13 盛況
「おーい、ネドヴェドさんに話を聞いて欲しい奴はこっちだぞー」
「オメーらちゃんと並べよ。おいそこ、順番抜かしをするな。ちゃんと並べっつってんだろ」
外に伸びる列を管理するナビとゴードンの声が聞こえる。
彼らはもうすっかり俺に心を許しており、頼んでもないのに勝手にメイスの家に押しかける人間を整理するようになった。
あれから数週間経った。
噂が噂を呼び、今では毎日相談者がメイスの家に鈴なりになって並ぶようになった。
思っていたとおり、ここの人間にはオカルトは実に覿面だった。
みんな、辛い現実を誤魔化したいのだ。
俺から金銭や貢ぎ物は一切要求しなかった。
ここからは自分のブランディングが大切になってくる。
カリスマを演じるためには品位を保つ必要があるのだ。
意地汚いところを見せなければ、あとは勝手に向こうが崇拝してくる。
とはいえ。
まだ盤石とは言えない。
ここいらでも、俺のことを疎んで怪しんでいる保守的な連中はたくさんいる。
こんな底辺に落ち込んでもまだ、安定を求めて異物を拒む連中が。
俺には理解できない。
全く、こんな場所を安定させてどうするのかね。
――いや、そうじゃないか。
こんな吹き溜まりだからこそ。
結束を強固にしたいがために、安定を保ちたいのかもしれない。
誰かが俺に依って救われたら。
誰かが俺に頼ってここから抜け出したら。
もしかしたら仲間がいなくなってしまうかもしれない。
そのように考えているのかもしれない。
「それじゃあ、先祖のお参りを大切にね」
俺は相談者に偽善的な笑みを浮かべて優しく言った。
お婆ちゃんはありがとうございますありがとうございますと繰り返しながら頭を何度も下げ、部屋を出て行った。
俺はうんと伸びをした。
朝からノンストップで相談を受け続けている。
もうお昼過ぎ。
腹もペコペコだ。
さすがに少し休もうと思い、入り口から顔を出してナビに休憩する旨を伝えた。
「ご苦労様です! ゆっくり休んでください!」
ナビはキビキビと応えた。
部屋に戻るとメイスが造り置いてくれたサンドイッチのような料理を食べた。
色んな手土産を食べたが、メイスの料理より美味いものはなかった。
茶を啜り、一息ついていると勝手口の方からガタゴトと音がした。
一瞬、メイスが職場から早退でもしてきたのかと思ったがそうでは無かった。
「おい、邪魔するぞ!」
見知らぬ少女が現れた。
俺は眉根を寄せ、誰だお前はと言った。
「相談者ならきちんと玄関から入ってこい。列の最後尾に並ぶんだ」
俺がそのような諭すと、女の子は顔を顰めてべーとベロを出した。
「うるせー! テメーになんか用はねえんだ! この詐欺師野郎が」
女の子は唾を飛ばしてそのように悪態を吐いた。
むー、と俺は口を尖らせた。
なんなんだ、このガキは。
「俺に用事が無いならここに何の用だ」
「メイスさんに用があるんだよ! メイスさんはどこだよ!」
「メイスならいつものように働きに出ているが」
短く説明すると、少女は「いないのかよ……」と肩を落とした。
しかし次の瞬間にはがばりと起き上がり、俺にすがり付くようにして、
「じゃああんた、メイスさんから、トレンさんの居場所を聞いてないか!?」
「トレンの居場所? いや、知らねーけど」
首を横に振ると、少女はくそっと地団駄を踏んだ。
「ったく、時間が無いってのに! 一刻も早くトレンさんを探さないといけないのに、ウチはどうすりゃいいんだ」
「なんかしらんが、用が無いなら出て行ってくれねーかな。こっちも仕事があるんだよね」
「うるせー! 何が仕事だよ! 貧乏人からタカリやがって!」
少女はそう言い、ああもう、と頭を掻きむしった。
「ネドヴェドさん、なんだか騒がしいですけど、何かありましたか」
玄関の外で番をしていたナビが顔を覗かせた。
「ああ、ちょうどよかった。ナビ。この子供を外に連れ出してくれない」
「パル!」
俺を遮って、ナビが少女の顔を見て大きな声を出した。
「パル! お前、こんなところで何やってんだよ!」
ナビは部屋にずかずかと入ってきた。
少女――パルは「なんだナビか」と落胆した声を出した。
「うちが大変なことになってんの。とにかくもう、ヤバいんだ」
「お前んちが? 何があった」
「ナビなんかじゃどうにもならないんだよ! もっと大人の力がいるの! それも普通の大人じゃ駄目なの! トレンさんじゃないと――ああもう、本当にどうしたら良いの」
パルはついに泣きべそをかき始めた。
「知り合いか?」
俺はナビに聞いた。
「この長屋の一番反対側に住んでるガキんちょです。俺と同じく小間使いをして日銭を稼いでる」
「誰がガキんちょだよ! お前とは二個しか変わらねーだろ」
先ほどまで泣いていたのに、パルはすぐに表情を変えて怒鳴った。
「それよりなんだよ。何があったんだ。力になれるかは分からねーけど、話してみろ」
ナビはパルの両肩に手を置いた。
するとパルはまたも表情を変えて、今度は心細そうに唇を嚙んだ。
「……父ちゃんが」
パルは目に涙を浮かべ、弱々しい声で言った。
「父ちゃんが、"梔聖騎士団"の連中に殺されてちゃうよぅ」




