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中:「救世主」の意味

朝になって始まる一人旅、と思ったら、そうじゃないらしい。


今日になって突然、村長や有志が集まったと思えば、俺を神殿まで連れて行くと言い出したんだ。豪華な神輿のような籠の中で、変な音楽を奏でながら進む行進。


当の俺は、籠の中でボンヤリ外を眺めるしかない。おいおい・・・本当にこんな俺が、魔物を倒せるのかよ?特別な力なんか使える気配が無い、ただただ救世主と祭り上げられてばっか。


「サトーさん、そろそろお昼のご用意を致しますね」


ま、一緒にライが乗っているから、孤立感は無いけど。備蓄用の干し芋に、道中で取れた木苺を囓る。


あー、自然の食事も良いけど、もうちょい濃い味の料理が食いたいなぁ。こういう時にインスタント食品が食べたくなるのは、現代人の悲しい性か。まぁ動いてないしアラサーだから、あんま食うと健康診断が危ないか。


あ、もう会社員じゃ無かった(はず)。


「サトーさんのお好きな卵焼き、お作りできれば良かったのですが・・・お口に合いますでしょうか」


「いやいや、そんな気にしなくて良いよ。というか俺、何もしてないんだし」


ここ数日、ずっと籠の中だ。揺れる籠の中で流れる景色を眺めて、夜になれば寝る。まるで輸送品みたいな扱いに、変な気分しか感じない。


「なぁライ。俺、本当に救世主か?」


「そ、それは・・・も、勿論でございます!伝承通り、異世界から呼び出された選ばれた方ですし」


「いや、なんか特別な意味を持ってコッチに来たらしいけど。俺、今のところ、なんの役にも立ってねぇぞ?」


「と、とんでもない!サトーさんには、まだ気付かれていない特別な力があるに違いありません!そ、それに・・・もう我々には貴方様しかいないのです!!」


ここまで懸命に言われちゃ、何も言えねぇ。これ以上、疑問視しない方が良いか。ふぅと一息ついた時、色々な植物が目に入ってくる。話題を変えるか。


「綺麗な花が咲いてるな、この辺り。邪気が無さそうで、ちょっと安心したよ」


「あ・・・は、はい。サトーさん、お花がお好きなんですね」


花は、まぁ好き。庭いじりをして、色んな花を育ててたくらいだ。手を伸ばして、1輪だけ手折ってみた。


・・・あぁ、似合わない。俺に、綺麗な花なんか。


花が似合う顔じゃ無い。学生時代にそう嗤われてから、周囲の目を気にしてばかりで。気付いたら、自分のことが分からなくなっていた。


やっぱ異世界でも、俺は俺だな。事故に遭ったんだし、イケメンな秀才に生まれ変わりたかった。せっかくなら、今の自分を忘れていれば良かった。今よりずっと、生きやすそうだ。


せっかくだし、ライにやるか。明るい髪色に似合いそうだし。


「わぁ、ありがとうございます!僕もお花、大好きなんですよ」


そんなに喜んでくれるのは、ちょっと意外だけど嬉しい。こうやって真っ直ぐ褒めてくれたの、初めてかもな。


もっと昔から、こんな友人いたら良かった。顔色をうかがわなくて良いし、隣にいても緊張しない。それでいて、自然体の距離でいてくれる。


異世界で特殊な環境下だから、出会えたのかもしれないけど。




そんなこんなで、既に2週間近くが経とうとしている。俺はずっと籠の中で揺られるだけ。食べて寝て、ライと飽きるまで駄弁る。その繰り返し。


そろそろ目的地の神殿らしい。いよいよ救世主様の出番だと、またご馳走を出されたけど・・・あんまり動いてないから、腹減ってないんだよな。どんちゃん騒ぎの会場を抜け出して、川辺に出た。


