第拾話:干支がバグって現実まで改変された件!?猫が一位で鼠が消えた!(十二支のはじまり編)
ついに最終話!
カレンダーから子年が消え猫年がトップに!?
黒幕パイの改変で神様役になったボク。
パイの意外な動機とは?
衝撃の結末と新たな任務!?
もう、やめたげてええええ!!
「……は? ね、ネズミ年がないんだけど!?」
自室のカレンダーを二度見、いや三度見したボクは、自分の目を疑った。
そこにあるべきはずの「子年」の文字が、綺麗さっぱり消えていた。
代わりに、一番上に鎮座しているのは「猫年」。
いやいやいや、猫って十二支にいたっけ!?
ボクの知ってる干支と違うんだけど!
ピリリリッ!
不意に鳴ったスマホ。
表示は”アルファさん”。
「もしもし、ボクです……って、やっぱりそっちの仕業ですか!?」
『ご明察、と言いたいところだが、今回は我々も後手に回っている。例の黒幕、パイの手によって「十二支のはじまり」の物語が改変された。影響は君の世界にも及んでいるようだ』
「みたいですね……ボクの干支、ネズミなんですけど……」
『……そうか。それは、なんというか……災難だったな。すぐにこちらへ来てもらいたい。例の世界、ロックがかかっていて解析に手間取ったが、ようやく解除できそうだ』
「はいはい、わかりましたよ……」
ため息とともに了承すれば、足元にはお馴染みの転送陣が光る。
もう慣れたもんよ。
◇◇◇
「で、今回のボクの役は?」
異世界管理局のモニタールーム。
ゼータさんとシータさんが慌ただしくコンソールを叩いている。
「今回は神様っすね! レースのやり直しを宣言してもらうっす!」
ゼータさんが親指を立てる。
「パイのやつ、システムに巧妙に潜り込んで、私たちも気づかないうちに改変してたみたいなの!もうっ!」
シータさんが頬を膨らませる。
アルファさんが冷静に告げる。
「パイは猫としてレースに参加し、一位になった。結果、ネズミが十二支から消え、猫がその座についた。これを修正してもらう」
「ボクが神様……ねぇ……」
またとんでもない役が回ってきたもんだね。
「今回はパイ本人が直接おとぎ話の世界に転移している。十分に気をつけて欲しい」
「あー、はい。了解です」
準備が整い、ボクは「十二支のはじまり」の世界へと転送された。
そこは、いかにも「昔々」な風景が広がる野原。
すでに多くの動物たちが集まっている。
ボクは、なぜかちょっと高い岩の上に立たされ、それっぽい衣装をまとっていた。
うわ、これ神様のつもりか。
いかにもすぎてちょっと恥ずかしい……
「えー、皆の者、静粛に! 先日のレース、不正があったとの報告を受け、ここに再レースの開催を宣言する!」
内心のツッコミとは裏腹に、口からはそれっぽい言葉がスラスラと出てくる。
これも補正ってやつだろうね。
動物たちがざわめく中、見覚えのある三つの姿があった。
一人は犬耳と尻尾をつけ、眼鏡をかけた執事風の青年――イヌだ。
もう一人は長い尻尾があり、やけに筋骨隆々なマッチョな男――サル。
そして、以前はキジだったはずの男は……背中に(鶏の)立派な羽をつけ、頭には鮮やかなトサカを輝かせている。
あ、くちばしも鶏仕様になってる。
相変わらずのイケメンだけど、どことなくシュールな雰囲気はキジの頃のままだ。
「おぉ!桃太郎様!……いや、今は神様でいらっしゃいますか!」
イヌが恭しく頭を下げる。
「おう、桃太郎……じゃなくて神様か!また会ったな!」
サルがニカッと笑って手を振る。
「フッ、キジだった頃の俺と思うなよ。今はニワトリとして、さらにパワーアップしたのだ!パーツもいい感じに付け替えて馴染んでいるだろう?」
ニワトリがイケメンフェイス(トサカ&くちばし付き)でビシッとポーズを決める。
うん、やっぱりシュールさは健在だ。
桃太郎の時のメンバー、フリーランスのお供たちだ。
彼らとの再会はちょっと嬉しいけど、今はそれどころじゃない。
「フン、再レースだなんて、面白いことを言うじゃないか、神様?」
聞き覚えのある、どこか芝居がかった声。
現れたのは、猫耳と尻尾をつけた……パイだ。
ご丁寧に猫のコスプレまでして、ホント何してんのこの人?
「今度も俺が一番だ!」
パイが自信満々に言い放つと同時に、レースがスタートした。
ただの徒競走かと思いきや、コース上には次々と障害物が出現する。
というか、そもそも原作ってこういうレースじゃないんだけどね......
これもパイの仕業だよね。
動物たちは戸惑いながらも、必死に障害物をクリアしていく。
イヌは持ち前の俊敏さで、サルは身軽さで、ニワトリは……なぜか飛んでショートカットしている。
え、それはアリなの!?
