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第六十六話 太陽のような少年

 予期せぬトラブルに見舞われたにも関わらず、シディアたち一行を乗せた大型ケルピー船は、当初の予定より三時間ほど早く西の国・アダマソルに到着した。

 目指すは王都アダマソル。依頼人である国王に謁見するためである。

「あ、門が見えてきたよ!」

「おぉー、立派!いかにも王都っぽいじゃん」

「着いたらまず宿に向かわないとな。王宮から話は通してくれてるらしいから……」

 時刻は午後二時。本来なら夕暮れ時に通るはずだった街道を、明るい時間に歩けている。

 人通りもそれなりに多く、王都に近づけば近づくほど活気が感じられた。

 四方をぐるりと囲む堅固な城壁の中に、王都はある。先頭を歩くアリスが、前方に目を凝らした。

「わー、門のとこ人だらけ」

「通行許可が必要だから、そのチェックで混んでるんだろうな。通行許可証は発行されてるから問題ない。ひとつしかないから、はぐれるなよ」

 城門まで二百メートルをきったところで、アリスとネオンがふいに空を見上げた。素早く戦闘態勢をとる。

 聞き覚えのある甲高い鳴き声に、一歩遅れてシディアも剣を抜いた。

投石鳥(ハールバード)か……!」

 いつぞやの夜に見たのと同じ、鳥型の魔物が上空を旋回していた。

 本来は高い場所から岩などを落として獲物を狩る彼らだが、狩りの方法はそれひとつだけではない。

 旋回しているのは、その真下にいる獲物───つまりシディアたちをロックオンしているということだ。

 街道にはまだ人通りがあることに気づき、シディアに緊張が走った。

「ここで戦うのはまずい、あっちの岩場に走るぞ!」

 駆け出すと、旋回していた投石鳥も三人を追って飛んでくる。

 岩場に着く頃には、周囲は投石鳥だらけになっていた。先ほどの鳴き声に反応し集まってきたのだろう。

 あまり見たくはない光景だが、ロックオンした者しか狙わない習性はむしろ助かるというものだ。

散★弾スプラッシュ・バレット!」

身体強化(リィンフォース)───レベルセカンド!」

 弾丸の雨が降り注ぎ、投石鳥たちは悲鳴を上げる。

 アリスは戦鎚を手に岩から岩へと飛び移り、時には空中で回転し数羽を一気に蹴散らすという派手な技も披露して見せた。

(これは……俺の出る幕はなさそうだ)

 岩場の真ん中で、荷物を守りつつ観察に務めていたシディアだったが、ふと、背後からの視線を感じ振り返る。

 視線の主は、大岩の上からこちらを見下ろす、二羽の投石鳥だった。大鷲と同程度のサイズである他の投石鳥より、ひとまわり小さい個体である。

 小柄な二羽に、シディアは「ははーん」と剣先を向けた。

「さてはお前ら、俺が一番弱そうだと思って近づいてきたな?飛んでる相手への対処法だってちゃんと学んでる、そう簡単にはやられないぞ、残念だったな!」

 

 一方。岩の影から静かに戦況を見守る者たちがいた。

 両腰に差した短刀を抜こうとした少女を、少年が手で制する。

「大丈夫だ、ミコト。あいつらは強いさ」


 一体一体は大して強くない魔物でも、群れるとやはり厄介だ。

 この辺りの投石鳥を討伐し尽くしたのではないかと思うほどの、おびただしい量の死骸に囲まれ、シディアは息を吐いた。シディアが倒した個体は、言うほど多くはないのだが。

「大漁大漁~★っつっても、こいつ鳥の見た目してるくせに美味しくないんだよねー。なんか使い道あんの?」

「仕留める=食べる、になるあたり、さすが猫……え?食べたことあるのか?まぁ、とりあえず放置して、王都に入る時に報告しよう。アダマソル騎士団が処理してくれるはずだ」

 ふうん、と少々不満そうな目をシディアに向けた後、ネオンは更にその先、シディアの背後にある大岩に視線を移した。

「で、ウチらのこと超~見てたけど、なんか用?」

 ネオンの言葉に、魔力不足で伸びていたアリスが、むくりと身体を起こす。

 大岩の後ろから「あはは」と軽やかな笑い声が聞こえた。

「おっと、気づかれてたかー。オイラたちもまだまだだな!」

 バレているならしょうがない、とばかりに声の主は大岩の影から姿を現す。


(……ダン?)

