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推しを推すことから始めたいので

 

 訓練場に到着すると、ルベラは静かに瞳を輝かせていた。


 ここにいる男性たちは騎士であるため、ふくよかではない鍛えられた筋肉をもつ者が多いからである。


 そもそも男性と会うことに制限があったルベラではあるが、とくに出会う機会のなかった筋肉美に出会えたことで脳内の情緒は最高潮にたかぶっていた。



「(服の上からでもわかる筋肉なんて最高でしかない。腕まくりで見えてる腕と男らしい首筋を合法的に見られる状況……。こんな機会はもう二度とないかもしれない。目に焼き付けておかないとね)」



 日陰の下に用意されたイスに腰かけて、ルベラは堂々と騎士たちの姿を見つめる。


 そんな彼女とは裏腹に、皇女に見られているという異質な状況によって彼らは普段どおり訓練を行いながらも、緊張感から硬い表情を浮かべていた。



「皇女様。見ているだけでよろしいのですか?」



 見かねたカーラはルベラに声をかける。



「カーラ侍女長の言うとおり、見ているだけでは彼らも萎縮してしまうので何かをさせたいと思うのですが……例えば、真剣を使用しない決闘などはいかがですか」



 続いてナスターがそう声をかけると、カーラが不満気な視線を投げたあとに口をひらく。



「野蛮な行いを皇女様にお見せしようなどと無礼な……、何を考えているのですか」


「騎士を見に来たということは、ルベラ様は彼らに騎士らしいことをお望みかと」



 気遣いから批判するカーラには申し訳なく思いながらも、ルベラはナスターの言うとおり騎士らしさーーつまり男らしさを求めていた。



「たしかに彼らは騎士だから……戦う勇ましい姿を見れたらいいなぁ。判断基準にもなるかもしれないから」



 そうは言っても手放しに喜ぶとカーラにたしなめられることをわかっていたので、守護騎士を選ぶためだという言い方でナスターに賛成する。


 その言い方のおかげで皇女様がそう言うならとカーラは納得したが、どことなく満足そうな表情を浮かべているナスターを悔しそうに睨んでいた。



「全員を労うのは難しいので決闘の優勝者を代表として労う、ということにいたしましょうか」


「うん、それなら騎士の方々も納得できるだろうから……。お願いしてもいい?」


「そのように手配いたします」



 ルベラの言葉を聞いてすぐにナスターは行動にうつす。


 副団長であるゼラルドに声をかけたあと、ともに騎士たちに号令をかけ決闘についての話を簡潔に告げた。


 それを聞いた騎士たちの反応は、単純に喜ぶ者や期待からやる気を出す者……緊張が増して不安そうな者やとくに興味なさそうな者など、様々だった。



 そして突然の決闘大会が始まったのだが……。


 最初は表情が硬かった騎士たちも、本気で競い合ったり盛り上がったりと楽しみ始めたことで次第に緊張感が薄れたようだ。


 ルベラはそんな騎士たちの様子を眺めるとともに一人一人違う筋肉の良さを堪能できて喜んでいるが……。

 カーラにとっては容姿が良いとは思えない者たちの競い合いであるため、色々な意味から微妙な気持ちだったが表情に出さずこらえていた。


 そうしてそのも次々と決闘が行われ……ルベラにとっては、時間があっという間に流れていく。



「次で優勝者が決まりますが、いかがでしたか」



 いよいよ優勝者が決まる最後の決闘が始まるというところ、いつの間にか近くにきていたナスターがルベラに声をかける。



「――お気に召すような者は見つかりましたか?」


「みんな騎士らしく力強い姿が素敵だったけど、優勝候補の二人はとくに最……素敵」



 決戦――熱戦を繰り広げ始めた二人の騎士は、騎士たちのなかでもとくにルベラが心惹かれていた二人で……。


 白味の強い薄紫色の髪に黒色の瞳をもつ青年――ユディフと、漆黒の髪に濃い紫色の瞳をもつ青年――ロウゼンは、その明るくない色や容姿から周りから避けられることが多いが……騎士団長のナスターと副団長のゼラルドが直々に鍛えているほど優秀で有望な騎士である。



「ルベラ様ならわかっていただけると思っていました。あの二人は見目が良いとは言えませんが、剣の腕や身体能力はとても優秀ですよ」


「たしかに、見ていても飽きないくらい綺麗」


「なんと。私も素晴らしいと思っていましたが、ルベラ様には彼らの剣筋が美しく見えているのですね」



 不思議なことに、会話が噛み合っていないが成り立っている。


 普段は冷静なナスターだが剣に対しては熱い性格であるため、ルベラの言葉を都合良く解釈したのだろう。本人は二人の剣筋ではなく容姿を褒めていたのだが……。



「(いかにも真っ直ぐで誠実で頼りになりそうな薄紫色の髪の主人公と、主人公を影で支えつつ闇堕ちしそうで放っておけない庇護欲を擽られる黒髪の裏主人公って感じで……最高にいいなぁ)」



