第参話:推しアバターがボクだった件!?引きこもり姫攻略(かぐや姫編)
かぐや姫が引きこもりVtuber!?
月に帰るどころか、御殿からも出てきません!!
ガチ恋勢貴族たち&帝に、「盛りすぎアバター」なボクが代役で求婚される……って、何それ?
しかも、ロゴの端っこに見覚えある虫が……?
ボク、まためんどくさい物語に放り込まれてるよ……。
……ボクは今、竹林の中で困惑していた。
というのも、なぜかボクの姿が――
「ピカピカで、キラキラで、フワッフワな十二単もどき」になっていたからである。
しかも、髪は銀に染まり、肌は発光してるレベルで白い。
盛り盛りのツケマに、ツヤツヤのリップ。
見えないけど、たぶんそんな感じのメイクをしている感覚がある。
首元には、三日月の形をしたネックレス、開いた襟ぐりと袖口には純白のレース。
そして胸元には派手なロゴ――
《ときめき☽KAGUYA☽ちゃんねる》
……あれ? なんかアイドルっぽくない?
っていうか、Vtuber風のロゴっぽい?
これは……誰を演じさせられてる?
まさかこれが「かぐや姫」……!?
「おおおおお……!こ、これは! これぞまさしくKAGUYAちゃん!!」
「かぐや姫の理想そのもののお姿じゃ!!」
突如、茂みの向こうから駆けてきたのは、
パリッとした着流し姿の、でもスマートウォッチを装備したおじいさんと、
和柄パーカーでタブレット持参のおばあさんだった。
「お、おじいさん、おばあさん……ですか?」
「間違いない……この外見、この衣装、月ロゴ……ビジュアル盛り盛りアバターそのもの!!」
「え?アバター!?」
「『ときめき☽KAGUYA☽ちゃんねる』のKAGUYAちゃん、まさか……リアルに降臨!?」
「まさかこんな奇跡が起こるとは!!神の思し召しじゃ!」
いやいやいや、待って。
何かの勘違いでは?
ボク、今この姿にさせられただけで、Vtuberじゃないんだけど!?
てか、この世界のかぐや姫、マジでどうなってんの!?
「……いや、ボク違いますって。通りすがりで、たまたま似た姿にされて――」
「そんな……完璧な再現度じゃないか……!」
「KAGUYAちゃん本人以外ありえないわ!」
……えー、今回こんな感じ?
毎度毎度、主人公としてバグったおとぎ話に放り込まれて、「OTOGIデバッガー」としてバグの修正をさせられているボク。
異世界管理人とかいう3人組(アルファさん♂、ゼータさん♂、シータさん♀)が、この状況をモニターで監視してる。
困ったときは一応助けてくれるんだけど、正直、バグ修正も自分たちでやって?って感じ。
おじいさんとおばあさんの話によると、どうやらここは、おとぎ話世界の中でも”ネット文化が進化しすぎた竹取の里”らしい。
黄金に輝く竹から現れて、おじいさんとおばあさんに育てられたところまでは元の話の通りだったんだけど、それがなんでVtuber?
「かぐや姫はある時を境に、急に引きこもりになってしまってのう。でも、Vtuberになってからは本当に楽しそうで」
おじいさんがニコニコと説明してくれる。
「KAGUYAちゃんは、今やこの国を代表するVtuber様。普段はあの奥の御殿に引きこもって配信してるのよ」
おばあさんが指差したのは、竹林の中の月形アーチの先――
まるで天守閣付き配信スタジオみたいな屋敷だった。
「じゃが、ちと問題が起きておりまして」
おじいさんが、いかにも困ってますっていう顔でボクをチラ見してくる。
……嫌な予感しかしない。
「KAGUYAちゃんのガチファンの貴族と帝が、かぐや姫に求婚してきたのですじゃ」
あ、ここも原作の通りなのね。
ちょっとひょうし抜け。
「それの何が問題なんですか?」
「それが……」
おばあさんが口を開きかけたその時、御殿の中からかぐや姫のものらしき声が漏れてきた。
「求婚ラッシュとか、ムリムリムリ!外とか出られないし~!顔面盛れてないし~!!アバターでしか喋れないのにぃ~!!」
「……この通り、かぐや姫は重度の引きこもり。誰にも会いたくない、結婚なんてしないと言っているのよ……」
「それに、今はVtuberとしてノリにノッている時。わしらとしても、結婚はもうちょっと先にして欲しい気持ちもありますのじゃ」
「なるほど……」
……このかぐや姫、めちゃくちゃ引きこもってる上に、完全にVtube依存症だ。
うん、今回もだいぶバグってるわ。
「お願いです!姫はもう限界です。求婚者たちの対応、代わっていただけませんか……!」
おばあさんが、必死に訴えてくる。
いや、なんでそうなるの!?
