01.06.【Tシャツとジーンズでも十分効く】
僕がタイムリープしてきた次の日。
深夜までフルバレ3をプレイしていた事もあって目が覚めたのは午前10時近くだった。
寝て起きたらもしかしたらこの夢みたいな状況が変わっているんじゃないかと思ったりもしたけど、昨日と変わらない8年前のまま。
もし八百長を引き受けていたらあの状況にはならなかっただろうけど、ゲーム界隈はもっと腐敗していっただろう。僕が死んだ事で状況は大きく変わるとは思うけど。
気がかりなのは僕が死んだ後の世界は動き続けているのかという事。
僕の意識は死んだ事により今現在に飛ばされてきた。でも僕がいなくなった後の世界はどうなっているんだろうか。
僕と一緒にかき消えているなんて事はないだろうし、きっと今頃さくらや事務所社長の香月氏などに多大な迷惑をかけている事だろう。
僕は死ぬことによってその問題から逃れてしまった。それが本当に申し訳ない。
僕の死を知った未来のさくらは泣くだろうか。僕が殺害されたという事実を知った8年前のさくら、高校2年生のさくらは本当に僕の心配をしてくれた。やっぱりさくらは変わらない。まるで自分の事みたいに親身になってくれる。僕にはなかなか出来ない事だよ。
ベッドから身を起こすとそのタイミングでスマートフォンが鳴る。これも当時使っていた物だ。待ち受け画面のバナー表示にはさくらからLINEが入っているのが分かるが、暗証番号を入力してロックを解除しないと全文を見る事が出来ない。
「暗証番号、なんだっけ……」
僕は暗証番号をコロコロ変えるタイプではなかったけれど、当時使っていたスマホの暗証番号までは覚えていなかった。
思い当たる6桁の番号を入力するけど不正解。弾かれてしまう。ならばと24歳だった僕が使っていた数字を入力。見事にセキュリティを突破。懐かしい待ち受け画面が表示された。
8年間ずっと同じものを使い続けていた僕にナイスを送り、LINEのアプリを開く。いくつかの新着通知があったが、その中から最新の通知であるさくらのチャットルームをタップ。
ひと足先に起きたさくらが今から部屋に来ても良いかという旨のメッセージだった。もともとその約束だったのでOKする主旨の返信をして僕は身支度する為に洗面所へ向かった。
僕は両親と3人暮らし。両親は仕事の都合上、留守にする事が多く、昨日も帰って来なかった。一つ下に妹が居るが、バレーボールの特待生で都外の高校へ入学したので今は寮暮らしだ。
あまり家族が揃う事は無いけれど、みんな好き勝手するのが好きな性格だからかそれなりに上手く行っている。
しばらくするとインターフォンが鳴る。モニターを見なくてもさくらだと分かるから、そのまま玄関に向かう。ドアを開けるとTシャツとダメージジーンズ、ビーチサンダル姿のさくらがいた。
「おはよう」
とさくらは微笑んで軽く手を上げると、肩口まで伸びた黒髪が揺れた。
Tシャツジーンズのラフな格好だが、ミニマムサイズの白Tシャツはさくらの女性らしいシルエットを浮き彫りにしており、裾からはチラチラと引き締まった素肌が見えている。スキニージーンズの切れ目から見える太ももがすごく色っぽい。ピッタリとした服装は長身のさくらによく似合っている。
ビーチサンダルもさりげに女性誌で人気のブランド品だし、さくらの形の良い足の爪にも綺麗に赤のペディキュアが塗られている。
ナチュラルだけどメイクもバッチリ……こんなラフな格好なのに隙がないぞ、幼馴染。
24歳のさくらはオトナの女性って感じで綺麗だったけど、16歳のさくらも幼さの中にもオンナの魅力を秘めた可愛らしさがあった。
「ね、SNS見た?」
「おはよ。いや、見てないけど。どうした?」
僕の顔を見るなり、さくらはそんな事を言い出す。
少しだけ眉をひそませている辺りを見るとSNSで何かあったのかな?
「そ、そっか。ちょっとコレ見て?」
「……?」
さくらは自分のスマホを僕に差し出した。とりあえずそれを受け取る。立ち話もなんだし、僕の部屋に招き入れて昨日と同じ座布団にさくらは座る。
「見るって何を? これってSNSのトレンドか?」
「うん。ちょっと下にスクロールすると……」
「……」
ローテーブルを挟んでさくらの対面に座った僕。
僕が持っている彼女のスマホを操作しようとしてさくらが身を乗り出す。前傾姿勢になったことにより、彼女の襟元から下着が見えそう(白)だったので目を逸らす。
「ほらこれ。酷くない?」
「え、これは」
スマホの画面を見る。さくらが問題だと指したのは、フルバレ3のクリップ映像に少し編集を施した30秒足らずの動画だった。
いいねの数やリツイート数からするにプチバズりしている様子が分かる。
問題なのはその動画の趣旨だ。
『この“エルヴン”チートじゃね?』
というコメントと共にツイートされたその動画で指摘されている“エルヴン”とは紛れもなく僕のことだった。
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