 容姿と雰囲気で勝手にイメージして楽しみながら喜んでいるだけなので……剣筋なども綺麗だと思ってはいるがそれは二の次の話であった。



「引き分けになりそうですね」



 ナスターがそう言ったあとすぐに、ユディフとロウゼンが手に持っていた剣は同時に離れ落ちる。


 数秒間、静寂に包まれ……。顔を見合せていた二人は、お互いに納得した様子で笑い合った。嬉しそうに笑っているユディフに比べて、ロウゼンは控えめに笑っている。


 そんな彼らの姿を見ながら「(なにあの尊い光景。写真におさめたかった)」と思っていたルベラに、ナスターは話を切り出す。



「引き分けの場合はどういたしますか?」


「二人とも労いたいから、二人とも呼んでもいい?」



 その返答に「承知いたしました」と頭を下げたナスターだったが、二人とも呼んでどうするつもりなのだろうかと疑問を覚えた。

 優勝者を労うという名目ではあるものの守護騎士の候補となる者を呼ばなくてよいのだろうかと考えたからだ。


 負けた他の騎士たちの訓練をゼラルドに任せたあと、ナスターは疑問を覚えながらもユディフとロウゼンを連れてきた。


 片膝をつきこうべを垂れる二人に、ルベラは声が弾まないよう気をつけながら「顔をあげてください」と伝える。



「本日はとても素晴らしい勇姿を見ることができて感動いたしました。お二人にはのちほど何か贈りますね」


「光栄です」


「ありがとうございます」



 皇女からの言葉に瞳を輝かせるユディフと、静かに感謝を返すロウゼン。



「(近くで見ると、よりいっそうお顔が良すぎる)」



 ルベラは穏やかに微笑みながら、二人を眺めていた。


 彼女の美的感覚で言うと、ユディフは優しそうなタレ目の二重に整った眉と口は柔らかく穏やかで、明るい表情がよく似合う整った顔立ちであり……。

 肩くらいまでの長さの白味の強い薄紫の髪は珍しい色合いをしていて幻想的に見えていた。


 ロウゼンはそんなユディフとは対照的な容姿で、少しつり目の二重に綺麗な眉と口は感情が伝わりにくい形をしているが、綺麗に整っていて……。

 ユディフより短めの漆黒の髪が際立たせている濃い紫色の瞳に、魅了されそうな美しさを感じていた。



 例えるならユディフは好青年で、ロウゼンは美青年であり……二人ともルベラが前世のころを含めても今まで見たことがないほどに容姿が整ったたぐいまれな美形である。



「ところで、腕のたつお二人にお願いがあるのですが……」



 その言葉を聞いたユディフは「何なりと」と答え、ロウゼンは静かに続きの言葉を待っているが……。


 カーラは怪訝に思いルベラを凝視していて、ナスターは「(まさか……)」と言葉の意図を予測して固まっている。



「お二人とも、私の騎士になりませんか?」



 ルベラは今日一番の笑顔を浮かべて告げた。


 怪訝に思ったカーラとナスターの予測は正しく、彼女は彼らを守護騎士にと目論(もくろ)んでいる。今日の彼女は、とことん欲望に忠実であった。


 まるで一緒に話そうと誘っただけのような気軽な口調だったが、それほど簡単な話ではない。



「皇女様の……?」



 不思議そうな表情でそう(こぼ)したあとに言葉の意味を理解できたユディフは驚きと困惑から口を閉じ、カーラは今にも気絶してしまいそうなほど固まっている。 



「感動しているのはわかりますが、その言葉では二人が勘違いしてしまいますよ」



 ナスターは感動から思わず(こぼ)れた言葉だということにしようとしたが……ルベラはすぐに「私がこんな冗談を言うと思う?」と否定してしまう。



「騎士になる、とはどういう意味ですか?」



 黙り込むナスターたちとは違い、ロウゼンは率直な疑問を口にする。



「私の騎士……つまり皇女の守護騎士になりませんか、という意味です」


「守護騎士は皇女様と婚約される貴族が授かる地位では?」


「そうなることもありますが、必ずしもそうではありません。私は腕のたつ騎士の方に守護騎士となってほしいと思っていました」



 ロウゼンの疑問に答えながら、ルベラは言質をとろうと言葉を続ける。



「ずっと捜していましたが、ようやく貴方たちのような腕のたつ方に出会えて嬉しくて……突然で申し訳ないですが考えていただけませんか? 今夜までに」



 捜したかったのは本当だからか熱意のこもった言い方で話すルベラに、ロウゼンも理解して……困惑から言葉を失っていた。



「ルベラ様。まず騎士の(なか)から選んだことも、一人ではなく二人であることも異例ですが……本当にこの二人が良いと考えていますか?」



 ナスターは穏やかにそう(たず)ねる。説得するのではなく、ただ確認しているような言い方だ。



「お二人になるとさえ言っていただけたら、今すぐお父様と話してくるつもり」



 ウソでも冗談でもないとわかる真剣な表情で断言するルベラに、ナスターは諦めたように――少しだけ楽しむように小さく笑って口を(ひら)いた。



「皇帝陛下だけなく、皇后陛下も卒倒してしまうかもしれませんよ」


「大丈夫。上手く説得するから」



 ルベラがそう答えると、ナスターは「応援はいたしますが、助力は難しいと思っていてくださいね」と笑う。



 今のこの状況で笑っていられるのは二人だけであった。



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読んでくださりありがとうございます。

大変、申し訳ないのですが主要人物の名前を変更しています。

話を進めているうちに名前の違和感を感じて、より合うと思える名前へと変更することにいたしました。


前の名前がよいと思ってくださっていたら申し訳ございませんが、ご了承ください。

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