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第弐話:きび団子ポイント!?de企業鬼退治!(桃太郎編)

「きび団子ポイント」ってなに? 家来とフリーランス契約!?

企業経営するおばあさん、電子契約のイヌ・サル・キジ、そして鬼ヶ島はまさかの“鬼ヶ都市シティ”。

え、これって桃太郎だよね?

もう、どこからどうデバッグすればいいのか分かりません……。

川の流れに揺られる桃の中。

ボクは何度目かの「バグったおとぎ話の主人公」をやらされる運命についてぼんやり考えていた。

異世界管理人とかいう3人組から半ば強制的に押し付けられた任務。


今回は”桃太郎”らしい。

「おとぎ話補修要員"OTOGIデバッガー"」。

それがボクの"使命"だとか。

いや、ホント誰か代わって……。


耳元でバグったナレーションが流れる。


『昔々アル所に……(ザザッ)……』


前回よりマシかと思った瞬間、桃が岸に激突。

ゴトゴトと持ち上げられる。


「でけぇ桃だな」


という低い声。

年配の女性?


「手が滑りそ……っ!ぎゃああっ!!」


桃が落ち、転がされ、静かになった。

たぶん、おじいさんとおばあさんの家だろう。

桃が割られ、ボクが出て「桃太郎」と名付けられるはずだ。


「おい、おじいさん!桃持って帰ってきたよ!」

「おお、でけぇ。どこに落ちてた?」

「川で休憩中にタバコ吸ってたら流れてきた」


タバコ休憩!?

おばあさんは川で洗濯中じゃ……。


「社長のアタシの取り分が3分の2ね!」

「へいへい」


おばあさんの口調も声もイメージと違う。

そもそも「社長」って何!?


ジャキッという音に身構えるが、桃の中ではどうしようもない。

ズバッ!桃が割れ、視界が開けた。


目の前にはスーツ姿で髪を染め、ネームホルダーを下げた60歳前後のおばあさん。

片手にはタバコ。


「あれ?桃の中に赤ん坊が……?」

「お、おはようございます……」


ボクはしどろもどろに挨拶した。


「おじいさーん!桃の中、流暢にしゃべる赤ん坊入ってたよー!」


スリッパの音と共に現れたのは、七分丈パンツにTシャツ姿の男性。


「おお!マジで赤ん坊」


意外と冷静な二人。

これならしゃべってて大丈夫か?


「……あの、ボクはその……」

「ありゃ本当だ。桃からしゃべる赤ん坊とはねぇ」


おじいさんはのんびり言う。


「というわけで、お前、名前は?」


おばあさんが尋ねる。


「桃から生まれたんだから、桃太郎じゃん!」


おじいさんが勝手に言う。


「ダッサい!もっとちゃんとしたのにしなよ!」


おばあさんがツッコむ。古臭いと。

まずい、話が変わる。


「ボクは『桃太郎』でいいです」


慌てて口を挟んだ。


「そう?まあいいか。決まりね」


おばあさんはタバコを灰皿に押し付けた。


「よろしく、桃太郎くん。ウチに住むなら、うちのルールに従ってもらうよ」

「お世話になります」


ボクは頭を下げた。


「自己紹介遅れたわね。あたしは吉備キヨコ。きび団子サービスの社長」


ネームホルダーには「株式会社きび団子サービス 代表取締役 吉備キヨコ」とある。


「で、こっちがうちの旦那。吉備マツオ」


「よろしくね~桃太郎くん~」


マツオさんはやる気がない。


「マツオはね、アタシの養ってる"ヒモ"みたいなもんよ」


うん。これ、かなりバグってる。

いやもう「改変」だよ。

おじいさんとおばあさんのキャラ変、会社経営設定……またデバッグが大変そうだ。


***


あれから一週間。

ボクはものすごい速さで成長し、高校生サイズに。

今は吉備家の一員だ。

吉備家は予想以上の豪邸。近代的な和モダンな感じで、食事も豪華絢爛だ。


「当たり前よ!うちのようなお金持ちが、粗末な食事なんて出せないでしょ」


キヨコさんが鼻高々に言う。

マツオさんは優雅に新聞を読んでいる。

この生活は最高だが……。


「ところでキヨコ、きび団子サービスの方はどう?」


マツオさんが尋ねた。


「順調よ。でも今日、大きな依頼が入ってるの。鬼退治よ」

「!」


ボクはご飯を喉に詰まらせた。

来た、桃太郎の鬼退治展開!


「この依頼、あんたにやってもらおうと思ってたんだけど」


とキヨコさん。

ボクに!?


「心配いらないわ。うちの会社には優秀なフリーランサーが登録しているから」


キヨコさんは棚から桐箱を取り出した。


「はい、これあげる」


中には黄色い団子が三つ。


「きび団子よ。うちの会社の名物商品」


普通のきび団子と違い、中心に小さな丸いものが埋まっている。


「特別なきび団子。食べると力がみなぎるのよ」

「まさか、これで鬼と戦うんですか?」

「違うわよ。それは"契約用"のきび団子」


お、これは家来が来る流れ!?

