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「せ、聖騎士団の奴らが」


 ナビは震える声で言った。

 顔は青ざめ、額には汗が浮いている。


「な、何があったんだ。詳しく話せ」

「詳しく話してる暇なんて無いよ」


 パルはもう完全に泣いていた。


「父ちゃんは何も悪いことはしてない。ただ挨拶をしなかっただけなんだ。なのに、陰口を叩いたとか舌打ちをしたとか因縁をつけてきてさ。家にまで押しかけてきて、この家は不法占拠だっていきなりハンマーを持ち出してきて。父ちゃんは家族と家を守ろうとしたら、あいつら……あいつら……よってたかって父ちゃんを」


 そこからは言葉にならなかった。

 ナビは拳をぎゅっと握り、怒りの表情を浮かべた。


「……分かった。パル。お前はここに隠れてろ」


 ナビは立ち上がり、踵を返した。


「な、ナビ。あんたじゃ無理だよ。勝ち目なんてないよ」


 パルは言った。

 ナビは首を振った。


「んなことは分かってる。俺が行ったって多分無駄だ。けど、俺はもう我慢できねえんだ。これはパルやパルの家族だけの問題じゃねえんだ。あいつら、俺達のような貧乏人には何をしても良いと思ってやがる。俺達のことは人間だと思ってねーんだ。俺はそれが勘弁ならねーんだ」

「止めときなってば!」


 パルはナビの背中を抱き締めた。


「ナビ一人じゃ絶対無理だよ! せめてここにいる大人たちを連れて」

「駄目だ。聖騎士連中に逆らったら、逆らった人間はみんな報復をされちまう。だから、ここは俺だけで」

「それじゃあ犬死にだよ!」

「構わねえ。あいつらに一発くれてやれるなら」


 ナビはパルを振り払った。

 パルは俺の方に向いた。


「あんた!」


 パルは怒鳴った。


「あんた、どうにかしてよ! 救世主なんでしょ!? みんなを助けてくれる聖人なんでしょ!? 私たちを導いてくれるんでしょ!? だったらなんとかしてよ!」

「止めろ。その人は、ここのみんなに必要な人だ」

「うるさい! ナビは黙ってて!」


 パルは俺に縋り付いた。


「ねえ! 何でもいいから! とにかくなんとかして! 私たちを助けて! 助けてください!」


 パルは俺の足元に崩れ落ちた。


 むーん。

 俺は後頭部をガリガリと掻いた。

 こいつはまいったな。

 はてさて、どうするべきか。


 まず大前提として。

 現段階で、トアト教の騎士団と揉めるのはまずい。

 非常にまずい。

 今、奴らに目をつけられると、この後の宗教活動に支障を来す。

 

 しかし。

 ここでこの少女の頼みを断れば。

 それは確実にメイスに伝わる。

 ということはもちろん、トレンにも伝わってしまうだろう。


 それはまずい。

 不味すぎる。

 特にメイスからの信頼を失うのは致命的だ。

 彼女にはこれからも力になってもらわないと困る。

 あと……単純にメイスから嫌われたくないってのもあるし。


 俺は短い間、思案した。

 聖騎士を敵に回すリスクとメイスの信用を失うリスク。

 どちらがより回避すべき事態であるか。


 ――ま、答えは明白だな。


「頭を上げなさい」


 と、俺は言った。


「……へ?」


 パルは顔を上げた。

 涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。


「分かった。俺がなんとかしてやる」


 俺は片膝を着き、パルの涙を指で拭き取りながら言った。


「パル、と言ったね。今すぐ、キミのお父さんのところに案内しなさい」



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