろー!」
……あ。
これ、完全にいじめられっ子じゃん。
動物たちはボクを囲んで、ケラケラ笑ってる。
どうやら今回のバグは、金太郎が「ひ弱な陰キャ」になってるっぽい。
力自慢どころか、動物たちにいじられてる。
てか、本人どこ行った?
「あー……もうやだ……」
ぼやきながら何気なく腹巻きを見て、ふと気づく。
赤い腹巻きに、小さな黒いワンポイント。
よく見ると……黒いテントウムシ?
あ、これまたアレじゃん。
例の「黒幕の痕跡」ってやつ。
かぐや姫の時も、桃太郎の時もあったやつ。
しかも、ボクの体の周りに、薄っすら黒いモヤモヤが見える。
さっき鏡を見たときにはなかったはずなんだけど。
どうなってんの?
自分にこれが仕込まれてんの、初めてのパターンだわ。
とりあえず、動物たちをやり過ごすか。
「あの……ボク、今日はちょっと……」
「何だよー、また逃げるのかー?」
「きんたろーは根性なしだなー!」
動物たちがボクを取り囲んで、からかい始める。
うわー、めんどくさい……。
全力でスルーしたいけど、一応、デバッガーとしての役目があるし。
……納得したわけじゃないけど、やらないと帰れないからね。
「あー……まあ、一応やりますか……」
今回は「OTOGI DEBUG」スキルで腹巻きを浄化すればいいのかな?
で、腹巻きに手を伸ばそうとしたら――
「だめ!」
金太郎(つまりボク?)が突然声を上げた。
え、なに?自分で自分を止めた?
あ、もしかして。
金太郎の意識もこの体の中にあるのかな?
見た目はボクっぽかったけど、本来は金太郎の体なのかも。
うん、これも初めてのパターンだわ。
これはこれで、めんどくさいな……。
(これは……お母さんからもらった大切な腹巻きなんだ……誰にも触らせない……)
金太郎の声が頭の中で響く。
なるほど、マザコンか。
お母さんからのプレゼントだから、浄化されるのを嫌がってるのね。
「あの……でも、それが、君が強くなれない原因だと思うんだけど……」
(嫌だ!触らせない……大切なものなんだ……)
うーん、困った。
本人が嫌がってちゃ、スキル使えないじゃん。
***
そんな時、森の奥からドスドスと足音が聞こえてきた。
動物たちがビクッとして、ボクの後ろに隠れる。
え、こんな時だけ盾にするの、やめれる!?
「う、ウソだろ……クマじゃん……」
サルが震え声で言う。
え、クマ?金太郎の友達のクマ?
でも、森から出てきたのは……人型のクマ、じゃなくて、クマみたいなおじさんだった。
毛深くて筋肉モリモリで、なんか盗賊みたいな格好してる。
完全に悪役じゃん。
「おい、金太郎!」
クマ(仮称)がボクを指差す。
うわ、声も低くて怖い。
「お前の母ちゃんを攫ったぞ!取り返したければ、俺様の隠れ家まで来い!」
「え!?お母さんを!?」
え、何の目的で!? 意味が分からないんだけど……。
ボクが驚いてると、金太郎の意識もパニックになる。
(お母さん……お母さんが危ない……でも……オイラ、弱いし……でも……お母さんを助けなきゃ……)
金太郎の中で、葛藤が生まれてる。
大切なお母さんを助けたい気持ちと、自分の弱さへの不安。
「あの……」
ボクは恐る恐る金太郎に話しかける。
「この腹巻き、浄化させてもらえない?多分、これが君を弱くしてるんだと思う」
(でも……これはお母さんからの……)
「お母さんを助けるためだよ。きっと、お母さんも君が強くなることを望んでる」
しばらく沈黙。
それから、小さく頷く感覚があった。
(……わかった……お母さんのためなら……)
よし!
ボクは腹巻きに手を当てて、スキルを発動。
「OTOGI DEBUG、発動!」
腹巻きから黒いモヤモヤが消えて、黒いテントウムシも消滅する。
同時に、ボクの体を覆っていた黒いモヤも晴れた。
途端に、体の中から力が湧いてくる。
筋肉が膨らんで、身長も少し伸びた気がする。
(うわあ……なんか、すごい力が湧いてくる!!)
金太郎の意識も、明るく快活になった。
(よし!お母さんを助けに行くぞ!)
