第玖話:わらしべチェインをバズらせろ!?徳アプリで長者を目指せ!(わらしべ長者編)
観音様のお告げで始まった、徳を積んで目指す“長者”の旅――
でも、待って? スマホに入ってる「徳アプリ」ってなに!?
SNSで徳ポイントを稼ぐため、映え加工に捏造まで飛び出す始末。
黒幕パイの思惑が加速する中、ボクと青年の“バズらない”やり直し旅が始まる。
……目指すは、正直と優しさの、再起動!
……ボクは今、寺の境内に座らされていた。
見上げれば、古びた観音像。
その前で、ひとりの青年が真剣に手を合わせている。
「観音様、どうか、どうかオラを長者にしてください……」
パチン、と手を打った瞬間、彼のスマホに通知音が鳴った。
《徳アプリ、インストール完了》
”徳アプリ”ってなに!?
……また変なバグになってる予感しかしない。
***
青年……原作では名前無いんだけど、聞いたら太郎だって。
(ベタとか言わないであげて?)
太郎が観音様からお告げとして授かったのは――
《お堂を出て最初に手にしたものを使って物々交換を繰り返し、この徳アプリで徳ポイントを100万貯めなさい》
ポイント貯めて長者になれって、なにそれソシャゲ?
徳ポイントっていうのは、交換の結果をアプリに投稿して、「いいね」的に人々から“徳”を与えてもらうという仕組みらしい。
太郎のスマホには、例の黒いテントウムシマーク。
そして本人にも、ほんのり黒いモヤが。
はいはい、黒幕パイの仕業ね。
むしろ違ったらビックリだよね。
原作では「正直さ」と「優しさ」が報われる話なのに……もう既に方向性がヤバい。
***
最初のアイテムは、道端の“わら”。
そこに偶然飛んできた“アブ”を絡めて――第一段階、完了。
そのアブで、泣いていた子供を笑わせ、“みかん”をもらう。
次に、みかんを道行く女性に渡すと、代わりに“絹の布”をゲット。
……と、ここまでは良かった。
問題は、そこから。
「みかん、たくさんあった方が映えるよね!」
太郎は突然“加工アプリ”で投稿用の写真を盛り始めた。
実際、善行そのものよりも、”映えるかどうか”がポイントを入れる判断基準になってしまっているみたいだった。
気づけば、太郎が交換したものの種類は原作を離れて増えていき、写真加工で盛りに盛られていた。
交換相手はモデル風の美男美女に。
投稿コメントもどこかで見たようなテンプレばかり。
そのうち、「徳ポイントを売買する掲示板」を利用して、課金しながらポイントを購入。
ねえ、それもう“徳”じゃなくて“毒”だよ!?
(ダレウマ。え、うまくない?)
そして、バレた。
「捏造じゃないか!」
「加工だったのか!」
コメ欄は大炎上、ハッシュタグ「#偽しべ長者」がトレンド入り。
太郎は叩かれ、責められ、心身ともにボロボロになっていた。
***
「しょせん、オラみたいなやつが徳を積もうなんて……無理だったんだよ……」
布団に横たわる太郎を見て、ボクはため息をつく。
「……徳って、そういうことじゃないんじゃない?人に親切にするとか、そういう地道な行いじゃない?」
「確かに、おっかさんもよくそう言ってたなあ」
「もともと君は正直で優しい人なんだからさ、初心に帰ろう?」
「そうだな……」
太郎がやる気をちょっと取り戻したところで、ボクはアプリを対象に指定してスキルを発動しようとした。
ところが……
「OTOGI DEBUG――……あれ、効かない?」
アプリのシステムが強すぎて、スキルが弾かれてしまう。
ならば、と、ボクは観音様に向かって祈った。
どう考えても、観音様そのものもバグってるからね。
呼び出してスキルで修正してみようと思ったんだ。
「お願いします、観音様!正しいお告げを授けてください!」
すると光が差し込み、観音像の前に降り立ったのは――
《KANNON-Z、起動。お告げプログラム、更新中……》
ロボ!?観音ロボ!?
さらに、ボディにはしっかりと黒いテントウムシマーク。
すると、あいつの声が聞こえてきた。
《価格で測れない物々交換の価値を、一般人の感覚で数値化……俺、天才!》
出た、黒幕パイ!
