会合〜浮いた黒い影〜
ユーフォさんとレイさんはその後2人を本部に連れて行った。……2人をどうするかは聞かないほうが良いらしい。僕らもそれ以上の詮索はせず、旅を進めた。
別れた後は特に何も起こらず、廃墟街を抜けて平原に出た。多分、さっきまでの場所よりクリーナーの縄張りに近いのかな?
「ようやく廃墟の景色から解放された!」
思わず笑みがこぼれる。3日間ずっと廃墟で中々飽きてきていたからようやくの違う刺激に僕は気分が上がっていた。
「結構歩いたわね…もうお昼じゃない」
「え?もうそんな時間?」
そう思ってスマホを見てみると、確かにもう12時前だ。
「どうする?いったんご飯にしちゃう?」
「うーん…そうだね。どこか座れそうな場所を…」
と、周りを見渡していると水の音がすることに気がついた。
「………川かな?周りに人がいるとは思えないし」
「川…」
ルナが顎に手を当てる。
「確か、デムレ自治区って近くに大きめの川があるのよね」
と、スマホでデムレ自治区近辺の衛星写真を見せてくれた。
「ほら。多分、貴方が言っている川は位置的に……これ」
スマホを見てみると、確かに大体500mくらい離れた場所に川があって……そこをたどるとデムレ自治区近くに着きそうだ。
「川の近くなら見渡しもいいし、進む道が分かりやすいし、休む場所にもいいんじゃない?」
「そうだね。取り敢えず川に行ってご飯食べようか。」
と、僕たちは川に向かった。
予想外のことが起きた。驚いたことに先客がいたのだ。
黒い服に黒い髪の男性。黒い瞳の先はその人が垂らしている糸の先にあった。釣りの仕方も普通の釣りではなく、指に直接糸を付けてそれを垂らしていた。年齢は僕らよりも少し上か同じくらいだろうか。その人はこちらに気付くと首をガクンッとこちらに向けた
「………珍しいな。旅人か?」
「あ、えっと……どうも。なにをしてるんですか?」
「釣りだよ。見て分からないのか?」
「ここ、釣れるの?」
ルナが至極真っ当な質問をする。
「意外と悪くない。ここ1週間釣ってるが10匹は釣れてる」
確かに、水面を見ると魚影はあるけれど、1週間で10匹は釣れてるに入るのかな?
すると男性が不思議そうな目でこちらを見ていることに気づいた。
「あんたらはどうしてここにいるんだ?わざわざ歩いてこんなとこまで来て……暇なのか?」
「違うわよ。こっちは旅の最中。」
「物好きだな。」
そういいながら獲物がかかったらしく、釣り糸を引っ張り始める。
「なんで指で釣ってんの?」
「こっちのほうが感覚的に釣りやすいからだよ」
暫く格闘していたが、相当負荷がかかっていたのか糸が切れてしまった。男性は残念そうに糸の先を見る。
「あーあ…ま、いっか。面白そうなもの見つけたし」
と、再びこちらを見る。
……まさかとは思うけど面白そうなものって
「私は賛成よ?戦力が増える分にはこちらも構わないし」
考えを見透かされた。悟り妖怪かな?
「まぁ、僕もいいんだけど…」
「よし、決まりだな。あんたら名前は?」
男性はニコニコ笑顔でこちらに聞いてきた。
「シドー・ラナイトです。よろしく」
「ルナ・キトカロス。ルナでいいわよ。」
「よろしくな。シド、ルナ」
この間、男性は笑顔を崩していない。僕は少し、この笑顔に恐怖を感じた。
「アンタの名前は?」
「俺の名前?…俺の……名前は…」
男性から笑顔が消え、真剣な表情となる。暫く考えていたようだけれど、
「駄目だ…思い出せねぇ…」
「え!?それってもしかして」
「記憶喪失ってやつね」
まさかと思った。創作でしか見たことない現象に相まみえるとは思わなかった。
「今まで気づかなかったんですか?」
「生きるのに名前って必要か?」
男性は真剣な表情で答える。いやまぁ確かにそうだけど…そう思っていると、ルナはクロの頭を確認していた。
「頭に傷は無いわね……それ以外のことは分かってるっぽいし抜けている記憶は自分のことだけ?」
「あぁ。食える魚とか雑草の種類とかも覚えてる。本当に自分のことだけだ。だけど、別に名前無くても困らないだろ?」
男性はあっけらかんな様子で言った。
「それじゃ呼びづらいわよ。一々アンタって呼んでもわからないでしょ?」
「確かに、一理あるな。なんかいい感じの名前は…」
と、再び考え始める。僕はその姿をじっと見ていた。すると、天啓が降りてきた。
「全身黒いし"クロ"とかどう?」
一瞬、川のせせらぎの音だけになった後、一呼吸あけて
「そのまんま!見た目の色から取るにしても、いくら何でも雑すぎない!?」
と、ルナが叫ぶように言った。
「そうかな?結構いい案だと思ったんだけど…」
「いくら何でもそのまm」
「めんどくさいしそれでいいか」
「いいの!?こんなに雑なのに!?」
「いいんだよ。適当で……改めてよろしくな」
「よろしくお願いします。クロさん」
「別に敬語じゃなくていいぞ。シド」
「わかった。よろしく、クロ」
何か言いたげなルナを尻目に僕はクロと握手した。
こうして、僕達の旅に思わぬ仲間が追加された。これが、僕らの運命を変えることになるとわかるのは、まだ先のお話…