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01.03.【考えてもやっぱり分からず】



 さくらの手の感触を堪能した僕は彼女にお礼を言って立ち上がった。流石に甘えすぎたか、そう思って今更ながら照れてしまった。手が離れる際に少しだけさくらが寂しそうに見えたのは僕の自意識過剰……なのかな。


「お、お茶でも飲む?」

「あ、うん、お構いなく」


 漂う甘い空気から逃げるようにそう言って僕は席を立つ。


 キッチンの冷蔵庫を開けると2リットルのペットボトルが冷やされていた。


「うわ、懐かしい」


 見ると今はもう見なくなったパッケージのお茶だった。あ、そうか、ここは8年前なんだよな。


 こんな事なら番号を当てる系の宝くじの数字をいくつか覚えとくんだった。僕の脳みそに詰まってるのはせいぜいゲームに関する知識くらいなものだし、それくらいの知識は詰め込む隙間は大いにあるだろう。


 お茶をグラスに注いで部屋に戻ると、さくらが先生から預かって来たと言うプリントを渡して来た。


「う……」


 そこに記してある数字の羅列を見て少しクラっと来てしまった。それは当然ながら高校二年生の数学の問題。現役の頃ならそれなりに解けただろうけど、僕にとっては8年前に習った事だ、今の僕に解くのは難しい。うちの高校は偏差値高いから余計にだ。


 僕の表情から事情を察したさくらがふっと優しく笑う。


「ふふっ、もう忘れちゃった?」

「……もう解く自信ないな」

「えー、中間では駿くんの方が点数良かったのに」

「8年前に習った事なんて忘れちゃったよ」


 そういえば、さくらより成績は良かったっけ。

 僕が高校に通ったのは結局二年生だけだった。それ以降はゲームの仕事だけで食べていけたから辞めちゃったんだよな。

 今更授業についていけるのか僕は。そう思っているとさくらがグラスに口を付けてから言う。


「大丈夫だよ、私が教えてあげるから」

「そうか、助かるよ。……」

「……? どうしたの?」

「あ、ううん。少し変な感じがしたから」

「変な感じ?」


 そう、僕はものすごい違和感を感じていた。というのも、見た目はともかく、僕の中身は24歳。1度目の人生では付き合い程度にはお酒も飲んでいたし、車も家も保有していた。立派……では無かったにしろ、一応成人していた。


 それが急に高校生に戻って日々通学して授業を受ける。中身が成人した16歳が学校に通って授業を受けて学園生活を送る。それがなんとも遊びじみていて可笑しかった。


「え、それじゃあ学校辞めちゃうの……?」


 その旨をさくらに伝えるとそんな答えが返ってきた。少し寂しそうに僕の表情を伺うような顔で。その表情に僕は見覚えがあった。


 あれは1度目の人生で僕がプロゲーマーになったのをきっかけに学校を退学した時と同じ顔だった。

 

 プロゲーマーになった僕は学校に通う意義が見出せなかったし、将来のビジョンも明確に見えていた。


 もちろんその通りになるかはわからないけれど、このまま学校に通っていてはゲームを本業にしている連中には勝てないと思ったから。


 退学する旨をさくらに伝えた時、彼女は本当に残念そうに、でも僕の事情を理解して最後には賛同してくれた。でも、


「ううん、辞めないよ。今度は絶対卒業までする」

「ほ、本当? 良かった……」


 さくらは心底ほっとしたような表情で胸を撫で下ろした。


 1度目の人生ではしなかった選択を僕はすることになる。そうする事により少しずつ僕の人生がズレて行き、あんな結末になる事を回避出来るんじゃないか。


 そうだ、少なくとも奴との接点さえなければああはならない。


 それと何より、1度目の人生で送れなかった……いや、送らなかった学園生活のやり直しなんて出来るかも知れない。


 そう静かに考えていたけれど、現状どうすれば良いかなんてわからない。何がどう人生に影響するのかなんてわからないし、僕が選んだ選択肢が正解かどうかなんて知る由もない。


 つまり今は深く考えても仕方ない。さくらと話している間に僕も随分と状況が整理できたみたいで、だいぶ落ち着いてきた。


「これからどうするの?」

「どう……も出来ないかな」


 と僕は苦笑してから続ける。


「事情は分からないけど、こうして時間が戻ってきたわけだし。とりあえずいつも通りに過ごしてみようかな」

「そうだね。時間が経てば何か分かるかも知れないし……とりあえずコレやる?」

「フルバレ3……そうか、今日はフルバレ3の発売日か」


 そこで僕は壁にかかったカレンダーを確認する。今日は7月10日はフルバレ3の発売日だった。8年前のこの日、学校を休んで自宅でオンラインサービス開始時刻を待っていた僕は嬉々としてフルバレをプレイしていたはずだ。


 でも1度目の人生とは違い、気を失っていたのか単に睡眠していた状態だったのか、つい先ほど目を覚ました所だ。見ると僕の机の上に開封していない新品のフルバレが大切そうに置いてあった。


 この状況に混乱はしている。でも考えていても何も事は始まらない。そう考えた僕はさくらと一緒にフルバレ3をプレイしてみる事にした。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

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次回は明日の19時更新します。

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