 一瞬、時が止まったような気がした。

 ツンツンと天を向く短髪。力強さを湛えた瞳。背負った槍までもが、亡き親友を思い起こさせる。


 しかしよく見れば、顔立ちは全くの別人だった。アリスと同じ程度の背丈、幼い顔立ちからして、十二・三歳というところだろうか。

「いやいやー、気配消すのマジ上手すぎっしょ。とくにそっちの女の子。ウチの耳と鼻が優秀すぎただけっていうかー?」

 そっちの女の子、と言われて初めて、少年の傍らに佇む少女を認識した。目にかかった前髪の隙間から、無言でこちらを見つめている。

 目の前にいても気配を感じられないとは、たしかに只者ではなさそうだ。

「いやあ、助けに入ろうと思って近づいたんだけど、必要なかったなーって。やるなあ、三人とも!」

 少年はシディアに右手を差し出した。小柄な体格に似合わず、筋肉質な腕だ。握った手は固く、ごつごつとした骨っぽさを感じた。

「オイラはヒューゴ。こっちはミコト。ウィレの村から、仕事で王都に来たんだ」

「俺はシディア。こっちはアリスとネオンだ。俺たちもベーヌスから仕事で来た。ヒューゴは……その歳で、学生じゃないのか?」

 その質問には慣れている、というふうにヒューゴは笑った。

「学校は二年前、オイラもミコトも十三歳で卒業したよ。針山島───ベーヌスは国を解体して、それぞれ自治にしてるだろ?それをアダマソルの王様も、数年前からお試しで真似し始めたのさ。まぁ、うちの(おさ)の要望が大きかっただろうな。オイラみたいな若いヤツが学生ばっかだと、うちは人手が足りないんだ」

 二年前に十三歳。即ちヒューゴは現在十五歳ということになる。

 十五歳と知ってからもそうは見えないほどに幼い見た目だが、それを言えばアリスも似たようなものだ。対して、隣にいるミコトは年相応以上に落ち着いている。

「人手って、何の人手なんだ?」

「狩りの人手さ。オイラたちは狩りをして生計を立ててる一族なんだ」

 ヒューゴは両手を腰に当て、得意げに胸を張った。

「狩りで一族の役に立てて、美味い肉にもありつける。座って勉強してるより、よっぽど性に合ってるよ。オイラにとっては天職さ」


 動物を相手にする狩りで、そんなに人手が足りなくなるとも思えない。そこまで実入りも良くないだろう。

 そうなると魔物や魔獣の類になるが、魔物の肉は一般的にゲテモノ扱いだ。騎士団が遠征時、やむを得ず食べることもある、くらいの代物である。肉が硬く、味に独特のクセがあり、大した栄養も期待できないらしい。

 シディアは口にしたことはないが、それを「美味い肉」と表現するとなると───ひょっとして。


「狩りってまさか……黒竜(ダークドラゴン)?」

「お、ご名答~!シディアの頭はよく回るなぁ!」

 黒竜の肉は特別だ。市場に出回るようなものではない。幻の肉と呼ばれる、超がつく高級品である。

 西の国の一部の店で食べられるらしいと聞いたことはあるが、まさか目の前の少年が幻の肉を仕入れていたとは。

「ん?なんだ、ミコト?……ああ、そろそろ行くか」

 ヒューゴが指笛を鳴らすと、赤竜(レッドドラゴン)が二体、ヒューゴとミコトの隣に降り立った。その背には鞍が乗っている。

 それぞれ主を乗せた赤竜たちは翼をはためかせ、上空へと飛び立った。

 慣れた手つきで手綱を操るヒューゴは、シディアたちに向かって声を張り上げる。

「改めて、オイラは黒竜(こくりゅう)()りの一族、竜騎兵団一番隊隊長・ヒューゴだ!なんか、お前たちとはまた会う気がするぜ。またな!」

 陽の光に透けるオレンジの髪に、日に焼けた肌。明るい言動、眩しい笑顔。

 まさに太陽のような少年だと、去っていくヒューゴの背を見つめ、シディアは思った。



   第六十六話 太陽のような少年 <終>


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