《センスが良いだろ?徳だって、可視化しないと意味ないんだよ!》
「いやこれ、そういう話じゃないのよ!!」
《なぜだ!なぜこの良さがわからない!?》
「いやだからさ、おとぎ話って教訓を含んでるから良いんでしょ?そういう話じゃなくなった時点でアウトなの」
《その教訓のせいでモブが損して主役だけ得をする。そんな構造、俺は壊す!》
もうめちゃくちゃな理屈だよ。
「てか、そもそも勝手に他の世界壊しちゃダメなんだってば!!」
そこに、静かな声が割って入る。
『……パイ。お前、まさか幼稚園のお遊戯会で一度も主役になれなかったの、まだ根に持ってるのか?』
アルファの声だった。
《う、うるさい!お前はいつも主役だったくせに!モブの気持ちなんて分かるかよ!!》
『ああ、確かに主任って主役顔だもんね~』
とシータさん。
《お前は、小学校でも中学校でも高校でも!イベントではずっと主役だった!!》
『いや、俺が望んだわけではないのだが……』
『主任、傷口に塩塗らないであげて欲しいっす……』
『てか、主任たちってすんごい腐れ縁なんだ。ウケる~』
憐れむようなゼータさんの声とケラケラ笑うシータさん。
そこに、ぐぬぬっというパイの悔しそうな声が重なった。
でもボクはつぶやかずにはいられなかった。
「……やっぱり、めっちゃくだらない理由だった……」
《くだらないとは何だ!!》
パイは憤るけど。
「だって、モブの方がセリフ少なくて楽じゃん?しかも目立たなくて済むし。ボクはモブでいいし、むしろ幸せだし」
『『『《な、なんてやる気のない……!!》』』』
なぜか、パイ+時空管理人3人の総ツッコミを喰らった。
いいじゃん別に!人それぞれでしょ!
《それでも俺は、俺は……!!》
「まあ、気持ちわからなくもないけどさ。実はボクも1回だけ主役やったことあるし……」
《な!う、裏切り者……!》
「いや、って言っても、主役が5人いるお話だったんだけどね」
《くそ!どいつもこいつもバカにしやがって!もうこうなったら……モブの怒りを思い知れっ!》
そこでパイの声は途切れた。
システムからログアウトしたらしい。
一方で、KANNON-Zはアプリに干渉を始めたらしく、太郎のスマホ画面がチカチカ点滅し出した。
そして、“徳ポイント”がみるみるうちに“0”にリセットされてしまった。
「ええええええ!?」
どうするボク!?
その時――
『パイの注意を引いててくれたおかげで、アプリの仕様の一部を書き換えられたっす!』
ゼータさんの声が頭に響いた。
『これで、映えじゃなくて、ちゃんと善行レベルに合わせて徳ポイントがつくようになってるはずっす!』
「ナイス、ゼータさん!!」
『目標ポイントも1000ポイントに減ってるわよ!』
めっちゃ助かります、シータさん!
***
ボクは太郎を起こして、手を握った。
「さあ、もう一度、やり直そう。今度こそ、本当に人のためになる“交換”をしよう」
太郎はゆっくりうなずき、立ち上がる。
そして、物々交換の旅が、再び始まった。
“わら”を“アブ”に、“アブ”を“みかん”に、“みかん”を“絹の布”に、“絹の布”を“馬”に。
みんなの感謝の言葉と笑顔を積み重ね――彼はついに、“長者”となった。
「誰かの役に立ちたいっていう気持ちで、ちゃんとここまで来れたね!」
恥ずかしそうに頭を掻く太郎に「OTOGI DEBUG」を発動し、太郎の心を修復。
黒いモヤが晴れ、徳アプリは消滅、KANNON-Zは機能停止。
物語はきれいに修復された。
***
時空管理局に戻ると、待っていたのは驚きの報告だった。
「局内の隠し部屋で、ハッキングに使われていたPCを発見した」
「でも……中はもぬけの殻だったっす」
シータが拾ったメモには、こう書かれていた。
『最終話で会おう。主役の座は、俺がもらう』
「……最終話って、メタ発言やめて……」
ボクは深く息を吸い、静かに拳を握った。
「次で……絶対にパイを止める」
OTOGIデバッガーの役目ともこれでお別れできる!
長かった旅も、いよいよ――最終話。
(あ、ボクもメタ発言しちゃったw)
終わりが、近づいていた――。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
この短編集は、和風ファンタジー×ギャグな「おとぎ話バグってる!?」の世界ですが、
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