会合〜天秤の使い〜①
「アイツら…どこ行きやがった」
「こっからはそう遠くないはずなんだけどな」
廃墟の路地裏に、ならず者が2人いた。1人は緑の服でもう1人は青い服。2人の服袖には赤い蜘蛛の刺繍がされている。
「仕方がない。取り敢えず別の場所に…ん?」
ふと、緑の服の方の男が上を見上げる。そこには、ピンの抜かれた閃光弾が宙を舞っていた。
「やばい!目を…」
目を防ぐ暇もなく、人工的な光が輝いた。二人はあまりのまぶしさに声も上げず目を覆った。
「うぇ…!」
「カッ…」
そうしている間に何者かからの攻撃を受け、二人は気絶した。
「ナイス。ルナ」
「ほんと、感謝してよね」
どうにか、追っ手を倒すことに成功した僕たちはその追っ手を動けないように縛り上げていた。
「てゆーか、両方銃持ってたからってここまで逃げる?私疲れちゃった。」
「素人が使ってても銃は銃。万が一があるといけないよ。」
軽口を叩きながらも縛る手は緩めない。すると、先程から考え事をしていたルナが口を開いた。
「にしても妙ね…この辺りは"クリーナー"の縄張りのはずなのに…」
聞いたことがない単語が出てきた。
「クリーナー?掃除機?」
「まぁ、ある意味間違えてはないけど…」
1人を縛り終えたルナはおにぎりを食べながら話し出す。
「"クリーナー"はこの辺…厳密にはこの辺の自治区外の治安を律している組織よ。」
「有名なの?」
「逆に聞くけど、知らなかったの?」
まじか。組織があるとは聞いていたけど、守る側の組織があるとは。知らなかった。
「それで、何か問題があるの?」
(あ、話題変えた)
「…"クリーナー"は言ってしまえばヤクザとかギャングとか、そっちよりの組織なんだけど、私達みたいな一般人は襲わないのよ」
ルナは縛り上げた2人の方を見る。
「襲撃対象はこういう積極的に一般人を襲う奴ら。」
成る程。全員が根っからの悪人じゃないのか
「ところで、なんでこの二人がその…"クリーナー"じゃないってわかったの?」
「マークよ」
そう言って赤い蜘蛛の刺繍を指差す。
「"クリーナー"のシンボルマークは天秤なのよ。赤い蜘蛛の刺繍の組織は聞いたことがない。」
「つまり、赤い蜘蛛の刺繍の組織…そこから取って取り敢えず"スパイダー"って呼ぶけど、スパイダーはどういうわけか"クリーナー"の監視から逃れていると」
ルナは真剣な眼差しのまま頷いた。
「やっぱりそういうことになっちゃうわよね。どうやってかはわからな…」
そこまでいったところで何者かが近くを歩く音がした。即座に僕は抜刀態勢を取り、ルナは氷結爆弾のスイッチを入れていつでも投げられるようにしていた。
空気は一瞬にして張り詰め、息もしづらくなるほどであった。声の方向をじっと見つめ続ける。
「ごめんごめん。驚かすつもりはなかったんだよ。」
すると、死角から女性の声がした。驚かすつもりはないとは言われていたけれど、万が一がある。出てきた瞬間に--叩く。
路地裏から声の主が出てくる。年齢は僕らと同じくらいだけれど、軍隊のように動作が研ぎ澄まされていて鍛えられているのが一目でわかった。腰にナイフと銃のバックル、そしてその服には金色の天秤の刺繍が施されていた。