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第壱話:はじまりのおとぎバグ(浦島太郎編)

第壱話の舞台は「浦島太郎」――

でもカメがリクガメで、乙姫がガチムチのオネエ様!?

ボクの巻き込まれ人生、開幕です……。

「……あー、なんか超面白い話ないかな……」


ボクは、ゆる~い日常を送るイマドキの高校生。

自慢じゃないが、仲の良い友達もいない。

学校帰り、今日も今日とて、特に何をするでもなく駅前のベンチでスマホをいじっていた。

刺激的な面白い話を求めてはいるけど、自分で体験したいわけじゃない。

春のうららかな陽気と、平和な日常。変わらない毎日。

それでいい。それがいい。


はずだったんだけど……。


『ピロリン♪おとぎ話補修要員”OTOGIデバッガー”、選定完了。管理エリアへの転送を開始します』


不意に、どこからかAI的な音声が聞こえてきた。

その瞬間――。


「うわっ!?」


突然、足元がおぼつかなくなり、ボクは目の前に現れた大きな穴にストン。

いや、待って。なんで?

ボク、ただ座ってただけだよね?

誰か押した……わけないよね!?え、なにこれ心霊現象!?


混乱するボクの意識は、そこで一度途切れた。


***


次に目を開けると、そこは見知らぬ近未来的な一室。

ボクは、そこに置かれた台の上に横になっているらしかった。

天井は高く、メタリックの壁に囲まれ、空中には複数の巨大モニターが浮かんでいる。


ふと視線を感じて、顔を横に向けると、いかにも未来人っぽい制服?の男女が三人。

真ん中の男性が、やけにキリッとした顔でボクを見ている。


「目覚めましたか。気分はいかがですか?」

「え、あ、はい……って、誰!?」


思わず飛び起きる。

ここどこ!?ていうか、あなたたち誰!?


「我々は異世界管理者とでも名乗っておきましょうか。私はアルファ。こちらはゼータとシータです」


アルファと名乗った男性は、クールなできるサラリーマン風。

その隣にいるノリが軽そうな男性がゼータ、反対側にいる今どき女子っぽい女性がシータらしい。


「異世界……管理者?え、何それ、中二病的な?」

「端的に言いますと、様々な並行世界を管理しています。そして、あなたにはおとぎ話世界の崩壊を防ぐため、そちらの世界に”主人公として”入っていただくことになりました」

「は?いやいや、意味わかんないし!ボク、ただの高校生だよ!?なんでボクが!?」


ボクの必死の抗議もむなしく、アルファさんは淡々と続ける。


「あなたは、おとぎ話補修要員、通称”OTOGIデバッガー”に選ばれたのです。おめでとうございます」


てか、通称ダサっ!!

誰だよ決めたヤツ!?


「いやいや、全然めでたくないんだけど!?ていうか、ボクに主人公やらせるとか、選定システム、バグってるでしょ、絶対!」

「バグではありません。”刺激的で面白い体験”をお求めになったのでは?」

「は!?いやいやいや、聞きたかっただけ!!自分で体験するのはマジ勘弁なんですけど!?」


叫んだけど、三人はそれには答えず揃って笑顔で拍手。


「いやー、よかったっす!」

「これで残業減るわ!ありがと~!」


もうやだ、この人たち、ボクの話聞いてる?

さらに文句を言おうとしたら、足元がまたしてもぐにゃり。

視界が歪む。

うわ、これ、さっき穴に落ちた時と同じ感覚……。


「いざとなれば俺たちも介入しますし、ナビにしたがって”OTOGI DEBUG”ってスキル使ったら、だいたい大丈夫っす!


ゼータさんが親指立ててニカッて笑う。

何にも考えてなさそうな能天気な笑顔。

むしろ不安しなかいんだけど!?


「それでは、早速ですが第一の任務です。舞台は『浦島太郎』。健闘を祈ります」


アルファさんのその言葉を最後に、ボクの意識は再び暗転した。


***


「……げほっ、ごほっ!ぷはっ!」


次に気づいた時には、ボクは砂浜に打ち上げられていた。

いや、正確には、誰かを助けようとしてなんとか浜辺に引っ張り上げた後、ちょっと気を失ってたらしい。

そんな記憶がうっすらある。

目の前には、甲羅をしょった……カメ?


「だ、大丈夫ですか?恩人殿!」

「……え?あ、うん……って、カメが喋った!?」


そしてカメをまじまじと見つめて思う。

もうツッコミどころ多すぎるんだけど!?


「助けたカメ……って、リクガメ!?ウミガメじゃないんかいっ!!」


そう。

ボクが助けた(そして溺れかけた原因である)カメは、どう見ても陸棲のカメだった。

しかも、子供たちからいじめられてるのを助けるんじゃなくて、溺れてるのを助けるという……。


で、それにしてもよ。

なんで”ボク”が助ける流れになってるの!?

