魔法?使いは眠れない①
私たちは数日間川沿いを進み続けた。幸運なことに途中でトラブルや襲撃もなく、強いて言うなら足を滑らせて川にドボンしそうになったくらい。
「後2日くらいかな?」
テント内でシドーがそう聞いてくる。周りはもう真っ暗で廃墟とは違い冷たい風が体を包んでいた。
「そうね。もう少しだけ進んで曲がるとデムレ自治区に着くはずよ」
考えてみると、ここ数日間はあっという間だった。最初フューチャーズに追われてたときにはどうしようかと思っていたけどシドーが助けてくれて運が良かったわね。
「そーいや、お前らデムレ自治区に着いたらどうすんだよ」
テントの外からクロの声が聞こえてくる。一応このテントは4人は入れる大きさだけれど、何でも密室は落ち着かないらしい。
「そうだなぁ…僕はあくまで一番近かったのがデムレ自治区だっただけだから少し立ち寄っていろいろ買ったらまた旅の続きに出るよ」
その言葉を聞いて、私は驚いた。シドーの目的の:原初の魔道具"。それは実害するかも分からない言わば幻のような。暗闇を手探りで歩くような旅になるのは想像に難くない。だからこそ、何かしら確信があると思っていたのだけれど
「意外ね。ここまま当てのない旅を続けるの?」
「うん。少なくとも、僕が諦めるまでは。」
度々思うけれど、シドーの決意は本当にものすごい。少なくとも、私には何の確証もなく噂話を原動力に進むことはできない。まぁ、私も魔法を使えない人間が魔法を使うための技術を開発するっていう先の見えない旅ではあるんだけど。言ってしまえば存在するかも分からない幻を掴むか理論上存在する夢を掴もうとするかの違いで、私達の目的はそんなに変わらないかもしれないのだけれど。
ふと、外から寝息が聞こえてきた。クロは寝てしまったらしい。
「僕たちも寝ようか。明日も早いし」
「そうね。…明日の朝ご飯宜しくね」
「わかってるよ」
ランプのスイッチを切って、私たちはそれぞれ寝袋に潜り込んだ。
眠れない。寝袋に潜ってもう1時間はたっているけれど、どうも寝付けない。寝る場所が悪いのかと体を動かしたり、寝る姿勢を少し変えたりしてもやっぱり寝付けない。
そこで私は、一度外の空気を吸って気分を落ち着かせることにした。
寝袋から出てシドーの方を見るとシドーはぐっすりと眠っていて起きる感じは一切しない。
テントから出るとテントによりかかってクロが眠っていて、こちらも起きる気配がなかった。
「静かね……」
自治区で先生の元で色々教えてもらっていた時とは違って本当に自分以外の人間は存在しないじゃないかと思うほどの静かさだった。だけれど、少し草原の方に行けば様々な音が聞こえてくる。
虫の音、川のせせらぎ、草の擦れる音、誰かの足音………誰かの足音?
「誰!?」
私は大声で足音の方に威嚇をしながら、氷結爆弾を手に取った。
「ごめんごめん。私だよ。」
だけれど、聞こえてきた声は想定外の人のものであった。
「レイさん?」
目を凝らして見ると、月明かりに照らされて微かにに赤髪のポニーテールが見える。レイさんは申し訳なさそうに手を降っていた。