金太郎は本来あるべきキャラに戻ったっぽい。
でも、まだ任務完了の表示が出ない。
あー、ボクと金太郎、融合したままだもんね。
ということは、まだやることがあるってことか。
「動物たち、一緒に来て!」
ボクが振り返ると、さっきまでボクをいじめてた動物たちが、ビビって後ずさりしてる。
「え……でも……」
「きんたろー、急に強そうになってる……」
「マジかよ……」
「大丈夫!ボクがみんなを守るから!」
動物たちは一瞬顔を見合わせて頷き合って、一緒に来ることに同意してくれた。
みんなにちゃんと、強い金太郎を印象付けないとね。
***
それから、ボクたち一行はクマの隠れ家に向かった。
途中、ボク(金太郎)は木を持ち上げて筋トレしたり、岩を割ったりして、めきめき強くなっていく。
動物たちも、最初はビビってたけど、だんだん「すげー!」「かっこいー!」って応援してくれるようになった。
そして、クマの隠れ家に着くと、その奥でお母さんが縛られてた。
「お母さん!」
「金太郎!来ちゃダメよ、危険だから!」
「大丈夫!ボクが助けるよ!」
ボク(金太郎)はクマを睨んで言った。
「相撲で勝負しろ!ボクが勝ったらお母さんを解放するんだ!」
「がははっ!いいだろう。ひ弱な金太郎が俺様に勝てるわけないけどな」
そして、クマとの相撲勝負が始まった。
でも、パワーアップしたボク(金太郎)の敵じゃない。
クマを投げ飛ばして、あっという間に勝利。
「うぐぅ……こんなはずじゃ……」
クマが倒れると同時に、ボクと金太郎の体が分離した。
「え!?……だ、誰!?」
「きんたろーが二人!?」
「いや、知らない人間出てきた!!」
「あ、どうも……」
みんなめちゃくちゃ驚いてる。
ですよねー……。
でも、金太郎だけは冷静だった。
「キミがオイラを助けてくれたんだね!ありがとう!」
泣きながら感謝された。
うん、悪い気はしない。
みんなとそんな会話をしていたら、洞窟の奥から人影が現れた。
フードを深くかぶった、怪しい旅人。
「ちっ……また失敗か……」
その旅人、ボクを見て吐き捨てるように言った。
「主人公なんてクソくらえだ!正義の味方気取りやがって!」
え、なにそれ。
なんか、すっごい恨みがましい声。
「あ、待って――」
ボクが声をかけた時、旅人は振り返った。
フードの下から、一瞬だけ顔が見えた。
若い男性。
でも、目がすごく冷たくて、憎しみに満ちてる。
そして、その人の服にも、小さな黒いテントウムシのワンポイント。
あ、この人……!
「まさか、おまえが黒幕――」
でも、旅人はもう逃げ出してた。
めちゃくちゃ足が速い。
「待てー!」
ボクも追いかけたけど、山の奥深くに入り込まれて見失ってしまった。
くそー、惜しかった……。
『任務完了。お疲れさまでした』
あ、やっと完了の表示が出た。
物語が正しい流れに戻ったってことかな。
気がつくと、周りの風景がゆらゆら歪んで、元の世界に戻ってく。
***
あれ?元の世界じゃなくてここ、「OTOGIデバッガー」に選ばれて最初に来たとこだ。
異世界管理局、だっけ?
「お疲れさまでした」
3人の異世界管理人のうちのひとり、アルファさんが現れた。
今回は一人だけ?
「今回の旅人について、得られた情報を教えていただけますか?」
「あ、はい。黒いテントウムシのワンポイントがありました。顔もちょっとだけ見ました」
「それは素晴らしい。では、頭の中にその顔をイメージしてください」
「あ、はい」
さっき見た顔を思い出す。
すると、アルファさんの手元のタブレットに変化があったみたい。
「OKです。モンタージュが生成されました」
わお、すごい技術。
「他に情報は?」
「ええと……」
ボクは旅人の恨みがましい言葉を伝える。
「『主人公なんてクソくらえ』って言ってました。なんか、正義の味方を異常に憎んでるみたいです」
アルファさんが眉をひそめる。
「なるほど……興味深い情報です。ゼータとシータも調査していますが、その人物のデータは巧妙に消去されています」
「でも、確実に近づいてるってことですよね?」
「ええ。必ず正体を突き止めます」
アルファさんがそう言うと体が光り、ボクは今度こそ元の世界に戻った。
***
自分の部屋のベッドの上。
いつもの天井。
「あー……今回もお疲れさまでした、ボク……」
でも、なんか今回はちょっと進展した。
旅人の正体が少し見えた感じ。
あの憎しみに満ちた目……なんでそんなに正義の味方を恨んでるんだろう?
そんなことを考えてたら、眠くなってきた。
「次はどんなおとぎ話なんだろうなー……」
もう巻き込まれること前提につぶやいて、ボクは目を閉じた。
ボクのデバッガー人生は、まだまだ続きそうだ……。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
この短編集は、和風ファンタジー×ギャグな「おとぎ話バグってる!?」の世界ですが、
もし「和風」「巻き込まれ体質主人公」「ドタバタ&ちょっぴりシリアス」な物語が好きな方は、
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