姫を更生させようよ!?
「いやいや、KAGUYAちゃんねるとか見たことないし!代役とかムリですって!!」
「でもそのお姿、完璧にKAGUYAちゃんです!かぐや姫本人よりも!」
「本人より!?」
「かぐや姫も可愛い娘ですが、アバターは更に盛り盛りにしておりますからのう」
「だから、むしろあなたこそが適役なんです!」
そんな勝手な……って、え、二人して泣きそうな目で見てくるのやめて?
「……はぁ、しょうがない。ちょっとだけね? ほんっと、ちょっとだけだからね!?」
こうして、ボクはかぐや姫の代役として、貴族たちの求婚イベントに巻き込まれることになった。
***
「第一の求婚者、石作皇子~!」
やってきたのは、全身月デザインの和装で、腰に痛々しいKAGUYAちゃんキーホルダーをジャラジャラぶら下げたガチオタ貴族だった。
「KAGUYAたん……この度は、ご尊顔を拝見できて……人生、悔いなし……!」
「あ、えと……」
「KAGUYAたんの生声!!……語彙力消失……控えめに言って天使……」
…この人、ダメだ。
「第二の求婚者、車持皇子~!」
現れたのは、ポエムを小脇に抱えたナルシスト貴族。
開口一番、自作の歌を朗読し始める。
「KAGUYA姫……あなたは銀河の詩。わが魂の流星群……」
「ちょっと待って、語彙が重い!あと“流星群”ってそれ燃え尽きて終わるやつだからね!?不吉!!」
「第三の求婚者、阿部御主人~!」
がっしりとした武骨な男。
地面にひざまずき、真剣な眼差しで刀を差し出してくる。
「この命、あなたのために……どうか受け取ってください……!」
「いやいやいや!物騒!!プロポーズに命差し出してくるのやめて!?メンタルが重い!!」
「第四の求婚者、大伴大納言~!」
部下たちを引き連れ、贈り物の山を築くように積み上げる。
金、宝石、果ては高級ゲーミングチェアまで。
「KAGUYA殿、これぞ我が誠意。足りぬ物があれば、何でも追加しますぞ」
「課金で押し切ろうとしてきてる!!そういうの一番苦手だから!愛はサブスクじゃないの!!」
「第五の求婚者、石上麻呂~!」
スキンヘッドでサングラス、口調が完全に陽キャ系。
「YO!KAGUYA姫、俺っちと宇宙の果てまで行こうぜ!ラップと愛でノリ乗りっしょ!」
「えーと、うるさい。あと韻が雑!何も踏めてないから!勢いだけでゴリ押しすな!!」
「最後の求婚者、帝――!!」
荘厳な衣装をまとった帝が、重々しい足取りで登場する。
背後には自前の雅楽BGM(楽師まで連れて来たんかいっ)。
「我が后となれ、KAGUYAよ。共にこの国を治めよう。配信は週三まで許可しようぞ」
「政とか超メンドクサイ!!てか配信ペースを制限してくる時点でムリ!!時代錯誤の極み!!」
……うん、無理。
このメンバー全員、ボクの精神衛生に悪い。
かぐや姫のファン、キャラ濃すぎじゃない!?
