14 依頼
「せ、聖騎士団の奴らが」
ナビは震える声で言った。
顔は青ざめ、額には汗が浮いている。
「な、何があったんだ。詳しく話せ」
「詳しく話してる暇なんて無いよ」
パルはもう完全に泣いていた。
「父ちゃんは何も悪いことはしてない。ただ挨拶をしなかっただけなんだ。なのに、陰口を叩いたとか舌打ちをしたとか因縁をつけてきてさ。家にまで押しかけてきて、この家は不法占拠だっていきなりハンマーを持ち出してきて。父ちゃんは家族と家を守ろうとしたら、あいつら……あいつら……よってたかって父ちゃんを」
そこからは言葉にならなかった。
ナビは拳をぎゅっと握り、怒りの表情を浮かべた。
「……分かった。パル。お前はここに隠れてろ」
ナビは立ち上がり、踵を返した。
「な、ナビ。あんたじゃ無理だよ。勝ち目なんてないよ」
パルは言った。
ナビは首を振った。
「んなことは分かってる。俺が行ったって多分無駄だ。けど、俺はもう我慢できねえんだ。これはパルやパルの家族だけの問題じゃねえんだ。あいつら、俺達のような貧乏人には何をしても良いと思ってやがる。俺達のことは人間だと思ってねーんだ。俺はそれが勘弁ならねーんだ」
「止めときなってば!」
パルはナビの背中を抱き締めた。
「ナビ一人じゃ絶対無理だよ! せめてここにいる大人たちを連れて」
「駄目だ。聖騎士連中に逆らったら、逆らった人間はみんな報復をされちまう。だから、ここは俺だけで」
「それじゃあ犬死にだよ!」
「構わねえ。あいつらに一発くれてやれるなら」
ナビはパルを振り払った。
パルは俺の方に向いた。
「あんた!」
パルは怒鳴った。
「あんた、どうにかしてよ! 救世主なんでしょ!? みんなを助けてくれる聖人なんでしょ!? 私たちを導いてくれるんでしょ!? だったらなんとかしてよ!」
「止めろ。その人は、ここのみんなに必要な人だ」
「うるさい! ナビは黙ってて!」
パルは俺に縋り付いた。
「ねえ! 何でもいいから! とにかくなんとかして! 私たちを助けて! 助けてください!」
パルは俺の足元に崩れ落ちた。
むーん。
俺は後頭部をガリガリと掻いた。
こいつはまいったな。
はてさて、どうするべきか。
まず大前提として。
現段階で、トアト教の騎士団と揉めるのはまずい。
非常にまずい。
今、奴らに目をつけられると、この後の宗教活動に支障を来す。
しかし。
ここでこの少女の頼みを断れば。
それは確実にメイスに伝わる。
ということはもちろん、トレンにも伝わってしまうだろう。
それはまずい。
不味すぎる。
特にメイスからの信頼を失うのは致命的だ。
彼女にはこれからも力になってもらわないと困る。
あと……単純にメイスから嫌われたくないってのもあるし。
俺は短い間、思案した。
聖騎士を敵に回すリスクとメイスの信用を失うリスク。
どちらがより回避すべき事態であるか。
――ま、答えは明白だな。
「頭を上げなさい」
と、俺は言った。
「……へ?」
パルは顔を上げた。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
「分かった。俺がなんとかしてやる」
俺は片膝を着き、パルの涙を指で拭き取りながら言った。
「パル、と言ったね。今すぐ、キミのお父さんのところに案内しなさい」




