01.05.【エルヴン】
さくらは初期装備を“さくらシューター”に決めた。次は僕が初期装備を決める番だ。さて、どうしよう。
1度目の人生ではショート使いで常に先鋒を務めて敵陣に切り込んでいた。それなりにスコアを稼いで満足できる結果を残せたと思う。順当にいけば今回もショートの中から武器を選ぶ所なんだけど……正直僕は迷っていた。
繰り返しになるけど、僕はすでにこのフルバレ3を50000時間もプレイしている。
発売日を心待ちにしていたプレイヤー達に混ざってそんなバカみたいに経験を積んだ玄人が混ざったらどうなるか。
「私は無双する駿くんも見てみたいけど? プレイヤースキルは駿くんが努力して手に入れたものだし、他の人から与えられた力じゃない。私は別にずるいとは思わないけどなぁ」
「いや、まぁそうかも知れないけど……」
確かにさくらの言う通り、僕のスキルはそれこそ50000時間積み重ねて来たものだ。タイムリープ前に神様に与えられたものではない。
かと言って既に知識があるだけでチートなのに、持っているプレイヤースキルを行使するのはなんだか気が引けた。
「じゃあ手加減……は、しないか。駿くんそういうの嫌いだもんね」
「完全に舐めプだよ、相手に失礼だからそんな事出来ない」
「ふふっ、真面目だなぁ」
……そんな所も……。なんてさくらは細い声で呟いたけれど、照れるので聞こえないフリをしてしまった。さくらの声はよく通るから小さい囁きでも聞こえちゃうんだよなぁ。
ワクワクしている他プレイヤーの心を挫く様な事はしたくないし、手加減するなんてもってのほかだ。そもそも僕だってまだまだ全力で楽しみたいんだ。
そう考えた僕が選んだ武器は、最も苦手としている長射程の武器、ロングから選ぶ事にした。
この武器なら僕のその条件にぴったりだ。
ロングの中でも最も長い射程を誇る狙撃銃“エルヴン”は僕の憧れだった。でも、もともとショート使いだった僕の立ち回りには合わず、練習しようにも中々時間が取れずにいた武器。
この武器なら練度も低いし、ゲーム内のパワーバランスを崩してしまう様な事は無いだろう。何より僕が憧れ続けた武器だ。使いたいから使う。うん、超健康的な理由だ。
最後衛から射程の暴力で敵を撃ち抜くのはやっぱりカッコいい。……今までは撃ち抜かれてきた側だけど。
「私が前衛で駿くんが後衛かぁ。なんだかいつもと逆で楽しいね」
「ははっ、そうだね。前線はさくらに任せるよ」
他のゲーム等では僕が最前衛を務める事が多く、さくらはサポートに回ってくれる事が多い。でも“さくらシューター”と“エルヴン”の組み合わせなら必然的に位置関係は逆になる。
「……」
「駿くん、なんだか嬉しそう」
「分かる? ずっと憧れだったんだ」
「そうなんだ? その、“エルヴン”? 使うわけにはいかなかったの?」
「色んな武器を持ち替えてプレイする人ももちろんいるけど、僕はひとつの武器を極めるスタイルじゃないとついていけなかったんだ。だから長射程を触る時間がなくて」
そもそも僕の周りでは練度の低い武器を持ってプレイできる様な環境じゃなかった。そんなものを持っていれば、あっと言う間にランキングを抜かれてしまうから。だから毎日、持ち武器の練度を上げるのに必死だった。
特にこの長射程のロングは立ち回りが特殊で使いこなせる様になるまでそこそこ時間がかかる。もちろん才能があればその限りでは無いけれど、あいにく僕にそれは無いようだった。
だからこれから沢山努力して上手くなろう。
「なんだか嬉しそうだね、駿くん。一緒にたくさん練習しようね。私も早く駿くんに追いつきたいから……って、そんな日来るのかな、ははっ」
「キャリー、よろしく」
「うん、任せてっ。ふふっ」
そう言うとさくらは爽やかに笑う。はらりと垂れたミドルボブが綺麗だった。
「あとはプレイヤーネームだね。私は……【さくら】で良いかな」
「本名? 大丈夫か?」
「本名って言わなきゃ分からないだろうし良いかな。本名だとボイスチャットで名前呼ぶ時楽かなって」
「ボイチャか、確かにそうかもだけど」
さくらが本名使うことに少し抵抗を覚えつつも、そういえば1度目の時もそうだったなと思い出す。
ああ、そうだ。そのノリで僕も本名でいいやとか言って【ありま】にしたんだ。けどなんだか1週目の時と同じことにするのは気が引けた。同じレールに乗る様な気がしてしまって。
「【しゅん】にしとこ」
「駿くんも本名にするんだね」
「うん、前は名字だったから名前にしてみた」
「私は呼びやすくて好きだな。じゃあ早速やってみよー」
にこにこと無邪気に楽しそうに画面に向かうさくら。よほど楽しみにしてたんだなぁ。恐らく1週目で同じ様な光景を目にはしたんだろうけど、些細なやりとりまでは流石に覚えていなくて新鮮だった。
このあと僕とさくらはフルバレ3をプレイした。
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