第4話 履歴書不要!
「君たちウチに来ない?」
そう宣う澪に対して、固まる海星。鷹昌は困惑しつつもまだ緊張を解いてはいなかった。
「油断させるつもりか?」
「別にそんなんじゃないよ。というかそう思うなら聞かずに警戒しときなよ。いくらでも嘘つけるでしょ」
「それはそうだけど……あぁクソ、頭回んねぇ」
鷹昌はさっきから何度か立ち上がろうとしているが、力が入らないらしい。海星が手助けしようとすると、澪が口を挟んだ。
「あー、別にいいよ寝転んだままで。不安ならこの剣下に置こうか?」
「……ったく、なんなんだ」
「だからそのまんまの意味だって。2人を勧誘してるんだよ」
「勧誘って……どこにです?」
海星が口にした最もな疑問に、澪がしまったとばかりに苦笑いする。
「ん? あぁ〜! もしかして私、自分の所属一度も言ってない?」
「所属というか……名前も……」
「マジかごめん。じゃあ自己紹介。私の名前は新見澪。所属は国立伝承科学研究所。まあ研究所ってより事実上『剣』の対策室って感じなんだけど」
ここまで聞いてもまだ半信半疑といった様子の海星と鷹昌を相手に、澪は続ける。
「国家公務員への最短コース! お給料良いし大抵のものは経費で落ちるよ」
「気になるのはそこじゃねぇよ」
「話が見えてこないというか、なんで僕たち、そして今なんですか?」
鷹昌と海星が疑問を投げかける。澪は少し驚いたような顔をしたあと、それもそうかと1人納得したような顔で答えようとすると、鷹昌が先に口を挟んだ。
「海星を勧誘する理由はわかる。神剣の適合者だ」
「まあそうだね。これからこれを逃す手はない」
「それってどういう……」
さっきからほぼ話についていけていない海星が、手元の剣に一度、そして鷹昌と澪に説明を求めるように交互に目線を向ける。
「その剣を扱える人間は限られてるんだよ」
「なんか神話とかで聞いたことない? その剣に触れた人が呪われたみたいな話」
海星はここに来るほんの少し前に、地上の展示施設で解説のおじさんから聞いた話を思い出し、ハッとする。
「たしかにそんな話も……えっ、というかその話の流れだと」
「本物だよ、それ。まあ本体とか形代とかよくわからんしどれに当たるのかは知らないけど」
「安心しろ、今の時点で無事なら大丈夫だろ。適合者じゃなかったらとっくに呪われてるよ。どんな症状が出んのかは知らんけど」
所々に責任放棄気味の保険がかかっていそうな鷹昌と澪の話を聞いて不安になる海星だったが、なぜか剣を手放す気にはならなかった。その様子を見ながら、澪が続ける。
「で、その適合者ってのがなかなか見つからないんだ。今この場でその剣を回収したとして、適合ガチャ回しまくって呪われた人間量産するわけにもいかないだろ。これがキミを勧誘する理由だ、海星君」
一応は理解できたと言った風な海星。対して、まだ説明が足りてないとばかりに鷹昌が口を開く。
「海星を誘う理由は最初からわかってる。でも俺の方はなんだ? 殺して剣を奪った方が早いんじゃないか?」
「鷹昌の剣の適合者? を探すのも大変だからじゃないのか?」
「お前の剣と俺の剣は違うんだよ。俺のはまだ真化してない」
また新しい単語が出てきたと言わんばかりに疑問符を浮かべる海星のために、澪が解説を引き受ける。
「私たちの使う剣には2段階あるんだよ。私や鷹昌君の使う剣はまだ1段階目。使い手との相性や経験値次第で次の段階へ進む。それがさっき鷹昌君の言っていた"真化"だ」
「そんで真化すると、使える能力が増えるのと外部からのリソース供給が不要になる」
「海星君はその剣を使うにあたって何かを剣に与えたりしてないだろ?」
「それは……多分そうですけど、鷹昌も澪さんも何かを与えてる様子なんてなかったしてっきりそういうものかと……」
