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「証拠はある、と言ったんだ」


 と、俺は言った


「……ふざけやがって。俺の頭が悪ぃからって、舐めてんじゃねえぞ」


 ナビの顔に怒りが浮かぶのが視認出来た。

 その後ろで、ごくり、とメイスが息を呑んだ。


「テメー、神の存在を証明出来るってのか」

「まさか。神は神だ。証明なんて出来ないし、する必要もない。俺が言っているのは、"俺が神からの使者である"ことの証明だ」

「同じことだろ」

「全然違うね。何故なら俺は全能ではないからだ。俺は神ではない。故に絶対ではない。しかし、神から能力を授かっている」

「"能力"?」

「そうだ。その証明のために、こいつを解いて欲しい」


 俺はそう言って身体を反転させて縛られた手首を見せた。


「駄目だ」ナビは短く首を振った。「そんなことを言って反撃に出る気だろう」

「そうじゃない」

「信用出来るか。テメー、俺を見くびるなよ」


 ナビはまだ幼さの残る顔つきで凄んだ。

 俺はふうと短く息を吐いた。

 思ったより用心深い。

 困ったな。

 両手が使えないと"奇跡"を披露できない。


「ナビ、お前今、何か大きな悩みを抱えているだろう」


 と、俺は唐突に言った。


「なに?」


 ナビは眉を寄せた。


「そしてその悩みには人間関係が深く関わっている。近しい人間とのトラブルが原因だな? 恋人かボスか、それとも仲間か」


 仲間、という言葉でナビは一瞬ぴくりと眉を上げた。

 俺はさも全てを見透かしたように息を吐き、首を横に振った。


「なあ、ナビ。友人は大事にしろよ。友情は人間関係の基本だ」

「う、うるせえ。なんだ、唐突に。一体なんの話を」

「強がるなよ。悩んでるんだろ? 仲間との関係に。俺には分かってるんだ」

「どうして――?」

「悪いことは言わない。お前から折れるんだ。譲歩するんだ。ムカつくのは分かるがな」

「ど、どういうことだ! 説明しろ! テメー……どうして俺のことを――俺のことをどこで調べやがった」


 ナビは立ち上がり、俺に掴みかかった。

 俺は肩を竦めた。


「調べてなんかない。お前のことなんて知らない。俺は今日、偶然メイスに拾われてここに来たんだから」

「なら、なぜ」

「言っただろ。俺には"能力"があるって」

「能力――?」

「つまり俺は、お前の心が読めるのさ」

「こ、心が読める、だと?」


 ナビの目が揺れた。


「う、うう、嘘だろ。そんなまさか」

「まだまだ読めるぞ」

 俺は目を瞑った。

「お前は今、色んなトラブルを抱えてる。色んなことが上手く行かなくてイライラしてる。一筋縄ではいかない心配事や危険な仕事が山積みだ」

「危険な仕事……ってのは、ビリーのゴミ野郎の借金の取り立ての話か」

「もちろんそうだ」


 俺は躊躇いなく即答した。


「ビリーは狂暴な男なんだろ。下手に拗れたら命に関わる。そんな厄介な仕事を、自分が無理やり押し付けられた。その事に憤りを感じてる」


 そうだろ? と俺は聞いた。

 ナビは少し黙ったあと、ああ、と(うめ)くように呟いた。


「す、すげえな、あんた。俺のこと、何もかも当てちまってる」

「このくらい朝飯前だ。しかし、お前も大変だね」

「本当にそうなんだ」


 よっぽど鬱憤が溜まっていたのか、ナビは身を乗り出して語りだした。


「どいつもこいつも自分のことばかり考えやがって。その癖に困ったら全部俺のせいだ。ムカついて仕方がねぇ」

「そりゃそうだ。お前は悪くないんだ。お前はちゃんとみんなのために動いてるんだ。それなのにうまく行かない。怒って当たり前だ」


 ナビはすっかり俺の言葉に聞き入っている。

 チョロい。

 チョロ過ぎる。

 笑いをこらえながら、俺は続けた。

 気を引き締めねぇとな。

 ここが勝負どころだ。


「けどな、ナビ」俺は語気を強めた。「悪いのは周りじゃないぜ。もちろん、お前でもない。お前に取り憑いている悪霊のせいだ。お前を苦しめてやろうと纏わり付いている、死者の亡霊のせいなんだ」

「死者……?」

「そうだ」


 俺は大きく頷いた。


「この世界には全て"因果"がある。物事には"理由"があり、そして"結果"がある。だからナビ、お前が今、理不尽な目に合っているのも、貧乏なのも、全て理由があるんだ。お前には、この"因果律"が見えていない」

「よ、よくわかんねぇけどよ……」ナビはごくりと喉を鳴らした。「その"理由"ってのが、俺に取り憑いてる悪霊だってのか」

「その通り。飲み込みが良いじゃないか」


 俺は微笑んだ。


「ナビ。お前は馬鹿なんかじゃない。ちゃんと俺の話が理解出来ている」

「……それなら、俺はどうすれば良いんだ。どうすれば、この悪運から逃れられる」


 ナビはいつの間にか、剣を収めていた。

 俺は「そうだなあ」と少し上を眺めた。


「とりあえず、俺を解放してくれないか。じゃないと、落ち着いて話も出来ない」


 俺はにこりと笑った。

 するとナビは――


「そ、そうだな。すまねえ」


 そう言って、俺を縛っていた縄を切った。 



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