***
そんなこんなで貴族5+帝イベントをこなした頃、ボクは既にMPがゼロだった。
「はぁ……疲れた……ご都合主義スキル、もう発動してくれてもいいんじゃない?」
『ピコーン!条件ヲ満タシマシタ。スキル「GO TO GO SHOE GEE」発動可能デス』
来た!
胡散臭いスキル名なのに、めちゃくちゃ頼れるやつ!
「……発動」
発動と同時に、配信会場(という名の御殿)がまばゆい光に包まれ、
中から一人の少女が姿を現した。
それは――本物の、かぐや姫。
だけど、見るからに「中の人感」満載で。
パーカーにスウェット、目元にはクマ、でも顔立ちは確かに可愛らしい。
「……あれ……あなた……?」
かぐや姫は、ボクの姿をじっと見つめた。
「そ、その姿……わたしの理想通り……」
「いや、ボク、偶然こんな格好させられただけで……」
「……すごい……本物より本物……わたしがわたしを推す日が来るなんて……」
なんか泣きそうになってるし!?
でも、よく見ると――かぐや姫の背中に、うっすら黒いモヤ。
胸元の《☽KAGUYA☽ロゴ》の脇には、小さく黒いテントウムシのマーク。
もはや毎度おなじみ。
これ絶対なんかあるよね?
「ねえ、かぐや姫……このロゴ、誰が作ったの?」
「うーん……昔、この里に旅人が来て……気力を失ってたわたしに、Vtuberになったらどうかって勧めてくれたのね。で、その人が、全部手伝ってくれて、ロゴもその時に……」
「その人って……今は?」
「わかんない……突然、いなくなっちゃったの。まあ、旅人だったし。あいさつもなくっていうのは寂しかったけど。お礼も言えなかったし」
「なるほど……」
情報、ここで打ち止めか。
でも、それで十分。
とりあえず、姫のバグを修復しないとね。
「ちょっとごめんね?……その黒いモヤ、ボクが消してあげる」
「え……?」
「OTOGI DEBUG、発動」
『チャラララッチャラ~ン♪』
右手をかざすと、レベルアップのような効果音とともに、光が姫をふわりと包み込む。
黒いモヤもロゴの虫も、ふっと消えた。
そして――
かぐや姫の顔立ちが、徐々にアバターそっくりの美少女に変化していく。
「……これが……わたし?」
「うん。盛ってるんじゃなくて、それこそがキミの本当の姿みたいだよ」
かぐや姫は嬉しさを噛みしめて、小さく微笑んだ。
景色が揺れ始める。
竹林が月光に照らされ、風が吹き抜ける。
『昔々、あるところに、竹取の翁と媼がおりました。ある日、光る竹から、美しい姫が生まれました――』
やっと、物語が正常に戻った。
***
「任務完了。お疲れ様でした。これより、元の世界へ転送開始します」
おなじみのアルファさんの声とともに、光がボクを包む。
いつもの部屋、いつものベッド。
まぶたの裏に、かぐや姫の笑顔が残ってる。
「……推されるのも、悪くないかも……」
でもやっぱり――
「ボクは、推す側でいたい……たぶん」
***
そのころ、異世界管理室にて。
「黒いテントウムシ、今回はロゴか。ずいぶん目立つやり方をしてきたな」
管理部門責任者のアルファが苦い顔をする。
「さすがにやりすぎ感あるっすね~。俺たち挑発されてんすかね?」
飄々と答えるのは、システム保守&現場担当のゼータ。
「どこからハッキングしてんのか、そろそろ調査本格化させるべきかもね~」
ジェルネイルにライトを当てながら、情報解析&事務処理担当のシータがぽつりとつぶやく。
暗いモニターに浮かぶ月と、黒い虫のシルエット。
その影は、確実にボクたちの物語に迫っている――。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
この短編集は、和風ファンタジー×ギャグな「おとぎ話バグってる!?」の世界ですが、
もし「和風」「巻き込まれ体質主人公」「ドタバタ&ちょっぴりシリアス」な物語が好きな方は、
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