”主人公として”って、浦島太郎の代わりってこと!?


そんなボクの混乱をよそに、会話は続く。


「あの時は本当にもうダメかと。助かりました~」

「てか、なんで溺れてたの?」

「いやあ、実は泳ぎは苦手でして……」

「え、カナヅチなの!?まあ、リクガメだもんな。そりゃそうか……てか、竜宮城からどうやってここまで来たの!?」

「いえ、竜宮城から来たのではなく、リクガメの国から船で来たんです」

「……マジか……」

「竜宮城に一度行ってみたくて、カメ界隈で有名な伝説を頼りにここまで来たんですが、トラブルで船が沈んでしまいまして、あなたに助けられた次第です」


もはやどこから手をつけていいのやら。

とりあえず、このリクガメくん(仮称)に連れられて、ボクは半信半疑のまま海の底……ではなく、海辺の洞窟の中にある長い階段を下りた先の広場、そこに建てられた、なんかこう、きらびやかなネオンが光る建物へとやってきた。


看板にはデカデカと「竜宮城」の文字。

……うん、まあ、竜宮城なんだろうけど。

海底の楽園設定、どこ行った!?

これもバグの影響なのか……


てか、それよりも問題は……


「誰だよ、竜宮城が楽園って言ったの!?乙姫様は絶世の”美女”じゃないの!?オネエ様なんて聞いてないんだけど!?」


ボクは思わず洞窟に響き渡る大声で叫んだ。

そう、そこはオネエ様たちが甲斐甲斐しく接客してくれる、きらびやかな飲食店(健全なお店)だったのだ。

そして、極めつけは。


「あらぁん、新しいお客さん?かわいらしいじゃないのぉ~」


ものすごいガチムチのオネエ様が、ウィンクと共に登場。

ピンク色をした薄手のきわどい衣装に濃い目のメイク。

ネイルもバッチリ。

耳には黒いテントウムシのピアス。

……この人が、乙姫様らしい。


その乙姫様を見たリクガメくん。


「あ、私、ちょっと用事を思い出しました。今日はこれで失礼します……」


とか言って速攻で逃げやがった。

おいこら、カメ!!命の恩人置いて行くな!!


そして、なぜかこの乙姫様(男)にめちゃくちゃ気に入られてしまったボクは、手厚い(物理的にも精神的にも濃厚な)もてなしを受け、帰してもらえそうにない雰囲気に。

やばい、このままじゃボクの貞操(?)が危ない!


途方に暮れるボクを見かねたのか、一人のオネエ様(比較的ノーマルに近いタイプ)がこっそり教えてくれた。


「乙姫様の私室にある『玉手箱』を手に入れれば、ここから強制退店できるわよ。頑張って」


マジか!ありがとう、名も知らぬオネエ様!あなたは恩人だ!


乙姫様はじめ、わらわらと群がる追っ手のオネエ様たちを必死にかいくぐり、ボクは乙姫様の私室に侵入。

きらびやかな部屋の奥に、それはあった。

怪しげなオーラを放つ、漆塗りの黒い箱。

これか、「玉手箱」!


おじいちゃんになったらどうしよう……という恐怖と戦いつつ、ボクは意を決してその場で箱を開けた。


眩い光と共に、ボクの体は地上へと強制送還された。

やった!帰れた!


***


……と思ったのも束の間。


「お疲れ様です。第一段階クリア、といったところでしょうか」


目の前には、涼しい顔で拍手するアルファさん。

そして、相変わらず軽いノリのゼータさんと、なぜかタブレットでボクの活躍(?)をリプレイしているシータさん。

え、見てたの?マジか。


「残念ながら、バグを修正しない限り、元の世界には帰れないんですよぅ~」


てへっ、と言いながらウィンクするシータさん。

うん、まあ可愛いけど。

騙されないからね!?


「はぁ!?聞いてないんですけど、それ!」

「申し訳ありません、説明不足でした。バグの修正方法や帰還条件の詳細は、我々にも不明な点が多く……」


アルファさんが飄々と答える。

全然”申し訳ない顔”じゃないんですけど!?


「無責任すぎでしょ!」


どうやら、このおとぎ話の世界には、本来の「浦島太郎」が存在するらしい。

そいつがちゃんと亀を助けるイベントを発生させないと、物語は修正されないとのこと。


「で、その本物の浦島太郎はどこにいるの?」

「情報によると、都で何やら悩みを抱えてくすぶっているようっすね!がんばってくださいっす!」


と、ニコニコ笑顔のゼータさん。

めっちゃ他人事だよね!?


