ロマンと願いと
廃墟の窓から入ってくる朝日で目が覚めた。夢は特に見なかった。
「おはよう。起きた?」
横を見ると、ルナはすでに起きていて移動の準備をしていた。
「おはよう。ずいぶん早いね。…まだ6時とかなのに」
「それはお互い様でしょ。私はあんまり睡眠を取らなくても大丈夫だけれど、貴方も十分早起きよね」
「師匠に稽古つけてもらっていた時からずっとだよ。」
「ふーん」
まだ眠い目をこすりつつ、食パンをかじりながら僕も準備を始めた。
ある程度まとめ終わった所で、ふと、疑問が湧いてきた。
「そう言えば」
「なに?」
「なんでルナはわざわざ自治区外に旅に出てるの?」
そう、実はわざわざ自治区外に行かずとも自治区間は飛行機が出ている。特にデムレ自治区はかなり大きめの所で、かなり安めに移動できるはず。
「んー…」
ルナは暫く手を止め顎に手を当てて考える。頭を動かす度に魔女帽子が落ちそうになっている。落ちないのかな。
そんなことを思ってると、ルナが口を開いた。
「1つ。自治区外がどんなことになっているか気になるから。2つ。お金がもったいないから。3つ…これが本命で、魔法を使えるようになる方法を探しているから」
僕の目は少し丸くなった。
「魔法って後天的に使えるようになるものなの?」
「わからないからこうして旅にでているんじゃない。まぁ、師匠からは無謀すぎるって言われたけど」
「そんな技術あれば、世界に魔法使いがあふれかえっちゃうよ。」
「それを探すのが研究者よ」
「やっぱり、よくわからないなぁ」
と、僕も作業を進めようとした所ルナから声がかかる。
「まさか私にだけ喋らせるってことはないわよね?」
はぁ…説明が面倒なことになるぞ…
「母さんに謝りたいだけだ。」
ルナの目も丸くなる
「え?それだけ?」
「うん、それだけ」
「なんか…もっと…あるでしょ?そうじゃなかったらここには来ないもの。」
やっぱり、面倒なことになった…
「昔、母さんと喧嘩して…そのまま、暫く口を利かなかったんだ。最期に話したのは…母さんが殺される直前」
「僕が素直に謝っていればまた変わったのかなって、今でも思う。」
ルナのハッとするような息遣いが聞こえた気がした。
「……失礼を承知で聞くけど……つまり、お墓参りってこと?」
僕は一瞬、この事を言うべきか戸惑った。だけれど、彼女なら信用できた。
「ルナは"原初の魔道具"って知ってる?」
ルナの目がさらに丸くなったのがわかった。
「知ってるわよ。7つあつめると願いが叶うっていう都市伝説の…」
「生き返らせるつもりはない。ただ、謝りたいだけさ。」
肌を刺すような静寂が辺りを包んだ。
「正気なの?本当にそれが実在するかも分からないのに」
「ルナもわからないから旅に出たんでしょ?僕も同じさ…師匠は肯定してたけどね」
ちょうどカバンのチャックを閉めいつでも出れる状態になった。
「さ、行こう。時間は待ってくれないよ。」
「私が言えた口じゃないけど、アンタも結構ロマン派よねぇ」
「ロマンかどうかはこれから分かる」
外に出ると朝焼けはすでになく、太陽は明るく輝いていた。