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第二十五話 友の助け

「親父から逃げ切るほどの戦士相手に、よく生きてたなー!俺との強化合宿が役に立ったか?」

 きっと、シディアの表情はよほど強張っているのだろう。ダンは普段から陽気な少年だが、いつも以上に明るく話しかけてくれているのがわかる。人生イチ怖い思いをしたであろう親友を、安心させようとしてくれているのだ。

 シディアは、全身から力が抜けていくのを感じた。

「おかげ様でな。気づいてくれて助かった、ありがとう」

「合図に気づいたのはエイミーだぜ。俺は魔物との戦闘でいっぱいいっぱいだったからな」

「えっ、待ってシディア、その脚!?その手に持ってる回復薬貸して!早く!」

「うわっ本当だ、血ドバドバ出てんじゃねーか!?さっきの奴にやられたのか?」


 合図、というのは先ほどの光の柱のことだ。

 回復薬に使われている治癒の魔法石には、大量の魔力を一気に込めると強い光を放つ性質がある。

 治癒の魔法石に魔力を大量に込めたところで、治癒の効果量が爆発的に上がるわけではない。多少の変化はあったとしても、込める魔力量に対する効果の上昇率を考慮すると、「無駄な行為」「やろうとも思わない」というのが一般的な認識だ。

 つまり、光を放つ性質に関しては世の中にはあまり知られていない。

 幼少期のシディアが魔法書の記述を見て実験して以来、ダンとエイミーとの連絡用に、あくまで遊びとして性質を利用していたに過ぎないのである。

 火事の混乱の中で見つけてもらえる確率は決して高くはなかった。シディアは戦闘には負けたが、生存の賭けには勝ったのだ。


「……院長、危ないところを助けてくれて、本当にありがとうございます」

 ダンとエイミーの手当てを受けながら、シディアは壮年の槍使いに礼を述べた。

 逃げた敵を追ったが見失い、戻ってきたらしい。さりげなく周囲を警戒しながら、「とんでもない」と笑みを返す。

 この隻腕の槍使いの名はハロルド。ダンの養父であり、元騎士だ。そしてダンとエイミーが育った孤児院の院長でもある。

 絵に描いたようなロマンスグレーの美丈夫だが、結婚が遅く子どもに恵まれなかったのもあり、槍の才を見出したダンを養子として迎えたとのことだ。

 戦いの中で片腕を失ったのをきっかけに騎士を引退したと聞いているが、先ほどの動きを見る限り、まだまだ現役で通用するのではと思ってしまう。

「陛下の命で今晩だけこのエリアを任されているゆえ、私はご一緒できません。代わりに息子を護衛につけましょう。ダン。エイミー。手当が終わり次第、シディア様を避難所へお連れしなさい」

「「了解!!」」

 元気の良い返事に、ハロルドは満足そうに頷いた。二人を見る顔は優しい父親そのものだ。養父としてダンを、院長としてエイミーを育てた彼にとっては、どちらも自身の子であることには変わりないだろう。

 その後シディアに向き直ったハロルドは、騎士の顔に戻っていた。軽く一礼し、火煙渦巻く街中へと踵を返したのであった。

()()……ってことは、やっぱり発令されてるのか」

「ああ。コード・クラウン発令中だ。シディアが行ってた三日月島にも、そろそろ報せは届いてるはずだぜ」


 平時なら島主が治めている三日月島だが、元はベーヌス王国の一部だ。コード・クラウン発令時のみ、ベーヌス王───つまり女王ダリアの統治下となる。

 幼い頃、いったいどうしてこんな面倒な制度にしたのかとダリアに尋ねたことがあるが、母の答えは至極単純で我儘なものだった。

「あたしは王になんてなりたくなかった。どうしてもと言うから妥協点を探した。結果こうなっただけだ」

 そしてこうも言っていた。

「なに、ベーヌス存続の危機なんて滅多にあるものじゃない。そのための騎士団だ。シディア殿下、と敬われる日はそうそう来ないだろう。残念だったな」

 シディアとしても、べつに王子として生きたいと思ったことはない。アリスだって子どもの頃は夢見こそすれ、今さら姫として扱われてもむず痒いだけであろう。


「実は用があって、急いで家に帰らないといけなくて。ここからだと、避難所よりも遠くなるけど……ついてきてくれるか?」

 薬の件は、無暗に話すべきではないとシディアは感じていた。

 詳細も教えないまま親友たちを連れまわして良いものだろうか、と遠慮がちに尋ねるシディアに、ダンはニッと歯を出して笑い親指を立てた。

「いいぜ!家でも避難所でも、俺が完璧に送り届けてやるから安心しろ」

「ところで、アリスは?一緒じゃないの?」

 エイミーが瓶の蓋を閉めながら首を傾げる。回復薬はどうやらギリギリ足りたようだ。

「ああ、その辺は道中で話すよ」

 とくに何かを感じたわけではないが、念のため周囲を見回す。

 ハロルドが離れた今、先ほどの女が再度襲ってくる危険もゼロではない。

(でも……)

