0話:世界と私の間には
幸せな人生だった……とは言いきれない人生だった。
私の両親は良く言えば放任主義、悪く言えば幼いころから私を家に残して出かけたまま帰って来ないことが多い育児放棄気味の人たちで……。
お金だけは用意してくれていたので食べることに苦しむことはなく、遅くまでテレビを観たり夜中まで外で遊んでいても怒られることはなかったけど。
周りの人たちが楽しそうに家族の話をしたり、家族で食事をしている光景を見るたびに……孤独な時間が辛くて胸が張り裂けそうなほどの寂しさ感じていた。
だからなのか、テレビを観ることで寂しさを紛らわせることが多くなり……。
次第に綺麗でかわいい女優やタレント、イケメンで美しい俳優やアイドルを観ることが唯一の癒しだと感じるようになって……。
そして気がつくと、顔の良い人たちの中でもとくに顔が整った人を知るたびに推し活という文化に興じて、推しを推すことに一喜一憂する人生を過ごしていた。
そんなある日のこと。
二、三日前からあった風邪症状を放っておいたらついにこじらせてしまい、食べ物も飲み物も喉を通らない状態に陥ってしまった。
動くこともままならなくなり、高熱に魘されながらベッドの上で耐えていたらいつのまにか意識を失って……。
何か良くない病にかかってしまっていたのか、悪化しているのに何もできなかったからなのか……私はそのまま亡くなった。
とても虚しい、孤独死だった。
でも、不憫で不幸だと思った神様が新しい人生を与えてくれようとしたのか……。気がつくと、私はどこかの世界の夫婦の子供――赤ちゃんに生まれ変わっていた。
戸惑いはしたものの前の人生のときとは違う、心優しく育児も笑顔でしてくれる夫婦のもとに生まれ変わり……彼らの優しさにふれて、愛情を知って、楽しさも喜びも覚えて……。
本当の幸せというものを知ることができた私が今世を受け入れるのは必然だった。
そんな幸せな今世を過ごせていながら贅沢なことだけど、一つだけどうしても受け入れられないことがあった。
それはこの世界は前の世界とは違ってテレビがないため、前の人生で唯一の癒しだった顔の良い人たちを観ることが難しい……というだけならまだ良かったのだけど。
異世界なので仕方ないと思うにはどうしても疑問を感じてしまうほど……、
私の価値観とこの世界の価値観――人の顔の美的(美醜)感覚が、全く異なっているということだった。