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邂逅篇

挿絵(By みてみん)

 ある日、アタシは生まれて初めて恋をした。

 いろいろあってこの町に引っ越してきて、それで近所に何があるかを確認しようと外に出て……それで近所の、ちょっとさびれ始めてる商店街に来た時に、運命の出会いを果たしたんだ。


「大丈夫かい、君!?」


 その人はうずくまってたアタシに心配そうに声をかけてくれた。

 そう、その時のアタシはちょっと普通の状態じゃなかったんだ。


 あとでママに聞いたところによると、盲腸だったらしい。

 今までそんな名前の病気にかかった事もなければ、そんな名前の病気を聞いた事もなかったアタシは、生まれて初めて感じる正体不明の激痛を前にどうすればいいのか分からなくて……それで、商店街の片すみでうずくまるしかなくて。


 そんな時に、その人が声をかけてくれたんだ。


「ちょっと我慢してね! すぐ近くの診療所に連れていくから!」


 その人はすぐにアタシを運ぶ決断をした。

 そしてこの瞬間だった……その人の顔を見たのは。


 さらに言えば、(ひと)()()れなんていう、物語の中だけに存在するご都合主義の一つと今まで思っていたモノを経験したのは。


「…………は……はぃ……」


 別にその人の顔は、TVに出てくるアイドルのようなキラキラまぶしい感じの顔じゃなかった。


 かといってブサイクというワケでもなくて……フツメンに近かったかな。


 いやむしろ、それがアタシにとっては良かったのか。

 それともアタシが好きなパーツで顔が構成されていたからか。


 いや、だからと言って、その人の親切心に対して思うところがないってワケじゃないけど…………とにかくその人は、アタシの(この)みだった。

 しかも、さびれていながらもそれなりに人がいた、商店街の片すみにいたアタシをすぐに見つけて、診療所まで運んでくれる優しい人…………これで心がときめかない人がいたら、そいつは人間じゃないと思う。


 とにかくアタシは、アタシを助けてくれたその人を好きになった。


 そしてそのせいで……うまくその人に返事できなかったけど。

 だけどその人は、すぐにアタシを運んでくれて……そしてアタシをお医者さんに(あず)けると、バイトに遅れるという理由でアタシに謝罪してから、すぐにその場から名前も告げずに去ってしまった。


 そのせいで、さらにその人の事が気になってしまった。

 もう気になりすぎて盲腸の痛みどころか、どんな治療を受けたのかさえ思い出せない。いや、多少の痛みはあったような気はするけど……お医者さんに処置をしてもらった間の記憶がほとんどない。


(まな)()、そのお医者さんに聞けば誰なのかくらいは分かるんじゃないか?」


 パパのその言葉で、ようやくアタシは我に返った。

 そうだよ、アタシをみてくれたお医者さんなら、アタシをお医者さんまで運んでくれた人の事を何か知ってるよね!


 ………………ってあれ?


「なんでパパがお医者さんの事を知ってるの?」


 ダアアアッ!!


 なんて効果音が出そうなくらい大げさに、パパとママはズッコケた。

 そして改めて二人に聞いてみたところ、どうやらアタシが、自分を助けてくれた人の事を考えていた間に、盲腸が治った今のアタシを迎えに来てくれたママが、事の詳細をパパに伝えていたらしい。


「ていうかママ、勝手にパパに喋んないでよ!」


 とっても恥ずかしいんですけど!

 というかそれ以前に、二人はアタシの言動から……アタシが恋をした事はとうに分かってるみたい。そう気づくと顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなった。


「ごめんごめん。でも真美ちゃんにとっては初めての事なんだから、ちゃんと二人で相談させてほしいな?」


「…………うん……」


 さらにはそう言われて……何も返せなかった。

 なぜならママは、アタシとの距離感をはかっている最中だから。


「じゃあ明日、さっそくそのお医者さんに聞きに行こうか」


 ちょっとしんみりしたところでパパが言った。

 なんだかすごいプレッシャーを感じる……そういえばいま初めて気づいたけど、アタシの恋はパパ次第じゃん!?