「雷剣のエネルギーは電気だ。やったのは俺じゃないが、ちょっと前に大量に拝借して蓄電みたいな感じで溜め込んでるんだよ」
「私のは外からだと分かりにくいだけで都度都度餌やってるよ」
(外からわかりにくいってことはリソースは使用者由来のものか……? あの戦闘中に何かを食わせてるようには見えなかったし)
澪の言葉が引っかかる鷹昌だったが、それに構わず澪の言葉は続く。
「まあ真化してできることが増えるのは良いんだけどね。問題は代わりに剣が使用者を選ぶようになることなんだ」
「殺した方が早いってのはそういうこと。俺の雷剣はまだ誰でも使えるから」
「ちょっと待てよ。さっき使用者との相性とか経験値次第で、って言ってたよな。俺まだこの剣使って5分も経ってないぞ」
「その剣はすでに真化が済んでいるんだよ」
疑問が増えるばかりの海星に、澪は飽きることもなく回答を続ける。少し楽しそうですらある。
「何百年、下手したら千年単位か。私は歴史に明るくないからアレだけど、大昔の人が真化させたんだよ。そんでそこに封じた。まあ色々危なっかしいからね」
「真化させた剣は真化させた本人しか使えない、ってわけじゃない。ごく稀にだけど本人以外にも使えるやつがいるんだ。条件はまだよくわかってない、というか多分剣によって違うっぽいけど」
「とにかく君はその剣に選ばれたってことだ」
「俺が……」
剣を見遣る海星。澪は満足げにそれを眺めていたが、鷹昌はそうではなかった。
「話終わってねぇぞ。俺を勧誘する理由だ」
「そうだったね。一言で言えばまあ……占いの結果たでも思ってくれて構わない」
思わぬ返答に鷹昌が驚いたように、「は?」という声を漏らす。
「そんなんで納得できるとでも?」
「できてもできなくてもしてもらうしかないよ。だってそもそも君のこと殺したら海星くんがついてこないだろ」
自分に関わる話はもう終わったと思っていたのか、突然名前が出てきて少し驚くような海星。
「海星ごとこっちに引き込む方法だってあるんだぞ」
「わけのわからん宗教組織と国の組織、どっちが信用できるか試してみる? てかそもそも勝てないでしょこの状況で」
「俺はそもそも入るとは言ってないんですが……」
「入るしかないよ。入らないなら剣を手放してもらうことになるし、その場合は鷹昌君は始末させてもらう」
「……!」
それが当たり前だというような澪と、一瞬にして緊張が走り固唾を飲む海星。
「剣を手放せ海星。俺のことはいい」
少しの間、俯いて逡巡していた海星であったが、
ここに来るまでのことを思い出し、意を決したかのように顔を上げた。
「……受けます、その勧誘」
「いよーし!! これで一つ目の仕事クリア!!」
「待てよ海星、そこに入るってことは……」
「わかってる。澪さんみたいに戦うってことだろ」
震える手を押さえながら、海星は続ける。
「火波と約束したんだ。鷹昌2人で帰るって」
「決まりだな。鷹昌君も流石にもういいだろ?」
「好きにしろ。どうせもう負けてんだ」
半ばヤケになったような鷹昌。そんなやりとりのあと、澪は「荷物まとめとけよ〜」などと言いながら暗がりから鷹昌の剣を拾ってきた。
「これは一旦預かっとく。鷹昌君の処遇については帰ってからだね。まあ悪いようにはしないさ」
「処遇も何も処分しかないだろ。俺は人を殺してる。それもただ楽しみにきた観光客を、だ」
鷹昌の言葉に、海星が息を呑む。頭が回らないまま咄嗟にこの剣を掴んで鷹昌を庇ったが、元はと言えばそれで動けなくなっていたのではないか。
「あぁ、それなら問題ないよ。直前にちゃんと避難させたから。結構苦労したから貸し1ね」
行きに通った通路を戻りながら、あっけらかんと言い放つ澪。鷹昌が驚きというより困惑の表情を浮かべていた。
