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第2話 わかりきった落とし穴

「「着いたーー!!」」


海星と火波の声に、鷹昌がボヤく。


「乗り換え少ないのは少ないで気が遠くなるな……」


「いいじゃん、喋ってたからそんなに長くも感じなかったでしょ」


「お前寝てたよな」


 乗り換えてからというもの、俺と火波はほとんど寝ていたらしい。起きたときには手前の駅だった。この様子だと、鷹昌は起きていたのだろう。


「昼にはまだちょっと早いよな」


「だいぶ早いな」


「早速城観に行こう、城!!」


火波の言葉で行き先が決まった。



 結論から言うと、城は開いてなかった。駅から歩いて約30分、駅まで戻って約30分、合計約1時間を無駄にしてしまった。


「ちゃんと調べてから行くべきだったな……」


「臨時休業とかあるんだね……」


反省と後悔を口にしながら、南東へ向かう電車に乗り込む。もう一つの目的地へと向かうためだ。


「神社なんか行って何か見るものあるの?」


「ゲームとか漫画によく出てくるし一回は見ときたいだろ、神剣」


「いや本物は公開されてないんじゃなかったっけ、ああいうの」


「即位イベント?のときもレプリカなんでしょ、出てくるの」


「マジ?」


マジ?





「うわっ重っ」


 海星たちは本宮にお参りしてから、敷地内に併設されている資料館に来ていた。ちなみに火波は賽銭を投げる前に「なんでお金払うために並ばなきゃいけないの〜!」などと言っていた。わからんではないがお前日本人だよな?

 神器の実物こそ目にできなかったものの、資料館には神宮が所有している刀剣類の展示や、大太刀の重さと大きさを体験できるコーナーもあり、それなりに楽しい時間を過ごすことができた。解説のおじさん曰く本物の天叢雲剣って触ると呪われたりするらしいし、むしろよかったのかもしれない。まあ科学が発達した時代だと眉唾だけど。

 火波の琴線には触れなかったのか、俺にちょっかいをかけながら後ろをついてくるばかりだったが。

 鷹昌は彼女に連絡するとかなんとかで外に出ている。


「このあとどうしよう」


「うーん、今度こそお昼にする?」


「確かにもう12時回ってるしな」


 そのときだった。地を砕くような轟音が響き渡り、足元が覚束ないほどに振動する。


「地震!?」


咄嗟に掴まってきた火波をしゃがませ、揺れが収まるのを待つ。


「とりあえず外に出よう」


「う、うん……」


 火波とともに外へ出て、同じように逃げ出してきた人々を避けながら参道へ出る。外にいるはずの鷹昌を探しつつ、開けた場所に出ようとし本宮に至る直前、そこで視界に入り込んできたのは、目を疑うような光景だった。


「何これ……穴?」


「鷹昌連絡つかないし、何が起こってるの……?」


 本来そこは砂利が敷かれており、右手にはおみくじコーナーがあるはずだった。人々が行き来するはずの空白地帯には、大きな穴が開いている。直径は20mほどだろうか。左右の建物には屋根がめくれるように歪んでいたり、立ち入り禁止区画への一般客の侵入を防ぐために置かれていた柵が吹き飛んだりしていた。

 呆然としながら立ち竦んでいると、後ろから若い女声が聞こえた。


「あー、崩れるかもしれないし下がっといた方がいいと思うよ」


そう口にしながら、女は穴から片時も目を離さない。


「『拳現』でいけるか? 前はどうしたっけなこれ……いやでもなぁ〜」


 スーツを着込み、ギターケースのような大きなバッグを背負った女は頭をかきながら、1人続ける。海星達には理解できない言葉もあったが、女がこれから何をやろうとしているのかは察することができた。


「降りるんですか!?」


「え、まあそれが仕事だし……って降りることそのものが仕事なわけじゃないよ?」


 わかっている。いやわからないが、その女が事故や災害に関わる調査員の類いではないことはわかる。なぜかと問われれば、来るのが早すぎるのだ。それに、この状況に動じている様子もない。

ここで一瞬、海星の脳裏にある考えが浮かんだが、それは即座に否定された。


「これやったの私じゃないからね」


「……ッ! これ、一体なんなんですか?」


「漠然とした質問だね少年。まあ気持ちはわからないでもないが、疑問は全て無視してさっさとここから離れた方が良い」


 女は大穴に目を向けたまま答える。海星はずっと自分の服の袖を掴んで離さない火波に気付き、頭に浮かんだいくつかの疑問を押し除ける。


「行こう、火波」


 火波が頷き、一緒に立ち去ろうとしたそのときだった。上の方から、バチバチバチ、と線香花火の弾ける音を数十倍にしたような響きを伴って、風を切る音が聞こえた。顔を上げると、光り輝く鳥のようなものが、こちらに向かってほぼ落下と言える状態で急接近している。そしてその背には、とても見覚えのある姿があった。