(つぐ)()さん、そんなプレッシャーをかけちゃいけませんよッ」


 ママ、すぐにパパをはたく。

 といっても漫才のツッコミみたいな感じで。


「相手の事を知ろうとするのは良い事ですけど、そのプレッシャーのせいで相手が私達に苦手意識を持ったら、相手をちゃんと見極められないでしょ? 仕事の面接でもそうでしょ?」


「うっ、ごもっともです」


 さらにはママ、正論でパパにわからせる。

 パパはママにだけは頭が上がらないんだよね。


「真美ちゃん、とにかく明日……一応お医者さんに聞いてみようか。でもね、守秘義務で教えてくれない可能性が高いから、それは覚悟してね?」


 ママの正論はアタシにも向けられた。

 いや確かにそうかもしれないけど……なんかテンションが下がっちゃう。


     ※


「ああ、あの子ねぇ……それについては守秘義務があるからねぇ」


 次の日。

 お医者さんに聞きに行ったら案の定、教えてくれなかった。


     ※


「こうなったら、毎日……出会った場所で張り込みをするしかない」


 さらに次の日……平日の早朝。


 アタシは、最後の手段に出る事を宣言した。

 というか、その手段以外に見つける方法があるんなら逆に聞きたい。


「でも真美ちゃん、一人で大丈夫?」


 そんなアタシを、ママは心配した。

 そりゃあ、盲腸でお医者さんのお世話になったから心配するのも分かるけど……パパだけでなくママも働いてるから、アタシと一緒にいる時間はあまりカブらないよね……そのなんとかカブった時間にその人が通りかからなかったら時間の無駄になっちゃう!


「一人で大丈夫! ママの心配も分かるけど、アタシはアタシで自衛の手段があるから!」


 そう言ってアタシは、ポケットから防犯ブザーを出した。

 商店街にはちゃんと人がいるから、これさえあればアタシに何か変な事をしようとする人達は絶対に注目を浴びる。変なマネだけはできない!


 それでもママは、心配そうな顔をしていた。

 それを見て、アタシの胸が……アタシを助けてくれたあの人の事を考える時とは違う感じで、締めつけられるけど…………でも、アタシだっていつまでもママ達の助けを借りるワケにはいかない。


 時には自分一人で解決しなきゃいけない事だってあるんだ!


     ※


 放課後。

 あの人は現れなかった。


 途中からママも張り込みに付き合ってくれたけど。

 それでもあの人と会える時間帯と重なる事はなかった。


     ※


 その次の日。

 そのまた次の日。


 あの人は現れなかった。


     ※


 まさか時間を短縮するためだけにたまたま商店街を通ったのか。

 本当は、こことは違う道を通ってどこかに行っているのだろうか。


 そんな想像が、時々よぎる。


 というか、商店街でずっと張り込みしてるだなんて……それしか会う方法はないとは思うけど、それでもこれはストーキングの一種じゃないかって、あの人に会えない事でテンションが下がるたびに思えてきて…………。


「…………ママ、もうアタシ……あきらめる」


「…………真美ちゃん……」


 アタシを見るママの目が、悲しげだった。

 たぶん今のアタシの目も、同じような感じだろう。


 運命の出会いだと思ったのは、アタシだけだったんだろうか。

 どう考えようともそんな結論に至ってしまう……どうしてもテンションが下がるような考えしか浮かばない。


 とにかくアタシは、もう二度とあの人に会えない事を思うたびに、涙が出そうになりながらも…………ママに手を伸ばして――。











「あれ? ()(みな)先生?」











 ――アタシは再び、運命に出会った。











 すぐに、振り向く。

 泣きそうになってて、それでちょっと涙がにじんでて、そのせいで振り向いた時に遠心力で涙が変なところにかかったかもしれないけど……とにかく振り向いて。


 そこに、あの人がいた……………………ん? 先生?


「あら、(かおる)くん。奇遇ね」


 すると、ママはママで気さくにあの人に声を…………え、まさか!?


「伊皆先生、引っ越したって聞いたんですけど近くなんで……え、もしかして()()()なんですか? 前に言ってた子って」


 アタシの驚きをよそに、二人の会話が始まる。

 というか、ママは高校で教師をしてるんだけど……まさかアタシを助けてくれたこの人って、ママの勤める高校の生徒だったの!?


「あ、そういえばこうして会うのは初めてよね。()()()()()()()()真美ちゃんよ。真美ちゃん、こちら、私が受け持つクラスの高山(たかやま)馨く…………ん?」


 ここでママ――パパの再婚相手が、アタシの反応に気づく。

 いったい自分がどんな顔をしているのか分からないけど…………ママはちょっと複雑な顔をしてから「馨くん、ちょっと待っててすぐ戻るから」そう言ってアタシを少し離れた場所――商店街の脇道の入口へと連れていって。


「まさか、馨くんなの?」


 アタシに、おずおずと聞いてきた。

 アタシは、改めて恋をした相手の確認をせまられて……さらに顔が赤くなったんじゃないかってくらい顔が熱くなって、ついでに頭がぼーっとしたけど、それでもこくんとうなずいた。