「は? なんで……いやどうやって……」
「まあなんでもいいじゃない。少なくとも誰も死んでないんだし」
はぐらかす澪に納得がいってない様子の鷹昌だったが、次の瞬間にはそんなことを気にしている場合ではなくなっていた。
「顕現せよ!! サンダーバード!!」
澪はいつのまにか自身の機械剣を収納し、鷹昌の短剣を手にしていた。その呼びかけに応じて現れ、地面に降り立った雷鳥。それに怪我で歩くのがやっとの鷹昌を抱えて飛び乗る澪。
「これ……俺はどうしたらいいんですか」
「ちゃんと考えてるよ」
澪がそう言うのと同時に羽ばたき始めた雷鳥。嫌な予感がする、と思った矢先であった。海星の予感は的中しており、雷鳥は海星の腹辺りをむんずと足で掴んだ。絵面は完全に獲物の小動物を運ぶ猛禽類だ。
「え、嘘ですよね」
「これが一番楽だろ。往復するのもめんどくさいし。剣落とすなよ」
次の瞬間、有無を言わさぬとばかりに雷鳥は地上に向かって飛んでいった。
「さて、こっからのスケジュールなんだけど」
パンッ、と手をたたきながら2人を見遣る澪。鷹昌は座り込み、海星は冷や汗をかきながら、剣を地面に刺してなんとか立っていた。
「死ぬかと思った……」
現在位置は境内の大穴付近、穴から離れるようにして迎えの車が来るところまで歩いているところだ。穴の周りには規制線が張られており、海星たちはその内側にいる。いくら規制線があるとはいえ、他の客もいるであろう敷地内でこんな話をしていて良いのだろうか。というか雷鳥で舞い戻るのも相当目立っていたのではないだろうか。
こういうのって秘密裏にしなくて大丈夫なの? と心配事が増えるばかりの海星であったが、
「すでに神社の敷地から一般人は追い出されています。今いるのは神社の人とうちの組織のこと知ってる人間だけだよ」
という澪の言葉によって、少しだけ安堵していた。他の観光客には申し訳ないけど。
鷹昌も黙って澪の話を聞いているので、とりあえず右に倣って話を聞くことにする。
「私たちの本拠地に来てもらいます。多分ビックリすると思うよ」
「その前に一つだけ確認というか、場合によってはお願いになるんですけど」
海星が手を挙げながら遠慮気味に問う。
「どうした? まあ別に急ぐ用事もないから言うだけ言ってみて」
「俺たちと一緒に来てた子……火波に連絡取ってもいいですか」
「それなら心配ないよ。どうせそう言うと思ってうちの人員が保護してる。あとで合流しよう」
想定内だと言う澪に、鷹昌が怪訝な顔をする。
「話が早すぎないか……?」
「これが統制された組織力というものだよ鷹昌君。まあ細かいことはいいじゃない」
「いや聞きたいのはそこじゃ……」
納得してない様子の鷹昌だったが、これ以上何を聞いてもはぐらかされそうな雰囲気を察したのかまた沈黙した。
ほどなくして鳥居をくぐり、神社の敷地外に出ると、一台の大型車が停まっていた。
「海星!! 鷹昌!!」
車のドアが自動にしては勢いよく開いたかと思えば、中からよく見知った顔が降りてきた。それを目にした海星は心から安堵の表情を浮かべ、鷹昌は少しバツの悪そうな顔をしていた。
「火波……!」
車から飛び出した火波は2人に抱き付かんばかりの勢いだったが、ギリギリのところで踏み止まっていた。澪はその様子を微笑ましく眺めつつも、3人に乗車を促した。
「さっさと乗れよ。こっから2時間ぐらいは車で移動だ」
「よろしくお願いしまー…す」
言われるがままに乗り込んだ海星と鷹昌に、運転席に座っていた男が声をかけた。
「君が神剣に選ばれた人!? めちゃくちゃフツー!! で、後ろの君が鷹昌君か!! 澪も酔狂だねぇ。まさか引き入れるとは」
「酔狂云々はお前に言われたくねぇよ。さっさと車出せ」