……はぁ。

結局、ボクがなんとかするしかないってことね。

こうしてボクは、カメ(リクガメじゃない、本物のウミガメ)を助けるべき張本人、浦島太郎を探しに都へ向かうことになった。

めんどくさいことこの上ない。


***


都で聞き込みをした結果、浦島太郎は意外とあっさり見つかった。

なんかこう、人生に絶望したような暗いオーラをまとって、路地裏で酒をあおっていた。

絵に描いたようなダメ人間っぷりだ。


しかもそのオーラ、比喩じゃなくてホントに見えてんの。

あれだ、マンガとかで「ドヨーン」ってなってるコマによく描いてある、黒いモヤモヤ。

道行く人たちは無反応だから、ボクだけ見えてるみたい。

これも”OTOGIデバッガー”の能力?

(やっぱり名称ダサいツライ……)


「あんたが浦島太郎?ちょっと一緒に来てくれない?」

「……あぁ?なんだ、お前さん。見ての通り、こちとら落ち込んでんだ。ほっといてくれ」


聞けば、彼は漁に出ても全く魚が獲れず、村の人たちからは役立たず扱いされ、好きな女の子にもバカにされて、生きる希望を失いかけているらしい。

なるほど、それで闇落ちしてたんか。


「……まあ、元気出しなよ。あんたがいないと始まらない物語もあるよ、多分」


ボクは、なぜかちょっとだけお節介な気持ちになって、浦島太郎の悩み相談に乗ってやった。

具体的なアドバイスはできなかったけど、ひたすら話を聞いて、励ました。

人間、誰かに話を聞いてもらうだけで、少しは楽になるもんだ。……多分。


「お前さんだけだよ。俺の相手をしてくれるのは……ううっ……」


浦島さん、ポロポロと涙をこぼして男泣き。

ボクはちょっとかわいそうになって、その震える肩をポンポンしてやる。

すると、彼の着物の裾から何かが這い出てきて、サッと飛び去った。

なんだろう、虫かな?



その時、ボクの頭の中に、またしてもあの胡散臭いAI音声のナレーションが。


『ピロリン♪浦島太郎の心が癒され、闇が軽減しました。条件を満たしたため、スキル”OTOGI DEBUG”が使用可能です』


お?これが噂のバグ修正能力か。

ネーミングセンス死んでるけど。

てか、テキトーにやってみたけど、バグ修正ってこんなんでOKなのか……

まあいいや。とりあえず、使ってみよう。


「OTOGI DEBUG、発動!」


ボクがそう叫ぶと。


『チャラララッチャラ~ン♪』


なんかゲームのレベルアップみたいな効果音が聞こえた。

と同時に、浦島さんを眩しい光が包み込んだ。

全身を覆っていた黒いモヤのようなものがフワッと霧散していく。

その表情は、みるみるうちに明るく精悍な顔つきに変わっていった。


「……なんだか、体が軽くなったような……。よし、もう一度浜へ出てみるか!」


おお、なんかやる気になってる!

これはイケるんじゃない?


ボクは彼を浜辺へと連れて行った。

すると、タイミングよく、子供たちが一匹のウミガメをいじめている場面に遭遇。

これって、本来の話の流れに戻ってるってことだよね?


「おい、お前たち!弱いものいじめはよしなさい!」


おおっ!浦島太郎がちゃんとカメを助けた!

すると、助けられたウミガメがペコリと頭を下げ、海の方を指差した。


次の瞬間、浜辺から浦島太郎もウミガメも子供たちも忽然と姿を消してしまった。

そして、海面がまばゆい光を放ったかと思うと、スクリーンみたいになった。

そこには、きらびやかな竜宮城と、そこで歓迎される浦島太郎の姿が映し出されていた。

うん、今度はちゃんと美女の乙姫様と、楽しそうな宴会の様子だ。


これにて、一件落着……ってことでいいのかな?


「任務完了。お疲れさまでした。これで元の世界にお戻りいただけます」

「お疲れ様っす!経験積めば、他のスキルも使えるようになるっすよ!」

「おつかれ~!新しいスキル、楽しみにしててね~」


安心したようなアルファさん達の声と共に、ボクの体は再び光に包まれた。


***


気づけば、ボクはいつもの駅前のベンチに座っていた。

スマホの時計は、穴に落ちる直前の時刻を指している。

まるで、何もなかったかのように。


「……夢、だったのかな」


でも、あの奇妙な感覚と、妙な疲労感は確かに残っている。


「……また巻き込まれるとか……ないよね?」


そんな不吉な予感を口にしたボクの頭に、どこからともなく声が響いた。


『昔……あルとコロに……(ガガッ)……』


……ほらね?やっぱりだよ。


周りの景色が不自然に揺らぎ始めた。

ボクの、とんでもない「おとぎ話旅」は、どうやらまだ始まったばかりらしい。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

この短編集は、和風ファンタジー×ギャグな「おとぎ話バグってる!?」の世界ですが、

もし「和風」「巻き込まれ体質主人公」「ドタバタ&ちょっぴりシリアス」な物語が好きな方は、

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