B(日時 不明)
「さて、開く準備が整ったところで……博士、すごいでしょう?」
「……自慢げに語っているところ、悪いが一体何がすごいのかね? わしにはただの死骸にしか見えんが。さっきと変わらず、傷だらけで臭い死骸に見える」
「ふふふ。博士、目に見える物だけに囚われてはいけませんよ。持ち上げてみてください」
「……君の物言いがいちいち鼻につくのはなぜかな……。む、これは……随分と軽く感じる。大きさに見合った重量が無いのではないかね?」
「その通りです。流石は博士ですね。私の想像通りなら、この死骸の中はスカスカになっているはずなのです」
「だから、軽いと?」
「はい」
「して、これは一体何なのかね?」
「まさか、博士、新聞を読んでいらっしゃらない? これはある事件現場で発見された物なのですが」
「新聞に? 書いてあったかな……隅から隅まで読んだわけではないから。見逃したのかもしれんな。何ページにあった記事だね?」
「十八ページです」
「そこは、結構詳しく読んだはずだがな……。十八ページと言えばスポーツ欄だが、本当にそんな記事が載っていたのか? 事件などあそこには載っとらんだろう。君の勘違いじゃないのか?」
「いえ。というかスポーツ欄? 十八ページは最終面ですよ」
「……君は一体、何新聞の話をしとるのかね?」
「もちろん、この事件が載っていた『××××新聞』ですが」
「あー……何かね、その難しい発音の新聞は? そもそも、今のは何語だ?」
「『××××語』です。F国で使われている現地語ですよ。『××××新聞』というのはF国N地方のローカル新聞です」
「なぜに、君がそんな場所の新聞の内容を知っとるのかね……? まさか、定期購読してるわけじゃあるまいな」
「そうですね。定期購読はしてませんが、面白そうな記事が載っていたので、ちょっと読んでみたんです」
「……その記事をいつ、君が知ったのか、というのは敢えて気にすまい……。君の奇行は今に始まったことではないし……」
「ひどい言いぐさですね」
「……で、記事の内容は?」
「熱帯雨林を訪れていた観光客十数名が意識不明で発見された、というものです。目立った外傷なし、盗られた物なし、全員無事に意識を取り戻しているそうです。悪質な悪戯というのが現地警察の見解ですが、おかしいと思いませんか?」
「ふむ……まぁ、あの国でそういうことが起きたのに、被害がないというのは妙な気もするな」
「でしょう? F国の治安は比較的安定していますが、一度犯罪が起きると重大化する傾向にありますからね。……本当に恐ろしい国です。私なら絶対に観光なんか行きませんね。F国がどれだけ有名な観光地であっても。ま、人は自分だけが無事でいられる、という根拠のない自信に溢れている生き物ですから、他人のことはとやかく言いません」
「……根拠のない自信だが、君はF国に行っても絶対、事件には巻き込まれんのだろうね」
「話が逸れましたが、博士の言う通り、私も被害がないというのが気になって、ちょっとばかし調べてみたんですよ。そしたら、現場付近にこの死骸が落ちていた、ということがわかりました。怪しいと思いません?」
「落ちていたって……それだけの根拠でわざわざ、その死骸を手に入れたのか?」
「別に怪しいだけが根拠ではありません。詳しい説明は省きますが、色々なツテからの報告がありましたから」
「わしにはF国よりも、君のツテの広さの方が恐ろしいよ……」
「それでは早速、解剖と洒落込みましょう」