アッシュグレーの髪を後ろでポニーテールに括り、半パンTシャツに白衣という珍妙な格好をした男の言葉に、澪が不満をこぼす。
「どうせあとは帰るだけでしょ〜。ちょっとぐらいいいじゃん」
「お前のちょっとがちょっとだったことがあるかよ」
ポニーテールの男に対して、澪が辛辣な答えを返す。それに機嫌を損ねるようなこともなく、男はゆっくりと車を発進させた。しばらく沈黙が続いていたが、信号待ちのタイミングで男が口を開いた。
「この空気って澪のせいでいいの?」
「何でそうなるんだよ」
「ん〜、それじゃなにか訊きたいことある人〜?」
微妙に話の流れがおかしいような気がした海星たちだったが、自分たちが話すときもまあこんな感じかもしれないので、それに関しては何も言わなかった。人のふり見て我がふりなおせ、とは言ったものの、別に直す必要もないと思ったのでスルーすることにした海星。
「あの……運転してくださってるのは……」
遠慮気味に訊ねた火波に対して、澪がいかにも適当といった回答を口にした。
「私の同僚のおじさんだよ」
「ひっどいな〜。君と同じ年齢ですよ? てかこんだけ付き合い長いのに関係性同僚なの?」
「いいからさっさと自己紹介しろよ」
「はいはい。古賀です。古賀空人。伝承科学研究所のインテリジェンス担当です」
とても頭脳派とは思えないような、いかにもバカっぽい自己紹介に澪がため息をつきながら、知己であることが恥ずかしいというように目を瞑る。
「俺は……」
「君たちの名前は知ってるよ。澪から報告受けてるからね。海星君と鷹昌君に火波ちゃん、よろしくね〜」
今度は自分が名乗ろうとした海星のセリフを先回りするように、空人が3人の名前を口にする。
「別に寝ててくれていいよ。疲れてるだろ」
「いえ、いや疲れてるのはそうなんですけど、色々話も聞きたいんですが……」
休むように促す澪だったが、海星の顔には疲労が見えるものの、眠気はあまりないようだった。鷹昌は目線こそ車窓から外に向けられているものの、おそらく話には耳を傾けているといった様子。
最近流行りのアイドルソング(?)が流れている中でも、火波は爆睡していた。
「なんてたっけ、この曲。なんかどっかで聴いたことある」
「「『モーニングコール』」」
海星の呟きに、空人と鷹昌が反応する。
一瞬ミラー越しに鷹昌の方に目線を向けた空人がなんだかニヤニヤしているような気がしたが、窓の外を眺めている鷹昌は気づかない。
「このアップテンポというか明るい曲の中でよく寝られるなコイツ。一番元気そうだったのに……」
「まあ休めるときに休めるのも能力のうちだね。それに友人2人が勝手に姿を消せば心労も溜まっているだろうさ」
そう口にする空人は軽く笑いながら澪の方に視線を向けており、それに気づいていた澪が「わかってるよ。こっちみんな!」と少し照れている……というわけでもなさそうだが、恥ずかしさに反省、反感、苛立ち、様々な感情がないまぜになったような表情をしていた。
「さっき頭脳担当、みたいなこと言ってましたけどそれって……」
「あぁ、研究員だよ。まあなんの、って言われたら想像通り『剣』が専門だ」
空人はミラー越しに、海星が抱える神剣を見る。すぐに視線を前方へと戻したものの、まだ剣が気になるのかチラチラと目線を流しつつ何か言いたげな顔をしていた。それに気づいた澪が、ため息をついていた。
「着いてからいくらでも見せてもらえるだろ。確かめなきゃいけないことも多いし」
「それはわかってるけどさ〜。やっぱりワクワクしちゃうよね」
子供のような調子で神剣への好奇心を隠さない空。剣の持つ暴力性を目の当たりにした海星には、少し複雑な感情を抱かせる。その様子に気づいたのか、澪が申し訳程度のフォロー(?)をいれた。
