4 神
部屋に入ると後ろ手に縛られて椅子に座らされた。
ナビはテーブルを挟んで俺の前に座り、その背後にメイスが立った。
ナビは俺に剣を向けて睨みつけ、メイスは眉を下げて心配そうにおろおろと胸の前で手を揉んでいる。
「おい」と、ナビは言った。「ネドヴェドとやら。まずはフルネームを聞かせろ」
俺は「リティ=ネドヴェド」と短く答えた。
「住所は」
「ない」
「職業は」
「失業した」
「前は何をしていた」
「その前に」
俺はナビを遮った。
「あんたら、神は信じてるか」
「黙れ」ナビは忌々しげに眉をひそめた。「質問してるのは俺だ」
「いいから答えてくれ。大事なことだ」
「今神は関係ないだろ。お前の職業を聞いてる」
「関係してるんだからしょうがない。この質問に答えてくれねぇと、こちらも説明が難しくてね」
「どういう意味だ」
「答えてくれれば分かる」
俺は肩を竦めた。
「あんたたち、神の存在は信じるか」
ナビはじっと俺を見つめていたが、やがて振り返ってメイスを見た。
「信じています」と、メイスは答えた。「私は信じてます。父なる神は私たちをいつも見守ってくださっています」
そうか、と俺は頷いた。
「あんたは」と、今度はナビを見た。「あんたはどうだ」
「信じてるわけねえだろ」ナビは吐き捨てるように言った。「そんなもんはいねえ。いるならもっとこの世は平等のはずだ。この世界に"理不尽"なんてねえはずだろ。しかし現実は逆だ。どこもかしこも不条理で溢れてやがる」
ナビは目を細めた。
「で? それがなんだ。テメーとどう関係がある」
「俺は神の使いだ」
俺は言い切った。
「神の御意志を民に伝えるために遣わされた使徒だ」
ナビの表情が刹那強張った。
だが次の瞬間にはぷっと噴き出した。
「カハハ。こいつは驚いた。どうやら病人のようだな。ここの」
ナビは自分の頭を指さした。
「信じるかどうかは勝手にしてくれ。だが俺は真実を言っている。今日、俺がメイスに助けられたことにも意味がある」
「意味、ですか」
メイスが言った。
そうだ、と俺は頷いた。
「全ては神の意志だ。メイスが俺を助けたことはつまり、神がメイスを選んだということだ。メイス。キミは俺を見たとき、どう思った?」
「どう思ったって」
「答えちゃ駄目だ」
ナビが口を挟んだ。
「メイスさん、こいつと話をしちゃ駄目だ。やはりこの男は怪しい。怪しすぎる」
「ナビ。お前には聞いてない。俺は今、メイスと話をしてる」
「黙れ。勘違いするな。テメーには何も選択権はねぇんだ」
「ならどうする。俺を殺すのか。神からの遣いである俺を。そんなことをして神がお前を、そしてメイスを赦すと思うのか」
「んなもんは嘘だ。神なんていねえんだ」
「いたらどうする。俺が言っていることが本当なら」
「本当なはずがねえ。あんまり調子に乗るな。マジでぶっ殺すぞ。今すぐ口を閉じねぇと、その首を――」
「やめて」
メイスが口を挟んだ。
「やめて、ナビ。神様はいるわ」
「いるとしても!」
ナビは大きな声を出した。
「だとしても、この男は偽者だ! 当たり前だろ! こいつが勝手に宣ってるだけだ!」
「そうかもしれないね」
メイスは言った。
「けど、万が一本当だったとしたら」
「本当な訳ねえだろ! メイスさんはお人好し過ぎるんだ! こんなペテン野郎が死のうが生きようが神は何も」
「私が心配してるのはあなたよ、ナビ」
メイスはナビを見つめた。
「万が一、ネドヴェドさんが本当に神様から遣わされた使徒なら、その使徒を殺めたあなたは深い業を負うことになる。そんなことはあってはならないわ。私はあなたが心配なの」
「だから大丈夫だって言ってんだろ。こいつはペテン師だ。大体、何の証拠もないだろ。勝手にほざいてるだけ。単なる口だけ野郎だ」
「証拠ならある」
俺は言った。
「……あん?」
ナビはゆっくり俺の方を振り返った。
「テメー……今、なんつった」
俺はナビの目をじっと見つめながら、小さく口の端を上げた。
「俺が神からの使者である証拠はある、と言ったんだ」