 おそらくママは、あまり歳が変わらない子だと想像してたかもしれないけど……というかアタシはアタシでママに、年上の人、としか言ってなかったからおあいこなんだけど。とにかくこの事実はアタシだけでなくママにも衝撃的だったみたい。


「……………………真美ちゃん」

 ママは真剣な顔をして、改めてアタシに小声で言った。


「ママはね、恋自体は応援します。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今のうるさい時代に男女として付き合えば絶対に、馨くんの方が厄介な事態になります。そしてママは、自分の生徒を犯罪者にしたくありません」


 そしてその言葉は、アタシにとっては青天の霹靂(へきれき)のごとき衝撃だった。

 いや、よく考えれば、年齢的にアタシの恋はいろいろヤバめである事は自覚しておくべきだったかもしれない。


 恋は盲目(もうもく)とか言うけど……まさかアタシもそうなってしまうとは。


 というか、少女漫画とかではこういう歳の差な恋愛はかかれたりするけど。

 実際にそんな恋愛をしたら、年上の異性の方がロリコンやショタコンのレッテルを貼られた上で犯罪者認定されてしまう。


 それじゃあ、このままじゃアタシの恋はみのらない!?


「だから真美ちゃん。今は――」


     ※


「えっと、伊皆先生……そろそろ俺、アルバイトに行きたいんですけど」


 アタシがママから助言を聞いた直後。

 アタシが恋をした人――かおるさんが、おずおずと声をかけてきた。


「あ、ごめんなさい馨くん」

 アタシの背中をグイグイ押しつつ、ママは笑顔で言う……って、押さないでまだ覚悟ができてないのに!?


「それはそうと馨くん、ウチの真美ちゃん、前に助けてくれたでしょう? どうもありがとね、助けてくれて」


「あ、いえ、大事にならなくて良かったです」


 ママ、ナチュラルに話題をそらす。

 確かに、いきなりアタシの告白になるとアタシが対処に困るからありがたいけどそれでもまだちょっと待ってぇ!?


「それでこの子、助けてくれたあなたにお礼を言いたくて、どこの誰か分からないままで、とりあえず会ったここで待っていたんだけど……まさかあなただったとは思わなかったわ」


「あ、そうなんですか。名前を告げなかったせいで待たせてしまったようで。いやホントにすみません」


「いいのよ、あなたもいそがしいみたいだし。あ、そうそう真美ちゃん」


 ママはアタシの肩を叩いた。

 あとはお礼を言うだけだと声なき声が言ってるけど…………か、覚悟できてないままだから……き、緊張するんだけど!?


「あ、ぁっと…………そのぉ…………」


 あわわわッ!?!?

 好きになった人が目の前にいて緊張してたまらない!!!!


 顔は熱いしそのせいかうまく考えがまとまらないし心臓の鼓動はうるさいし息が苦しいし寒くもないのにかすかに体が震えるしでもう何がなんだか分からないッ。


 思わず、うつむいてしまう……けど。

 同時に、さっきママに言われた事が脳裏をよぎる。


『だから真美ちゃん。今はお友達としての付き合いにしなさい。それも家族ぐるみの付き合いにとどめておきなさい』


 それは、アタシの頭のセーフティ機能のようなモノなのか。

 それも、頭がオーバーヒートしてどうにかなってしまわないための……とにかくその言葉が、アタシの中で浮かんで。


 それで、ほんの少しだけど…………アタシの中のハードルが、下がって。


 それで、アタシは。

 このままじゃ嫌だから。


 歳の差とかの問題があるけれど……これっきりにはしたくないから。


 これからもずっと。

 かおるさんに会いたいから。


「こ、ここここのあいだはた、たた助けていただきあ、ああああありがとうございました!!」


 だからアタシは、かおるさんの顔を、マトモに見られないくらい恥ずかしいのもあって……それで、お礼もかねて、頭を必要以上に下げて。


「よ、よよよよよよかったら、あ、ああああアタシとッ!! と、とととと友達になってください!!」


 それで、ついでに言えば。

 必要以上に、声を上げてそう言った。


 そして、かおるさんの返事の(あと)で、その事に気づいて…………アタシはその日、恥ずかしさのあまり、家に引きこもった。

 思いつきはしたけれどまだ全体像は考えていない物語です。

 いつかもっと長い連載作品として書きたいと思っています。

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― 新着の感想 ―
小学生やったんかぁ──いッ! いやぁ~~。 どうするんですか、この展開。 おそらく、世間的に認知されるのは真美ちゃんが大学生になった頃。 それまで想いが続くか? それ以前に、馨くんが真美ちゃんを異性と…
ワイはこの恋を応援するで( ˘ω˘ )
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