師匠
廃ビル街の中を僕達の乗った車が走る。古い車なのかエンジン音は凄かったけれど、乗りごごちは悪くなかった。すると、ユーフォさんが話し出す
「にしても、シドー」
「なんですか?」
「末端の奴らとは言え、フューチャーズの奴等を倒したんだ。自治区外じゃなくてもその力を別のところに使えるんじゃないか?」
「確かに、多分うちの新人よりも強いんじゃないかな。あと、クロもあたしを抱えながら良くあんなに動けたよね。」
「師匠にめちゃくちゃ鍛えられましたからね…まぁ、実銃相手はあまりしたことありませんけど。てか、クロはなんで空手できるの?」
「身体が覚えてる。なんでこんなに動けるのかは知らんが、取り敢えず反射で戦ってる」
あっけらかんとした調子でクロは答える。
あいも変わらずクロには謎が多い。なんでクロ自身だけの記憶がぬけているかもそうだけど、クロのあの蹴りは凄まじい。もともと剣道や空手なんかの武道自体が体に覚えさせるっていう性質を持っているけれど、それを抜きにしてもあの能力は異端だ。事実、受けた相手全員、打痕は1発だけなのに手術室送りになっている。いつ覚えたんだろう。
「敵だからな。容赦しなくていい分楽だ。」
「せめてもう少し容赦してあげたら?」
と、隣に座っているルナが苦い顔で言った。
「あと、もう一つ聞きたいことがある」
「あ、はい」
「何でお前らは旅をしてるんだ?」
「原初の魔道具を見つけ出すためです」
「魔法を使えるようになるためよ」
「知らん。面白そうだからついてきた」
ほぼ同時に答えた。三者三様だなぁと今更思う。ここまでバラバラな目的で旅をしてるんだな、僕達。
「えーと…1人ずつ聞いていいか?」
ユーフォさんが困惑した声を出す。
「まずはクロ。お前記憶無いんだろ?記憶を取り戻したいとか無いのか?」
「無い。」
クロがかるたみたいな反射で答える。
「記憶無くても別に不便じゃないしな」
「確かに…一理あるかも」
レイさんが感心した声を出す。
「まぁいい。次はレイ。そんな格好しといて魔法使えないのか?」
「そうですよ?先生が言うには、私には元々魔力が殆どない状態らしくて」
「じゃあ何でそんな格好してんだ?」
「テンションの問題ですよ」
ユーフォさんが困惑したようにうめき声を上げる。
「ほんとにお前ら良く生き残れたな…で、最後にシドーだが、"原初の魔道具"ってあれだろ?都市伝説の集めれば願いが叶うっていう」
「そうです」
「お前はかなりまともな方だとは思ってるけどな…確証はあるのか?」
「……師匠が言ってたんですよ」
「?」
「師匠が昔それっぽいものを見たって」
「何者だよお前の師匠…」
と、何度目かもわからない困惑した声を出す。
「そう言えば、シドーの師匠ってなんて人なの?有名な人?」
と、ルナも食い気味に聞いてきた。
「言ってなかったっけ。ヴォル・ヴェーラーだよ。」
「は!?ヴォル・ヴェーラーってあの…」
ユーフォさんが驚いた声を出し、こちらを振り向いた。
「兄貴!前、前!」
「うぉっと!」
電柱にぶつかりそうになったのをユーフォさんが間一髪ハンドルを切る
僕達は片側に思い切り体を持っていかれた。ルナは僕の肩に、僕はクロの肩に倒れ込み、クロはドアの窓に思い切り頭をぶつけた。
「いってぇ!安全運転しろよ!」
「わりぃ。ちょっとビックリしたんだ。」
「何でそんなに?」
「成る程…そりゃあ強いわけだ」
と、独り言をこぼして、ユーフォさんが神妙な口調で話し出す
「お前ら。"スネークアイ"って部隊、聞いたことあるか」
「はい」
ルナが答える
「人数は少ないながらもその1人1人が高い能力を持っていて、世界中に派遣されながらも任務の成功率は100%近い……"世界最強の特殊部隊"と名高い組織ですよね。シドーの師匠はそこの有名な隊員なんですか?」
ユーフォさんが首を横に振る
「少し違う。ヴォル・ヴェーラーはスネークアイの隊長だ…!」
社内の空気が変わる。え…とルナが僕の方を見る。………僕も知らなかった。師匠が特殊部隊の隊長だったなんて……