キヨコさんはスマホを取り出し、「きび団子サービス・フリーランサーマッチング」というアプリを起動。


「今回の依頼は難易度高めだから、最高ランクの三人を呼ぶわね」


「マッチング成功!」という音と共に、画面に三人のプロフィールが表示された。


「イヌ、サル、キジ……うん、この三人ね」


薄々気づいてたけど、家来って動物じゃなくて人なの!?

しかも、フリーランスなの!?


「そう。彼らがうちの会社の"三種の神器"よ。最強の家来たち」


ピンポーン!とチャイムが鳴り、マツオさんが玄関へ。

複数の足音と共に三人の男性が入ってきた。


イヌは犬耳と尻尾があって眼鏡の執事風男性。

サルは長い尻尾があって筋肉隆々なマッチョ男子。

キジは背中に羽があってくちばしが付いてるイケメン(でもシュール)。


「はじめまして、桃太郎様。私はイヌと申します」

「よろしくな!オレはサル!力仕事ならまかせろ!」

「……キジだ。戦略と先導が専門だ」


……なんていうか、もはや「バグ」の定義が分からない。


「なんでボクがご主人様なの!?契約もしてないよ?」

「あら、だからきび団子をあげたのよ。相手がきび団子を受け取ったら、それが契約承諾になるの」


とキヨコさん。


「はい、ご主人様」


イヌが頭を下げる。


「きび団子は私たちにとって最高の報酬です。特に吉備様のきび団子は別格」


「そうそう!あのきび団子食うためなら、鬼十匹でもぶっ飛ばすぜ!」


サルが拳を振り上げた。


「……契約書にサインを」


キジがスマホの電子契約書を差し出す。

あ、一応、契約書も必要なのね?

もうこの流れに身を任せるしかないっぽい。


よく見たら、契約書の端に小さな黒いテントウムシのマークがある。

なんだろこれ?

そういえば、今までデバッグしたおとぎ話でもちょいちょい見かけたな。

なんとなく嫌な予感がしたけど、とりあえずサインした。

「契約成立」と表示された。


「じゃあ、仕事の説明をするわね」


キヨコさんはタブレットに映像を映した。


「これが今回の依頼先、ONI ON LING(オニ オン リング)という会社よ」


映し出されたのは高層ビルが林立する未来都市。

サイバーパンクな雰囲気だ。


「ここが……鬼ヶ島?」

「そう。最近は"鬼ヶ都市(オニガシティ)"って呼ばれてるわ」

「で、この会社のCEO、鬼之助」


画面には角が生えたイケメン経営者。


「ONI ON LINGは、鬼族による経済的独立を目指すベンチャー企業。最近までは順調だったんだけど……CFOの鬼姫が巨額の資金を持って失踪したの。彼女、CEOの恋人だったのよ」


ふむふむ。

もはや何も突っ込まないよ。


「そして一週間前から、ONI ON LINGが急に方針転換。違法ギリギリの商売を始めたの。被害者も出始めてるわ」


失恋した鬼之助が暴走したって?

いや、公私混同しちゃだめでしょ……


「そこで、鬼之助を止めるために、あなたたちを送り込むわ」

「ちょ、ちょっと待って!なんでボクが行かなきゃいけないの?」

「あら、あなたが"きび団子"を持ってるからよ。それにこの三人、あなたがいないと働けないの」


キヨコさんは「きび団子ポイント管理システム」というアプリを見せた。


「このシステム、イヌ、サル、キジの働きに応じて、リアルタイムでポイントが加算されるの。そのポイントで、彼らは追加のきび団子がもらえる。で、このポイント管理、"きび団子の持ち主"しかできないの。つまり、あなた」


