01.04.【さくらシューター】
フルバレ3のパッケージを手に取り、保護用のフィルムを剥がす。
結局このソフト一本で50000時間遊ぶ事になるんだよなぁ。たかだか数千円のソフトでそれだけ遊べるんだからゲーム機本体を含めたとしてもコスパは文句なく破格だと思う。
一瞬だけ魔法堂の広報部長風間の顔が浮かぶが無視する。アイツはもう僕の人生には関係ない。何度も言うけどゲームに罪はない。変なプライドでこの神ゲーをプレイしないなんて選択肢はゲームオタクの僕の中にはなかった。
そう、すでに50000時間プレイしていようがこのフルメタルバレットは飽きる事はなかった。
ソフトを本体に差し込み、基本データをインストールする。その作業を行わなくてもプレイは出来るが、ロード時間を短縮することができるのでやっておいた方が良い。その間少し時間が出来たので僕の後ろ側にいるさくらに振り返る。
彼女はフルバレ3のパッケージを見たり、インストール画面を見たりして落ち着かない様子だった。
「わぁ、なんか緊張するなぁ」
「相当楽しみにしてたんだな」
ゲーミングチェアに腰掛け、モニターに出力している僕に対し、座布団に座ったさくらはゲーム機本体をローテーブルに置いた卓上モードでプレイしている。
明らかに僕の方が環境がいいから替わろうかと言ったんだけど、普段から座布団派のさくらはそれを丁重に断った。断り方も非常に柔らかい、気遣いがあるものだった。
「うん。本当は学校私も休みたかったんだよ? でも結局こうして駿くんと一緒に始められて嬉しいなぁ」
「僕はもう50000時間プレイしたけどね」
素直に気持ちをぶつけてくるさくらに対して少し気恥ずかしくなった僕はぶっきらぼうにそんな事を言った。
するとさくらは少し拗ねた様に言う。
「それは1度目の時でしょ? 今は初めてなんだからそれでいいの」
初めてという単語が少し強調されていたが、よほど嬉しいのかな。嬉しそうにするさくらを見ていると僕も気持ちがいい。
お互いにインストールが終了し、ゲーム画面が立ち上がる。
【MAHOHDO presents】の文字が浮かび上がり、ロック調の曲が流れるとともにポップで、でもカッコいいオープニング映像が流れる。何百回も観た映像だけど何回観ても飽きない。いや、本当に神ゲーだよ。
「うーん、見た目どうしようかなぁ」
オープニングを満喫したさくらが細い顎に手を当てて思案顔になる。ゲーム冒頭のキャラクターエディット画面で、キャラクターの髪型や瞳の色などをイジりつつ、ああでもないこうでもないと唸っている。やっぱりゲーマーなら自キャラの見た目は自分の分身だし、すごく重要な作業だ。
「キャラの見た目はいつでも変えられるから、とりあえず好きな組み合わせにしてみたらどう?」
「え、そうなの?」
「名前も変えられる。あ、でも名前は一回変えるとひと月は変えられなくなるから気をつけて」
「さすが50000時間プレイしたプロゲーマーだねぇ。フルバレの事はなんでも駿くんに聞けば良いんだね」
「大体はわかるけど、あまりハードルは上げないでよ。苦手な武器もあるんだから」
「ふふっ、わかってる」
そう言ってさくらは笑う。本当に分かってくれたのかなぁ。
フルバレは銃火器などを模した武器で撃ち合うガンアクションゲームだ。様々なタイプの武器があってそれぞれに個性があり、使い方が多彩だ。それぞれのプレイスタイルに合った武器を選択出来るのもフルバレが広い層に愛された理由の一つでもある。
5頭身ほどのキャラクターを1度目の人生の時とは少しだけ変えてエディット画面を終了する。
問題はこの次だな、そう、問題なのは使用武器だ。
フルバレの武器には大きく分けて6つのジャンルがある。
クロス、ショート、ミドル、ランチャー、ガトリング、ロング。それぞれのジャンルに派生武器が有り、さらに細かい分類がされるけど今は割愛。
僕が主に使っていたのは前衛を務めることが多い、ショートの武器。射程は中の下程で長くは無いが、連射能力が高く、突破力がある武器が多い。
4人ひとチームで行われりフルバレの試合において最前衛を務める事が多く、最も使用者が多い武器。
フルバレを始めるならまずショートの武器を持ってゲームの世界感に慣れるのが良いとされている。
僕より少しだけ遅れてキャラクターエディットを終えたさくらがまたうーんと悩ましげな声をあげる。
「うーん、武器どうしよう。やっぱりショートから入るべき? それとも中後衛のミドルかガトリング? クロスっていうのはどうなの?」
「クロスはショートよりも射程が短い武器だよ、ナイフとか剣とか。使えればめちゃくちゃ強いけど、かなり難しいからあまりおすすめ出来ないかな」
「ナイフ? ガンアクションゲームなのに?」
「そうそう。使いたがる人は多いけど練度がいるから持ち始めてからしばらくはボコボコにされる」
「え、そんなの嫌だ……」
シューティングゲームに於いて射程はあればあっただけ良い。もちろん長くなればなるだけ扱いにくくなるようにゲームバランスは調整されている。
「まずはショートでゲームに慣れたら? 僕もショート使いだったから色々教えられるし」
「教えてくれるの? じゃあそうしようかな」
さくらは嬉しそうに微笑むとショートの中から最適な武器を選び始める。今はどれでもひとつ武器を選ぶ事が出来るが、ずっと固定されるわけじゃなく、ゲーム内で購入すればいつでも持ち帰ることが出来る。
「これなんてどう?」
と、僕はさくらのゲーム画面を指差す。
「“さくらシューター”だって、え、かわいい」
「“さくら”って名前入ってるから、さくらにピッタリだろ」
「うん、これにする! ふふ、もうキミを離さないぜ☆」
テンション高いなぁ、楽しそうなさくらを見てると僕も当時の気持ちを思い出して新鮮な気分になれた。
さくらシューターは彼女が一番得意としていた武器だし、僕がこう言うと少し偉そうだけれど上手に使いこなしていた。
次は僕の番だな。さてどうしたものか。
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