「ガキなんだよコイツ。研究者感出すためにわざわざ白衣着てきた涙ぐましい努力に免じて許してやってくれ」
「急にめちゃくちゃ殴られた……ごめんよ海星君……」
「いえ、俺もカッコいいとかちっとも思ってないって言うと……嘘になるので」
澪にフォローと見せかけて背中を撃たれ沈んでいた空人だったが、海星の言葉に一瞬驚いたような顔をしたあと、少しだけ笑みを湛えた。しかし、ミラー越しに見えたそれは先ほどまでの子供のような笑顔とは異なり、なにかを懐かしむような、穏やかな微笑みだった。
「君が神剣の適合者でよかったよ。退屈せずに済みそうだ」
空人の言葉に疑問符を浮かべる海星だったが、襲来する眠気には勝てなかったようだ。訊きたいことは心の中へと沈み、海星の意識も微睡の中へと落ちていった。
「で、このあとってどうすんの」
「どうするって……あぁ、高校のこと?」
3人の中で唯一起きてはいるものの、疲れのせいか字面だけだとあまりにも漠然とした鷹昌の質問だったが、澪は意図を察していた。研究所に入った場合、学校に通っている余裕があるのかどうか、ということだ。スケジュール的な問題だけではなく、剣の取り扱いや宙心会周りの懸念もある。
「まあ俺はそもそも処分待ちだからいいよ。けど海星と火波は……」
「こういうのってどうなるんだっけ……休むにしても一応ちゃんとした組織だし所長あたりに頼めば一筆書いてくれるとは思うけど」
ポリポリと頭を掻きながら空が呟く。少し不安そうな顔をしている鷹昌と、首を傾げている空人。そこに意外な答えをもたらしたのは、澪だった。
「普通に行けばいいんじゃない? 研究所に所属するっつったって別に研究員になるわけじゃないでしょ」
悩むようなことじゃない、と言ってのける澪に、鷹昌が目を丸くする。運転席の空はと言えば、ウーンと唸るように何やら難しそうな顔をしていた。
「いや澪の言いたいこと、というか意図はわかるよ? でも所長なんて言うかなぁ〜」
「組織に入ってもらううえで学校に通うのも認めるって条件出したって言えばいいじゃん」
「まあたしかに……でも書類周りとか……どうしたもんかな……」
さっきまでと同じように色々呟きながら考えごとをしている空人だったが、その内容は海星たちが学校に通うことを前提したものに切り替わっていた。
「もちろん鷹昌君もこれまで通りで構わないよ。家庭が宙心会絡みってのはちょっとややこしい気もするけど。君、別に信仰心あるとかじゃないだろ?」
「まあうん、親が熱心だから仕方なくの二世って感じなんで。俺の家についてもあんまり気にしなくても……でも処分は」
「その辺はこっちでなんとかしとく。どんな事情があれ、それが君に起因するものじゃないのなら、誰にもたった一度の3年間を奪う権利はないよ」
「今なんか面倒ごとに巻き込まれた気がする……」
「……ありがとうございます」
鷹昌は、澪となんやかんやで澪の考えを全面的に受け入れるといった様子の空人を交互に見遣り、礼を言った。このとき、澪が一瞬だけ少し驚いたような顔をし、その直後に笑い始めた。鷹昌は少し遅れてその理由に気づく。
「敬語……そんな笑うことじゃないでろ……ッ!」
無理にタメ口に戻そうとした鷹昌が噛み、それを聞いた澪と空人が笑いを堪えている。いや普通に堪えきれておらず、澪は腹を抑えている。
「まあ今寝てる2人には言わないであげるよ鷹昌君」
申し訳程度の慈悲を与える空人に、苦虫を噛み潰したような顔をする鷹昌。
「そういや鷹昌君、メガネは?」
「アンタに壊されたんだよ。まあ伊達だし困らんけど」
ひりついていた空気はどこへやら、穏やかな(?)雑談を続けながら、5人を乗せた車は高速道路に入る。
空はいつのまにか晴れ上がり、車窓からは夕陽が射し込んでいた。