「鷹昌!?」


その声が届くよりも早く、上空から飛来したそれは、穴の中へと消えていった。


「来たな『雷剣』使い……! 今回もボコボコにしてやるよ」


 数日前、『雷剣』使いとの戦闘によって死傷者が出た。舞台となった変電所の破壊は表向きには事故となっているが、実際は宙心会と澪たちの衝突によるものだ。


(蓄積型だから使い手が死んでもすぐに使えるのが強み……そのうえこの前の襲撃でチャージも十分だもんな)


「久しぶりな気がするな」


女は口元に微かな笑みを湛えていた。


「何か知ってるんですか!? 今下に降りたの、俺たちの友達なんですけど!!」


「わかってるよ海星君」


「なんで名前を知っ……え」


 なぜか海星の名前を知っていた女は、バッグを肩から下ろし、中から錆だらけの、機械仕掛けと思しき異様な剣を取り出した。


「先を越されるわけには行かねぇ!! 拳現!!」


 女が叫ぶと、それに呼応するように剣が輝き、先端から徐々に錆が剥がれていった。錆が半分ほど落ちたところで、今度はバッグからいくつかの機械が飛び出した。

 合計4つの機械はドローンのように女の周囲を浮遊している。女の持つ剣は、剣の中心部から背の部分が刀身を離れ、これもまた4つに分離した。刀身から離れたパーツはドローン様の機械と合体。それぞれが左右の手足のあたりで停止、磁石で吸い寄せられたかのように装着された。

 錆は完全に落ちたものの、そのままでは剣本来の役割を果たせなくなったかに思われた本体は、柄部分を折り畳む様にしてパーツの欠けた部分を補うことで、剣として成立させていた。


「待ってください!!」


今にも穴へと飛び降りようとする女を、海星が呼び止めた。


「なんだ、さっさと離れろって言ったろ」


「俺も行かせてください!!」


「深さもわかんねぇしガキのお守りしてる余裕はねぇよ」


「言いましたよね。さっきの降りていったやつは友達なんです。なら俺にもできることがあるかもしれない」


 海星は冷静であった、などということはない。わけのわからないことが連続し、混乱・興奮している。その中でも、直感的に今の自分に必要だと感じた情報を拾い上げ、今この場で必要な発言が何であるかを考え、口に出していた。なぜその発言が必要なのかの言語化は後回しだ。


(突然の地震、境内に開いた穴。そこに飛び込んだ鷹昌と謎の鳥。お姉さんはこの穴の下に用がある。その用が鷹昌との敵対なのか、何か別の理由があって結果的に敵対してるのか。でも……)


「俺は今何が起こってるのか全くわかってないです。でも友達が何か危険なところに首突っ込んでるなら助けに行きたいし、今はなりふり構っていられません」


「場合によってはアイツを殺さなきゃいけないんだが」


「こっ……いや、それなら尚更俺を連れていってください。させるわけにいかない」


「そう言われて連れて行くバカがどこにいるんだよ」


「敵対してるんなら人質とかなんとか使い道はあるでしょう」


海星が食い下がる。


「盾にされても文句言うなよ」


ここで、火波が言葉を漏らす。


「ちょっ、ちょっと待ってよ。確かに鷹昌のことも気になるけど……今は何もかもが普通じゃない。とりあえずここ離れよう……?」


「ごめん火波、それはできない」


「なんでよ……どう見ても危険じゃない!」


「あのときと同じなんだ。嫌な予感というか、胸騒ぎというか。とにかく、このままここを離れたら絶対に後悔する」


 海星の脳裏を過ぎるのは、まだ4人で遊んでいた頃のこと。海星、火波、鷹昌。本当はここにいるはずだったもう1人の少女は、小学校を卒業したあと、家から離れた場所に自転車を残し、行方知れずとなっていた。


「それは……」


海星がなんのことを言っているのか理解した火波が口籠る。


「あのときだって予感はあったんだ。いつも通りだったけど、帰路(岐路)についた時点でなんとなくもう会えない気がしてた」


海星が続ける。


「今回もそれと同じだ。でも、あのときと違ってまだ選べる場所にいる」


「鷹昌を連れ戻して、2人とも無事で帰ってくる」


「だから待っててくれよ、火波」


ここまで黙って2人のやりとりを聞いていた女が、口を開く。


「結論は出たか? だったらお嬢ちゃんはこっからできるだけ離れとけ」


「わかり、ました……海星と鷹昌のことをお願いします」

「まあそれは2人次第だな」


女はそう言うと、片腕で海星を担ぐ。


「じゃあまたあとで!!」


女に担がれたままの海星が、顔だけ火波の方を向いたまま言う。


「カッコつかないね……」


クスッと笑った火波と目があった。次の瞬間、火波との目線がズレる。


「舌噛むなよ。ここで死なれちゃなんの意味もないからな!!」


女と海星は、底の見えぬ穴へと降りていった。


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