あぁ、月が綺麗だな。こんなにじっくり夜空を見るのも、本当に久しぶりだ。



「・・・サトー、さん」



あれ、ライの奴、付いてきたのか。何かしら声をかけようとしたけど・・・妙に暗くて、今にも泣き出しそうな顔に、どうも言葉が詰まる。


ドサッと膝から崩れ落ちたから、ただ事じゃない。近くに座らせて、震える体を撫でた。


「ライ、どうした?」


「・・・やっぱり、どうしても、お話ししたくって。これ以上、隠せません」


「か、隠せない?」



()()は・・・貴方を、騙していたんです」




邪気を放つ魔物は、突如として神殿に棲み着いた。その強大な力に、村は為す術も無かったが・・・その魔物は、とある契約を持ちかけた。【供物を出せば村は襲わない】と。


最初こそ、契約は穏便だった。鶏1羽や酒1杯で済んでいた。それが今年取れた麦の半分、村にいる家畜を1種類ずつなど、要求はどんどん重くなっていく。


そして今年、魔物は村の食料ほぼ全てを要求してきた。自給自足の村では、食料の消滅は村の終わりを意味する。村の食料全ては勘弁して欲しいと、村長は神殿まで赴き懇願。


すると魔物は、とある要求を突き出した。


ーーー若い人間を、1人捧げろ。


村人全員が家族同然だったその村は、酷く混乱した。村長の息子ライが贄になると名乗り上げたが、唯一の血を分けた存在を失いたくなった村長。


やがて、村は伝承に手を出した。異世界から救世主・・・つまるところ、事情を全く知らない人間を呼び出せる、ろくでもないおとぎ話を。


そして成功した。そいつを生け贄にすれば、村は助かる。


つまり俺は・・・魔物に食われるために、ここまで来たらしい。



「村を救うと救世主呼ばわりして、結局は貴方を見殺しにするだけなんです!何も知らない人間に何も知らせず、一方的に殺そうとしてるんです!!」


地面に突っ伏して、わんわんと泣き出したライ。同じ高さになるようにしゃがんで、ギュッと抱きしめた。


俺だって相応の年(アラサー)だ。今の状況に納得は出来ないけど、理解は出来る。


俺は捧げられるために、アイツらにここまで崇められていた。まぁ、確かにそうだよな。そうでなきゃ、ろくに活躍してない人間を、ここまで連れてこないだろ。


「・・・サトーさん。やっぱり僕、貴方を見殺しに出来ません!このまま逃げましょう!」


「それじゃお前の生まれ故郷が、邪気でやられるぞ?」


「誰かを騙し殺す村なんて、魔物に滅ぼされた方がマシです!!」


おいおい、そんなこと大声で言うのかよ。でも・・・そこまで思ってくれる奴がいてくれるなんて。



「何をしている、ライ」



ハッと気付いた時には、既に村長や何人もの有志が、俺達の周囲を囲んでいた。ライの奴も「父上・・・」と愕然とするしか無い。


次の瞬間には、複数の男がライを取り押さえた!慌てるライを遠くへ追いやり、村長はニコニコしながら話し出す。


「救世主様、愚息が下手な虚構を与えてしまい申し訳ありません。さぁさぁ、こんな奴の言っていたことは気にせず、宴にお戻りになってください。旨い料理も沢山ございますので」


その作り笑いで分かる、完全な確信犯だ。


「・・・別に良いですよ、もう食事は。どうせ【魔物に肥えた奴を欲しがられた】とか、あなた方の都合でしょうし」


そう言えば、ついに奴らも愛想付いたようで。縄でグルグル巻きにされたと思えば、家畜を入れるような大きな鉄籠に放り込んでいった。


あーあ、結局俺は特に取り柄も無く、特に何も出来なかった。不完全燃焼で消えていくのか。


でもまぁ、どうせ俺はあの日、交通事故で死んだ。ちょっとだけ延命しただけさ。最後に異世界転移を経験して、2週間ちょっとでも近くで過ごしてくれた奴がいて、満足だよ。


今度こそ、生まれ変わるチャンス。次の人生こそ、自分のやりたいこと見つけられれば良いな。


そう思えば、不思議と気分は悪くない・・・なんて、強がってみる。

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