 石畳に捨て置かれたフード付きのマントを見やる。

 何やら顔を見られたくない事情があるようだった。顔を隠すものを失って、今すぐに再戦してくる可能性は低いだろう。

「よし、もう歩けると思う。痛みはちょっとあるかもだけど」

 手当を終えたエイミーが膝をはたきながら立ち上がった。

「行こうぜシディア。立てるか?───ほら」

 ダンが差し出した左手を、シディアの左手が掴む。

 ぐいっと力を込めて助け起こしてくれたその腕は、いつかのそれよりも更に逞しく、頼もしく思えたのだった。


 *****


 家々を燃やす炎。そこかしこから立ちのぼる煙。

 任されたエリアを点検し、ようやく一般住民の非難完了を確認したハロルドは胸を撫で下ろした。


 外出先で避難指示を聞いた際は肝が冷えたが、騎士団の助けもあって孤児院の子どもたちは全員無事に避難することができた。周囲も一時パニックになったものの、同エリア内での死者は報告されていない。

 助けが来るまでの間は、エイミーが孤児院の幼子たちに声を掛け続けてくれたと聞く。彼女にも本当はもっと幼いうちに里親を見つけてやりたかったが、今回ばかりは孤児たちに慕われている者がいてくれて助かった。

 ベーヌスは本来平和な島だ。今孤児院にいる幼子たちは、島外から来た子ばかり。まだこの地に慣れきっていない子もいただろう。そして多くが、魔物や賊に故郷を滅ぼされ、親を奪われた子どもたちだ。それはそれは心細かったに違いない。


(それにしても───)

 隻腕の騎士は釈然としない気持ちを抱えたまま、潜んでいる魔物がいないか見回りを続ける。

 魔物の大群の到着前に、逆方向から奇襲をかけたわりには、少々手ぬるいように思えた。

 火を噴く魔物がいたせいで火災が起き混乱を招いたが、その魔物も一匹のみ。駆け付けた騎士団により真っ先に倒されている。

 魔物の個々の強さもそうだが、数も大したものではない。ダンを含め騎士団員ではない者が参戦していたぶんを差し引いても、騎士団との戦力差は歴然だった。

 今や魔物と交戦している騎士はわずか。水系統の魔法を使える者を中心に、鎮火に勤しむ団員のほうが多いくらいだ。

 どう見ても、本気でこのエリアから潰していこう、という敵の意思は感じられないのである。

(何かの罠か、もしくは───陽動か)

 先ほど交戦したフードの戦士が脳裏をよぎった。騎士団には危険人物として速やかに報告したものの、情報が少なすぎるのが現状だ。奴は───いったい何者なのか。

「む?魔物の侵入経路はここか」

 そこは街のはずれ、海岸沿いだった。

 正直なところ、魔力の可視化は得意ではない。そんなハロルドでも感覚でわかるほど、島を守る結界に大きく穴が開いていたのだ。

 騎士団に伝えて修復を図らねばなるまい。そう考えていた時だった。

 背後に、魔物の気配を感じたのである。

 結界の状況把握に気を取られていたとはいえ、魔物に易々と背後を取られるなど。歴戦の騎士にあるまじき失態だと、ハロルドは内心、自身の衰えを嘆いた。

 振り向きざまに繰り出した槍は、魔物の中心に深々と刺さる───はずだったのだが。

 なんと槍の穂先が届くより早く、魔物は地に伏していた。

 大型の魔物だ。ハロルドの槍でも、絶命させるには二撃ほど必要だったであろう。

 ぴくりとも動かない魔物の頭部から血が流れ出していることに気づき、ハロルドは片膝をついて目を凝らした。

 両側頭部に、銃創。

 一発の銃弾が頭部を貫通した痕である。

 懐かしさに「ふっ」と笑みがこぼれた。どうやら()は衰えていないらしい。

「……いつまで懺悔を続けるつもりなのだ、お前は」



   第二十五話 友の助け <終>


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