うわー、逃げられないやつ。


「わかったよ……行くよ、鬼ヶ都市」


こうして、ボクの完全にバグっている「桃太郎」の鬼退治が始まった。


***


鬼ヶ都市は、タブレットで見た映像よりもっとすごかった。

高層ビルが立ち並び、ネオンが輝き、テクノミュージックが鳴り響く。


「……ONI ON LINGの本社はあそこだ」


キジが指差した先には、ひときわ高い黒いビル。

上部は鬼の角を模した形状だ。


「ビルへの侵入ルートを確保します」


とイヌ。


「ONI ON LINGは来客対応を停止。セキュリティが非常に厳重です」

「つまり、強行突破するしかねぇってことだ!」


サルがガッツポーズ。


一行は裏通りからビル裏手のサービス用入り口へ。


「電子ロックですね……」


イヌがスマホをかざすと数秒で扉が開いた。


「これで+10きび団子ポイントです、桃太郎様」


ボクはスマホのアプリでポイントを追加した。


中に入ると荷物置き場。

奥には廊下が続く。


「警備ロボットとセキュリティカメラがあります」


とイヌ。


「私が先に行く」


キジは慎重に廊下を進み、レーザーセンサーや落とし穴を次々と見破り、避ける方法を示す。


「さすがキジ!+15ポイント!」


ボクがポイントを加算すると、キジは少し嬉しそうだった。


「お、お前ら!ロボットだ!」


サルが指差した先には機械のロボット犬が数匹。


「こいつは任せろ!」


サルは鉄棒のような棒で次々とロボット犬を叩き壊していく。


「おおぉ!すごい!+20ポイント!」


三人の活躍で、ボクたちは最上階のCEOオフィスの前に到着した。


「……中から、おかしな音が聞こえる」


キジがドアに耳を当てた。

ボクも耳を当てると、うめき声と、黒いモヤのようなものがドアの隙間から漏れている。

覚悟を決め、ドアを開けると、部屋は黒いモヤに覆われていた。


「……誰だ……?」


弱々しい声。

モヤの奥から現れたのは――やつれた鬼之助だった。

首には黒いテントウムシのタトゥーが刻まれている。

このマーク、おとぎ話界隈で流行ってるのかな?


「うぅ……鬼姫……なんで……」


鬼之助は膝から崩れ落ちた。

周りにはさらに濃い黒いモヤが渦巻く。


「大丈夫。ボクに任せて」


こういう時、ボクがやることは一つ。


「鬼之助さん。ボクは桃太郎。あなたの話を聞きに来ました」


鬼之助は虚ろな目でボクを見つめた。


「鬼姫は……どこへ行ったんだ……」

「それは分かりません。でも、あなたがこんなことをしていても、彼女は戻ってこないと思いますよ」

「……じゃあ、どうしろって言うんだ……」

「まずは、その黒いの、どうにかしましょう」


ボクは右手を鬼之助にかざし、スキル「OTOGI DEBUG」を発動。

手のひらから淡い光が放たれ、黒いモヤがみるみる消えた。

ついでに、なんかタトゥーも消えた。

なんで?


「あ……れ……?」


鬼之助は自分の体を見回す。

部屋のモヤも晴れ、明るい光が差し込む。


「なんだか……スッキリした……」


CEOの心のバグは修正完了か。


これで一件落着、かと思いきや、物語のバグが直らない。

「任務完了」のアナウンスがない。

本物の桃太郎と接触しないとダメなのかな?

途方に暮れていると、脳内にAIのアナウンスが響いた。


「条件ヲ満タシマシタ。スキル“GO TO GO SHOE GEE”ノ使用ガ可能デス」


ゴートゥーゴ……ご都合主義ってこと!?

無理やりすぎない!?

胡散臭いけど他に方法もない。


「……発動します」


まばゆい光が降り注ぎ、浄化されるような効果音。

光が消えると、鬼之助がポンと手を打った。


「そういえば……!鬼姫の部屋の金庫の中に、やけに大きな桃があったような……」


ご都合主義、キターーー!!

鬼之助に案内され、鬼姫の私室だった部屋へ。

奥の頑丈そうな金庫の扉が開くと、その中には――。


「あった!大きな桃!」


本当にあった。

ボクが桃に手を伸ばそうとした瞬間、再びAIのアナウンスが。


「キーアイテムノ回収ヲ確認。コレヨリ物語ノ修復ニ入リマス。3……2……1……」


***


周囲が歪み、気が付くとボクは最初にいた川の岸辺に立っていた。

目の前には洗濯をしているおばあさん。

川上からは大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてくる。

脳内のナレーションもクリアだ。


『昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。おばあさんが川で洗濯をしていると、川上からどんぶらこどんぶらこと、大きな桃が流れてきました――』


うん、これぞ桃太郎。

完璧に修正されたみたいだ。


「任務完了。お疲れ様でした。元の世界にお戻りください」


もはや聞き慣れた異世界管理人・アルファさんの声と共に、ボクの体は光に包まれた。


***


元の世界、いつものボクの部屋。

ベッドの上にドサッと落とされる。


「……終わった」


今回も疲れたが、なんとかなった。

それにしても、あの黒いテントウムシのマーク……。

何か気になる。

でも、深く考えるのはやめよう。

これ以上の面倒ごとはごめんだし。


***


その頃、異世界管理システムのモニタールームでは――。


「今回のバグにも、例の黒いテントウムシの痕跡が確認されたな」


アルファが冷静に報告する。


「やっぱり、あれがバグの元凶なんすかねぇ?」


ゼータが頭を掻く。


「気付かれずに仕込めるほどのスキル持ち、ちょっと厄介かもね~」


シータはスマホをいじりながら呟いた。

謎は深まるばかり。


どうやら、ボクの「おとぎ話デバッグ」は、まだまだ続くらしい。

あーあ、本当に勘弁してほしい……。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

この短編集は、和風ファンタジー×ギャグな「おとぎ話バグってる!?」の世界ですが、

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