パイは、猫のしなやかさ(と、たぶん何らかのチート)でスルスルと障害物を抜けていく。
そして、ゴール直前。
またしてもパイがトップに躍り出た。
「ハハハ、俺の勝ちだ!」
パイが勝利を確信した、その瞬間――。
「そこまでだ、パイ」
凛とした声が響き渡り、パイの目の前に、スーツ姿のアルファさんが立ちはだかった。
「ア、アルファ……!?」
パイが素っ頓狂な声を上げる。
「物語を私物化し、あまつさえ現実世界にまで影響を及ぼすとは。君の行動は許容範囲を大きく逸脱している。おとぎ話は、誰か一人のためだけにあるのではない」
アルファさんの静かな、でも有無を言わせないガチ説教が始まった。
その間に、他の動物たちが続々とゴールし、結果、原作通りの十二支が決定した。
ネズミもしっかりゴールしている。
よかった!
◇◇◇
異世界管理局に戻ると、パイはアルファさんに再びこってり絞られていた。
「うわぁぁん!アルファ!だって、だってさぁ……!」
意外にも、パイは大泣きし始めた。
え、そんなキャラだったの?
ボクとゼータさん、シータさんはドン引きだ。
「そんなに主役になりたいのなら、役者の道でも目指したらどうだ?」
アルファさんの言葉に、パイはかぶりを振る。
「それじゃダメなんだよぉ!俺は……俺は、アルファと一緒がよかったんだ!準主役ポジションで、アルファと一緒にお芝居がしたかったの……!」
……は?
どうやらパイは密かにアルファさん推しで、アルファさん(主人公役)のそばで共演(準主役)したかったらしい。
おとぎ話の世界を見るうちに、叶わなかった夢を思い出して自暴自棄になり、主人公=アルファさんに見えてきて、「こんな世界壊してやる!主人公なんてクソくらえだ!」という思考に至ったとか。
……マジ迷惑な話。
まさかのヤンデレ案件だったとは。
てかさ、これパイが犯人ってわかった時点でアルファさんが出てってたら、速攻で解決してたんじゃないの?
そう思ったけど、今さらだから黙っておこう。
「……ふむ。では、次の管理局の忘年会で、私と一緒に何か演じるか?」
アルファさんの優しい(?)提案に、パイは顔を輝かせた。
「! お、おう!!……アルファ、やっぱりマジ推せる!!」
「そ、そうか……」
チョロいな、おい。
そしてアルファさんめっちゃ引いてる……
「ただし、犯した罪は償ってもらわねばならない」
気を取り直してアルファさんがそう言うと、パイはしょんぼりしながらも頷き、どこかへ連行されていった。
一件落着……か。
「さて」
アルファさんがボクに向き直る。
「君をOTOGIデバッガーに選んだ本当の理由を話しておこう」
「本当の理由?」
「ああ。システムが破綻しかけた時、我々が必要としたのは、『主人公に“なりきらず”、しかし主役の“穴”を埋められる性質』を持った存在だった。そして我々は、『巻き込まれても責任を持って最後まで演じ切り、バグを修正する』君の性格に賭けたんだ」
え、ボクが”刺激的で面白い体験”を求めたから、とか言ってなかたっけ?
そんなガチな理由があったとは……
「あんた、目立たないけど、どこか“立ってる”んすよ」
とゼータさん。
「そうそう。地味だからこそ何にでもなれちゃうってやつ?」
とシータさん。
「……それ、褒めてるの?」
ボクがジト目で言うと、アルファさんはフッと口元を緩めた。
「フッ……”カメレオン俳優”ということだな」
「良い感じに言っても騙されないからね?巻き込まれてホント迷惑だったし!あと”本物のカメレオン俳優さんたち”に謝れし?」
◇◇◇
自分の世界に戻ってきたボクは、改めてカレンダーを見る。
ちゃんと「子年」が一番上にある。
よかった、元通りだ。
お帰り、ボクの干支!
「これでボクのOTOGIデバッガー任務も終わりか……」
そうホッと胸をなでおろした、まさにその瞬間だった。
ブォンッ!
足元に、見慣れた転送陣がまばゆい光と共に展開する。
「え」
そして、聞き覚えのある、しかし今は聞きたくなかった声が、頭の中に響き渡る。
『おめでとう!君は”DOUWAデバッガー”に選ばれた!』
「え、アルファさん!?なんで!?」
というか、“DOUWA”って……童話!?
目の前に、くっきりとシステムログが浮かび上がる。
《新セクション:世界童話編 開始》
……ボクのデバッガー人生、終わる気配ゼロなんですけど!?!?
◇ 終われ ◇
ここまで読んでくださってありがとうございます!
お陰様で完結できました。
世界童話編は…気が向いたら書くかもです。
あとは、読みたいという奇特な方、読んでやっても良いよ?っていう優しい方がいらっしゃれば……
この短編集は、和風ファンタジー×ギャグな「おとぎ話バグってる!?」の世界ですが、
もし「和風」「巻き込まれ体質主人公」「ドタバタ&ちょっぴりシリアス」な物語が好きな方は、
長編小説『転生陰陽師は男装少女!?~月影の少女と神々の呪い~(ライト版)』もぜひ読んでみてください!
長編小説の舞台は平安京風の都「金烏京」――
男装陰陽師の少女・安部朔夜が、妖魔退治や前世の因縁に巻き込まれながら、友情や恋や運命に立ち向かう物語です。
舞台や設定は違いますが、「和風」「巻き込まれ体質主人公」「ドタバタやツッコミ要素」など、雰囲気は共通しています。
気に入っていただけたら嬉しいです!
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